徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

24 / 137
ふと思いついた村正転生
改めて思うがニトロ+は本当に業が深いな!


装甲悪鬼短編 無銘が逝く 微修正

 別に、正義なんてものに期待している訳じゃない。

 ただ、原作における「自分」が余計な真似さえしなければ、あの惨劇は起きなかった事を知るが故に、私は敢えて何もする事なく、自分を産み育ててくれた母親を見殺しにした。

 では、力を得てしまった自分は、劔冑となってまで残った自分は何をするのか?

 

 それは無論、一技術者として研鑚に他ならない。

 

 この世界の技術体系は歪だ。

 それは劔冑、と言うよりも金神の存在によるものなのだろうが、それにしても劔冑やそれに関連する技術には不思議が多い。

 所詮はエロゲーの世界、と言ってしまうのは簡単だが、それにしたって此処はニトロ+ワールドの一つ。

 絶望と奥の深さ具合ではFateとどっこいどっこいである。

 故にこそ、対策の構築と自己鍛錬に後ろ指さされる道理はない。

 

 ……まぁ、今となっては少々処ではなくやり過ぎたとは思うが。

 

 

 ……………

 

 

 湊斗景明には一つ悩みがあった。

 それは鉱毒病を患ってしまった妹にして娘である湊斗光の事でもない。

 いや、光関連の事ではあるのだが。

 

 「のーのー無銘よ。お前、蜘蛛の形をしているのだから、糸位出せんのか?」

 『出せるけど、無駄に熱量を消費するわよ?用も無いのに出したら置き場所にも困るし…。』

 「では、それを使って衣服を縫おう!頑丈そうだし、景明に贈ろう!」

 『そうね…今までは精々軟質装甲か緊急修理位にしか使ってなかったし、下手な金属製の鎧よりも頑丈になるわよ。』

 「よし!では先ずパンツから…」

 「止めろ。」

 

 それだけは止めてくれ。

 と言うか、劔冑の甲鉄に近い防御力を持ったパンツとか何処に需要があるのかと。

 確かに急所は守られるだろうが、それ絶対蒸れるし擦れるから。

 

 『仕方ないわね。じゃぁコートなんてどうかしら? 錆びず、頑丈で、全身を覆えるし、いざって時にパッと着れるし、裏地に断熱材でも仕込めば、防寒着としても完璧よ。』

 「まぁ、それなら。」

 

 この無銘の劔冑にしては穏当な提案に、景明も頷いた。

 以前、迂闊にも確認せずに許可を出した時など、何故か我が家の炊事場が最新式のシステムキッチン(熱量で稼働、現在も使用中)になった時などは激怒して光共々正座で説教したものだが、今回は割と穏当な結果になりそうだった。

 

 『単なるコートだと飾り気も無いし…御堂の母親に服飾を聞いてみようかしら。』

 

 訂正、デザインセンスが突っ張り方向の統に話を持っていこうとしている時点で、問題が発生する事が確定した。

 やはり、付きっ切りで監視しなければならないらしい。

 

 

 最終的に黒のトレンチコートに、セットで同色の山高帽が出来上がった。

 しかし、結局は景明の人相と合わさり、どう見てもヒットマンかマフィアのボス(しかも完全防備)にしか見えない風体となってしまい、結局箪笥の肥やしになる事が決定した。

 

 

 ……………

 

 

 祖父と母亡き後、三世村正と言われる筈の少女は朝廷に村正の名を残さない事と同時に、毒としての妖甲の機能を残したまま、劔冑となる事を提案した。

 無論、劔冑は朝廷の管理下に置く事を前提として。

 これは後の元寇の様な朝廷では対処が難しい、或は不可能な敵対勢力の発生や出現に備えたもので、所謂「毒を持って毒を制す」と言うものだった。

 勿論、かなり渋られた。

 しかし、これには代価として本来門外不出の村正一門の人化の術、そして転生チートで貰った技術チートによる数打作成技術を伝える事で許可が下りた。

 限定的な不老不死の方法と、今まで量産が不可能であった強力無比な兵器である劔冑の量産技術。

 南北朝の動乱、初代と二世村正の戦闘により、人口の一割を亡くし、疲弊していた朝廷は国体維持のために復興を優先させつつも、来たるべき時に備えた軍備増強を選択し、史実なら村正三世を名乗った蝦夷の言葉に乗った。

 無論、産業革命もまだな南北朝時代において、人化の術は兎も角、クローン作製及び記憶転写技術は極めて難航した。

 だが、ガワとなる数打の作成ノウハウによって更に高性能な劔冑の設計に成功した村正三世もとい無銘が劔冑となる事で解決した。

 本来なら磁力制御であった陰義だが、この世界ではなんと電磁制御、即ち電子と磁力の二つを制御するものであり、応用の幅が一気に広まったのだ。

 治療系の劔冑は既に発見されていたので、それによって採取した殺菌で密閉した状培養槽の中の受精卵を急速成長させた上で、無銘が電子制御によって無学習状態の脳に直接記憶技を転写(技術的・戦術的なもののみ)した事で、世界初となる数打の材料となるクローンではなく人造人間の作製に成功した。

 史実における数打、或はレッドクロスと言われる量産可能な劔冑は記憶転写したクローンを心鉄に作られ、制御機構も機械式計算機=CPUなのだが、後に大和式と言われる形式は人造人間を心鉄とし、制御機構は甲鉄化した生体式計算機=人造人間の脳を使用している。

 これにより、劔冑作成時に機械式計算機分の容量を必要とせず、そのまま他に使用できるため、同格の技術で作成した場合、大和式の方が力量(性能)で勝る事となる。

 この結果に満足した無銘は徐々に一線を退いていき、数打量産が完全に軌道に乗った事を確認すると、当初の約定通りに朝廷監視下の元、普通の劔冑として永い眠りに就いた。

 

 技術革新の旗手が抜け、大和の技術革新もややペースダウンしたものの、減速する事は無く、寧ろ比較的良心的なお目付け役を失った事で暴走を開始した。

 各地に遠征こそしなかったものの、開拓事業が大々的に行われ、近隣の東アジアの国々との交易もそれまで不安定だった船舶の技術革新により安定化し、より盛んになっていった。

 更に、世界初の量産式劔冑の開発成功を皮切りに、大和の技術革新は次々と進んでいき、それらを軍事以外の分野にも積極的に流用する事で、農業・工業・商業と言ったあらゆる分野が次々と発展していった。

 そして後世の黒船来航時、既に大英帝国を筆頭とした欧州勢に対し、劔冑を始めとした軍事面では技術力・戦力共に完全に優越しており、軍艦で首都に突入しようとした大英帝国使節団も相当に肝を冷やす羽目になった。

 だが、大英帝国からの欧州の情報(万年戦争状態)を警戒し、旧体制として負荷がかかっていた幕府制度を自主的に解体、大和皇国と改号し、国家制度を一新した。

 更には二度の世界大戦も大英帝国の要請により連合国側で参戦、欧州の地に大鳥獅子吼中佐(後に大佐に昇進)率いる精鋭部隊を派遣して統合独逸連邦率いる枢軸国と激しく交戦した。

 数打こそ鹵獲の危険から最新鋭騎ではなく、信頼性最優先の二線級のものだったが、それでも当時の欧州式数打よりも高性能であり、精鋭部隊だけあって大いに活躍し、無事に戦勝国の仲間入りを果たした。

 しかし、その活躍ぶりから黄禍論が欧州の地にして流行、露西亜帝国の南下政策との衝突(安全保障上及び近隣のアジア諸国の要請した保障占領のため)もあり、現在の世界は実質的に大英帝国(実質欧州全体)と露西亜帝国、そして大和皇国の三竦み状態となっていた。

 

 なお、これに対して事態の原因となった鉄蜘蛛の無銘の劔冑は以下の通りである。

 

 『なぁにコレ。』

 

 人間だったら、きっと白目だっただろう。

 

 とは言え、彼女が目論んでいた原作展開は完全に破壊されたと言っていい。

 ただ、その分鍛造弾が純粋な戦略兵器として大和皇国に降ってくる可能性が出来ていたが、その辺りを考えるのはお偉いさんの仕事なので、彼女には関係ないと考えていた。

 この時点までは。 

 

 病気の御堂、つまり湊斗光を嘗ての人造人間作製のノウハウを生かして治療し、序でに周辺住民も治療して一週間後に政府側の人間から接触され、来月には技術アドバイザーとして劔冑なのに強制参加させられる羽目になる事を、彼女はまだ知らない。

 

 

 ……………

 

 

 劔冑解説

 

 無銘/本来なら勢洲右衛門尉村正三世

 生産国:大和/伊勢國

 種別:真打/可変

 時代:南北朝末期

 兵装:野太刀、太刀、脇差、弩、鋼糸(両手首・頭部)、蜘蛛足

 仕様:汎用/白兵戦

 合当理:熱量変換型三発火箭推進

 仕手:湊斗光

 陰義:電磁制御

 待機状態:蜘蛛

 誓約の口上 - 義あれば剣を抜き、義なくば剣を置く=殺す・戦う理由が無いのに無暗に暴力を振るってはならないの意。そのため、仕手が虐殺等を正当な理由なく行えば仕手は自害させられるか、出来なければ高圧電流を流されて死亡する。

 

 力量…改修する度に変化する。

 甲鉄練度:4

 騎航推力:4

 騎航速力:3

 旋回性能:3

 上昇性能:2

 加速性能:3

 身体強化:3

 

 本来ならば深紅の妖甲として恐れられた真打。

 しかし、転生者によっておもっくそ歴史を歪められた結果、明後日の方向に進んだ大和皇国の技術を一部吸収しつつ魔改造されて誕生したどう考えてもオーパーツ的な劔冑。

 なお、中の人の人格は多分にMAD成分を多く含んでいるため、光と帯刀の儀を交わし、大和皇国へと引っ張られてからは自ら小改修を繰り返しており、力量が常に細かく変動しているため、仕手である光の好み(近接高機動白兵戦)と本人の好み(中遠距離高機動射撃戦)とで日々口論している。

 最終的に改修セットを常備し、その場で光好みのカスタムになる事で一応の決着を見た。

 

 大まかのデザインこそ史実三世村正のそれだが、細部はかなり異なっている。

 全体的によりほっそりとしつつ、頭部の角は真上に伸び、アンテナとして機能していたが、後の改修でデザインこそそのままだがより高性能かつ多機能型のブレードアンテナへと換装された。

  頭部側面から垂れる糸は両手首から射出可能な鋼糸と同質のものであり、緊急時にはこれを操作して近接迎撃やアンカーとして使用できる。

 背部の合体理はやや小型化したものの、両大腿部側面に小型の補助合体理があり、騎航時には加速性と旋回性能の強化だけでなく、被弾時の安定性にも寄与しているが、これの設置に伴い、母衣の位置は膝側面から足首側面となっている。

 また、背部の主合体理に接続された蜘蛛足はサブアーム兼スタビライザーとして機能し、それぞれを独立して可動できるが、煩雑な操作が必要なため、劔冑側から行う。

 関節を阻害する様な部位には鋼糸を用いた鎖帷子が採用され、可動範囲が向上、同時に近接戦闘時の自由度が上昇している。

 肩の垂直装甲(大袖)や母衣と言った肉体の無い部位は全てユニット化されており、損傷次第で即座にパージ、帰還後に直ぐ交換できる。

 陰義発動時、技術系頭脳チートの影響もあり、常に最小の熱量で最大の効果を発揮しつつ、素早い発動を可能としているため、従来の真打よりも陰義発動時でも感知され辛い。

 また、陰義の制御機構でもある各部位の金具も装甲内部に内蔵する事で、陰義使用時の被発見性を低下させている。

 武装面では史実の大太刀・太刀・脇差の他に、弩(モンハンの長銃身付きライトボウガンに似る)が左背面に追加され、文字通りの電磁加速砲として使用可能である。

 弾種は後部に四枚の安定翼の付いた総甲鉄製の矢を主に使用し、最大出力での発射で命中した場合、現状の主力竜騎兵(大和皇国基準)では追加装甲を二重に装備しても貫通されるため、実質真打の陰義でなければ防げないが、劔冑の接近戦の必要性を大幅に下げた上で熱量の消費も割と少ない(刀剣の加速よりも必要となる熱量が少ないため)おかげで、出力を下げれば連射も可能なので、余程カッ飛んだ実力者でなければ射程範囲内に入った時点で詰む。

 また、弾種も様々あり、弾頭の圧縮率を上げた貫通弾に、低出力時しか使用できない散弾があり、更に精度は下がるがサブアームだけでも使用可能なので、両手が空いたまま戦闘可能だし、背面にマウントしたまま発射可能なので、様々な場面で活用できる。

 なお、この電磁加速砲のデータを元に大和皇国では急速に数打仕様の電磁加速砲の開発が進んでいたりする。

 

 陰義においては原作同様の磁力制御に加え、電子制御も可能なため、大気中の電子の動きから周囲の変化をほぼ予知レベルで察知、極めて高精度の戦闘補助を可能とし、金打声ではなく、純粋なレーダーによる広範囲の索敵も可能であり、現在発見されている劔冑の中では最大の索敵範囲を誇り、電磁加速砲と合わせ、領域支配すら可能とも言われる。

 他にも、周辺の電子の動きをかき乱す事で、機械式計算機を採用した物は機能不全にする事が出来る等、広範囲のEMPを展開する事が出来る。

 また、ある程度は機械式計算機へのクラッキングも可能であり、情報奪取に加え、遠隔操作や命令の書き換え等、ただの機械から欧州式数打にまで行える等、極めて応用範囲が広い。

 反面、制御には専門知識が必須であり、現在の仕手である光ではどう足掻いても使いこなせないので、陰義の操作は専ら劔冑側が行っている。

 更に、村正系列の持つ精神汚染・精神攪乱もあるものの、これらは勅令により禁止されている。

 人化の術は技術顧問に召集されてからは割と頻繁に使っており、関係者を無意識に誘惑してたりもする。

 人化時は史実と同じ姿だが、家事は人並みに出来るし、人当たりも良い人格者。

 仕手である光にはややお姉さんぶる傾向があるが、景明他湊斗家一同とは良好な仲であり、殆ど家族の一員となっている。

 なお、もしもの時のためとして、食事や性交によってある程度熱量を補給可能となっている。

 

 総じて、極めて高性能だが、同時に発展性も大きく残された劔冑と言える。

 この点に関しては、宮本武蔵の五輪の書の「真の兵法とは戦闘経験の蓄積の果てに出来る」に対して、「優れた兵器とはあらゆる環境に対応可能で、誰でも使用可能で、それらを満たしつつ量産可能でなければならない」と言う信念による。

 数打を量産し、各種状況へ対応した派生騎を作り、訓練した者なら誰でも騎乗できるようにしたのは、このためだ。

 同時に、そういった数打では対処不可能な災厄に対応可能な劔冑を彼女は求めた。

 それが常にアップデート可能でありながら、応用性の高い陰義を持つ、極めて高性能な劔冑だった。

 これにより、騎体性能の陳腐化を避けつつ、来たるべき災厄(原作展開への揺り戻しや金神の欠片を利用した劔冑や鍛造弾等)への対策とした。

 最悪の場合、史実における銀星号の様な自己の複製すら視野に入れる等、自己進化・自己再生・自己複製を最大限生かした最終兵器案すらあったのだから、彼女がどれだけこの世界の負の方向性を恐れていたかが理解できる。

 

 結果として、そうした最終安全機構を使用する様な状況は大和皇国のお蔭で来そうになくなったため、彼女は現在お座敷劔冑生活を満喫している。

 

 

 

 

 なお、時折景明とToloveるして光にボコられたりする。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。