徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

31 / 137
IS転生 三組代表が逝く2

 さて、卒業試験も終わり、次は入学試験だ。

 とは言っても、進路に関してはIS学園のみ(強制)なのだが。

 …この件、どれだけの人が関与してるのやら。

 まかり間違って代表になった後、全部公表してやったら防衛相幹部の首切りとか内閣総選挙とかにならないかなーと密かに期待してたりする。

 

 それはさておき、入学試験である。

 筆記は終え、内申点も一応代表候補生と言うことで言う事は無し、後は実技試験のみ。

 そしてにこやかに出てきた侍ウーマンに、私と簪と本音は顔を引き攣らせた。

 え、なんでアンタが出てくんの?ここは山田先生でしょ?

 

 「私が今回代表候補生の実技試験を受け持つ織斑千冬だ。各員、全力を尽くす様に。」

 

 付き添いの本音は兎も角、日本の代表候補生三人(先日私と簪以外に合格した一人)とイギリスからの留学生であるオルコットも揃って顔を青ざめさせた。

 

 「安心しろ。手加減はしてやるから。」

 

 にっこり、と微笑む生きた伝説を前に、私達の顔は引き攣るばかりである。

 そりゃそうだ。

 誰が好き好んでルーデルや船坂、ヘイへと同類の人類の規格外を相手にしたいと思うだろうか?

 結果は当然ながら、全員負けた。

 イギリスのファンネルは全部切り払われた後にズンバラリン。

 簪も打鉄で善戦したが、最後は盾ごとズンバラリン。

 私は撃墜こそされなかったけど、エネルギーを消耗し過ぎて判定負け。

 うん、無理だなこれは!

 相手が錆びついてて専用機じゃないってのにこれじゃ、こっちが専用機でメタ戦術と装備してやっと、って所か。

 なお、今回の私と簪の機体は相変わらずの打鉄です。

 簪の方は倉持技研から打鉄弐式が受領される筈だったが、何処かの馬鹿がIS適正持ちだと言う事が判明したため、倉持の研究リソースがそちらに割り振られた影響で開発がポシャった。

 本人はもう打鉄である事すら止めて、コアから自分好みのISを作るんだと寧ろやる気を出している事が救いだが、一応暗部の家を実質敵にして倉持は大丈夫なのだろうか?

 国産の次期主力機の開発で大コケとか企業としても洒落にならない失敗なので、このまま衰退する可能性はかなり高いのだが。

 そうなると打鉄の補修パーツとかの生産の目途すら……まぁいっか!私が気にする事でも無し、企業は他にもあるしね!

 

 とまぁ、何とか入学できたが、クラス分けは全員が見事に分かれてしまった。

 簪は4組、私は3組、本音は1組。

 序でにオルコットは1組だそうだ。

 そんな訳で、私達のIS学園生活はスタートした。

 座学・実技問わず基礎教養を除けばIS一色なので、幼少時からそればかり学習させられてきた身としては楽に感じる。

 無論、苦労して合格してきた一般受験組もクラスには勿論いるので余計な事は言わないが。

 後、クラス代表選出もあっさりと決まった。

 他薦された私の他、三人程自薦した生徒がおり、総当たり戦となったのだが……お前ら、そんな腕で何がしたかったの?と言うレベルであった事を此処に明記しておく。

 結果は当然私の勝ちだったが、これでは弱い者虐めでしかない。

 まぁ企業関係者でもIS搭乗経験が少ないんだから、しょうがないと言えばそうなのだが。

 だからと言って、突撃して一瞬でカウンター決められてリタイアは無いだろう。

 

 それは兎も角、簪と本音とは相変わらずの付き合いが続いている。

 基本、整備室の一角で缶詰状態の簪の下に私と本音が差し入れをしてあげるのだが…お前、偶には休めよと言いたい。

 人間としてのボーダーは堅守してるが、女子としてのボーダーは余裕でアウトしてるぞ。

 いや、ファッション方面全滅状態の私が言う事じゃないが。

 化粧品とか最低限肌・髪荒れしない程度で良いと思うし、衣服も同様。

 水着?流石に前の学校の指定の奴しかないので、新調しなければならんが、それとて態々お高いのを買う気はない。

 で、一応代表候補生で時折雑誌に乗ったり、結構な収入がある筈なのに、なんでそんな金遣いが渋いのかと言うと、貯金してるからだ。

 また何時何か変事が起こるか分からないので、現金ではなく純金に換金して貯蓄している。

 まぁ、簪に借りっぱなしの映像機器とかDVD乃至ゲーム類なんかは代表候補生になってから揃えたが。

 後、食生活も孤児院暮らしの時よりも各段に良くなった事を明記しておく。

 

 

 ……………

 

 

 久々に天才、と言う人種を見た。

 世界中から優秀な人材の集まるこのIS学園において、地元で天才扱いされていた者は多いが、大抵は此処に来て心を折られていく。

 それは私、織斑千冬であったり、ISと言う最先端技術に触れたが故にであったりと枚挙に暇がない。

 斯く言う私自身、本当の天才と言う者に会ったのはモンドグロッソ等の国際大会を含めてほんの数回程度だ。

 まぁ、基準が我が腐れ縁の大馬鹿なので仕方ないのだが。

 今年の生徒は例年になく粒揃いなのだが、それでもなお群を抜いていると言って良いのが倉土灯だ。

 無気力な瞳、適当に切り揃えられた髪、大抵猫背で歩く姿はお世辞にも綺麗とは言えないが、彼女の真価は日常生活には無い。

 ただでさえ忙しい入試や入学試験が愚弟のせいで例年の倍以上の手間がかかった。

 正規の試験が終わった後でも各国・企業・団体からの編入希望が大量に届き、更に愚弟の保護やら教育やらのせいで人手が足りなくなり、私まで実技試験の方に駆り出される事となった。

 とは言え、代表候補生のみなので楽なものだと思っていたのだが…予想外の存在に出会った。

 それが倉土灯だ。

 奴は三人の候補生の中で一番最後に乗ったのだが、乗った途端雰囲気が変わった。

 それ位なら割といるし、試合前のマインドセット等スポーツでも常識の範囲だ。

 だが、こいつの場合はレベルが違う。

 今までの無気力さが嘘の様に、静かな闘志に満ち溢れ、如何に追い詰めようとも必ず勝機を窺い続ける不屈さを示してみせた。

 その上、代表候補生の選抜試験以来乗っていないと言うのに、学園の貸与した打鉄を自在に操ってみせた。

 私の乗る打鉄と条件は同等ながら、奴には私を相手にする動揺も恐怖も無かった。

 鋼の精神、そして勝機を探り続ける戦術眼に確かな技能。

 間違いない、こいつは鉄火場を経験している。

 そこらのひよっこ共と一緒には出来ない。

 なので、錆びついた身ではあるが、途中からはそれなりに本気で斬りかかった。

 だが、それすらも倉土は回避してみせた。

 消耗したライフルを捨て、ブレードを三枚目の盾とし、只管にこちらの斬撃を回避し続ける。

 とは言え、回避に徹する事しか出来なかったが、経験の浅い身で良くぞそこまで動けるものだと感心した。

 しかも、戦いが長引くにつれ、動きからぎこちなさが消え、スラスターの出力もリアルタイムで調節しているのか、徐々に無駄な消費が少なくなっていく。

 良い、実に良い。

 こいつは実に鍛え甲斐がある。

 最後は楽しくなってしまってつい全力で斬りかかってしまったが、それでも倉土は耐え凌いでみせた。

 特に最後の一刀をボロボロのシールド二枚を使い、切り裂かれる途中で捻る事でこちらの刀身を折ってみせたのは見事としか言いようがない。

 だが、弾薬も武装も尽き、エネルギーを9割近く消耗した状態ではもうどうしようもなく、そのまま大破判定を受けた。

 入学時でこれなのだ、実に面白い。

 久々に鍛え甲斐のある生徒に出会った。

 

 と言う訳で教員諸君、彼女は私の一組に編入する。

 異論は…ある、だと?

 よく言った。

 ではいつも通り公平に行こう、ジャンケンでな。

 今年も教員間の呑み会では奢ってもらうぞ…!(生徒を出汁にした賭博はいけません。)

 

 そして、私は最後まで残ったものの、最後の最後で負けてしまい、倉土を3組に持っていかれてしまった。

 おのれラトロワ…!

 既婚で子持ちのリア充の分際で、もう少し弁えろ…!

 実に残念だが、合同授業の時にでも扱いてやるとしよう。

 くっくっくっく、今から楽しみだなぁ?

 

 

 

 

 

 そう言えば、奴の瞳が一瞬だけ鱗の様な…いや、虫の複眼の様に見えたのは気のせいだったのだろうか?

 




漸くIS学園入学。
しかし、主人公sとの絡みは次回以降。
一応、後3話でIS転生は終わりの予定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。