徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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IS転生 三組代表が逝く3

 突然だが、今日はクラス代表対抗戦である。

 文字通り、クラス代表となった生徒で行う総当たり戦だ。

 これで各クラス代表の顔売り、及びクラス間の実力差なんかを図るのだが…ぶっちゃけ、一年だと誰もが入学したばかりなので、そこまで差がないので意味がない。

 専用機持ちとそれ以外の訓練時間の差が顕著になるのは二年からなので、入学したばかりのこの時期の一年は全員がひよこに過ぎない。

 無論、時折例外はいるのだが。

 

 『それでは今年度第一回目の公式戦、クラス代表対抗戦、一年の部を始めます!第一試合の選手はピットから離陸してください!』

 「頑張ってね、灯。」

 「うん、簪もね。」

 「いってらっしゃ~い。」

 

 数少ない友人に見送られながら、私はいつもの打鉄で出撃する。

 そう、なんの因果か、私の出る試合は一試合目なのだ。

 転入早々二組のクラス代表を捥ぎ取った貧乳チャイナ娘ではなく、三組代表の私なのだ。

 あれー?と思うが、これはあれか、転生神が私にはっちゃけろと言う神の御意思なのか?

 確か、無人機が乱入してきて、両腕のビーム砲を撃ちまくるんだったか。

 んで、チャイナの砲撃をエネルギーに転換した瞬時加速の亜種を使ってワンサマーが倒す、はず。

 何分濃い人生送ってたから、ラノベの内容が抜けて久しい。

 取り敢えず、テロリストや不明機は皆殺しでも問題ないよね、自衛の範囲なら。

 あ、でもワンサマーはどうしよう?

 簪関連で多少の恨みはあるけど、全殺しする程じゃないし、一応代表候補としては彼に見せ場を作るべきだし、それに容赦なく殴って良いのは当人の簪だけだし、そもそも打鉄弐式の事は倉持が元凶だし…。

 まぁテキトーに舐めプしてりゃ良いか。

 

 

 ……………

 

 

 オレ、織斑一夏がそいつを見た時、随分生気の無い奴だな、と思った。

 死んだ魚の様な目、と言うべきそいつは、こちらに視線を向けていても、緊張も、戦意も、誠実さすら無かった。

 ただ、倦怠感のみがあった。

 そして、試合開始が宣言されたのと同時、そいつは在ろう事か「欠伸」をしやがった。

 試合中、全力で挑むべき場所で欠伸。

 それはつまり、こちらが徹頭徹尾舐められている事に他ならない。

 

 (野郎…!)

 

 落ち着き・思慮が足りないとはよく言われるけど、これは男なら仕方ないだろ?

 相手はこっちを敵としてすら見ていないんだから。

 なもんで、完全にオレは熱くなっていた。

 絶対に吠え面かかせてやる、一泡吹かせてやるって感じで。

 だから、スタートと同時に、瞬時加速で突貫したんだ。

 まぁ白式じゃ元々そうするしかないんだけどさ。

 近接特化のブレオン機体、それが白式だ。

 千冬姉の暮桜の直系の後継機であり、同じ武装である雪片弐型のみを装備している。

 直撃すれば、現行のISじゃ一撃二撃で落とせる威力のソレを、唐竹割りに振るう。

 しかし、あいつは半身になるだけであっさりと回避し、続く切り返しの二撃目も後退するだけで再度回避する。

 はっきり言おう、掠りもしていない。

 ISのエネルギーシールドすら展開せず、ただ一寸先を見切り、僅かな挙動だけで回避する。

 それはこちらが一刀放つ度、徐々に短くなり、20回目になる頃には文字通り紙一重で回避されていた。

 観客も、解説も、司会も、この異様な試合に気圧されて無言だ。

 オレ?オレはもう何て言うか…恐怖しかなかった。

 最初の負けん気なんか何処かに吹っ飛んでた。

 もういっそ終わらせてほしかったが、相手は一切攻撃をしてこない。

 どころか、武装すら出していない。

 なのに、こちらは元々の燃費の悪さもあって既にシールドエネルギーは6割を切る程だ。

 千冬姉でもここまで意地の悪い真似なんてしない。

 そう思うと、オレって随分甘やかされてたんだなって、今更ながら自覚した。

 そんな時だった、急に警報が鳴り出したのが。

 

 

 ……………

 

 

 警報の直後、アリーナを覆うバリアの天辺を大出力のビームが貫き、そこから奇妙なISが侵入し、試合会場へと着地した。

 茶褐色の全身装甲、一部のISを除けば旧式として採用されない構造の機体。

 両腕に大口径のビーム砲を装備したそのISは、こちらを視認し、その右腕のビーム砲を…

 

 向ける前に斬り飛ばされた。

 

 仮にも試合では手加減したが、侵入者でテロリスト、おまけに無人機にかける情けは無い。

 そう言わんばかりに、倉土灯は圧倒的だった。

 完全に掌握したISコア、それの持つPICを完全にマニュアルで操縦し、競技用リミッターをカットした上で、打鉄では本来出来ない筈の、機体への負荷を一切顧みない高効率の多重瞬時加速。

 その速さを完全に乗せた斬撃は無人機の反応速度を遥かに超え、その右腕を何も出来ぬままに斬り飛ばした。

 その一撃で一夏向けの手加減モードが解除されたのか、カメラアイが赤く光り、戦闘機動を開始しようとするが、既にこちらの間合いだ。

 量子変換、その機能は本来バススロット(拡張領域)への装備の収納と保管、任意の取り出しによるISの機能の拡張だ。

 これには登録した物品しか格納できず、今現在において生物の格納には成功していない。

 では、無理矢理触れた相手の一部を強引に自身の拡張領域へと引き込めばどうなるのか?

 傍目には、単なるテレフォンパンチに見えた事だろう。

 

 だが、その拳は不明ISの胸部をまるっと刳り貫いた。

 

 ISコアを格納する部位ごと抉り取られては流石に無理だったのか、それで不明ISは機能を停止した。

 同時、ブザーが鳴る。

 試合結果を告げる掲示板は、倉土灯の敗北を告げていた。

 余りに無茶な機動、本来想定していない機能の活用により、第二世代中最高の信頼性と耐久力を持つ打鉄が、全身から火花を散らし、ただの一戦で大破、ダメージレベルDに到達していたのだ。

 その結果、相手の自爆と言う形で、織斑一夏は勝利した。

 

 『き、緊急事態です!職員は直ちに対処してくださーい!』

 

 遅れて、山田教諭の声が沈黙の満ちたアリーナへと響いた。

 

 

 ……………

 

 

 「やり過ぎだ馬鹿者。」

 

 一夏への対応もそこそこに、千冬は目の前の天才的問題児と向き合っていた。

 現在いるのは学園の地下、機密区画だ。

 そこで何故あの様な行動をしたのか、どうやってしたのかを休憩と軽食を挟みながら尋問の体で倉土灯は質問されていた。

 それに彼女は実に正直に答えた。

 

 「PICは最初の内はオート任せだったけど、物足りなくなってマニュアルで操作した。」

 「量子変換機能を収納だけに使うのは勿体ないと思った。今では反省している。」

 「乗るなら今後も打鉄かそれ以上の耐久性の高い機種。ラファール?オプション豊富なのは良いけど、華奢ですぐ壊れるのでNG。」

 「あ、侵入した無人ISのコア、打鉄の拡張領域の中にありますから、回収してくださいね?」

 

 と言う、尋問していた教員の方が頭が痛くなってくる発言のオンパレードに、学園側は頭を抱えた。

 マニュアル制御はまだ良い。

 機体が全損なのは問題だが、それは新しい機体を購入するか、専用機を与えれば良い。

 問題なのは、全てのISが持つ共有機能を使って、全く新しい戦い方を生み出し、しかもそれがISの絶対防御を貫通しかねない事、そしてIS委員会に未登録のシリアルナンバーの存在しないISコア手元にある事が問題だった。

 これでは競技用リミッターの意味もなく、操縦者側の胸三寸で死人が出かねない。

 まぁ、実際はPICどころかISコアそのものを完全に掌握した状態で操作する必要があるので、そこまで心配する事は無いのだが…。

 更に、あの大天災しか作れないISコアが各国で把握されていない所で新規に作られたと言う事実にはもう頭を抱えるしかない。

 これ以上の事を聞かされては発狂しかねないと言う事で、尋問はこの事態への陣頭指揮を取っていた織斑千冬へと急遽バトンタッチされた。

 そして、倉土灯は冒頭のその言葉にげんなりした様子で口を開いた。

 

 「現状、弟さんの鼻を折る必要があると思いまして。」

 「必要は認めよう。」

 「序でに、今朝から何か良くない視線を感じてました。」

 「ふむ?」

 「こういう時は、父が亡くなった時と同じで、大抵何かあるので朝から警戒していました。」

 「…更識妹と布仏妹が「妙にピリピリしていた」と言っていたのはそれでか。」

 

 額を抑えて千冬は呻く。

 この生徒、倉土灯は結構な異常さを持っているが、それでもあの事件における被害者だ。

 それも父親を亡くし、母親の心を壊され、更にその後に拉致監禁同然の真似をされ、憎い筈のISの操縦者として教育され、今目の前に父の、家族の仇と共にいる。

 無論、あの事件に関しては千冬だって全貌を把握している訳ではない。

 ただ、学会に馬鹿にされ、怒り心頭だった親友がやらかした惨事に、その被害者に思う事はある。

 

 「弟さんの心は折れましたか?」

 「ぽっきりとな。今は篠ノ之が何とか慰めているが…」

 

 正直、あいつが女の胸の中で泣くとは思わなかった。

 同室で幼馴染の誼なのか、一夏は不器用でコミュ障ながらも慰めようとしてくれる箒に愚痴を吐き、思いの丈を吐き出し、その胸に縋りつきながら泣いた。

 そして、そのまま眠ってしまった。

 それを箒は姉に翻弄される自分を思い出し、箒もまた同情と愛情、庇護欲と母性、似た境遇による仲間意識が複雑に入り混じった感情を抱きながら、一夏を抱き締め続けた。

 

 『オレは…手加減されて…あいつ一人で侵入者も倒して…相手どころか眼中にも無かった…!』

 

 それが悔しい、なんで自分はこんなに弱いのか、こんな所にもいたくない、家に帰りたい、友人に会って馬鹿をやりたい、穏やかに暮らしたい。

 そんな当たり前の事を望む叫びを箒は全て黙って聞き、抱き締め続けた。

 それを廊下から聞いていた千冬もまた心折れそうだったが、それでも持ち前の精神力もあって、何とか耐え凌いでここまで来た。

 

 「これでそのままで終わる質ですか?」

 「いいや、それはない。」

 

 負けん気だけは一人前だからな、と告げるのは唯一の身内故か。

 千冬はその点だけはあいつを手放しに誉めても良いと思っていた。

 

 「それで、私の今後の扱いは?」

 「先ず間違いなく専用機は貸与される。」

 

 何せ打鉄の限界性能の更に先を引き出したのだ。

 機体が自壊した事こそ問題だが、開発元の倉持なぞは良いデータが取れたとホクホク顔で「是非彼女の専用機を我が社で!」とか抜かしてきた。

 無論、本人に言うまでもなく断ったが。

 千冬とも縁深い企業だが、如何せんやらかした事がデカすぎるので残当だった。

 更に言えば日本政府も「是非正式に国家代表に!」とか言い出してきたので、未成年である事を理由に断った。

 なお、未成年で日本人なのに現ロシア国家代表な生徒会長はロシア政府から灯の情報を取ってくる様に言われて頭を悩ませていたりする。

 

 「どこの企業で?」

 「幾つか候補はあるが、それはお前が決めろ。」

 

 バサリ、と千冬が渡した部外秘と判の押された冊子には幾つかの企業の概要と貸与予定のISのスペックと概要が載っていた。

 

 「キサラギ、桐山重工、有澤重工、明日香・インダストリー、篠原重工、豪和インスツルメンツ…。」

 

 よし、最後のは無しだな!と灯は思う。

 だって人体実験に供される光景しか思い浮かば無いし。

 似た様な意味でキサラギもそうだが、有澤は重装甲過ぎて機動性が皆無になりそうだ。

 だって、全身装甲はまだしも何故かタンク形態への変形機構が付いてるし(汗)

 航空兵器に該当するIS、しかもPIC持ってて空力特性が余り意味のないとは言え、タンクて(滝汗)

 明日香・インダストリーは…ナデシコの漫画版で大活躍してた方か。

 とは言っても、あそこってネルガル吸収するまでは機動兵器部門は未知数だし、載ってるISも打鉄の改良型だしなぁ…。

 篠原重工は新型だけど、第三世代兵装も無いし、パッとしないから却下で。

 となると以前は国産戦闘機の開発競争に参加してて、現在も補修パーツ作ってる桐山かなぁ?

 でも、漫画版とアニメ版で差異があり過ぎる何れ社長になる英二君の問題があるし…うん、何処も問題あり過ぎだな!(白目)

 

 「取り敢えず、担当の方から説明を受けたいと思います。」

 「そうした方が良いだろうな。」

 

 色々と問題は山積みだが、それだけは決めた灯だった。

 

 

 




ふぅ…やっと時間取れたぜ。
次は対魔忍だな!

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