徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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IS転生 三組代表が逝く5

 さて、クラス代表=クラス委員としての細々とした業務と専用機保持のための大量の書類への記入を終えれば、部活に入っていない私は必然的に暇になる。

 なので、大抵は簪が入り浸っている整備科の一室へと向かい、手伝いをする。

 無論、整備科ではないので本格的な設計開発の手伝いなど出来ないのだが…

 

 「簪いるー?って、また散らかして。」

 「ごめんね、今良い所だから…。」

 

 基本的に一極集中型の簪は、一つの事に集中すると周囲の事に疎かになる。

 なので、必然的に灯や本音がそのサポートをする事になる。

 

 「本音は今日は生徒会があるから来れないから。夕飯は何か私が適当に持ってくるね。」

 「うん、お願い。」

 「リクエストがあれば早めにね。」

 「うん。」

 

 一切こちらを振り向かず、漸く機体本体が出来上がりそうなISに向き合う彼女は、元男の自分が言うのも何だが、女としてはちょっと落第状態だった。

 着ているジャージが汚れているのは仕方ないとして、何度も徹夜しているためか、その髪も目元もくすみ、肌もケアしていないのでガサガサだ。

 無論、若いからちゃんと休養を取れば数日で回復する程度のものだが、それでもこれは色々と酷い。

 

 「簪、朝ご飯は食べた?」

 「…ううん。」

 「お昼は何食べた?」

 「…おにぎりセット。」

 

 おにぎりセットとは食堂の軽食の一種で、おにぎり二個(日替わり)とお新香(日替わり)、そして味噌汁(日替わり)のセットであり、主に昼休みに練習を行ったりする生徒達向けのメニューだ。

 まぁどうやっても栄養バランスは偏るのだが。

 

 「今からサンドイッチ持ってくるけど食べる?」

 「食べる。」 

 「分かった。ちょっと待っててね。」

 

 ひょいひょいとゴミを拾いつつ、灯は一旦食堂に向かうのだった。

 

 (いい加減、休ませないと駄目だなありゃ。)

 

 明らかにランナーズハイになっている。

 こうなると、一端何か別の方に目を向けないと倒れるまで走り続けるだろう。

 が、一先ずは食事が優先である。

 

 「簪ーサンドイッチ持ってきたよー。」

 

 なお、どう見ても足りてないビタミンを補うために、サラダチキンとBLTサンドの二種だ。

 新鮮なお野菜たっぷりなので、これで多少はマシになるだろう。

 

 「…ありがとう。置いといて。」

 

 が、駄目。

 簪の意識は完全に目の前の機体へと向いている。

 だが生憎とこちらには秘策がある。

 実はサンドイッチの他にもう一つ、自分向けのものを確保してあったのだ。

 それはウィンナーソーセージたっぷりのポトフ。

 コンソメスープで柔らかく煮込まれた野菜と汁気たっぷりながらも皮の食感が失われていないウィンナーの絶妙なコラボ。

 それを簪の背後から手で仰ぎ、寝不足&不摂生で疲れが感じにくくなっている簪の鼻孔へと香りが届く。

 途端、簪の細いウェストからぐ~と言う小さな音が響いた。

 

 「…それは卑怯。」

 「こうでもしないと食べないでしょ。ほら、早く食べる。」

 「ん。」

 

 そしてモソモソとポトフとサンドイッチを咀嚼し始める。

 その勢いは普段のゆっくりとした食事風景とは全く異なり、やはり空腹だった事が窺える。

 

 「で、何処まで進んだの?」

 「ん…機体本体はほぼ完了。武装回りはまだ。」

 

 となると、一応今度やる予定のタッグトーナメントには参加できる訳か。

 これでもクラス代表、そういった話は自然と入ってくる。

 

 「簪、タッグトーナメントに出ない?」 

 「えぇ…。」

 「えーじゃなくて。このまま進んでも、どうせ何時かは機動試験が必要なんだし、公式試合もまだ量産機でしか出てないんでしょ?ここらで一度乗って、問題の洗い出しとかして、それから武装に行っても遅くはないでしょ?」

 

 実際、このまま自分や本音の目の届かない場所で開発が進んだら、絶対に事故が起こる。

 体調を疎かにして既にこの様な状態になっている様では、この先絶対にケアレスミスが起こる。

 ならば、一度休養を取らせるべきだ。

 

 「ねぇ簪。武装も決まってないんだったら、外装もそうよね。」

 「? そうだけど…。」

 

 よし、突破口は見えた。

 

 「じゃぁ、こんな外装はどう?」

 「? ……これはッ!?」

 

 ガタン、と先程まで静かだった簪が椅子から勢いよく立ち上がる。

 まぁ仕方あるまい。

 オタだったら誰だって興奮する、自分だって興奮する。

 

 「武装は量産機のを使うから、必然的にこっちを使うし、どうせ武装が決まったら外装はそれに合わせて弄るのだし…なら、少しくらいはっちゃけても大丈夫じゃない?」

 「う、そ、それは…。」

 

 ふむ、まだ羞恥心が残ってるか。

 ならば倍プッシュだ。

 

 「私が企業に専用機を依頼したのは知ってるわよね?」

 「…まさか。」

 

 簪の目が期待に輝いている。

 そうだよね、君なら期待するよね。

 

 「まぁ最初の試作機はここまで趣味的じゃないけど、最終的には外装は私の趣味をぶっこむつもり。」

 

 何のための全身装甲だって?

 そんなもん、趣味に費やすために決まってるだろうがッッッッ!!!

 ISの全身装甲が余り有効じゃないなんて知ってんだよ!

 これでも入試の成績は4位だったから当然だ!

 だが付ける!

 そして自分好みのデザインにするのだ!

 

 「さぁさぁ簪、どうする?このはっちゃけ、期間限定だよ?今位しか出来ないよ?やりたくない?」

 「う…うぅ…!」

 

 簪が葛藤する。

 常識と自制、欲望と解放の狭間で揺れ動いている。

 よろしい、ならば止めの一撃だ。

 

 「簪と趣味的な外装でタッグマッチ、出たかったなぁ…。」

 「う!」

 

 わざとらしい落ち込んだ演技と溜息、そして発言に簪が呻く。

 くくく、貴様がタッグマッチの相手をまだ決めていないのは把握済みよ!

 

 「出たかったなぁ…。」

 「ううう…。」

 「仕方ない。本音に頼むか。あの子ならノリも良いし、付き合ってくれるよね。」

 「や、やる…」

 「ん~聞こえんなぁ~?」

 「私がタッグマッチ、灯と一緒に出る!この外装で!」

 

 普段は大人しく声を荒げない簪が、顔を羞恥で真っ赤にしつつ叫んだ。

 

 「その言葉が聞きたかった。じゃぁ申請出しとくね。」

 「あ…。」

 「ところで簪、使用する機体名はどうする?」

 「…この外装のままじゃ駄目かな?」

 「まぁフレームから新規だしねぇ…良いんじゃない?」

 

 こうして、私は首尾よくタッグマッチの相手の確保及び趣味へと走る事に成功した。

 

 

 

 

 

 「ところで、灯の最初の試作機ってどんなの?」

 「仮のスペック表ならこれ。」

 「…………うわぁ…。」

 「どう思う。」

 「これ作った人達、話合いそう。」

 「うん、簪なら言うと思ったよ。」

 

 

 ……………

 

 

 さて、タッグマッチ・トーナメントである。

 本来、学年ごとのトーナメント形式なのだが、今回は前回妨害があった事を踏まえ、二人一組にする事で事務負担の軽減と問題時に対処可能なISの稼働数を増やすために急遽タッグマッチ形式で開催される。

 そして記念すべきその第一回戦が…

 

 「まぁた一回戦かぁ…。」

 「だ、大丈夫だから、ね?」

 「頑張って~あかり~ん。」

 

 タッグ相手である簪と応援担当の本音に励まされながら、私は企業から渡された試作品一号を纏っていた。

 自分の機体と簪の機体を見て、多少テンションが回復したが、それでもいやーな気分になる。

 何せ前回が前回である。

 第一回戦から突然のテロリストもとい無人機の乱入、しかも衛星軌道上から強襲である。

 更にこっちは結果的に試合に負けている。

 面白い筈もない。

 

 「ま、この子達のデビュー戦だし、頑張りますか。」

 

 相手はあの暴力侍娘こと篠ノ之箒とコミュ障厨二合法ロリことラウラ・ボーデヴィッヒだ。

 撲殺系掃除道具は打鉄なので兎も角として、厨二ロリの方は安定性の高い防衛よりの第三世代機だ。

 特に初見殺しと言っても良いAICは脅威の一言だが……そんなもん既にばれているのでどうとでもできる。

 厨二ロリは自分が担当するとして、簪には掃除道具を担当してもらうとしよう。

 

 「私が厨二をやるから、簪は掃除道具をお願い。」

 「…それ、本人達に聞かれないようにね?」

 「モッピーもラウラウも怒りそーだねー。」

 

 おっといかん、口に出てたか。

 それはさて置き、そろそろ出撃だな。

 

 「じゃぁ簪、私が先にピットに出るから、そっちは最後にね。」

 「うん、お先にどうぞ。」

 

 設置されたカタパルトに乗り、加速のためのGと共にピットから射出される。

 Gの圧力と風を斬る感覚を心地よく思いながら、アリーナ内へと打ち出されれば、視界は満員の観客と整備されたアリーナ内のグラウンド、そしてエネルギーシールドに閉ざされた空が見える。

 視線を相手側のピットに向ければ、既に二体とも出撃を完了しており、装備を構えて滞空している。

 

 『おい、もう一人はどうした?逃げたのか?』

 

 軍人崩れが何か言っているが、意に介さない。

 何せ、これから始まる事に比べれば、そんな挑発にすらならないヤジ等、一々意に介していられないからだ。

 

 『更識簪、MS-06S、出ます!』

 

 突如、全方位通信に短い言葉が乗る。

 その内容に多くの人間が疑問符を乗せるが、自分が先程出てきたピットから出てきた機体を見て、誰もがあ然とした。

 何せ、その機体の外見は余りにも有名だったからだ。

 

 全体的に丸みを帯びた全身装甲に塗られているのは赤、と言うよりもワインレッドとピンク。

 右肩の逆L字型シールド、対照的な左肩の球体に近いスパイクアーマー。

 頭部もまた例に漏れず丸みを帯びた装甲に覆われ、特徴的なモノアイがレールに沿って可動し、周囲を睥睨する。

 そして、最大の特徴であるその額にある一本の角の様なブレードアンテナ。

 そう、その姿は日本どころか世界的に有名なとあるアニメに登場するライバルの専用ロボット…否、モビルスーツ。

 その名も…

 

 『シャア専用ザクⅡ、だよ!』

 

 正確には指揮官用ザクⅡなのだが、それは置いといて。

 

 「「「「「「「「「「『ウゥオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!?!?!!』」」」」」」」」」」

 

 会場に来ていた観客、企業の重役やスカウトマン、政府関係者の内、一定以上の年齢の者達を中心に猛烈な歓声が沸き上がった。

 分かる…その気持ち、実に分かるぞ!

 だって私だって叫んでるし!

 ISのカメラ機能全開で録画と静止画どっちもガツガツ撮ってるしな!

 あ、向こうさんはこの事態に大いに戸惑ってる。

 まぁ分からないとついていけないよねぇ。

 

 『掴みは上々!後は予定通りに!』

 『うん、この外装の提案ありがとうね、灯。』

 『いいさ。私も見たかったし。』

 

 私は私で将来的にはっちゃける予定だしね。

 

 『それでは第一試合、開始してください!!』

 

 歓声が止まぬ中、進行役の山田先生の放送で、向こうも戦闘態勢に入った。

 よし、簪の雄姿も見たいし、さっさとブチころがすか。

 

 

 

 

 




大分駆け足+原作ワンサマー勢が全然出ない(汗
次回以降はそっち方面の描写入れる事にします

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