徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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IS転生 三組代表が逝く9

 『いきなりでごめんね。』

 

 アリーナ内で、二体のISが模擬戦の開始を今か今かと待っていた。

 それは多数いる観客たちも同じで、一年だけでなく、他学年や教員達も時間がある者は多くが観客席にいた。

 今回はタッグマッチで組んでいた機体同士であり、更に公式戦ではないので堂々と食堂の食券を用いた賭博が行われていたりもする。

 一体はレイダオ。

 試作型とは言え第三世代兵装である多目的プラズマ砲6門を備えた機体であり、一見重装甲でありながら軽量であり、プラズマ砲を高機動モードにして使用した場合、現状公式で記録されているISでは最大の推力を誇る重機動タイプだ。

 それに対峙するのは第二世代に入る、シャア専用ザクⅡS型だ。

 先日、学生お手製の機体でありながら活躍した事で一躍注目を浴びた本機だが、今回はフレーム素材を有澤重工製のより堅牢なものに交換し、更に胸部に近接防御用のバルカン、左腕部にバルカン内蔵式の追加装甲を増設し、スラスター数を増加させたオリジン仕様だった。

 

 『いいよ。いきなりだったけど、簪ならいつでも歓迎だし。』

 『そっか…。』

 

 どこか微笑ましいやり取りでありながら、既に両者の動きは互いの隙を探り合っている。

 

 『じゃぁカウントするよ~。さーん…』

 

 管制室から本音のカウントがアリーナ内に放送された。

 途端、ジャキリと簪が武装のセーフティを外し、灯はプラズマ砲のチャージを始める。

 

 『に~』

 

 既にここは互いにとって一挙手一投足の間合いであり、何時何があってもおかしくはない。

 

 『い~ち』

 

 ふと、灯と簪の視線が全身装甲を纏いながらも、目が合った気がした。

 それで相手の感情が読めたのか、灯は楽しむ事を止めた。

 簪の本気が伝わったからだ。

 

 『ぜろ~!』 

 

 だから、初手で終わらせるつもりで、6門のプラズマ砲を全て推進器として、一瞬で音速の数倍へと到達した。

 その手を、灯のやり方を知るが故に、簪は見抜いていた。

 

 『『ッ!!』』

 

 突撃してくるレイダオを見越して、シャアザクは上昇する事でその突撃を回避する。

 それに灯は驚きを、簪は呻きを漏らす。

 何せ、今の挙動はそれだけ特別だったのだから。

 

 『ふっ!』

 

 両肩に浮かんでいた非固定浮遊部位、多目的プラズマ砲を内蔵した追加装甲の砲門を直上にいるシャアザクへと発射する。

 牽制目的で放たれたそれは通常のそれではなく、拡散し、広範囲・短射程に熱量をばら撒くものであり、上手く距離を空けない限りは大なり小なり被弾する。

 だが、それをシャアザクは先日のタッグマッチでも見せなかった高機動性で以て掠りも許さず回避してみせた。

 それを見て、灯は先程の違和感と併せて、核心へと至った。

 

 『簪、貴方…!』

 

 灯の声から焦りが漏れる。

 何せ、簪がしているのはそれだけ危険な事だからだ。

 

 『うん、フルマニュアル、こんなに難しいんだね。』

 

 何処かぎこちない声に、あぁやはりと灯は思う。

 確かに、PICのマニュアル操縦は熟練者なら大なり小なりやっている事だ。

 しかし、フルマニュアルとなると話は違う。

 ISと言う高機動を宿命づけられた兵器で機動戦を行いながら、下手なCPUよりも高度な演算を行う事で始めて可能となるのだ。

 勿論ながら、搭乗者への負担は極めて大きい。

 灯がそれが出来るのは、頭脳も肉体も人間の範疇に無いが故だ。

 しかも、今の挙動を見る限り、灯と同じくPICの搭乗者保護機能の割合をかなり減らすか無くしてまで機動性へと割り振っている。

 確かに使えれば強いだろう、確かにそうしなければ勝てないだろう。

 だが、それは諸刃の剣に他ならない。

 機体が大丈夫でも、中身の人間が持たないのだ。

 確かに簪は戦場でリアルタイムで大量のミサイルを個別の標的にマニュアルで誘導させる様な情報処理能力を持っているが、肉体強度は鍛えた人間限度でしかない。

 最悪、ガルドさんの「伝説の5秒」後みたいな事になる。

 

 『直ぐにPICを通常状態に戻して!死にたいの!?』

 

 それを思えばこそ、灯は簪に制止の言葉をかける。

 だが、返答はマシンガンによる銃撃だった。

 

 『駄目、だよ…!』

 

 Gに歯を食いしばりながら、それでも簪は戦闘機動を止めない。

 それに釣られて、灯もまた戦闘機動を止める訳にもいかない。

 何とか観客席にいた教員達が管制室に入り、通信で戦闘停止を呼びかけるも、簪は止まらない。

 焦りだけが募っていった。

 

 

 ……………

 

 

 「貴方が更識さん?ふーん…」

 

 初めて会ったのは、中学の入学式の事だった。

 教室に入ってすぐ、本音と合流できていない時に、偶々隣の席だったのが灯だった。

 初印象は悪いもので、怖い人と言うのが本音だった。

 しかし、彼女はとっつき辛い様に見えて、その実とても世話焼きだった。

 本音以外にはまともに話す事も出来なかった私が、家族や使用人以外に初めて話せる人だった。

 お父様もお母様も仕事で殆ど家にいないし、お姉ちゃんとは疎遠になってしまった。

 そんな時に出会ったのが灯だった。

 一応、家の習慣として背後関係を調べたが…正直、知りたくなかった。

 父は殺され、母は心を病み、故郷から引き離されてこの学校に入れられた。

 それもこれも、IS適正が高く、孤児同然だったからと言う理由だけで。

 だが、彼女は折れなかった。

 寄らば斬ると言う雰囲気も、自分と出会ってからはゆっくりと薄れ、年相応の笑顔を見せるようになっていった。

 そんな人が、自分の親友だ。

 本音の様な家の関係があったが故のそれでなく、純粋に対等な人間関係。

 それが簪にはとても尊かった。

 だが、徐々に簪はある疑問を感じていた。

 それは、自分は本当に灯の友人に相応しいのか、と言う問いだった。

 灯の成績は政府や財界の要人の子息や関係者が多くいる中学校の中でも、全科目で常にトップ集団に食い込んでいた上、孤児院の年下の子供達からもよく懐かれ、世話を焼いていた。

 振り返って、自分は学業を除けば常に趣味に全力投球であり、時折寝食を忘れて本音に救助される程度には不健康な生活ぶりだった。

 これでは、本音とはまた別の形で自分の心を救ってくれた灯と共にいる事はとてもではないが相応しいとは思えない。

 とは言え、そんな面倒で傲慢な考え、常識的な簪は捨て置いた。

 だが、日本代表候補選定試験において、その疑問は遂に破裂した。

 

 このままでは、自分は灯と共にいられない。

 

 それは灯の適正が自分より高く、尚且つ今日初陣を迎えながらも日本代表候補生筆頭となってみせた彼女の圧倒的な実力を見せつけられたからだ。

 それこそ、天才と言われた自分の姉の様だった。

 だからこそ、簪は思った。

 

 もう置いていかれたくない。

 

 両親は遠く、姉とは疎遠で、従者はいるが、友人らしい友人は一人だけで、その友人もまたこのままでは近い内に自分の元からいなくなってしまうだろう。

 それを簪は許容できなかった。

 だからこそ、無理をしてでも親友の隣にいようとした。

 対等の実力であろうとしたのだ。

 そのために、簪は迅速に行動した。

 実家を出てから殆どしてなかった訓練に加え、コアだけとなった愛機の開発、そして灯が得意とするPICの完全なマニュアル制御による高機動戦闘。

 流石に量子格納による防御無視攻撃は短期間ではどうにもならなかったので後回しにしたが、PICのマニュアル操作に関しては元々の処理能力の高さもあり、ある程度OSを自分向けに改良する事で難易度を下げ、どうにか習得できた。

 

 そして、自分は今その親友と対峙している。

 自分は貴方の隣にいるのに相応しいのだと。

 決して足手纏いではないのだと示すために。

 簪は、今までの人生で嘗てない程の努力と覚悟の上でこの場に来た。

 

 それは、憎悪を熾火の様に燻らせつつも、チートを生かして結果的には自分の好きな事ばかりしている灯には無いものだった。

 

 

 ……………

 

 

 (とっとと終わらせるしかない!)

 

 簪が覚悟を決めてこの模擬戦に、否、戦いに挑んできたのはこれで分かった。

 だが、友人として彼女を止めるべきだとも思う。

 それは正面から戦い、決着を付けたい、勝ちたいと言う思いと同等なもの。

 ならば、答えは決まっている。

 

 (正面から最速で撃破する!)

 

 幸いにも、一見重量級に見えるこのレイダオは実際は高機動砲戦型だ。

 簪の乗るシャアザクはやや近接よりの汎用機だが、どう足掻いた所で競技用の第二世代だ。

 スペックはこちらが有利と言える。

 しかし、小回りの点では大型機であるこちらよりは上だし、何より燃費においては第二世代だけあって向こうの方が上だ。

 かと言って、乾坤一擲の突撃をしようものなら先程の焼き直しになるだけだ。

 

 (撃ち合いはプラズマ砲のこちらが有利。でも継戦時間は向こうが上か…。)

 

 つくづく第二世代ISの完成度と言うものは厄介だ。

 下手に武装の方に思考制御を割いていないだけ反応速度が良いし、燃費も良ければ、各部の信頼性も高い。

 乗り手次第で幾らでも化ける辺り、下手な武装を追加した上でそれを主軸に開発されている第三世代ISよりも遥かに安定性がある。

 

 (とは言え、向こうも長引けない筈。)

 

 実戦でのPICのマニュアル操作、それも8割からフルとなると、搭乗者への負担は大きすぎる。

 それこそ簪の様な高い処理能力を元々持っているか、灯の様に人間をやめているかしないとまともに扱えるものではない。

 必然、簪もまた短期決戦を挑まざるを得ない。

 

 (そら来た。)

 

 そして、直上からシャアザク(オリジン仕様)がトマホーク(ヒート無し・元は打鉄のブレードの端材)を振り被って急降下してきた。

 それを右腕部のプラズマ砲をブレードモードに設定、1m程の刀身とし、迎え撃つ様に振るおうとして…

 

 「ッ!」

 『惜しい!』

 

 プラズマブレードを突き抜けてきたトマホークに、胸部装甲を浅く斬られた。

 寸での所で身を反らしていなければ、そのまま胸部装甲を完全に破壊されていた。

 

 (普通の物理ブレードなら溶断できる筈。)

 

 即座に距離を取り、出力を落としたプラズマ砲で牽制射撃を行い、先程の出来事を考える。

 ヒートソードでもないし、ビームサーベルでもないので元々鍔迫り合いなんて出来ない。

 だが、ただの物理ブレードならこちらが勝つ筈だし、あの斧には熱源も特にないと言う事は特殊な機能は無いと言う事。

 となれば話は簡単、電源を必要としない様な工夫を施してあるのだ。

 

 「対熱コーティング!」 

 『当たり。』

 

 機体を掠る形で命中しそうになるプラズマ砲の射撃を、簪は先程の斧を盾にする形で無傷で遣り過ごす。

 成程、こちらの機体の情報は簪とも共有していたし、彼女であれば一週間もあれば仕込める。

 

 「いいね、本当。すごくいい。」

 

 ニィと、女子としては止めた方が良い笑みが浮かんでしまう。

 ISに乗って、こういった高揚感を覚える事は今までなかった。

 実力の近い相手と不利な状況ながらも全力で戦い、勝利を得ようとする。

 奪われ続けた今生では、試合では余裕で勝ち続けていたが故に、この様な闘争本能を身近に感じるのは本当に珍しい。

 闘争心、或は勝利の希求。

 目の前の敵を蹂躙し、撃破し、己の方が強いのだと周囲に証明する行動。

 当たり前の様に行っていたそれが、この時ばかりは難易度が高くなっている。

 それがとても嬉しい。

 

 「ははははは……。」

 

 チート故に強敵に恵まれない身に、簪の覚悟と気迫、戦術はとてつもなく貴重だ。

 全て味わい尽くし、堪能したい。

 

 「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」

 

 友情と闘争心と興奮。

 それらを綯い交ぜに胸に抱えつつ、灯は心底愉快そうに嗤いながら全身のプラズマ砲をブースターモードへと変更し、同時にフルマニュアルを活かして搭乗者保護機能を完全にカット、簪と同じ条件になった後、ドッグファイトを開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 




FGOイベントと執筆の時間が取れない…
くそ、これだから繁忙期は…!

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