さて、謹慎も解け、レイダオが毎度の如く大破して修理に出された後、灯は放課後に入院中(と言っても学園内の医療施設。下手な病院よりも遥かに設備が整っている)の簪の元に訪れ、頼まれた特撮やアニメのDVD、漫画や小説等を差し入れる日々を送っている。
ISの方は開発チームが過労でダウンしている事もあり、打鉄の修理と細かいアップデートと調整位なもので、他には然したる変化はない(但し、それでもIS学園1年生の中ではぶっちぎりで最強なのだが)。
だが、そんな彼女にも遂に大きな変化が、人生の転機が訪れた。
「本当ですか!?」
企業連との定期連絡会にて、灯は待望の知らせを聞いていた。
『無論だ。約束通り、君の母君の身柄は保護した。』
『病状に関しては安定しているし、面会も一応は可能だけど…。』
「大丈夫です。もう覚悟済みですので、様子だけでも。」
『分かった。とは言え、馬鹿共が君に何かしでかす可能性は大いにある。既に新しいISは完成し、後は実機試験を待つだけだ。』
『コアは君の持つ打鉄改のを使うから、今週末にでも有澤の試験場に来てほしい。迎えは人を出すから。』
「ありがとうございます。では、今週末にまたお会いしましょう。」
そう言って、通信が切れる。
だが、灯の心の中では、沸々と喜びが湧き出ていた。
漸く残された最後の家族と会える。
自分を縛る人質にされていた母が解放される。
それを思うと、どうしても喜びが出てしまう。
とは言え、9年以上離れ離れだったのだ。
精神が崩壊していた事もあり、最早母は自分を認識する事は出来ないだろう。
それでも自分を慈しみながら産み育ててくれた人は大切であり、嘗て受けた愛情を忘れない程度には、灯はまだ人間だった。
(まぁ、その前にケジメは必要だよね。)
だが、忘れてはいけない。
9年前から愛情と共に育てられていれば芽生えなかったであろう彼女の中の感情。
即ち、怒りは10年前から一切弱まる事無く、轟々と燃え盛っていると言う事を。
この時はまだ、彼女以外の誰もがそれを知らなかった。
……………
週末、灯はとある町に訪れていた。
白いワンピースにサンダル、そして青いリボンを巻いた帽子に肩からバックを提げると言う彼女らしからぬ女性らしい装いで、灯はここまで来た。
IS学園のモノレールから電車を乗り継ぎ、鈍行電車に5時間程揺られて着いたのは、嘗て彼女が家族と共に暮らしていた小さな町だ。
住所は分かっていても、監視と母親の安全のために決して近づく事の出来なかった第二の故郷。
10年前までは母と父と自分、家族三人で平和に暮らしていた場所。
そこに彼女は漸く訪れる事が出来た。
先ず最初に行ったのは地元のスーパーで、そこで花と線香、マッチを購入し、檀家になっているお寺へと向かう。
目的は墓参りだった。
「……………。」
夏ももうすぐのこの時期、綺麗に晴れ渡った今日、灯は花と線香を供えると、墓前で静かに祈り始めた。
倉土の家系の墓、そこには当然灯の父親の遺骨も収められている。
朴訥な、何処にでもいる優しい父親だった。
娘を愛し、妻を愛し、家族を愛し、良き夫、良き父であろうと頑張っていた人だった。
断じて、断じて、あんな死に方をして良い人ではなかった。
「……………。」
ギチリと、奥歯を噛み締める。
その気になれば今すぐにでも人間を止める事も出来る身だが、そんな灯にも父を敬う気持ちは、家族への愛は確かにある。
故にこそ、それを理不尽に奪われた怒り、憎悪、復讐心は根深い。
例え10年経ったと言えども、それを癒す時間を与えられなかった彼女にとって、枷の外れた今、心の中では黒い炎が燃え盛っている。
それこそが彼女の原点。
倉土灯が正義の戦士になれず、反英雄達へと変身できる理由。
「さようなら、お父さん。」
5分程祈り続けた後、灯はあっさりと墓前から去った。
今日来たのは、一歩踏み出す前のけじめのためだった。
これから先、自分はきっと綺麗ではなくなる。
そう分かっているからこそ、灯は今日この時に9年ぶりの墓参りをしたのだ。
……………
灯は一日中、町を散策し続けた。
見覚えのあるもの、見覚えのないもの。
見覚えのある人々、見覚えのない人々。
そう言った些細な変化が、本当に9年もの歳月が流れたのだと物言わずに灯に示していた。
嘗て通っていた保育園や小学校、よく訪れていた近所のスーパーや公園、友人や知人の家。
そして、お世話になった近所の人の家々に、嘗て自宅のあった場所。
既に更地になった嘗ての帰る家を見ると、何とも言えない郷愁を感じてしまう。
あぁ、最近は楽しい事が多かったが……やはり転生して若返ると、年相応に涙腺が緩くなるらしい。
ぽろぽろと涙を零しながら、灯はそれを拭う事もなく、流すままにしていた。
「さようなら…。」
もう小娘らしく泣くのはこれで最後だと決意しながら。
最早戻らないであろう第二の故郷に、灯は別れを告げた。
……………
灯は密かに付けられていた学園側の監視を振り切ると、人気の無い山奥へと進んでいた。
辺りに人影はない。
しかし、確かにいるのだと灯は気付いていた。
そして、昇り始めてから20分程で山の頂上へと辿り着いた。
そこからは、夕暮れで赤く染まった町が一望できた。
自分が生まれ、育ち、幼少期を家族と共に幸せに過ごせた場所。
父が死に、母が施設に入居した後も自分を支えてくれた暖かい場所。
それを今日一日かけて改めて目と記憶に焼き付けた。
きっと、二度目の死を迎えたとしても、今日見てきた光景を、自分はきっと忘れないだろう。
そして、この後起きるであろう惨劇も。
「倉土灯だな?」
不意に、周囲の空間から三機ものISが滲み出す様に姿を現した。
IS打鉄、その日本国防軍仕様だ。
だが、どの機体も部隊章等の所属を示すものはなく、現れた位置も灯を中心に三方向へと分散しており、例え誰か一人が襲われようとも即座に鎮圧、否、射殺できる様な構えだった。
(おお、マジの非正規部隊仕様とは。割と警戒されてるな。)
これで通常の国防軍仕様だったら、精々が競技用リミッター無しの独自カスタム仕様機なのだが、外見は同じでも非正規部隊仕様となればどれ程の性能になっているか予想も付かない。
「一緒に来てもらおう。」
「イヤだと言ったら?」
隊長格と思われる人物の言葉にそう返した途端、灯の身体に40cm程の四脚の機械が3機も組み付き、その身体を拘束する。
更に展開しようとしていた打鉄改の実体化がキャンセルされ、ISコアが隊長格の手に奪取された。
四脚の機械、その正体は原作にて亡国機業が使用したリムーバー(剥離剤)だ。
決まれば初見に限るものの、確実にISを無効化できると言う、使い処を間違えねば極めて強力な兵器だ。
「無用な抵抗はするな。貴様は既に生身だ。」
無論、リムーバー(剥離剤)は一定時間でその効力を無くすのは原作通りだ。
しかし、それを知らない者からすればISと言う自身の絶対的な力の象徴を奪われ、更に三対一であり、相手はプロの軍人かそれに相当する者達となれば、普通は交戦意欲を失う。
そう、普通ならば。
「ふ、ふふふふふ………。」
だが、此処にいるのは普通ではなくなってしまった。
異常を隠し、普通に埋没しようとしながら、異常に引き摺りこまれた者だ。
そして今日、彼女は普通に戻る事を諦めてきた所だった。
「隊長?」
「構わん。気絶させて連行する。」
その様子に気でも狂ったと判断した隊長機は部下にそう指示を出す。
だが、彼女達は間違えていた。
彼女達は全速で逃げるべきだったのだ。
目の前で今、生まれようとする怪物から、羽化しようとする化生から、産声を上げる反英雄から。
だが、ISと言う力と今まで多くの非正規作戦に従事し、成功させてきた経験が、彼女達から撤退の二文字を奪い去ってしまった。
「変身。」
その言葉と共に、地獄が始まった。
……………
IS非正規部隊の隊長は、それを見ていた。
捕獲対象である少女の情報は知っており、その戦歴から自分だけで対等な状況下でなら先ず確実に苦戦すると思える程度には手練れだった。
しかし、こちらは軍人で、向こうは十代の少女である。
事前に勝つための手段を模索し、実行に移せば、それだけで済む。
捕まえた少女がその後、どうなるのか等は知らない。
知った所で意味は無いし、興味もない。
ただ、碌な事にはならないのだろうと、経験則から考えてはいた。
だが、そこから先は考えない。
ただ与えられた任務を遂行するだけの歯車。
そう隊長は自己を定義していた。
だがこの日、彼女はそんな自分の在り方に初めて揺らぎ……そして、後悔も懺悔も覚える暇すら与えられなかった。
「 。」
捕獲対象がリムーバーによって拘束された状態で何かを告げる。
それをISのセンサーで観測していた隊長はその言葉の内容を明確に理解する。
即ち、変身と。
だが、ISコアはこちらの手の中にあり、捕獲対象はそれ以外の武装は無い。
なのに、軍人として培った勘が撤退を叫ぶ。
しかし、それすらも目の前の非常識な光景によって目を奪われてしまい、彼女達は最後の生きて逃げる機会を無くしてしまった。
少女の腹部から機械的なベルトが浮かび上がり、その中央に嵌められた鮮緑の結晶体が光を放つ。
直後、少女の全身が昆虫の外骨格とも機械とも取れる白い装甲に覆われる。
頭部はまるでバッタの様なデザインをしており、あたかも彼女達も知っている特撮ヒーローの様な姿だった。
だが、単なる着ぐるみやアクタースーツだとは隊長は思わなかった。
故に、迷いなく自身もその手にライフルを呼び出しながら二人の部下に告げる。
「撃て!」
直後、三機が三方向から射撃する。
例え重装型のISと言えど、この至近距離からの射撃ではダメージは必至だ。
だが、それは相手がISに限れば、と言う前提があっての話だ。
ゾンと、視界一面を赤い光が駆け抜けた。
直後、自分の視界がゆっくりと斜めにずれていく。
そして、漸く自分が地面に倒れたと気づいた時、自分の両足がISの脚部ごと両断されている事に気付いた。
「あ、がああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!!?!!」
激痛に悶えながら叫び回り、地面をのたうち回る。
見れば、部下達は自分と異なり、首を両断され、切断面から盛大に赤い噴水を上げながらゆっくりと倒れていく所だった。
(ISの絶対防御を抜いただと!?)
無論、エネルギー切れに追い込めば、そんな事も起こり得る。
しかし、今まで戦闘らしい戦闘もしていなかった彼女達のISのエネルギーはほぼ満タンだった。
なのに、今では稼働状態すら維持できない程にエネルギーを消耗し、リミットダウン(具現維持限界)を迎えていた。
見れば、目の前に立つ白い装甲服の少女の手には、鮮血の様な赤い刀身の剣が握られており、あれで自分含む3名を一刀の下に斬り伏せたのだ。
(ISの絶対防御を発生させつつ、一撃で消耗させる程の威力だと言うのか…!)
激痛に苛まれながらも、しかし辛うじてISの搭乗者保護機能によって失血死を免れながら、隊長は生き残るための算段を整える。
(殺さなかったと言う事は、最低限利用価値を認めていると言う事。なら、何とか生き延びて…!)
しかし、隊長のそんな必死な思いは叶わなかった。
目の前に立っていた白い死神が、彼女の髪の毛を掴み上げ、その顔を無理矢理に自分の顔の高さへと持っていったのだ。
「ぎ、ぎゃああアアアあああッ!!」
無論、両足を失った彼女にそんな事をすれば、失った両足を除いた全体重が毛根にかかる。
ブチブチと頭皮の一部が髪の毛が鮮血と共に抜ける。
しかし、今や世紀王でもある灯にとって、目の前の虫けらがどう鳴こうが喚こうが、知った事ではない。
だが、その知識、情報には価値があると分かっていた。
「キングストーンフラッシュ。」
その時不思議な事が起こったと度々ネタにされる技。
しかし、敵対すればこれ以上なく厄介なキングストーンを用いた、オカルト的な側面から言えば万能の願望器と言えるソレの発動は、難なく成功した。
「ふむ…成程、こういう事か。」
目の前に掴み上げた女の脳から必要な情報を入手すると、仮面ライダーホワイトはあっさりと女の頭蓋を握り潰した。
自らの起こした惨劇に一切の関心を抱かず、仮面ライダーホワイトはその場を後にする。
怪しまれずに学園に戻るまで後一日。
それまでに自分を縛りつけて利用しようとしてきた者達を絶滅させる。
その意思を胸に、創世王候補は、世紀王は、悪の仮面ライダーはその右手に血に濡れたサタンサーベルを握りながら、その場を後にする。
翌日、多数の国防軍並び与野党幹部並び企業重役等が惨殺される事件が発生し、日本国政府は総力を挙げて犯人グループ(個人とは到底考えられない規模だったため)を捜査したものの、証拠らしい証拠はなく、事件は敢え無く迷宮入りする事となる。
仮面ライダーホワイト(初期型シャドームーン)
仮面ライダーブラックと共にゴルゴムによって改造された元人間であり、外見もブラックとの色違い。
ブラックとは創世王の座を賭けて争うライバルになる筈だった。
しかし、改造時に深刻なダメージを受けたため、原作では長い間目覚める事なく、よく知られるメタリックなシャドームーンへと強化改造される事で復活する。
スペックはブラックと同様であり、腰のベルトには月のキングストーンが嵌められている。
また、創世王候補として、ゴルゴムにとっての聖剣にして王権の証であるサタンサーベルを召喚、使用できる。
パンチ力:3トン
キック力:9トン
ジャンプ力:ひと跳び30メートル
潜水時間:10分
Q.つまり?
A.まだ変身が残っていると言う事だ。(CV堀内孝人)