徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

42 / 137
お盆なんて消えてしまえ!(繁忙期続行中


IS転生 三組代表が逝く13

 行方を暗ませ、消息を絶った翌日の日曜、その深夜にひょっこりと、何食わぬ顔で倉土灯はIS学園に帰って来た。

 寮監である千冬は、特に気配も殺していない灯を即座に補足したが……一目見た瞬間、本当に本人かと疑った。

 

 「おい、倉土。」

 「あ、織斑先生こんばんわ。」

 

 悪びれる事なく挨拶してくる姿は普段のそれだ。

 しかし、根っこの部分で何かが変わっていると確信する。

 元より知性よりも動物的直感にこそ重きを置く千冬にとって、その差異は余りにも顕著だった。

 余りにも濃厚な、それこそ戦場跡地か紛争地帯でも早々お目にかかれない様な、夥しい程の死臭。

 それが、己の生徒であった少女から漂っていた。

 

 「何人やった?」

 「数えてません。」

 

 その返答を聞くや否や、千冬は灯の首元に懐に忍ばせていたナイフを突き付ける。

 それを、灯はただ平然と眺めていた。

 何せ、今の灯にはその程度の刃物は通らないからだ。

 

 「どうします?殺しますか?」

 「チッ…。」

 

 舌打ち一つして、千冬はナイフを懐に戻した。

 出し入れの速度は灯をして見え辛いものだった。

 

 「証拠も何もない現状、貴様を罰する事は出来ん。」

 「ですか。じゃ、帰りまーす。」

 

 そう言って背を向けて寮の自室へと向かう灯。

 しかし、その肩を千冬は逃がさずに掴み止めた。

 

 「だが、門限を超えた馬鹿を罰するのは私の寮監としての務めだ、なぁ?」

 

 そう言って威圧感たっぷりに告げる千冬は、地獄の閻魔の様だったと後に灯は証言している。

 その後、灯は千冬の寮監室で一週間を過ごす事となり、余りの汚部屋ぶりに顔を真っ青にし、自主的に掃除洗濯炊事を行い、訪れた一夏を驚愕させたと言う。

 

 

 ……………

 

 

 政府及び国防軍の幹部多数が殺害された一連の事件において、日本国政府は頭を抱えていた。

 何せ、非正規戦に使える実働戦力の過半が消滅したのだ。

 それも、たった一日で、だ。

 被害を免れた幹部達の毛根と胃壁がマッハで消費される中、それでも彼・彼女らは御国のために頑張った。

 具体的には被害者の共通点から凡そ犯人の動機を割り出す事に成功したのだ。

 そもそもの切っ掛けは、この事件と同時に余り関係がないと思われていた人物が不審死していた事だ。

 具体的には過激な女尊男卑団体の中でも国外、取り分け特亜と繋がりを持っている団体に企業の重役、それに今現在は孤児院に務めている筈のIS学園卒業生の存在だ。

 前者は恨みを持つ者がいる事はまぁ分かる。

 しかし、捜査担当者は後者の方に疑問を持った。

 そして、件のIS学園卒業生が勤めていた孤児院を捜査していく中で、驚くべき事実が浮上してきたのだ。

 それは言ってしまえば青田買いだった。

 対象は身寄りのない子供、その中でも特にIS適正に優れている児童。

 ISの登場した核ミサイルハッキング事件、通称白騎士事件の一年後とは言え、行政も民間も大きな混乱から未だ脱却し切れていない頃から、この事件は始まっていた。

 ISと言う女性のみ、その中でも特に高い適正を持つ者に個人としては大き過ぎる力を与える兵器。

 それに搭乗し、自在に操るには天性の才能か、長い訓練を必要とする。

 それこそ織斑千冬クラスの才能と適正が無い限り、どの国もノウハウを持たない当時、搭乗者に関しては完全に手探りだった。

 幸い、日本は開発者と初の搭乗者を確保する事に成功していたので、他国よりも遥かにスタートラインに差があったが、日進月歩の最新技術の開発競争において、そんなものは安心し切れる要素ではなかった。

 そのため、当時の発足したばかりの国防軍幹部と政治家が計画し、更に過激なIS先進派や女尊男卑主義者を扇動して人手を確保し、更に密かに接触した特亜に対しても高いIS適正者を「輸出」するためと言う名目で資金を確保して、計画はスタートした。

 しかも、その輸出先には近年活動が活発化していると言う国際的テロ組織「亡国機業」すらリストアップされていたのだ。

 この時点でもう真っ黒過ぎる上に放射線まで放っているが、無論、彼・彼女らがここまでやったのは切実な理由があった。

 当時、世界中から核ミサイルを撃ち込まれた日本の国防軍幹部や政治家の多くは、他国に対して激しい不信感、警戒心を持っていた。

 まぁ、国家丸ごと皆殺しにされかけたのだから、当然と言えば当然だろう。

 そして、自衛のために激しいIS開発競争が始まったのだが、彼・彼女らはそれだけで満足しなかった。

 また同じ事件が起きた時、織斑千冬が、篠ノ之束が、白騎士が間に合うとは限らない。

 そのためにIS開発競争を支援もしたが、それは他国も同じ事をしており、もし国土防衛戦が発生した場合、安心できる保証は無い。

 もしかしたら、今度こそ核ミサイルが国土に着弾するかもしれない。

 故にこそ、彼・彼女らはそんな強迫観念に突き動かされ、遂には禁じ手に手を出す。

 それが高いIS適正を持つ身寄りのない子供達を集め、高度な教育を施し、織斑千冬に負けぬ程のIS搭乗者へと育てる計画だった。

 無論、本当に身寄りがなく、結果的とは言え保護した子供達がいた事も確かだが、それと同じ程度には住み慣れた故郷や保護者の元から離された者達も少なくない。

 特に、最近若手最強の声も名高い倉土灯は、その典型だった。

 父を核ミサイルで殺され、母がその衝撃で廃人となり、住み慣れていた故郷と壊れた母から引き離された。

 成程、恨む理由は十二分であり、彼女の腕前なら200人以上の人間を殺傷する事は出来る。

 しかも、国防軍の非正規部隊所属のIS三機が丁度彼女の故郷にて、搭乗者含め完全に破壊されている事が確認されている。

 現役の国防軍所属ライダーとなれば、嘗てのWACよりも更に厳しい適正を潜り抜けた猛者達だ。

 それを屠れる程の腕前なら、その程度は簡単だろう。

 しかし、それは不可能だと国防軍の技術部から声が出た。

 単純に言えば、日本全国津々浦々にいる被害者全員を一夜の内に殺害するには、例えISであっても、特に競技用リミッターを噛ませてある機体では移動だけでエネルギーが枯渇すると言うのだ。

 例え織斑千冬よろしく全ての戦闘を実体ブレードによる近接戦闘で済ませても、それは不可能だ。

 況してや、被害者の多くの死因が高エネルギーとも実体とも付かない近接兵器による斬殺となれば、犯人と断定できる要素は動機以外には無くなる。

 捜査の進捗はこの時点で一度止まった。

 だが、政府の歩みは寧ろ進んでいた。

 そして、この事件の関係者の背後の洗い出しが密かに行われ、後に国防軍設立時に立法された国家安全保障法(スパイ防止法)の下、徹底的な狩り出しを開始、国内に巣食う犯罪者や他国の非正規部門にテロリストの撲滅へと注力していく事となる。

 

 しかし、国防軍および日本国政府首脳陣の中で、倉土灯の名はこの事件における最重要人物としてデカデカと記される事となってしまった。

 

 

 

 

 

 




ちと短いが区切り良いのでこれだけ
来週は投下とか無理だす…(白目

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。