徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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うーむ、文字数が順調に増えてる(汗


SRWOG転生 テンザンが逝く2 改訂・加筆

 ビアン総帥直々のスカウトにより、原作のバーニングPTの大会よりも早くDCに所属する事となったテンザンだが……初っ端から躓いていた。

 

 「帰れ。」

 「イヤです。」

 

 このブンむくれてる弟分の説得に。

 

 「お前なー、オレと違って家族仲も良いんだから、こんな危ない職業に就かなくてもだな…。」

 「イヤです。」

 

 きっぱりと言い切るリョウトに、オレは頭を抱えたくなった。

 こうなったコイツは梃でも動かない。

 普段はオレの後ろをちょこちょこと子犬の様に付いてきて、その手の趣味の者なら悶え転げそうな可愛さを放っているのだが、一転してこうなるともう頑固になる。

 こうなればこいつの実家の姉さん方でも途方にくれるのだから相当だ。

 

 「…オレに付いて来たいって理由なら止めとけ。死ぬぞ。」

 

 普段よりも数段低い音を意識して出すと、少しだけリョウトが怯んだ。

 本当なら、此処でこいつを扱き使って連邦側に適当な所で回収させるか、或は丁寧に指導なりして部下として扱うべきなのだが、どうにも情が移ってしまったらしく、こいつには堅気の道を全うに生きてもらいたいと思ってしまう。

 

 「イヤです。それを言ったら、テンザンさんだって同じです。」

 「オレは良いんだよ。お前と違って成人してるし、ロボ乗るためなら魂も売るさ。」

 

 これは本音だ。

 少なくとも、オレは見も知らぬ誰かのために戦う事は出来ない。

 精々が身内の安全と些細な個人的欲によるもので、それ以上でも以下でもない。

 そんな奴が辿る末路は一つだけだ。

 やり込んだゲームのセリフで言うならば「好きな様に生き、理不尽に死ぬ。」と言う事だ。

 

 「良いか、リョウト。お前はまだ18歳、親御さんの庇護下で学生やってる年頃だ。此処に来るなとは言わん。だが最低限でも卒業と成人してからにしろ。」

 「ごめんなさいテンザンさん…。」

 

 シュンとするリョウトに漸く納得してくれたか、とホッとする。

 しかし、現実は非情と言うか非常識だった。

 

 「実は学校に関しては飛び級して卒業しちゃいました☆」

 

 てへぺろのポーズをしながら取り出された卒業証書の写しに、オレは愕然とした。

 

 「後、家族には許可貰ってます。好きな様にしなさいって。」

 「…………………………マジかよ…。」

 

 こうして、オレの説得は失敗に終わった。

 

 

 ……………

 

 

 さて、初っ端から躓いたが、DC所属二日目からオレ達二人はシミュレーターをほぼ一日中やり込んだ。

 流石は軍用品だけあり、購入したバーニングPTの家庭用筐体よりも遥かに高性能かつ多機能だ。

 また、回線を使って同期すれば最大百単位での大規模会戦も可能なのだとか。

 登録されている機体も既に旧式化の兆しがあるゲシュペンストやその亜種ではなく、最新鋭機であるリオン系列機だ。

 とは言え、未だバレリオンやガーリオンはなく、装備強化型のタイプFに機動性強化型のタイプV、索敵・管制型のレドーム装備や精々コスモリオンやシーリオン、ランドリオンと言った共通のフレームの機体のみだ。

 ただ、ミサイルランチャーやレールガン、大型レールガンにミサイルポッド、強襲用ブースターと言った各種オプション等は幾らでもカスタマイズできる。

 なので、ついついゲーマーの性としてやり込んじゃった☆

 途中でリョウトはばてたので、半分程一人でやりながらひたすらにシミュレーターを楽しんだ。

 無論、事前にマニュアルを読み込んだ上でだ。

 それで分かった事は……オレはゲシュペンスト系よりもAM系の方が向いていると言う事だ。

 原因はテスラ・ドライブの存在だ。

 重力制御と慣性質量を個別に変動させることが出来る装置であり、現在地球で最先端の推進装置だ。

 こいつのお蔭で今まで鈍いと思ってたのがかなり素直に動いてくれる。

 とは言え、未だに自分の反応速度に完全に付いて来れてはいないので、その辺りは上に要望を上げておくべきだろう。

 さて、このシミュレーターだが、ゲーム機に流用されるだけあって、ある機能がある。

 それは…

 

 「乱入機、か!!」

 

 直感に任せ、搭乗していたリオン(タイプV+強襲用ブースター付)の軌道を強引に曲げると、そのまま進んでいたであろう空間をレールガンの射線が貫いていく。

 こうした乱入が、既に今日だけでも20回は起こっている。

 だが、オレはその全てを歓迎し、正面から打倒してきた。

 テンザン風に言われせれば、「どいつもこいつもやり込みが足りない」。

 新兵器故仕方ないのだろうが、今後のDC処か地球圏全体の主力機たるAMへの理解が足りないのはダメだろう。

 

 と言う訳で、シミュレーターに限るが、とことんブチのめさせてもらおう。

 

 これを機に民間人上がりに負ける自分の実力を反省して、もっとAMへの理解を深めて腕を上げてもらいたい。

 なので、容赦なく撃墜させてもらう。

 乱入してきたのは7機、一度に来た有人機としての数は今日で一番多いが、特に脅威には感じない。

 右腕部に装備したランドリオンの大型レールガンを使い、相手の未来位置へと偏差射撃、一撃でコクピットを貫通して撃破。

 味方機が早速墜とされて動揺して動きが単純になった機体に左腕部のレールガンで射撃、撃破。

 こちらへと集中するレールガンとマシンキャノンの射撃を跳ねる鞠の様な機動でランダム回避しながら更に射撃。

 それだけで更にもう一機撃破され、慌てて散開する敵機。

 残った数は既に4機。

 だが、その中で一機、レドーム搭載の指揮官機だけは動きが良い。

 なので、迷わずブースターを点火、指揮官機を狙う。

 

 『ッ!?』

 

 慌てて指揮官機が肩部のマシンキャノンで弾幕を張り、遅れて他の敵機もそれに倣うが……遅い。

 最初から半数が墜とされる事を織り込んで、全機でマシンキャノンとミサイルをばら撒きながら突撃してくれば、一発程度は被弾しただろうに。

 やはり、こいつらもやり込みが足りない。

 両腕に装備したミサイルランチャーからミサイルを発射しようとするが、ミサイルの弾速では加速状態のこちらに当たる事は無いし、そもそもロックする暇も与えない。

 結果、その前にこちらの左腕のレールガンの銃口が指揮官機の腹部を貫いて撃破。

 そして、動揺した上に統率の乱れた残りもものの数秒で撃破する。

 ……多分、リックドム相手に一方的に敵を撃破したアムロもこんな気分だったんだろうなーとか思ってしまう。

 

 「まぁこんなもんか。」

 

 良い頃合いなので、今日は此処までで終わりにした。

 

 

 ……………

 

 

 「ねーテンザンさん。随分スコアを伸ばしてましたけど、何かコツとかありました?」

 

 DC本部内の士官向け食堂で、とある少女の声が響いた。

 その内容に、陰鬱とした雰囲気を纏っていた士官達、取り分けAMパイロットの面々は耳を欹てた。

 今日一日で、彼らの殆どは民間人出のパイロットなんぞに負けるか!と挑み、そして無様に敗れ去った。

 最初はただのリオンや時折その派生機だったが、徐々に好みの装備が決まったのか、最後は親衛隊を中心に配備されている高機動型のタイプVに強襲用ブースター、ランドリオン用の大型レールガン装備へと固定されてからは一発の被弾すら無く、最後には丁度来ていたテンペスト・ホーカー中佐が泣き付かれて仕方なく参戦した所、ものの見事に撃破されてしまった。

 今ではゲンドウポーズを取りながら食堂の片隅で落ち込んでいるが、部下達とのデブリーフィングには参加している様なので、その内持ち直すだろう。

 さて、そんな異常な戦績を初日から叩き出す奴が語るコツとは一体?

 気に入る気に食わないは兎も角、誰もが興味はあった。

 そんな異様な空気に気付きつつも、テンザンは食券と交換してきた野菜炒め定食(大盛)を食べながら、リョウトに語る事にした。

 なお、リョウトはリョウトでその年齢を考えれば異常な程の腕前である事を追記しておく。

 

 「んー……元は戦闘機乗りが多いってのもあって、テスラ・ドライブへの理解が薄い、かねぇ。」

 「どういうことです?」

 

 確かに新兵器と言う事もあり、その辺りの理解が薄い者も多い。

 しかし、その辺りしっかりと教練を受けている者がこの二人を除いた全員である状況では少し疑問符が付く。

 

 「戦闘機だとどうしても直線的な機動になるだろう?航空力学的に。」

 「ですね。」

 「それだとダメなんだよ。AM同士ならテスラ・ドライブ積んでて機動がかなり自由で、そんで互いに一撃で墜とせる火力がある。なら、後はどう先に当てるか、だ。」

 

 通常リオンに搭載されている武装はどれも一撃でリオンを墜とせるだけの火力がある。

 一番低いマシンキャノンと言えど、当たり所が悪ければそうなのだ。

 ミサイルは言うに及ばず、レールガンに至っては一番装甲の厚い胴体部だろうと貫通する。

 

 「すると、ひたすら動き回って、敵に射撃して当てるのが一番大事な訳だ。」

 「あぁ、だからあんなボールみたいな機動なんですね。」

 

 あの機動、前世の記憶を参考にしたもので、要は機動戦艦ナデシコの傀儡舞のそれに近い。

 無論、元が戦闘機由来のリオンなので直線加速は兎も角、機体のサイズ差もあってあそこまでの運動性は発揮できないが。

 ガーリオン辺りならガンダム的な機動、AMBACを用いてもっと細かく動かせるのだが、現状のリオンでは無理だ。

 リオンの、と言うかAMの操縦系統は「学習オートマトン利用によるEOTと従来型機位制御との統合」システムであり、要は従来の戦闘機の発展系+ガンダムみたいな学習型CPUとの複合型だ。

 で、これはTC-OSを搭載した完全人型のPTとは違い、登録されたモーションは既存戦闘機のドッグファイトのそれに近い。

 そのため、人型・準人型のロボット同士でのモーションの登録が少ないのだ。

 そのせいで白兵戦距離になると、余りオートマトンからの支援が受けられないし、登録されているモーションも少ない。

 なので、手練れや才能のあるパイロットの乗ったPT相手ではその時点でかなり不利になる。

 並のパイロット同士なら、空を飛べる分AMの方が遥かに有利で、余り問題視されていないのだが。

 しかし、一旦白兵戦の距離へと入れば、連邦所属のPTであるゲシュペンスト系統の得意とする間合いで戦う事と=であり、更に言えばゲシュペンスト乗りは極少数ながら優秀なパイロットが多い。

 即ち、近づかれればその時点でリオンの特性を活かせずに撃破される可能性が高いのだ。

 

 「AM同士の戦闘ならそれが顕著だ。だから、直線機動なんて取ってる奴は恰好の的になる。予測位置に弾を置けば良いんだし、滞空できるからって止まってる奴なら尚更な。折角テスラドライブなんて積んでるんだ。宇宙並に自在に動いて、贅沢言えば亜音速を維持して照準を絞らせずに射撃してりゃその内当たる。」

 「その割に命中率が8割超えですけど…。」

 「その点はオレの腕前だな。」

 「ア、ハイ。」

 

 やっぱコイツ常人じゃねぇと周囲から畏敬の念を覚えられつつ、テンザンは更に突っ込んだ話をする。

 

 「つっても、これはあくまでリオン同士の戦闘だからな。今後は新型も出るだろうし、それによっては多少変わってくるだろう。」

 

 とは言え、これは運用データの蓄積が成されれば、その内ある程度はマシになる。

 だが、ガーリオンと違って、元々リオンは射撃戦重視なので当然と言えば当然なのだが。

 その辺りをある程度改善したタイプVでも、蹴りなんざしようものなら脚部が捥げるので、ガーリオンの配備を気長に待つべきだろう、というのがテンザンの意見だった。

 

 「んー、それで集団戦するにはどうしたら良いんですか?」

 「接敵したら散開しつつ連携しながら射撃だな。最低でもツーマンセルは崩さずにな。」

 

 音速域に近い戦闘速度を保ちつつ、的にならない様に散りながらも連携を行う。

 言うのは簡単だが、全く未知の領域の戦闘に、流石に困惑した空気が流れる。

 

 「そこまでする必要ってあるんですか?」

 「何れ連邦だってこっちの機体の鹵獲なり残骸なりからテスラ・ドライブに行きつく。或はテスラ研辺りを接収するかもな。そうすりゃこっちのアドバンテージは一気に減る。」

 

 その言葉に、分かっていても嫌な空気が流れる。

 誰だって、聞かなければならないとは言え、景気の悪い話は聞きたくないものだ。

 

 「そん時になってから慌ててちゃ遅すぎる。世界を相手に喧嘩を売って、その果てにこの星を守るんなら、その程度の事は当然出来なくちゃいけねぇ。」

 

 そう言うテンザンの目には物騒な光が宿っている。

 どうやら彼は彼なりにこの世界への愛着があるらしい。

 

 「テンザンさんは真面目ですねぇ。」

 「そりゃな。折角ロボに乗せてもらってんだ。その分程度は働くさ。」

 

 ムシャムシャと野菜炒めを食べるテンザンを、リョウトは優し気な目で眺めていた。

 

 

 ……………

 

 

 「行くぞ。奴の機動データも参考にしながら、対テスラ・ドライブ搭載機戦術を構築する。」

 

 テンペスト中佐が部下達を引き連れて食堂を後にする。

 新戦術・新概念の発見と構築、その対処法の考案は嘗て教導隊に所属していた彼にとっては十八番でもある。

 それを彼よりも二回りは年下の青年に指摘されたのだ。

 公人としても、私人としても、それに対応せざるを得ない。

 

 (成程、総帥の気まぐれかと思えば…目が眩んでいたのは私だったか。)

 

 妻子を殺されてからは、復讐だけが全てだった。

 それ以外はどうでも良かった。

 一人でも多く、少しでも長く、妻子を奪った地球連合に復讐し続ける。

 それで思考の幅が狭まっていなかったかと言えば嘘になる。

 しかし、確かに育っている若い世代からの意見を汲まぬ程、テンペストは耄碌していなかった。

 

 (テスラ・ドライブ搭載機故の新戦術・新概念。今後地球全土に普及するだろうテスラ・ドライブの事を考えれば、必ず必要になる。)

 

 復讐のためにも、DCの掲げる地球守護の大義のためにも、それは確かに必要となる力だった。

 それを悟って早々に、テンペストは部下達を連れ、すべき事をしにまたシミュレーター室へと足を向けた。

 こうして、テンペスト・ホーカーは史実よりも少しだけ前向きになったのだった。

 

 

 

 




正直、テンペスト中佐はもう少しスポット当たっても良いと思う。
後、航空機由来だからって、あんな直線機動してたら、宇宙世紀だとバカスカ墜とされると思う。>リオン

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