徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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転生モーさんが逝く 2

 キャメロットの騎士のお仕事は割と単純である。

 1、領内の治安維持。

 2、戦時での出撃。

 3、災害時の救助活動

 お仕事にすればこれである。

 が、功績や地位に見合った他の役職の兼務や与えられた領地の運営等もあるため、一概に楽とは言えない。

 また、モーさんの場合はまだ入ったばかりと言う事もあり、治安維持のための警邏で顔見せも兼ねてあちこちに盥回しにされる事となる。

 まぁ何時の世も新入りは何がしかの洗礼を受けると言うのは変わらないと言う事だろう。

 とは言え、戦時下である。

 他の地域から流れてきた(とはとても思えない)蛮族達への対応で、そんな穏やかな任務の日々は即座に打ち切られた。

 来る日も来る日も蛮族蛮族蛮族また蛮族。

 突如始まった蛮族の大侵攻。

 終わりのない攻勢は一月近く続き、その結果として兵士達は戦力にならぬ程に疲労困憊となり、騎士達も円卓とそれに類する一部の手練れ以外は軒並みダウンしていた。

 

 「あー怠いー。」

 

 が、モーさんは割と元気だった。

 何せこのモーさん、素の耐久力が日中三倍のガウェインと互角な上、鎧による再生能力を持っている。

 そのため、この様な状況での継戦能力においては、鞘と聖剣を持つ騎士王の次に秀でているのだ。

 だがしかし、素早さに関しては普段のガウェインの半分以下しかない。

 その上、現在は機動性を補佐するための馬型使い魔が想定以上の酷使によって遂に破損し、実家にメンテナンスに出しているため、疲労困憊で後方に下がった騎士達と物資集積所の防衛に当たるしかないのだが。

 

 「しゃーない。馬以外の礼装でも作ってみよ。」

 

 以前から思っていたのだ、馬だと扱いづらい、と。

 こちらは自動車全盛の時代を生きた転生者。

 馬の扱いなんてさっぱりなのだ。

 無論、我が母モルガンの指導の下、そこらの騎士以上に修める事は出来たが、キャメロットの中でもそう上手いと言う訳ではない。

 なので、ここらで自分向けの移動用礼装を作るべきだろう。

 勿論、母上の作ってくれた馬型使い魔に文句はないが、やはり手段は多いに越した事は無い。

 しかも、今回は材料もある。

 蛮族達の血肉と武器の数々だ。

 あの蛮族達はブリテンに飛来するだけあって、神秘の多い土地でしか生きられないらしい。

 そのため、世界の後押しもあって、神秘の最後に残る地であるブリテンへと襲来してくるのだ。

 そんな性質もあって、蛮族達の血肉は下位の幻想種並には素材として優秀だったりする。

 

 「これをこーして……あ、車輪どうしよ。ゴムなんてないし、うーん…。」

 

 ゴムの様な性質を持った素材でないと、衝撃を吸収し切れない。

 無論、バネの様なパーツは作れたので、サスペンションとかは問題ないのだが。

 

 「あ、そうだ。タイヤじゃなくてホバーなら良いんだ。」

 

 そこで発想の転換である。

 タイヤが作れない?

 じゃぁタイヤの要らない乗り物にすれば良いじゃないかHAHAHA!

 

 「よし、構想は完全に出来た。後は作るのみ!」

 

 なお、周囲の兵士や騎士達は気味悪がって遠巻きにしていたりする。

 

 「おや、面白そうな事をしているね?」

 

 そこに、ブリテンの屑オブ屑、昆虫系半夢魔が興味津々な様子で現れた。

 

 

 ……………

 

 

 「ガウェイン!間もなく日没だ!突出するな!」

 「いえ、出来ません!」

 

 騎士王の指示に、しかしガウェインは下がらない。

 否、下がれない。

 

 「ここで私が下がれば不利です!どうかこのままで!」

 

 毎度ながら呆れる程の物量を持つ蛮族に対し、騎士王率いるブリテン勢は聖剣等の対軍・対城宝具の真名解放の後の騎兵突撃により、現状はどうにか数の利が活かし切れない乱戦へと縺れ込ませる事に成功している。

 しかし、既に一ヵ月近い戦いにより騎士も兵士も疲弊し、今では円卓の中からも戦闘不能で後方に下げる者まで出ている。

 辛うじて円卓でも屈指の戦闘能力を持つガウェインやランスロット、ぺレノア王等の活躍により、致命的な士気崩壊こそ起きていないが、このままではもたない。

 特にガウェインの担当する戦域は圧されており、彼が引けばそこを起点に他の戦域も崩壊するだろう。

 

 (後一手、後一手あれば…!)

 

 そう思う騎士王だが、それは出来ない。

 彼女の方も宝具の真名解放が出来ない程に圧されており、不死身を生かして薙ぎ払おうにも近くや射線上の味方を巻き込んでしまう。

 

 「ヒャッハー!!」

 

 そこに、この戦場のダークホースが現れた。

 

 「な、モードレッド卿!?」

 

 奇妙な乗り物、足も車輪もなく、浮遊して移動する絡繰り仕掛けに騎乗して、特徴的な兜を被った騎士が不意を打つ形で蛮族の集団を絡繰りの先頭についた衝角で弾き飛ばしていく。

 

 「ハッハー!蛮族風情がブリテンを荒らしてんじゃねぇぇぇ!!」

 

 更に、魔力放出(雷)を生かして近づく蛮族の戦士達を寄せ付けない。

 また、弓矢や弩、投石器による遠距離攻撃も、頑丈過ぎる鎧によって空しく弾かれていく。

 何とか物量によって圧していた蛮族達もこれには動揺し、急ぎモードレッドを排除しようとする……が、その殆どは先程の二の舞とばかりに轢かれていく。

 そこにこれ以上はさせじと蛮族達の中でも特に大柄な戦士がモードレッドの進路上に躍り出る。

 全身を重厚な筋肉に覆われた戦士は、明らかに他の蛮族とは異なる。

 

 「…面白いッ!」

 

 良い度胸だと言う様に、モードレッドはホバーバイク型礼装に更に魔力を注ぎ込み、限界まで加速を命じた。

 

 「ガアアアアアッ!!」

 ゴガッシャ―ンッ!!

 

 盛大な衝突音と叫び声と共に、蛮族とホバーバイクに乗ったモードレッドが衝突する。

 だが、先程の様な結果とはならなかった。

 ホバーバイクの衝角を両手で受け止め、地面に二本の削られた跡を刻みながら、それでも大柄な蛮族はホバーバイクの突撃に耐えているのだ。

 

 「ツ・カ・マ・エ…!」

 「私が、お前をな。」

 

 だが、両手が塞がり、動きの止まった蛮族に容赦する様な騎士はブリテンにいない。

 バリリと、肩に背負った剣が赤雷を纏う。

 よく見れば、その剣は片側が開いた奇妙な鞘に納められており、鞘自体にも赤雷が奔っている。

 

 「磁装・蒐窮(エンチャント・エンディング)。」

 

 ブリテンでは誰も見た事のない、剣を鞘に納めた状態からの剣技。

 

 「蒐窮開闢(終わりを始める)。」

 

 それに魔力放出と魔術によって再現された電磁誘導。

 

 「終焉執行(死を行う)。」

 

 鞘を銃身に、剣身を弾丸に見立て、再現された電磁誘導によって剣身を加速させ、高速で抜刀する。

 

 「虚無発現(空を現わす)。」

 

 電磁誘導により超音速域に到達する剣身を剣撃と完全に同期させる事で、初めて実現する対人魔剣の一つ。

 その名も…

 

 「電磁抜刀―――禍。」

 

 災いの名を持つ超音速の赤雷を纏う斬撃は、一刀の下に蛮族の戦士を両断した。

 だが、ここでモードレッドの動きは完全に停止、更に周囲へと放出していた赤雷も止まっていた。

 

 「コロセ!コロセェェェ!」

 「ギギギギギ!」

 

 そこに殺到するのは一山幾らもしない蛮族達。

 足の止まった騎兵等、雑兵に狩られる的でしかない。

 だが、そんなものはモードレッドとて承知している。

 

 「緊急脱出!」

 

 その言葉と共に、蛮族の刃が届く寸前、モードレッドはホバーバイクから、直上へと空高く「座席」ごと射出された。

 それを蛮族だけでなく他の騎士達までもが「えええええええええええええ!?!?!?!!」と驚愕の叫びを上げながら見上げる。

 

 「そして自爆!」

 

 次の瞬間、殺到していた蛮族を道連れに、ホバーバイクは盛大に爆発した。

 

 「よっと!」

 

 蛮族達が爆発で盛大に動揺する中、今度はその中心へと着地すると、モードレッドは大きく声を張り上げた。

 

 「我が名はモードレッド!キャメロットの騎士が一人!さぁ我が首を獲らんとする者はいないのか!!」

 

 そして、先程の復讐とばかりに、再度蛮族達が殺到する。

 今度は妙な乗り物も魔術も使ってない。

 小柄な騎士一人、この人数ならどうとでもなる。

 そんな思いと共に、蛮族達はそれぞれの得物を手に取り、兜の騎士へと我先に向かっていき、刃を突き出した。

 だが…

 

 「すまん。効かんわ。」

 

 カキーンと、安っぽい音と共に、蛮族達の持つあらゆる武器は弾かれた。

 モードレッドの鎧兜を合わせた耐久力、ランクにすれば実にA+。

 また、そんな頑丈過ぎる鎧兜を駆動させる筋力もまた、ランクにして同じくA+。

 世界で最も有名な怪物の一つたるミノタウロスもといアステリオスとも正面から殴り合えるステータスである。

 如何に蛮族達と言えど、正面からそれを突破するには余りに酷だった。

 

 「でりゃあああああ!!」

 

 お返しとばかり今度はバッコーン!と冗談の様に一撃で蛮族達が吹き飛ばされ、その陣形が大きく乱された上に、先程までの勢いが急速に萎んでいく。

 その分、敏捷性に関しては「あ(察し)」レベルなのだが、敵の密集地帯ならば何の問題も無い。

 

 「さぁ来い!」

 

 そして、味方の只中にいる特記戦力を前にして、如何に蛮族と言えど動揺は免れない。

 モードレッドに引き寄せられた分、他の戦域の密度は下がり、徐々に戦況が逆転していく。

 これが本来のモードレッドならもっと機動性を生かして遊撃するのだろうが、生憎とこの転生モーさんにそんな常識的なスペックは無い。

 兎に角硬くて強いんだから、取り敢えず殴れるだけ殴ろう。

 なーに多少の負傷や疲れは鎧が癒してくれるさHAHAHAHAHA!

 と言う感じで互いに揉みくちゃになりながら乱戦に次ぐ乱戦を繰り広げたのだ。

 だが、これが結果的に囮の役割と果たし、各戦域は盛り返し、最終的に魔力放出でモードレッドが離脱したと同時に再度対軍・対城宝具の一斉解放による掃討によって、今回の大規模侵攻は終息した。

 この時の戦果により、モードレッドは目出度く円卓の騎士に叙される事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さてモードレッド卿、何故持ち場を離れたのですか?」プチオコ

 「えっと、その…マーリン卿が『此処は僕が担当するから、君は王達の応援に向かうと良い』って…。」

 「……アグラヴェイン、あいつは何処に?」頭痛を堪えつつ

 「つい先程『じゃ、仕事終わったから、僕は花街に行ってくるね☆』と言って消えました。」

 「…………。」怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒

 (こ、怖い。王様が本気で怒ってる…!)

 

 が、それはそれとして、論功行賞の場では、モードレッドの独断専行(と言う名のマーリンのやらかし)はしっかりと釘を刺される事となった。

 

 

 

 


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