徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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ふぅ…やはりストレスをぶつけるにはSS書くのに限る


転生モーさんが逝く3

 先の大侵攻の論功行賞の結果、モードレッド卿は円卓の騎士に加えられた上、領土を与えられた。

 モードレッド個人としては円卓に加えられた事もあり、母に胸を張って報告できると思っていたのだが…与えられた領地が予想以上に問題だった。

 何とその領土、以前の蛮族の侵攻によりペンペン草も生えない状態にまで荒廃していたのだ。

 無論、領民も全滅か逃散して0である。

 そして、本来なら与えられる部下も多くの者が拒否したため、騎士(知識を持った軍人・貴族階級)は0と言う目も当てられない状態だった。

 辛うじてモードレッド個人に助けられたり、他に行き場のない兵士達なんかが一緒に来る事になったが、早くも領地経営には暗雲がかかっていた。

 

 「よろしい。ならば私に任せなさい。」

 

 その情報を聞くや否や、半ば以上キレたモルガンが本気を出した。

 具体的には、彼女に仕える従者や家来たちの中から魔術も使える人材を選出し、モルガンの与えた礼装や魔術により、限定的なものだが領地の緑化に成功し、大麦やライ麦、蕎麦と言った荒廃に強い救荒作物の栽培に成功したのだ。

 流石はブリテン古来よりの地母神の系譜にして優れた魔術師である。

 そして、ある程度生育環境を整えたのならば、後はマンパワーである。

 幸いにも、元は単なる農民だった兵士達なので農作業には慣れている。

 また、土が肥えて常識的に生育する作物があるのなら、実らない道理はない。

 こうして、長期的に見て、何とか領地だけでも喰っていける土壌は出来たのだった。

 とは言え、短期的にはやはり慢性的な食料不足のブリテンで、更に酷い場所だけあって、木の根すらない。

 

 「よし、何か見つけてくるか。」

 

 こういうや否や、モードレッドは三日ほど姿を消し、周囲を大変に慌てさせた。

 そして、戻って早々に母モルガンの下に赴き、彼女を仰天させる事となる。

 

 「貴方…これで何処で見つけてきたの!?」

 「いや、世界の裏側って少し捲れば行けるって聞いたから…。」

 

 どんな確率か、或は神代最後の地である影響か、モードレッドは食料探しに世界の裏側、幻想種の住まう神代へと行っていたらしい。

 その時に見聞きしたものはモルガンのみが知り、口外を禁止されたため、誰も知る事は無いが、それ以後モードレッドは三日に一度程度の割合で姿を消し、狩ってきた巨大な鹿や見た事の無い馬とも象とも付かない獣等の肉を兵達やモルガンが派遣してきた従者達と共に分け合い、作物が収穫されるまでの間の飢えを満たす事に成功した。

 さて、何とか軌道に乗った領地経営の他にも、地方領主となったモードレッドの仕事はある。

 だが、書類関係に関してはそもそも本人が苦手だし、余所と交易できる様な生産物もまだ無いし、観光地とかも無いので、内政関係の仕事はほぼ無い。

 故に、仕事は食料関係の他には領地防衛及びキャメロット関係しかない。

 とは言え、今は小規模な蛮族の襲撃が時折ある程度の小康状態なので、キャメロットへの直々の呼び出しは少ない。

 まぁモードレッド本人も用も無いのにキャメロットに長居する質でもなければ、態々自分を嫌っている他の騎士達の所にいるつもりも無いので、呼ばれない限りは外様らしく領地にいるのだが。

 それは兎も角として、モードレッドの主な仕事は領地防衛&治安維持である。 

 しかし、蛮族一人は通常の兵士五人分の戦力を持ち、小規模でも100を余裕で超えている上、村々を襲う場合は根こそぎ殺して奪うので、見つけたら絶対に殺す必要がある。

 お前らもう少しローマに集りにいった騎馬民族を見習えと言いたいが、それはさて置き。

 問題なのは兵達の機動性である。

 度々騎士王が軍を動員する度に食料を徴発して干上がらせたり、襲われている村を見捨てたりとしているが、そんな事が必要な程にブリテンは貧しいし、軍を動かすには時間と費用がかかるのだ。

 この問題はモードレッドにも当然圧し掛かるのだが…

 

 「よし。なら兵達を早く動けるようにしよう。」

 

 お綺麗な騎士王とは違うのだよ!(モルガン並感)

 と言う訳で、以前自分がでっち上げた魔術式ホバーバイク礼装を再設計、母の最終チェックを経た後に、遂にそれの量産化に着手した。

 何せ材料は戦場跡を探せば幾らでも転がっているし、次から次へと新しいのがやってくるのだ。

 材料の供給と言う点では、これ以上無い程に恵まれていた。

 そして、一台完成する毎に兵士達に運転方法を教えていく。

 最初はおっかなびっくりだったものの、取り敢えず寝起きしている領主の館兼宿舎(放棄された砦の改装品。防衛拠点としては及第点)から畑へと移動するのに随分楽かつ荷物も積めると分かると、使い出す者が増えていき、次々と運転方法を覚える者が出始めた。

 兵達全員に行き渡る頃には既に皆運転を覚えており、農作業から戦場への出撃、そして戦闘においても積極的に使用されるようになっていた。

 何せタイヤ式と違って地面の凹凸に影響されず、常にスムーズな乗り心地が約束され、かつ馬力も大気に漂う神秘=真エーテル及び乗り手の魔力を使用しているため、馬と違って飼い葉要らずで一度乗り方を覚えれば簡単だ。

 更に言えば、タイヤの様な摩耗しやすいパーツも使っていないため、整備は基本的に普通の乗用車並みにメンテフリーだったりする。

 流石蛮族(の鎧兜)製、ものが違うぜ!

 そんなこんなで、割とモードレッドの領地経営は上手くいっていたのだった。

 

 「ふむ、やはり早いな。此処は一つ、手を打ってみるか。」

 

 だが、好事魔多し。

 その様子を、花の魔術師は千里眼で仔細に渡り視ていた。

 ブリテンの繁栄、キャメロットに集った栄光の騎士王と騎士達。

 人類史と言う名のキャンバスに描かれた美しい模様をより長く見るためにも、マーリンとしてはそれを終わらせる定めにあるモードレッドとモルガン、そしてランスロットは邪魔者でしかない。

 無論、彼彼女らにも人理における役割と言うものがあるので簡単に排除したりはしないが、代わりの役目を持つモノが見つかれば、あっさりとそれは覆るし、余りにオイタが過ぎれば相応の対処をする事となる。

 そして、今回モードレッド達が行った事は、彼に多少の行動をさせるには十分だった。

 決して排除する訳ではない。

 国外、故国であるフランスに領地を持つランスロットを除き、普通の領地よりも栄えているから、相応に増税しようと王に進言するだけだ。

 だが、軽くない負担を経営の始まったばかりの領地に早々に課すと言う事は、含むものがあると思われてもおかしくはない。

 別にそれで良い。

 その程度の事で早々に馬脚を現わす程度なら、その時が来るまで上手く遣り過ごせるだろうと言う考えもあった。

 しかし、千里眼保持者であっても、時にはポカを冒す。

 具体的に言うと、マーリンは進言をした後、モードレッドらの様子を見る事を怠った。

 例え最高峰の千里眼保持者と言えど、否、だからこそ能力のオンオフが効く。

 故に、見る事を怠った場合のリスクは大きい。

 千里眼による確定を止めた、人類史上の不確定な領域。

 無論、他の千里眼保持者が視てしまえば確定するのだが、幸か不幸、この時のみ、他の千里眼保持者達も偶然視線を他に向けていたのだ。

 そのため、事の次第を知ったマーリンは久々に本気で驚く事となる。

 

 モードレッドの領地にいる兵士達、彼らがブリテンを襲う蛮族を超えた蛮族、即ちスーパー蛮族に成長した事を。

 

 

 ……………

 

 

 時は少し巻き戻って未だ領地が食料難の頃、モードレッドは書物を紐解いたりしながら、何とか食料を工面できないか悩んでいた。

 が、お綺麗な騎士王様が鞘が無ければ確実にストレスで心を病んだり禿げたりしそうな程悩んでも解決できない問題を、転生者とは言えモードレッドが一朝一夕で解決できる訳が無い。

 

 「となると、やっぱ他から持ってくるしかないよなぁ。」

 

 現状、ブリテンの民が辛うじて餓死していないのはランスロット卿の領地から食料を輸入しているからだ。

 ローマ?内乱&内紛&内輪もめの果てに分裂して、それでもなお揉めてて使えないので、元植民地である筈のブリテンから逆侵攻受ける程度には弱体化しているので食料の輸入先としては敵国でもあるので無理だったりする。

 まぁそれでも流石はローマと言うべきか、この時代にしては驚く程の秩序を保っているのだが。

 だが、それも所詮は小康状態と言うだけで、それはブリテンも同様だ。

 遠からず、破滅の時は来るだろう。

 

 「そーいえば、ブリテンが滅ぶのはここが神代最後の地だからだっけ。」

 

 世界から神秘が急速に失われ、単なる物理法則の方が幅を利かせるようになる。

 今はその過渡期、その終わりの頃に当たる。

 これは星そのものの新陳代謝の様なもので、ブリテン島は最後に残った日焼けの皮みたいなものだ。

 それを無理矢理聖槍ロンゴミニアドで縫い止めている様なもので、多少時を稼いだ所で滅びる定めは覆す事は出来ない。

 それこそ世界を滅ぼすつもりでやらなければ、ブリテンは滅び去るだろう。

 

 「ま、そんな真似しないけどな。」

 

 正直、興味が無い。

 万物は何れ滅びる。

 故にこそ生死を尊ぶ事が出来るし、永遠に生きた所で待つのは魂の腐敗であり、そうなる前にスパッと終わらせたい。

 転生者故にモードレッドの死生観はさっぱりとしたものだった。

 

 「あれ?そう言えば、聖槍で隔てた向こう側って、幻想種とかが沢山いるんだよな?」

 

 具体的に言うと、神秘の満ちる幻想側の世界は要はウルクの様なものだと考えれば良い。

 神々やそれに勝る魔獣等が跳梁跋扈し、人々を頻繁に脅かし、安心して暮らす事もままならない。

 そこまでのものではないにしろ、それでも人類よりも遥かに強大な幻想種が多数、普通の動物の様に生息しているのだ。

 具体的には、真正の竜種と言われる(には成り立ちから疑問符が付く)ファヴニール級の竜種がちょっと人里離れた森で探せば見つかる程度と言えばどれ程狂ってるか分かるだろうか?

 近い世界があるとすれば、それこそモン〇ンみたいな世界しかない。

 で、この幻想側の世界だが、通常の物理法則世界からテクスチャ(表面の模様等)を一枚剥がせばすぐそこに存在すると言う。

 即ち、間違いなくブリテンよりも肥沃な自然環境が割とすぐ傍にあると言う事になる。

 

 「よし、行ってみよう。」

 

 運が良ければ、何がしかの食糧が見つかるだろう。

 危険性とかもっとよく考えろと言いたいが、決意してからの行動は早かった。

 フル装備に身を固め、母の寄越してくれた従者たちに一声かけてから、人目の付かない場所で煩雑かつ制御の難しい空間干渉系の魔術で色々と試行錯誤していく。

 はっきり言って徒労となる可能性の方が大きいが、何もしないよりはマシだろう。

 そんな考えで色々弄り回していた時の事だった。

 

 「あ、やべ、ミスった。」

 

 ついうっかり。

 本当に初歩的かつ些細なミス。

 だが、この時代のブリテン島と言う神秘的に不安定な環境で空間干渉系魔術の失敗は、極めて危険だった。

 

 「う、わ!?」

 

 パタンと、まるで空間が隠し扉の様にひっくり返り、モードレッドを向こう側へと引きずり込んだのだ。

 これがモードレッドが三日もの間、誰にも気づかれずに行方を眩ませる事の出来た真相だった。

 こうして、偶発的に幻想世界へと渡る術を見つけたモードレッドは三日に一度程度の割合で、食糧確保のために渡航もとい渡界するようになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うわぁ、でっかいドラゴンなりぃ…。」

 「Grrrrr……!」

 

 初遭遇した現地生物は大型の竜種だった模様。

 

 「ドラゴンの肉、獲ったどー!」

 

 そして、初狩りした現地生物もその竜種でした。

 なお、竜種の血を浴びた上にその肉を喰らったためか、原典よりもやや低かった魔力がスキル:竜の心臓により劇的に上昇する結果となった。

 

 

 

 


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