徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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転生モーさんが逝く4

 何とか栽培に成功した穀物類の全てを増税によってキャメロットへと納める事となったモードレッド以下兵士達だが…当然と言えば当然だが激怒した。

 兵士達の中には、元々騎士王の政策でそれしか手が無いとは言え、故郷である村や町を切り捨てられた者、或は徴発による飢饉で全滅した者が多くいた事もあり、この行動に本気で怒りを燃やしていた。

 それと同じ位モルガンもまた妖艶な笑みを浮かべてマジギレしており、キャメロットを騒乱に陥らせる様な騒ぎの種を早速ばら撒いていた。

 そして、我らがモーさんはと言うと…

 

 「まー、当然だよな。」

 

 騎士王達からすれば、モルガンと仲の深すぎるモードレッドとその麾下の兵士達(殆どは身寄りの無い者か騎士王に恨みを持つ者)が一致団結し、ブリテンに勢力を築くとか面倒くさ過ぎる展開はごめんなのだ。

 何とかヴォーティガーンを討ってブリテン島を統一し、喧嘩を売ってくるローマを殴り、襲い来る蛮族に手を焼きながら対処しているのが今のブリテンだ。

 更に慢性的な飢饉、滅亡の確定された未来、終わりの見えない戦乱と、亡国フラグが林立している状況で、それがもう一つ増える様な事はあってはならない。

 そんな事せずに普通にコミュして厚遇でもすれば芽は潰えるのだが、そんな余裕は騎士王とその義兄、後マスター・アグラヴェインには無く、唯一それを出来る余裕と視点を持つ半夢魔はやる気が無い。

 そもそも食料が慢性的に不足しているので、ある所から持っていくのは当然と言えば当然なのだが。

 と言う訳で、モードレッド個人としてはそこまで恨みは無いものの、それでも立場上良い顔が出来ないのだった。

 

 「ま、食糧はまた取ってくれば良いし、うじうじしないで頑張ろう!」

 「「「「「うーすっ!!」」」」」

 

 穀物が無ければ肉を食べれば良いじゃない。

 そんな感じで、今まで三日置きだった世界の裏側での狩猟を、モードレッドは二日に一回に増やした。

 また、一度当たりに獲ってくる獲物の量も多くなり、少々だが他の素材(Not食料)等も入手し、モルガンを始めとした魔術師らを狂喜させた。

 

 「もーこの子ったら!これ以上私の好感度を稼いでどうするつもりなのかしら!」

 

 流石うちの子は違うわね!と大喜びしているが、他の子供達は眼中にない辺り、この人も大概である。

 さて、モードレッド自身はと言うと……何か妙な事になっていた。

 ファヴニールを討伐したジークフリートは悪竜の血を浴びた事により身体が鋼鉄よりも硬くなり、更に鳥や獣の言語を理解できるようになったと言う。

 では、元々龍種の因子を持ったホムンクルスたるモードレッドが竜種を殺し、その血を浴び、血肉を喰らった場合、どうなるのだろうか?

 結果として、モードレッドは大幅に強化された。

 鎧と合わせての防御力はジークフリート同様になり、生身であっても今までの鎧と同等。そして、あらゆる鳥獣の言葉を理解できるようになった。

 そして、今までは機能していなかった竜の心臓が稼働を開始、騎士王よりも劣っていた魔力面の不備が此処に来て同格になったのだ。

 だが、それはあくまで最初の一頭の結果に過ぎない。

 モードレッドは二日置きに世界の裏側でのリアルモンハン的狩猟を行う際、必ずドラゴンを狩り、その血肉をその場で焼いて喰らい、その血肉の匂いで集まった他の幻想種を狩って持ち帰っていた。

 即ち、ほぼ毎回一頭の竜種、それも最も栄養価と魔力が籠った内臓を好んで食べていた。

 と言うのも、臓物は狩人だけが食べられる栄養豊富かつ傷みやすい部位である事を知っていたので、母や部下達の分を多くするためにも、内臓のみを多く食べていたのだが。

 毎回粗塩と香草を振り掛け、ウェルダンになるまで焚火で焼く頃には、程好く他の獲物がやってくるので、時間の有効活用でもあったりする。

 で、そんなしょっちゅう竜種の肉を喰うとか魔術師なら卒倒する様な事をしていたモードレッドだが……

 

 何故か肉体が急成長していた。

 

 年の頃、十代半ばか、下手すると前半に見られていた身体(それでも実年齢よりも上)が、なんと十代後半程度にまで成長していったのだ。

 なお、バストサイズもアップしたが、母モルガンの様な豊満なそれではなく、並サイズの美乳だった。

 ホムンクルス故に早熟=短命であるとは言え、流石にこの成長スピードはおかしいと思ったモードレッドは、急遽モルガンの邸宅に戻り、診察してもらった。

 結果、体内で竜の因子が急激に活性化したため、肉体が全盛期目掛けて急成長したとの事だった。

 これは、モードレッドが竜種を食べ過ぎたことによる因子の活性化、そして肉体の神代への適応によるものだった。

 ブリテン人は消えゆく神代最後の地に住まうだけあって、真エーテルに対して高い耐性を持つが、それは正真正銘の神代の人間のものに比べれば低い位だ。

 故に、普通のブリテンの民が世界の裏側にいった場合、そのまま適応できずに衰弱死するだろう。

 現代人?普通の魚が深海で生きられるとでも?

 しかし、竜の因子を持つ騎士王やモードレッドは例外としてそのまま生活できる。

 だが、それはあくまで生活できると言う範囲で、決して竜種の肉を常食するなんて非常識な真似をしてもOKと言う訳ではない。

 そんな無茶振りにモードレッドの肉体、正確には大量に蓄えられた竜の因子は応えてみせたのだ。

 この成長により単純なスペックの向上のみならず、神秘的な面においても貯蓄量が大幅に上がり、より竜種に近づいたと言える。

 

 「わぁ、母上に似てきましたね!」

 「えぇえぇ、本当に私に似て可愛らしいわ!これならどんな男でも振り向くわよ!あ、でもキャメロットにはロクデナシばっかりだからダメね。」

 「そうだ、母上。鎧や服を新調しないと。もうサイズが合わなくて…。」

 「服の方は仕立て屋に任せるとして…鎧の方はもう一から作っちゃいましょうか?」

 

 モードレッドの鎧、持ち主の傷を癒す超頑丈かつ重量も凄まじいこの一品は元々前の体格のモードレッドに合わせたもの。

 現在の手足がスラリと延びた活発さを感じさせる美少女となったモードレッドにはどうやってもサイズが合わなかった。

 

 「母上、この図面見てくれます?」

 「あら、これは……へぇ……新造するんじゃなくて作り直すのね?」

 「今の鎧は竜の血を何度も浴びて頑丈になってますから、放置するのも勿体ないじゃないですか。だから打ち延ばして主装甲部分に使って、他の部位はもっと軽めの鱗状装甲にしようと思うんです。」

 「ちなみに素材は?」

 「竜の鱗!他諸々です!」

 (世の魔術師が見たら発狂するわね…。)

 

 モードレッドの鎧、それは持ち主同様幾度も龍種の血を浴び、対竜特防とも言える特性を獲得していた。

 また、モルガンが施していた癒しの力も強化され、鞘程の出鱈目ぶりではないとは言え、鎧の一部を持っているだけで傷が癒え、更に鎧そのものにも弱いながらも自己修復機能を獲得していた。

 

 「あ、剣は新調しましょう。ほぼ毎日使い捨ててますし。」

 

 最初に使っていた騎士王から叙勲式で授けられた騎士剣は、基本的に使わずに執務室で飾られている。

 今現在使っているのは蛮族の使用するそれをある程度鍛え直しただけのもので、モードレッドの膂力で龍種を始めとした幻想種の肉へと振られると、一時間もせぬ内に折れてしまうのだ。

 そのため、聖剣クラスとは言わないが、頑丈な武器が欲しかった。

 

 「そちらの方は私が考えておくから、今は鎧に専念しましょうか。」

 「はい、母上にお任せします!」

 

 そして、鎧の再設計へと入った。

 正確な採寸と図面を作成した後、今までの鎧を打ち直して各パーツへと成形、更に合間に入れる鱗状装甲や内当て等の作成に入っていく。

 

 「…やっぱり角は嫌?」

 「頭重いからやです。」

 「そう…。」

 「だから軽くて頑丈なのにしましょう。」

 「!」

 

 「うーん…私の身体が丈夫過ぎて、鎧の意味があんまり無い…。」

 「モードレッド、逆に考えるのよ。防具以外の用途を加えれば良いって。」

 「!」

 

 「これ、劣化品でも良いからある程度量産できませんかね?」

 「部下達に配るの?」

 「えぇ、行く行くは世界の裏側に皆で行けるようになったら良いなと思うんですよ。向こうに逃げ込めば誰も追って来れないし。」

 「!」

 

 こうしてMAD過ぎる母子の魔改造により、唯でさえオーバースペック気味だった鎧は新たにものごっつい宝具として生まれ変わった。

 

 「完成です!これは後の時代にまで語り継がれる事間違いなしです!」

 「えぇえぇ!これならのあのキャメロットのロクデナシ共も驚くでしょうね!」

 「ふふふふふふ!領地に戻ったらこれで早速蛮族退治&神代ハンティングです!」

 「貴方が嬉しそうで良かったわ…でも…。」

 「はい?」

 「先ずは寝ましょう…。」

 「はい…。」

 

 さて、MADな母子の手によって生まれ変わった鎧、その名も「竜達の骸鎧(アーマー・オブ・ダイナソー)」は……はっきり言っておかしかった。

 サイズこそ変わっているが、全身を以前と同じく白銀の地金を持つ装甲で覆い、そこに主の再生や自己修復の付与魔術をかけられているのは同じだ。

 オリックスの様な捩じれた細い角が額の辺りから正面に向けて生えているのが正面から見た際の一番の違いだろう。

 背面から見ると、そこには妙な箱型のユニットが付いており、それから横に伸びる様にマントの様な板状の装甲が延びている。

 また、一見分かり難いが、スカート状のサイドアーマーの内側には背面のユニットを小型化したものが内蔵されている。

 この時点で分かる人もいるだろうが、敢えて説明すると……この鎧、鎧?は飛べるのだ。

 元はホバーバイク(材料:蛮族)の機能を持たせようとしたのだが、「それよりも飛びましょう。そっちの方が早いから。」と言うモードレットの我が儘により、ホバー機能を発展させた魔力式ジェット噴射機構(大気中・使用者の魔力・真エーテルを吸収した後に術式を通して推進力へと変換)の実用化、そして安定翼及び予備の小型エンジンの搭載により、今まで魔力放出で無理矢理カッ飛んでいたのに対し、遥かに効率的な高機動化に成功したのだった。

 また、出力の調整により、地表付近をホバー飛行する事も出来る。

 無論、再生や自己修復等の鎧そのものの今までの機能も損なっていない。

 だが、最大の問題が一つある。

 

 「母上…。」

 「何?」

 「兜、私の意思で外したりは…。」

 「ダメよ。悪い虫が付くわ。」

 

 この後、無茶苦茶説得して、何とか許可を捥ぎ取ったモードレッドだった。

 

 

 ……………

 

 

 さて、モードレッドがモルガンの下で装備の更新を行っていた頃、領地では兵士達がホバーバイクと共に額に汗しながら土を耕し、蛮族を狩っていた。

 彼らにとっては最早ルーチンワークの日常だが、それでも飢える事の無い日々を約束されている点に関しては、ブリテンの他の地域よりは遥かにマシだし、治安も(犯罪者がいないと言う意味で)良かった。

 そんな彼らだが、モードレッド程ではないにせよ、多くの幻想種の肉を喰っているため、その身体は徐々にだが神代の環境に対する耐性を身に付けつつあった。

 もしこのままいけば、何の備えもない状態であっても、世界の裏側へと潜り、モードレッドと共に幻想種ハンティングをこなせるようになれるかもしれないが、それはまだ先の事だ。

 

 「兄貴、また蛮族共が現れやした!」

 「何ぃ!?てめぇら、急いで支度しな!三分で出るぞ!」

 「「「「「へい兄貴ぃ!」」」」」

 

 だが、彼らが日々の農作業と蛮族退治、そして栄養(神秘)豊富な食事により、急速に汗の匂いでむせ返る程の体育会系マッチョメン集団になっている事を知る者は、直接の上司であるモードレッドとモルガンの派遣した従者達を除いていない。

 

 

 




モーさんの口調

対モルガン…基本敬語だが、偶に子供っぽくなる。
対部下達…腕白坊主。
対キャメロット…敬語のみ。余計な会話はしない。

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