徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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転生モーさんが逝く6 後書修正

 「ふぅ……。」

 

 領地からキャメロットへの道中、飛行中に積乱雲に遭遇して落雷を受け、鎧が不調を来したためにモードレッドは急いで緊急着陸を行った。

 とは言え、雲の上から地表に突撃して無事なモードレッドなので、命に別状はない。

 ただ、鎧の方が装甲は兎も角、術式の方に若干影響が出たので、少し調整しないと飛行が安定しないが。

 そして、一仕事終えた後、近くにあった湖で汗を流す事にした。

 急げば半日で到着するが、時間はもう夜であり、飛ぶのは夜が明けてからの方が良いと判断し、また術式の調整で集中して作業したら結構汗をかいてしまったので流したかったのだ。

 

 「あ~~お湯に入りた~い。」

 

 前世の様に気軽に熱い湯に入る事は出来ない。

 頑張ればできるが、そこまでの手間をかける位だったら、桶に湯を用意して、浸した布で身体を拭いた方が良い。

 なので、こうして身体を水に浸からせるのは本当に久しぶりだった。

 そんな気を抜いてリラックスしていた時だった。

 不意に、がさりと繁みから音がした。

 

 「!」

 

 咄嗟に近くにあった短剣を手に取り、繁みの中の何者かへと飛び掛かる。

 暗殺者か賊かの判断はつかないが、兜の下の顔を見られたからには記憶消去、最悪は口封じもあり得る。

 だが、繁みの中にいた相手は何の抵抗もせず、モードレッドにされるがままに押し倒され、馬乗りの体勢になった。

 

 「何か言い残す事はあるか?」

 

 視線に乗せた暗示の魔術が効かない事から、かなり高い対魔力の持ち主だと分かる。

 加えて、筋肉の付き方や豊富な魔力からも相当の実力者である事が伺える。

 この場で逃せば、どんな災いになるか分からない。

 酷だが、この場で消す事を決意しながら、最後の問いを投げかける。

 せめて少しでも未練を残さずに逝けるようにとの、彼女なりの配慮だった。

 

 「美しい……。」

 「え…。」

 「貴方は、本当に美しいのだな。」

 

 それが円卓最後にして最高の騎士との出会いであると、この時はまだ知る由も無かった。

 

 

 …………… 

 

 

 蛮族の大規模攻勢は、あの一戦(と言う名の虐殺)から無くなり、ブリテンには漸く平和が訪れた。

 そして、そこからは楽しい楽しい()内政タイムである。

 すると、今まで戦時だからとスルーされてきた処々の問題が浮き彫りとなり、更に問題ばかり起こす騎士と言う職業軍人兼貴族もまた内政を担当する文官達と衝突し、即ちランスロットやトリスタン等の円卓問題外組と内政を担うケイやアグラヴェイン等とそれを慕う者達との対立が深まっていった。

 そんな中、最後の円卓の騎士となる少年がキャメロットへとやって来た。

 その名をギャラハット。

 この世で最も清らかな騎士、そして最高の騎士の称号を持つ数少ない者の一人であり、ランスロット卿の実の息子でもあった。

 

 (荒れてるなぁ。)

 

 兜の中で誰も分からない事を良い事に、モードレッドは溜息を吐いた。

 自分がこのキャメロットへと連れてきた少年が今、この常よりもギスギスした空気に関係しているかと言うと少々複雑な気分になる。

 あの夜、自分の事を綺麗と言った少年を結局殺す事が出来なかった。

 初めて自分に向けられた言葉に面食らい、ついつい殺気が散ってしまったのだ。

 その後は素っ裸である事を思い出し、急いで衣服と鎧を纏い、この場で見聞きした事は他言無用として別れたのだった。

 今思えば、あそこでギャラハットを殺していれば、歴史は不可逆の変化を迎えていただろうが…そんな事をすればどんな揺り戻しが来るかも分からない。

 元よりこんな国と心中するつもりは無いので、適当な所で離脱する予定なのだ。

 この国には是非自分以外の要因によって勝手に滅びて頂きたい。

 何より、今の自分は嘗て母と己一人を心配すれば良かった頃と違い、多くの命を背負っている。

 それは一国の重みとそう大した差は無い。

 少なくとも、己の命を賭けるに値するとは思っている。

 

 だから、そんな縋る様な目をするんじゃない!

 お前の面倒まで見てられないんだよこの覗き魔!

 え、王の命令?マーリンも賛成した?

 そんなー。

 

 と言う訳で、ギャラハッドは王からの課題を熟しつつ、モードレッド預かりとなったのだった。

 

 

 ……………

 

 

 そして、ものの数ヵ月で全ての課題をクリアし、騎士王より「最高の騎士」の称号と最後の円卓の席を与えられ、ギャラハッドは晴れて父親であるランスロットと並んだ。

 しかし、両者の仲は遅々として縮まらなかった。

 まぁ当然だろう。

 認知した場合、あの明らかに精神が向こう側に逝っちゃってる姫ことカーボネックのエレインと結婚する羽目になる。

 それは王妃と不倫関係にあるランスロットとしては絶対に避けたい事態だろう。

 更に言えば、今現在ランスロットはキャメロットにいない。

 王妃に盛大な罵詈雑言を受けて発狂、今現在全裸で森にて野生動物みたいに過ごしており、従兄弟のボールス卿が捕獲に苦労しているらしい。

 その事にギャラハッドはかなり落ち込んだものの、「やる事無いな?無いか。よし、領地に戻って内政するぞ。手伝え。」とモードレッドに首根っこを猫の子の様に掴まれ、領地へと連行されていった。

 

 「あの、モードレッド卿?もしかしてこのまま飛ぶんじゃ…」

 「勿論だ。大丈夫、お前なら行ける行ける頑張れ頑張れやればできるやればできる自分を信じろ私が信じるお前を信じろ。(ワンブレス)」

 「それ絶対ダメな奴じゃないですか!?やっぱり普通に地上から行きましょうよ!僕だけ後から行きますから、飛ぶのはモードレッド卿だけにして」

 「口開くな、舌噛むぞー。」

 

 この様に、世間知らずのお坊ちゃまは順調に世間の荒波に揉まれていきました。

 何とか魔術で空気抵抗を減らし、刻一刻と奪われる体温をモードレッドに抱き着いてその熱を貰う形でどうにか5時間近くの飛行を終えたギャラハッドだが、彼の苦難はこの程度では終わらない。

 

 「領主!食糧の配給が一部で滞ってます!早急に食料の確保を!」

 「よし、レッドショルダー隊はハンティングに行くぞ!総員準備しろ!10分以内だ!」

 「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」」」

 「あの、僕は…」

 「あぁ?お前も参加に決まってんだろ。ほら携帯食料と毒消しと解体用セット一式だ。これ持って付いてこい。」

 「あの、こんな大人数で何処に…」

 「ハンティングだ。」

 「ア、ハイ。」

 

 そして、ギャラハッドもまた世界の裏側にて洗礼()を受ける事となった。

 

 「何でこんな大量に幻想種がいるんですかー!?」

 「お、今日は大量だな。各員、連携を崩すなよ!飲み込まれるぞ!」

 「あぁもう!後で説明してくださいね!」

 

 だが、流石は若年とは言え円卓の騎士。

 ギャラハッドは敢えて幻想種の群れの中へと飛び込み、ヘイトを稼ぐ事に成功、手に持つ盾で攻撃を凌ぎ続け、他の面々が状況を逆転させるまでの時間を稼ぎ切ってみせた。

 この行いが評価され、初の狩りでありながらもその日のMVPとして選ばれ、モードレッドから景品が贈られる事となった。

 

 「さぁMVPにゃ一番栄養あって足の早い部位を喰う権利がある。」

 「いやあの、これ竜の心臓だよね?食べて大丈夫なの?」

 「つべこべ言わず食えやオラぁ!」

 「もがごッ!?」

 「どうだ?」

 「…驚いた。普通に切って焼いたものより、丸焼きにした方が肉汁や風味(=旨味)が逃げてなくて美味しい。それに独特の食感も楽しい。」

 「それに加えて厳選した香草と岩塩使ってるからな。今のブリテンじゃ絶対食えない贅沢品だぜ。」

 「そっか、こういうの食べてたからあんな綺麗に育って…」

 「死ね。」

 「ごめんなぐはぁ!?」

 

 そして、皆で獲物を担いで戻ってからは領民達と共に無礼講な焼き肉パーティーとなる。

 男も女も、老人も子供も、怪我人も病人も、この時ばかりは皆笑顔で二日に一度の贅沢を楽しむ。

 なお、病人や胃腸の弱い者には果物やスープ、煮物等が振る舞われる。

 そのどれもが幻想世界から材料を確保したもので、今のブリテンの民では絶対に出来ない贅沢な食事だった。

 

 「モードレッド、君はいつもこんななのかい?」

 「まぁな。」

 

 少し喧騒から離れた場所で、円卓の騎士二人は黄金の林檎で作った果実酒を嗜みながら寛いでいた。

 

 「何故ここまで?アーサー王とて、ここまで民のために心を砕きはしない。貴方が彼らを死なせたとしても、それは仕方のない事とも取れると思うが…。」

 「じゃぁギャラハッド。お前はこの光景が間違いだって言えるか?」

 

 大きな焚火を囲んで、領民や兵士達、従者達が皆料理や酒を片手に笑顔で騒いでいる。

 中には酔っ払って喧嘩までしているが、それとて殺し合いの雰囲気ではないし、皆がヤジを飛ばしながら観戦している。

 静かに酒を楽しんでいる者も、自分達の様にこの光景を見ては嬉しそうに目を細めている。

 

 「いいや、例え間違いがあったとしても、彼らの笑顔は、幸福は本物だ。」

 「だろう。何時かは終わるかも知れんが、それでも今この瞬間の幸せは本物だ。」

 

 だったら、それで良いんだよ。

 難しい理屈なんていらないんだ。

 そう呟いて、モードレッドは果実酒をストローで啜る。

 

 「って、モードレッド。君、さっきから結構飲んでるけど大丈夫?」

 「だいじょーぶだいじょーぶへーきへーき。」

 「うん、もうそこまでにしようか?ほら、お水上げるからそのお酒こっちに寄越して。」

 「ぐびー」

 「一気!?倒れちゃうよ!?」

 「おえー。」

 「そして流れる様に吐瀉!?あわわわわ誰かー誰かー!?」

 

 直後、何とか兜を外して顔と口を洗って寝台に叩き込んだ模様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、ギャラハッドは騒がしくも暖かなモードレッドの領地へと溶け込んでいった。

 それは幼少期の恵まれない生活とは全く違う、人の温もりに満ちた暮らしで。

 そんな中に自分がいる事が出来るのは、泣きそうな位に嬉しかった。

 だが、幸福は何時までも続かない。

 この生活が半年を迎えた頃、遂に終わりの始まりが告げられた。

 ギャラハッドへと、王命が下ったのだ。

 

 曰く、「聖杯を探索し、キャメロットへと持ち帰れ。」

 

 ギャラハッドはただ一人、これが自分の運命だと諦めながら、最早戻れぬ旅路に出たのだった。

 

 

 

 

 




ギャラハッド=天然・ラッキースケベ・エロ&恋愛耐性無し・箱入りお坊ちゃま
モードレッド=TSチョロイン・ガキ大将・MAD・エロ&恋愛耐性無し

現時点では互いに自覚してる相手への感情は「気の置けない友人」です。
だがしかし、失いそうになって初めて本当の思いを自覚するのって……良いと思わない?

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