聖杯が発見された、と言う噂が広がった時、キャメロットの騎士達は誰もが自らがそれを獲得する栄誉を得ようと遮二無二出発した。
結果、一部の内政組を除いた殆ど全ての騎士達が聖杯探索に赴き、キャメロットの軍備がガタガタになると言う事態に陥った。
これに対し、騎士王は急遽、実力があり、尚且つ後からでも騎士達に追いつける速さを持つモードレッドを招集、騎士達にキャメロットへと戻る様に伝えさせた。
同時に、最年少でありながら最高の騎士の称号を持ったギャラハッドに聖杯探索の任務を正式に伝えた。
聖杯探索の目的、それは聖槍によって癒えない傷を負ったぺレス王の治療及びブリテン救済のための手段だった。
命令を受託した二人はキャメロットの騎士達を探しながら、聖杯探索へと赴いたのだった。
とは言え、既に二人ともキャメロットには含むものがある事もあり、出会った騎士達は強制送還するのではなく、あくまで騎士王の言葉を伝えるに留めた(面倒臭かったとも言う)。
「トリスタン卿、騎士が誰もいなくなって王が困っています。急ぎ帰還を。」
「私は悲しい。騎士たる者、栄誉を求めて何が悪いのか…それにあなたも王へ含む事はあるでしょうに。」
「その点は否定しませんが…まぁ確かに伝えたので、もし他の騎士達に会ったら、王が帰ってくる様に言っているとお伝えください。」
「分かりました。モードレッド卿も、ギャラハッド卿も、道中お気をつけて。」
こんな感じで、大半の騎士は伝言を伝えると帰ったものの、ごく一部の騎士はそのまま独自に聖杯探索を続行した。
しかし、彼らの誰一人として資格はなく、故に聖杯へと辿り着く者はいなかった。
何故なら既にただ一人、聖杯を獲得する資格を持った者がいたから。
……………
モードレッドとギャラハッドの二人に加え、パーシヴァルとボールズを加えた一行はもう間もなく聖杯を獲得すると言う所まで来ていた。
と言うのも、道中にギャラハッドが入手した盾が原因だった。
この盾は白地に赤い十字が描かれており、資格無き者が持つと白騎士を召喚し、殺すか一生ものの傷を負わせられると言う呪いの盾だった。
旅の途中にギャラハッドがこの盾に出会い、丁度今までの盾が草臥れていた事もあって手に取った。
すると、現れた白騎士がギャラハッドに「その盾は貴方のものだ、この世で最も清らかな騎士よ。その盾の導くままに進みなさい。」と告げて消えた。
それ以来、盾の赤十字の中心から方角を指し示す様に光が放たれ、ギャラハッドとモードレッドはその方向に進んだ。
導かれるまま、二人は乙女を塔へと拉致監禁する7人の騎士を殺害して乙女達を解放し、パーシヴァルやボールズと合流、塔から解放されたパーシヴァルの妹であるディンドランも交えて旅を続けた。
その際、ディンドランは魔法の船や生命の木の苗を譲り渡し、そして自らが天使より告げられた託宣を4人に告げた後、自らの髪を材料に態々傷んでいたギャラハッドの剣の帯を作って贈った。
更に進むと、癩病にかかった夫人のいる城に到着、城の住人より治療のために処女の生き血を要求されるも「それよりも先に私に治療させろ!」と怒るモードレッドにより夫人の治療開始、更に他にも感染者がいないか調べられ、疑いのある全員に激マズの治療薬が投与され、余りの不味さに悶絶する者が多数出たが無事解決した。
そして、実は自分の生き血を提供しようとしていたディンドランにモードレッドが怒った。
「追い先短いバーさんのために、お前みたいな子が命を散らす必要は無い!パーシヴァルだって泣くだろうが!自己犠牲が常に正しいなんて事は無い。特に病気なんて、適切な知識と技術があればどうにだって出来るんだ。」
これにディンドランは謝罪し、一行は更に進んだ。
そして、遂に盾が示す最後の場所、ギャラハッドの故郷であるカーボネック城へと到着したのだった。
だが、此処で事態は急変した。
一行が漁夫王ことぺラム王(ギャラハッドの曽祖父)の招きで城の広場へと入った時、不意に部屋全体に、否、城そのものに仕込まれた魔術が起動したのだ。
「ぐ、アアアアアアアアアアアッ!!」
同時、その中心にいたギャラハッドが苦痛の叫びを上げ始める。
「ッ!どういうつもりかぺラム王!一体我が友に何をした!」
「何、君達の目的を叶えようと思うたまでの事。」
癒えぬ傷を負い、心まで病んだぺラム王は骸骨の様に落ち窪んだ眼窩からぎょろりと目を動かし、自身の曽孫が苦しむ様を見ていた。
「我が祖が獲得した聖杯。しかし、祖は悪用を恐れてそれをこの土地に封じた。ただ一人の例外、神の子本人を除いてそれを得られぬ様に…。」
朗々と妄執に塗れた老人が、種明かしの様に経緯を語り始めた。
「だから、我ら一族は聖杯を手にするため、神の子に並ぶ聖なる者を生み出そうとしたのだ。何代も、何代も掛けて。そして完成した母胎に相応しき騎士の種を注いで完成したのが『この世で最も清らかな騎士』だ。」
術式から発せられる魔力が増大し続けている。
超弩級の魔力塊が顕現しようとしているのだ。
ギャラハッドを器にして!
「だが、聖杯とは神の子の死した時の血を受けたが故に聖杯となった。それに贋作故に血を受けただけでは足りぬ。『この世で最も清らかな騎士』を贄にしてこそ聖杯は降臨するのだ。」
ガギン!
そこまで聞けば十分だと言う様に、モードレッドは漁夫王へと剣を振るったが、それは寸前にボールス卿によって防がれた。
「成程、貴様はそちら側か。」
「…ブリテンには聖杯が必要だ。」
つまり、キャメロットの連中は、少なくとも首脳部は全て知っていてこの旅に向かわせたのか、とモードレッドは判断した。
実際はそんな事はなかったのだが、この時ばかりは割と視野が広く温厚なモードレッドをして、焦りと怒りで早合点してしまった。
「ハァッ!」
「ぬ!」
「パーシヴァル卿!」
「急いでギャラハッドを助けろ!時間は私が稼ぐ!」
そして、背後で剣戟が響く中、モードレッドは何とか魔力の奔流を掻き分けながら、ギャラハッドのいる術式の中心地点へと辿り着いた。
「ギャラハッド!待っていろ、直ぐに助ける!」
だが、既にギャラハッドの変質は致命的な時点まで進んでいる事は、魔術に詳しいモードレッドには一目で分かってしまった。
父親に似た薄紫の髪の毛は色素が抜けて白く、肌も血の気が消えて病人の様に白く、その瞳もまた色素を失って血の様な赤となっていた。
そして、手足の末端から徐々にエーテルとなって解けて…否、無機物へとゆっくり変質していた。
「いや、もう無理だろう…。」
「諦めるな!お前がこんな所で死ぬ筈がない!」
(糞、変質が止まらない!どんだけ強固な術式を組んでやがる!)
「一つだけ、一つだけ伝え忘れてたんだ…。」
「言うな馬鹿!それは死亡フラグだ!」
ゆっくりと、ゆっくりと、唯の器物へと変化していく中、既に苦痛を感じる機能すら無くなったギャラハッドは、しかし消える寸前の灯の最後の煌めきとばかりに、本当に伝えたかった事を口にした。
「僕は、君と、ずっと一緒にいたかった……恋人に、夫婦になりたかったんだ…。」
その言葉を聞いた時、モードレッドは兜の下で唇を噛み切る程に歯を食いしばった。
「馬鹿野郎!そんなのは、二人っきりの時に言え!」
肉体の変質はもう手遅れだ。
これは間違いなく、最初からそうなる様に作られていたのだ。
嘗ての自分と同じ様に。
こいつは、本当の意味で自分と同じ者だったのだと。
こいつに感じていた言い様のない近しい感覚はこれが原因だったのだと。
此処に来て、モードレッドは漸く気づいた。
(なら、魂だけは持って帰る!)
聖杯が顕現しようとしている。
それは一つの神話の集大成にして、莫大な星の魔力の受け皿であり制御機構だ。
そんなものから発せられる魔力の奔流に、人では抗う術は無い。
だが、此処にいるのは円卓の騎士が一人、既に父である騎士王を超える性能を獲得し、数多くの竜種を始めとした幻想種を屠り、食らってきた人型の竜種。
この程度の魔力、この程度の圧力、この程度の脅威で、
(お前を、諦められるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!)
頑丈な筈の鎧が砕け、再生が追い付かない。
最も頑丈な兜すら割れ、全身から出血する。
過剰過ぎる魔力に当てられ、体内に過剰なまでに蓄積された竜の因子が暴走を開始し、身体が竜化していく。
だが、止まらない。
術式へと介入し、ギャラハッドの魂を儀式の材料ではなく不純物として認識させ、その部分のみを奪い去る。
元より聖杯が顕現すれば消え去る定め。
認識の改竄を行い、本来なら干渉できない第二要素たる魂を聖杯の顕現によって溢れる魔力を逆手に取って干渉に成功する。
そして、聖杯が完全に顕現する直前、
「獲ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
城中が光に包まれる中、確かにモードレッドの声が響いた。
アインツベルン家は皆ホムンクルス
→大本の製作者は誰?
→聖杯関連で、聖杯がめっちゃ欲しいだろう連中の可能性
→そう言えばギャラハッドの実家連中が色々やらかしてるし怪しいな
→せや、こいつら悪役にしてネタに使お!
と言う訳でカーボネック勢は悪役になってもらいました。
ギャラハッドは元々聖杯獲得のための生贄たるホムンクルスorデザインベビーって事で。
こうするとマシュと益々共通点が出来るし、後世のアインツベルン家がカーボネックから分派した連中だとすれば色々辻褄が合うと考えた結果です。