徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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転生モーさんが逝く8

 聖杯の降臨と共に瓦礫となったカーボネック城の跡地で、二人の人影があった。

 一人は円卓の騎士が一人、パーシヴァル。

 もう一人はほぼ全ての装備を喪失した円卓の騎士だった者、モードレッド。

 二人は自分達以外が死に絶えた場所で、今後の事を話し合った。

 

 「良かったのか、ボールス卿を逃がして。」

 「奴には奴の役割があるし、聖杯は取り上げた。ここで殺しても良い事は無い。」

 「卿がそう言うのなら信じるが…失敗だったのか?」

 「いや、ギリギリ成功、かな。」

 

 そう言って、鎧を失った素の手で、己の下腹をなぞる。

 その手つきには慈しみが感じられ、まるで母親が己が胎の中の子を労わる姿にも似ていた。

 

 「あの瞬間、何とか私の中にギャラハッドの魂を封じ込めた。」

 「おお、それでは何とか蘇生も…。」

 「いや、無理だ。」

 

 悲しさと悔しさを込めて、モードレッドは首を横に振った。

 

 「私が取り返せたのはあくまで魂だけ。肉体も精神も無い状態じゃ、その人格と記憶を復活させる事は出来ない。」

 「それでは……。」

 「あいつは、死んだ。オレの最高の親友は、此処で殺された。」

 

 ポトリと、不意にモードレッドの顔から何かが零れた。

 

 「モードレッド卿…。」

 「オレは今日まで、何時か王はオレに叛意が無いと分かってくれると、何時かは他の円卓の騎士達と同じ様に遇してくれると、本当に信じていたんだ…。」

 

 パーシヴァルは心底の驚愕を感じながら、しかし、何も声をかけてやる事が出来なかった。

 いや、何と言えば良いのか分からなかった。

 王とよく似た容姿の、しかし王よりも成長した女騎士。

 鎧を砕かれ、半裸に近い姿になっても、彼女から艶やかさを感じる事は無い。

 何故なら、今彼女は大事な人を喪失した事実に悲嘆し、止め処なく涙を流していたからだ。

 

 「だが、もう信じはしない。あの王はオレを信じる気等端から無かったのだ。国を生かす事だけが大事で、臣下や民がどの様な思いを抱えてようと構いはしない。奴の言うお綺麗な奴らだけが生き、それ以外の生き死には利用する事しか考えていない。」

 

 それは違うと、パーシヴァルは言えなかった。

 何せ彼の知る騎士王とは、基本的に必要と判断すればどれ程冷徹な判断でも下せる王で、それでいて自分は決して怒りも何も表に出さないからだ。

 そして、下手に外敵が消えた昨今、王の眼は内側に向いている事も知っていたために。

 

 「オレはキャメロットには二度と戻らない。もう二度と、オレは奴の騎士となる事は無い。」

 「そうか…だが、私はまだキャメロットの騎士だ。」

 

 ギロリ、とモードレッドの眼光がパーシヴァルを射抜く。

 その瞳孔は爬虫類の様に縦に裂け、人間のそれとはとても思えない。

 異形への変化は全身にも広がっていた。

 四肢には鱗と爪が生え揃い、鋭利な刃を形作っている。

 尻からはしなやかな尾が生え、警戒する様に左右にゆっくりと振られている。

 そして、背中からは鎧の残骸を貫く様に竜の翼が生え、第二の腕の様に構えられている。

 

 「待て待て。争う訳じゃない。どの道誰かが事の次第を報告する必要がある。」

 「…その後はどうするつもりだ?」

 「私とて此度の事には思う所がある。私の思い焦がれた円卓は既に無いと分かった。報告を終えた後、機を見てキャメロットを去るよ。」

 「そうか…。」

 

 パーシヴァルは生粋の貴族であり、父は円卓にも属したぺレノア王で、母も大貴族の出だが、既にどちらも亡くなっている。

 そして妹は聖女と言っても良い清らかさと強さを持ったディンドラン。

 だが、彼の家族は最早誰もいない。

 父は親殺しの仇としてガウェインに殺された。

 母は病気で、妹は先程の崩壊で。

 如何に礼儀正しく温厚温和なパーシヴァルとて、いい加減に我慢の限界だった。

 聖杯等に掛ける漁夫王や騎士王の妄執によって、二人は大事な人を失ったのだ。

 

 「それはそうとモードレッド卿。」

 「卿はよせ。オレはもう円卓を抜けた身だ。」

 「そうか、では只のモードレッドよ。お願いだからそろそろ服を着てくれ。」

 

 爆心地の中心にいたモードレッドは先も言ったが半裸だ。

 竜へと変化しかけた部分を除けば、騎士王とモルガンに似た妙齢の美女(処女・美乳・男勝り)の裸など、円卓の女好き連中(ランスロット・トリスタン・マーリン等)がいたら一も二も無く飛び掛かってくださいと言っている様なものだった。

 

 その後、瓦礫の中から布やら食料やらを漁ってから、それぞれモルガンの居城とキャメロットに行くために別れ、そして二度と会う事は無かった。

 

 

 …………… 

 

 

 事の次第を全て聞いた時、モルガンは無表情だった。

 全ての激情を飲み込んで、その上で彼女は己の最愛の娘に問うた。

 

 「モードレッド、貴方はどうしたいの?」

 「殺す。惨たらしく殺す。確実に。」

 

 そして、その娘たるモードレッドも、一度泣いてすっきりしたから、感情に任せて暴れ回る様な事は無かった。

 母親と同じ様に全ての感情を飲み込んで、その上で己が目的をはっきりさせ、それを実現するためのプランを冷徹に練っていた。

 

 「そう、ならもう容赦はしなくてよいわ。私がお膳立てしてあげるから、貴方はお腹の子の事に集中しなさい。」

 「へ?」

 

 お膳立ては分かる。

 こと謀略と言う点に関してはモルガンはブリテン島一と言って良い。

 だが、お腹の子に関しては何かおかしい。

 

 「人形を作れって事ですか?」

 「モードレッド……いえ、気付いてて現実逃避してるのかしら?」

 

 はて、うちの娘はこんな鈍かったか?とモルガンは思ったが、そう言えば自分と違って恋愛経験とか一切無い、本当に初心な箱入り娘だったわね、と思い直した。

 あの親とは似ても似つかない程に誠実かつ温厚篤実なギャラハッドならばうちの子の花婿にギリッギリ合格だったし、余りにもじれったい程ゆっくりと思いを育んでいたから余計な茶々も入れなかったが、これはもう少しそっち方面の教育もしておくべきだったか、と今更ながらモルガンは後悔した。

 

 「貴方が浴びたのは大本から零れたものとは言え、真正の聖杯の中身よ?貴方が身体の中に退避させたギャラハッドの魂は、その際に半ば受肉したわ。」

 「それって……。」

 「そう、処女懐胎よ。」

 

 基督教の最も有名なエピソードの一つ、聖母の処女懐胎及び受胎告知。

 聖母マリアが聖霊によって神の子をその胎内に宿した時、三大天使ガブリエルが現れ、それを告げる絵画は世界中に幾つもある。

 この時代では後世の話だが、あのレオナルド・ダ・ヴィンチも受胎告知を題材にした絵画を描いている。

 

 「元々貴方は私と言う地母神の系譜に連なる訳だから、こうした生命を生み出す神秘とも相性が良いのでしょうけど……それに加えて、魂は神の子の劣化コピーであるギャラハッドのもの。状況としては十分ね。」

 「 マ ジ か よ 。」

 

 つい礼儀作法も忘れてモードレッドの口から驚愕が零れた。

 何せ漸く淡い恋心(小学生並)が芽生えたと思ったら、いきなり母親になりました☆である。

 そりゃー驚きもするだろう。

 まぁ確かに状況としてはこれ以上は無い程に揃っている。

 加えて言えば、基督教は既存の神話や伝承の良い所取りな合成神話である。

 唯一神たる聖四文字も、元はしがない山の神とも言われるが、そこから多くの要素が融合して現在の基督教の唯一神となった。

 となると、この時代に存在する既存の各神話・伝承・伝説の内側にある地母神の系譜たるモードレッドが、魔法使いの釜を元祖とする聖杯の魔力を浴び、その体内に匿ったギャラハッドの魂を赤子として受胎してしまう、と言うのも割とあり得る話だろう。

 無論、そんな要素を持った者達が一同に会した上、高濃度の魔力を浴びたり、清らかな魂を体内に入れたりする状況等、人類史を見渡しても殆ど在り得ない訳だが。

 

 「と言う訳で、貴方はこれから暫く狩りも鍛錬も禁止。ギリギリ魔術の研究と執務はして良いから、子供が生まれるまで大人しくしてなさいな。」

 「うぅ、分かりました…。」

 

 どーすんだこれ…とモードレッドは頭を抱える事となった。

 その後、兜も鎧も剣も全損したので作り直し、生まれてくる子の名前や産着なんかも用意する必要があるので、悩む暇は無くなったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃の蛮族兵士さん達

 

 「何、大将が妊娠!?」

 「やる事やってたのか…。」

 「バッカおめぇギャラハッドの坊主と一緒に旅してたんだから、そらそういう事もしてたんだろうよ。」

 「だが、あの坊主は殺されちまったらしいな…。」

 「やっぱりキャメロットの連中か…。」

 「聖杯を取るための生贄だとさ…。」

 「おい、滅多な事は言うんじゃない。」

 「だがよぅ、あのあんちゃん、大将の隣で笑ってたじゃねぇか。お綺麗な事しか出来なかったのが、大将と一緒になって怒って笑って生きてたじゃねぇか。オレらの半分も生きてねぇのによぅ…。」

 「泣くな、泣くなよ…。」

 「…泣く暇があれば、狩りに出るぞ。オレ達の仕事はそんだけだ。」

 「隊長…しかし…。」

 「それで、大将のお腹の子が元気に生まれてすくすく育つ様に獲物を狩ってくる。」

 「「「!」」」

 「オレ達は学が無い。だがな、出来る事はあるんだよ。」

 「ですな。」

 「悩むなんてらしくなかったか。」

 「そうと決まれば話は早い!」

 「応とも!お前ら、手隙の奴らに声かけろ!大将の妊娠祝いだ!大物を狩ってくるぞ!」

 「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」」

 

 その後、50m級の大型の四脚型竜種が討伐され、その肉で盛大にお祭りが開催されたとさ☆

 

 

 

 

 

 

 

 




現在のモーさん領の状況

・領民…大体一万人程。噂を聞いて他所から逃げてきた人、口減らしで追い出されて運良く辿り着いた人、貴族の横暴で追い出された人等が追加され、増加傾向にあり。
 なお、噂を聞いて現れた夜盗の類は侵入早々に狩り殺された模様。

・政治…モーさん筆頭にしつつ、モルガンとその従者達、後兵士達の隊長格なんかで運営されてる。
 慢性的に人手が足りないので、簡単な計算や文字の勉強等を領民に施し、少しでも人手を増やそうと涙ぐましい努力をしているが、大抵の子供達は兵士達に憧れてそちらに流れている。

・軍事…最初期の兵士達の多くは小隊長以上となり、日々夜盗や草の討伐等の治安維持、幻想種狩りや貴重素材の採取等の食糧確保をしている。
 領内の人々の尊敬を集める職場だが、最近はモーさん(大将)とギャラハッド(若旦那)が離脱して、ちょっと人手が足りない。

・兵士…新兵ですらフォーマンセルで、幻想種由来の素材を用いた武器を一般採用している。どっからどう見てもモンハンです本当にry
 領民のため、家族のため、モーさんのため、今日も彼らは外道式ホバーバイクVer2.0に跨り、世界の裏側を疾走する。
 例え失敗しても、死んでなければ治してくれるモルガン様やもーさんがいるし、例え家族を残して殉職しても必ず面倒見てもらえるので、彼らの忠誠心は常にMAX(=死ぬ瞬間まで首になっても喰らいつく)。
 隊長達は皆肩当てをモーさんの象徴である赤で染め、レッドショルダーと言われて尊敬を集める。
 更に偉くなると不必要な角や棘なんかが増えるぞ。
 超大型種を狩る時は100を超える兵士とそれを補佐する倍以上の補給部隊が必要となるが、最近では上位の竜種の吐息を再現した射撃武器での飽和攻撃で割と簡単に仕留めている。
 極稀に神霊としての要素も持った龍種等にも遭遇するが、モーさんが以前やったのを参考にお祈り&お供えで戦闘は基本回避している。
 なので時々、本当に時々だが助けてくれたりもするぞ!


 自分で書いててなんだが…何だこの蛮族(困惑)



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