徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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これにてブリテン編終了!


転生モーさんが逝く12 後書修正

 一般にアーサー王物語とされる伝承群は、多くの付け足しや解釈を交えながらも、一貫して一つの方向性を持っている。

 その前半はアーサー王によるブリテン統一を始めとした栄光と騎士の名誉の物語であり、後半はその不義の息子モードレッドを中心としたブリテン滅亡と騎士の没落までの物語である。

 アーサー王の前半生は一部の事件を除けば紛う事無く清廉潔白な英雄であるが、その後半生はモードレッドに取って代わられたかの様に零落していった。

 これは円卓の騎士全体にも言える事だが、これを仕方ないとする声もある。

 何せ多くの正統派の伝承を集めただけでも、実に40年近い在位期間になるのだ。

 これでは老いによって力が衰える事も、耄碌する事も仕方ない。

 50近いと言えば、当時の寿命から言えばかなりの高齢なのだ。

 そこに若く力ある騎士が来たとなれば、物語のスポットは必然的にそちらに向いてしまうだろう。

 それを自身の権勢の衰えと取ったのか、或は政敵によるものと取ったのかは判別しないが、アーサー王がモードレッドを敵視していた事は確かだった。

 実の息子を何故敵視したのかと言えば、モードレッドの母親はモルガンと言うアーサー王の父親違いの姉であり、先も述べたが不義の関係にあった。

 モードレッドの存在が公になり、功績を上げて脚光を浴びる度、自身の行った不義が表沙汰になる可能性が高くなる。

 それは清廉潔白であるが故に多くの騎士達の支持を保っているアーサー王にとって致命的なスキャンダルになりかねなかった。

 だからこそ、アーサー王はモードレッドを蛮族の侵攻の激しい辺境の領地を与えて、そこに封じた。

 更に最低限度の支援すらせず、重税や難民を押し付けもした。

 まともな財の無いその場所なら、何れ自分の下に救援を乞うか、或は討ち死にするだろうと期待して。

 しかし、モードレッドは蛮族の侵攻を悉く跳ね返し、時には単独で敵軍を壊滅させた。

 食料にしても、国を荒らす巨大な獣や竜を狩り、その肉を食料とする事で時間を稼ぎ、母モルガンの魔法によって不毛の地を農業が可能な程度にまで豊かにし、部下となった兵士達や行き場のない難民達と協力して何とか暮らしを成り立たせた。

 これにアーサー王は激怒したものの、モルガンの圧力もあってそれ以上の妨害は出来なかった。

 ここまで自分を厭うアーサー王の内心を察していながら、しかしモードレッドは聡明な王なら何時か自分を正しく評価してくれるだろうと信じていた。

 しかし、それは裏切られる事となる。

 モードレッドの後、最後の円卓の騎士として災いの13席にギャラハッドが就いたのだ。

 彼はランスロット卿の実の息子だが、母親であるカーボネックのエレインが無理矢理ランスロットと作った子であった事から、その実力と人格に反してキャメロットでは疎まれてしまった。

 それを同じく嫌われ者であるモードレッドが見つけ、自身の領地へと案内した。

 モードレッドとギャラハットは年も立場も近く、互いに優れた騎士であったために直ぐに意気投合し、共に領民達のために巨大な獣を狩り、何時も共にあって楽しく過ごしていた。

 しかし、幸せは長く続かなかった。

 ある日ブリテンに、聖杯が現れたと言う噂が流れたのだ。

 国を豊かにするため、騎士としての名誉のため、アーサー王は聖杯を欲し、この獲得をギャラハッドに命じた。

 また、モードレッドにも聖杯を求めてキャメロットからいなくなってしまった騎士達を連れ戻す様に命じた。

 こうして、二人は聖杯を求める騎士達を追って、聖杯探索の旅へと出たのだった。

 幾つもの困難と冒険を乗り越え、途中パーシヴァルとその妹、そしてボールスと合流して、最後に彼らがやってきたのはカーボネック城、即ちギャラハッドの故郷だった。

 そして、漁夫王の案内の下、城へと一同が入ると、一同の前に聖杯が現れた。

 しかし、この中で聖杯を手にする資格を持つのはギャラハッドだけだが、彼は聖杯を手にすると同時にあらゆる苦悩と苦痛から解き放たれ、昇天してしまった。

 これを見てモードレッドはアーサー王が最初からこうなる事を知っていたのだと考え、消えてしまった親友の仇として叛意を抱く。

 しかも、資格ある者が消えた聖杯は莫大な光と音を発し、カーボネック城は一瞬で崩れ去ってしまった。

 何とか三人の騎士は生き残ったが、それ以外の者が死んでしまった。

 この大惨事にモードレッドは「聖杯を世に出すべきではない」として聖杯を何処かへと隠し、ボールスとパーシヴァルは事の次第をアーサー王に伝えるべくキャメロットへと帰還した。

 この聖杯探索を機に、キャメロットの没落は加速していく。

 妖妃モルガンの姦計と策略により、今まで積み重ねられた円卓の不和や因縁に火が付き、トリスタンやパーシヴァルを始めとした多くの騎士達が去って行った。

 そして、遂にアーサー王の親友であるランスロットと王妃ギネヴィアの不倫が発覚してしまった。

 これを暴いたアグラヴェインはその場でランスロットに斬殺され、ランスロットを説得しようと非武装で近づいたガレスとガヘリスは錯乱したランスロットに斬り殺された。

 この時、ランスロットはモルガンの呪いによって、正気を失っていたと言われる。

 そして、ランスロットを慕う者達は彼の側に付き、キャメロットの戦力は完全に二分されてしまった。

 だが、アーサー王とランスロットは親友だった。

 その絆は王妃よりも固く、二人は積極的に戦わず、最終的に和議を結んだ。

 そして、ランスロットと従う騎士達はフランスへ、アーサー王とその騎士達はブリテンへと戻った。

 しかし、アーサー達を待っていたのは虐殺された人々だった。

 皆死に絶えたキャメロットで再会したのは、モードレッド率いる兵達と嘗ての難民達だった。

 彼らは皆、国を守りつつも荒廃させるしかなかったアーサー王とその騎士達を憎み、モードレッドは親友を聖杯獲得のための道具としたアーサー王を恨んでいたのだ。

 そして、ブリテン最後の戦いが始まった。

 戦は開始から半月近くまで続き、その中でランスロットとの戦で消耗していたガウェインやケイと言った残った円卓の騎士らも死亡していった。

 それに対し、戦いはモードレッドの領地にまで至り、アーサー王は反撃とばかりに目につくもの全てを焼き払って報復した。

 だが、両軍の戦力自体は拮抗しており、双方が損害を増やし続けるだけだった。

 最後には両軍は死力を振り絞ってカムランと言われる小さな丘で激突し、互いに殺し合った。

 アーサー王はモードレッドと戦い、しかし敗れ、あわや止めと言う時に、ベディヴィエールがガウェインの形見であるガラティーンでモードレッドを後ろから刺して討ち取り、首を刎ねた。

 敵も、味方も、既に騎士道など無かった。

 最後に深手を負ったアーサー王はベディヴィエールと共に湖の貴婦人らへと聖剣を返還し、傷を癒すために妖精郷へと去っていったと言う。

 様々な解釈や説話があるものの、これが大まかなアーサー王物語の流れである。

 

 しかし、真実は小説よりも奇だったりするのだ。

 

 

 ……………

 

 

 「ん…。」

 

 ぱちりと目が覚めた。

 次いで直ぐに寝台に横たわる自身の身体を確認し、次いで首の辺りをさする。

 自身の細胞を培養して用意した肉人形とは言え、五感は繋がっていた。

 首を断たれる感覚は、今も色濃く残っていた。

 

 「御目覚めね、モードレッド。気分はどう?」

 「まだ首が刎ねられた感覚が残ってます…。」

 「まぁしょうがないわね。」

 

 首をさする娘に、寝台の傍らに座っていたモルガンは告げる。

 

 「あの人形は製法自体は貴方の身体と同じものだもの。母胎がフラスコと言う違いはあるけど。」

 「流石に身重の身で戦に出る訳にはいきません。」

 「そうね。行くなんて言ったら薬で眠らせて、出産の日までそのままにしてたわ。」

 

 さらっと強硬策を告げる辺り、モルガンの本気を感じ取って怖いやら心配されて嬉しいやら、モードレッドは複雑な気分になった。

 

 「もうすぐね…。」

 

 慈愛の篭もった目で、モルガンはモードレッドの膨らんだお腹を撫でた。

 

 「祖母が女神で、母親が半竜だと知ったら、この子はどう思うでしょうね?」

 「どうもしないんじゃないかしら?大事に育てたら、そんな事なんて些細な問題よ。」

 

 世界の裏側、幻想の世界へと完全に入植したモードレッド領の者達を待っていたのは、この世界への適応だった。

 無論、異形になると言う訳ではない。

 彼らの多くは人間であり、それ以外の種族の血は流れておらず、精々がギリシャ神話の人々程度の神秘への適性を獲得しているだけに過ぎない。

 しかし、ブリテン島の正しき地母神の系譜であるモルガンと、その娘にして竜の因子を併せ持ち、聖杯の魔力を浴びて聖母としての特性まで獲得したモードレッドは異なる。

 短期間潜るなら兎も角、永住してはその影響は顕著になる。

 結果として、モルガンは正しく女神となり、モードレッドは外見は翼や尾に有鱗の手足を持った竜人となった。

 だが、モードレッドもしっかりと神性は獲得しており、異形の女神と言っても差し支えない。

 当初は驚いたものの、これでは人間性を無くす可能性もある事から、二人は聖杯を用いて、自らの人間性の保持と言う願いを叶えた。

 これにより、過度な変質を抑える事に成功した。

 

 「ま、これにてブリテンは終わり。文化的・歴史的な系譜はあのマダオに付いていった連中やパーシヴァル辺りから残るでしょうから、抑止力としても問題は無いでしょう。」

 「私達が表舞台から完全に消えれば、辻褄合わせも簡単でしょう。」

 

 あのカムランの丘での最後の戦い。

 あれに態々参加したのは、それが人理定礎に必要なものだったからだ。

 それが態々鞘を用いてまで妖精郷に赴き、監禁されていたマーリンに拷問を加えて吐かせた内容だった。

 なお、今現在のマーリンは自身の魔力を搾り取って稼働する拷問器具へと接続されており、半永久的な苦痛に苛まれていたりする。

 まぁ抑止力が少しでも働けばあっさり解除され、問題の起こった場所へと転送される仕組みなので、もしもの時でも問題は無いだろう。

 

 「あー疲れたわー何か気が抜けたー。」

 「ですねぇ…。」

 

 ふわわ、と少しはしたないが欠伸が出てくる。

 何せ騎士となってからこっち、ずっと駆け抜けてきたのだ。

 少し位気が抜けても良いだろう。

 

 「では、少しだけ午睡を…。」

 「そうね…私もお邪魔するわ…。」

 

 こうして、母娘の復讐劇は幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、産まれそう。」

 「ッ!?!?!?!!」

 

 この後滅茶苦茶お産した。

 

 

 

 




皆さん、お付き合い頂きありがとうございました。
この次はスペック表等を挟んでからFGO編の予定でしたが、そこまで行けるかは未定です。
何せメドゥーサが逝くとか同じ様な所で止まったままですからね(白目
でもHF見てからネタが湧き出して止まらないのに時間が無くて困る。

今後の予定としては今の所(アンケートではないです)
・メドゥーサが逝くの続編(HForFGO)
・モーさんの続編(FGO)
・TS転生士郎ちゃんが逝くHFルート
の三本となっております。

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