徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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活動報告で上げてたネタをSS化。
大分手抜きですがご容赦を。


東京喰種ネタ その1

 

 

 2、神様転生して風見のうかりん(夜は幽香)ルート

 

 

 この世界に転生して、もう20余年となる。

 

 

 幸いと言うべきか、ギリシャ系の匂いがする神からもらった特典は希望通りでとても有用で、しかし、それ故に目立ってはいけないと考えさせられた。

 この世界の名は東京喰種、サスペンスホラーダークファンタジーバトル漫画にして某絶望の物語ばりに救いようのない難易度ルナティックな世界である。

 だが自分の種族は人間、グール対策さえ気を遣えば大丈夫、問題ない…!(自己暗示

 取り敢えず、将来は東京から離れる道を選ぶとしよう、うん。

 

 

 時は飛んで10歳から母方の田舎の実家で暮らし始めた。

 八王子の更に奥の方、辛うじて東京都と言う場所で、現在の私は祖父母と共に土を耕し、野菜を育てながら暮らしている。

 と言うのも10歳になる前に両親が出先で餓えた喰種に襲われて他界したからだ。

 既にその喰種は駆逐されたものの、両親が帰ってくる訳でもない。

 喰種対策局ことCCGのアカデミーへの入学も打診されたが、祖父母が是非にと言ってくれたので、そちらに引っ越す事になったのだ。

 私もこれ幸いと祖父母の家に移り、二人と共に大好きな農業に励んでいる。

 

 だが、学校生活で問題が起き始めた。

 

 私の転生特典の影響により、私の中の嗜虐願望が急激に強まり始めたのだ。

 自分に逆らう相手を捻じ伏せたい、踏み躙りたい。

 草花や作物を大事にしない糞の様な連中を八つ裂きにしたい。

 そいつらの腹を裂き、臓物を飾り立て、鮮血を撒き散らしたい。

 そんなドS願望、本来の私には縁の無いものの筈だった。

 これも私の転生特典、風見幽香の容姿と能力の副作用によるものと考えられる。

 このままでは私の夢見る長閑ならぬ農家な生活から遠ざかってしまう。

 態々植物系能力を持った強者を選んだのに、このままではいけない。

 唯でさえ物騒なこの世界、そんな実力者なんていたら直ぐに目を点けられてしまう。

 ならばこんな時こそ転生チートの出番と、私は私なりに古書店や怪しげなサイトを巡回して、ある程度魔法の知識を仕入れ始めた。

 元々活字中毒の気もある私にはさしてきつい行動ではなかったが、そうして得た知識を更に選別して試して使い物にするのは中々に骨が折れた。

 幾ら種族は人間として生を受けたとは言え、風見幽香の本質は花の妖怪にしてUSC、それが早々に消える事はない。

 ならば逆に彼女が出来る事は能力だけでなく、彼女の代名詞の一つとして有名なあの技の様な事も研究次第によっては可能だと考えたからだ。

 幸いにも祖父母が老人らしく早寝早起きだからこそ見つからずに済んだが、これがもし両親が生きていた頃で考えると背筋が寒くなったものだ。

 うっかり家に呼んでしまった霊を全力でぶん殴ったら消えたのをきっかけに妖力の扱いを覚えたのは今も記憶に新しい。

 そうして私は、自分を切り替える術をモノにした。

 昼は植物全般を愛し、農業に励む暢気な農香として。

 夜は花と暴虐を愛し、虐殺(畑泥棒や害獣相手に)を嗜む幽香として。

 

 それからの8年間は本当に平和だった。

 朝は畑に出て、三人で朝食を食べてから登校し、昼は学校で友人達と過ごし、帰ってからは夕飯作りか畑や田んぼに出て、夜は術や妖力の扱い方の練習をしてから眠る。

 そんな忙しくも充実した日々は、祖父の死と共に終わった。

 高校を卒業し、本格的に農業に従事するようになった頃、祖父は眠る様に自室の布団で亡くなっていた。

 祖母は薄々感づいていたのか、泣いて悲しみながら粛々と葬式の準備をした。

 私と言えば、愕然として暫く何も出来なかった。

 ただ惰性で農業を続けてたが、この時期にもし祖母がいなかったらと思うとゾッとする。

 恐らく、そこらへんの木っ端喰種であろうと殺されていただろうからだ。

 更に祖父の二回忌と合わせる様に、祖母も亡くなった。

 祖父と同じ様に布団の中で眠る様に穏やかに息を引き取っていた。

 今度は何とか近所の人の手を借りながら式を全うできた。

 こういう時の地域の結束というのは本当にありがたかった。

 やはり幼少時からご近所さんとお互い融通したりお手伝いしてたのと、祖父母の人徳によるものだな、うん。

 

 さて、一人になった私だが、それまでと同じく農家は続けるつもりだった。

 祖父母の家と墓の世話もあるし、都市の方に行かずともネット通販を使えば近くのコンビニで大抵のものは手に入る。

 食料?自給自足と物々交換でどうにかなります。

 ただ、どうせだから祖父母がいた時には気になっていたものの手間の関係から止めていたものに手を出した。

 

 それは果物だった。

 

 これなら販売は大通りに面した無人販売所でも良いし、田んぼ程人数が無くてもやっていく事が出来る。

 楽かと言えば厳しいが、田んぼをするのは流石にコスト面できついのだ。

 大型の作業機械を一人の収入で維持・保守整備・運転するにはコスト的にきついし、手作業が多めな果樹園は幸いにもこの幽香ボディなら負担にならないし、何より楽しい。

 それに能力と術を用いて植物への実験を大がかりにする事も出来るのも嬉しい。

 土地の方は田んぼを埋めて果樹園にすれば良い。

 上手くいけばコストも手間も大幅に減らす事が出来るだろう。

 問題なのはその辺りのノウハウが私にあんまり無いのと土の購入と埋め立ての依頼、役所への手続き諸々だったりする。

 まぁ時間はあるのだし、遺産も結構な額がある。

 気長に頑張って、天国の祖父母と両親を安心させてみせよう。

 

 そして三年目にして漸く果樹園が軌道に乗った。

 と言うのも果樹は果樹でも何を育てるか色々と試行錯誤した結果だったりする。

 桃にリンゴ、梨に葡萄、更に祖父の所有だったという里山にアケビや山葡萄、柿にキウイ等も植えた結果、収拾がつかなくなったのだ。

 しかも今メインで育てているものはそれらとはまた別であり、ハウスまで建てて一から自分の満足のいくものを育てだしたのだから差もありなん。

 その育てたいものなのだが…何分国内では難易度が高いので、比較的日本でも育てやすそうなものを見繕って能力で促成栽培→人工交配、更に幾つかの苗から良さげなものを見繕って促成栽培→人工交配を繰り返し、更に日本の気候でも元気に育つようにと私の魔力と能力でブーストをかけた逸品である。

 文字通りこの世に一つしかない種類なのだ。

 

 「すいませーん、コーヒー豆小袋で一つとコーヒーの実大袋で三つお願いしまーす!」

 「はーい!今行きますー!」

 

 そう、私が苦労して育てているのはコーヒーノキ。

 この世でただ一つの栄養豊富なコーヒーチェリーが成る、日本で唯一のハウス無しで自生可能な品種「四季」は只今大人気発売中なのだ。

 …まぁ風や虫除けの網はしているのだが。

 

 事の起こりは私が気晴らしに都内の方を散歩しにいった時。

 偶然目に入って入店した喫茶店のコーヒーが、あんまりにも美味しかった上に、そこの店長さんが亡くなった祖父程ではないにしろ素敵なロマンスグレーだったのだ。

 混んでない時間帯とは言え、ついつい二杯もおかわりした上に話し込んでしまった、 その日の出会いは何をメインで育てるか悩んでいた私の心を完璧に方向付けるものだった。

 あの時のコーヒーの銘柄も聞き、自宅で何度も練習したものの、美味く淹れる事が出来なかった。

 よろしい、ならば豆から拘ってくれる。

 何処で思考が逸れたのか、そこからは持ち前の熱意で暴走し、気づけば苗木を育てるためのビニールハウスを立て、各銘柄の種を取り寄せていた。

 そこからは後は先に言った通りだ。

 そして努力の結果、固定客も大勢ついてくれた。

 今では埋めた田んぼ全てをコーヒー畑にしても足りない程で、近所のご老人達をバイトとして雇って手伝ってもらっている。

 作業を少し教えただけ、流石は元祖農家と言うべきか、私よりも素晴らしい手つきで作業してくれた。

 それでもまだ足りないので、苗と私の妖力を含んだ上で成分調整した肥料も売りに出している所だ。

 とは言え、直で妖力を注いでいる分、どうしても自分で育てた方が質が高いので詐欺商売とも言えるのだが…うん、まぁ原理が解明されてないって事で!(目逸らし

 にしても、やたらと売れ行きが良いな。

 国産品って事でもの珍しさから買うのかな?いや、味は十二分に良いけども。

 やっぱり例の喫茶店で店長に宣伝お願いしたのが効いたのだろうか…。

 

 

 現在、東京都内の喰種業界(と言うのもおかしいが)であるコーヒーの噂で持ち切りになっている。

 その噂はある20区の喰種が経営する喫茶店で出すとあるコーヒーが、人肉でも喰種の肉でもないのに、大変美味な上に喰種の栄養にもなり、一杯でも飲めば数日は空腹とおさらばできるという、人間を捕食する事に抵抗のある喰種にとっては正に福音となる特別なコーヒーなのだとか。

 当初、それは余りな内容に笑い飛ばされていたのだが、実際に平和で知られる20区の喰種がただでさえ少ない捕食を殆ど行わなくなり、他区の喰種が実際にその喫茶店に行って実証した事で噂は野火の様に広がっていった。

 それは勿論、喰種の中で名家や有力者と言われる者達も含めてだった。

 

 

 うむむ…最近、コーヒーの売れ行きに比例して作物泥棒が増えてきた。

 収穫した傍から売れるのは良いのだが…コーヒーばかりに狙うのだ、それも喰種が。

 確かに喰種の数少ない嗜好品であるコーヒーを求めるのは解るが、何でまたうちばかり?

 まぁそんな連中は大抵夜にやってくるので、USCこと幽香の出番である。

 彼ら或は彼女らはかなり頑丈であるため、幽香の嗜虐心を程好く満たしてくれるとても便利な存在だ。

 散々楽しんで、序でに動けない様にした後、CCGに電話すれば引き取ってもらえる。

 昨夜も5人程の喰種の手足を骨が粉々になる程度に殴った後、タコの様に関節の無くなった手足を固結びにして放置してやった。

 実に良い声で鳴いてくれた…が、直ぐに真夜中に近所迷惑だったので喉の辺りを砕いて静かにした。

 最近はあんまりに多いので、CCGの人達が定期的に巡回してくれるのだが…今度から監視カメラでも設置するかね?

 後、CCGからの勧誘がウザい。

 この前調査協力してから調子に乗ってるのか、私との専属契約とかコーヒー独占売買だとか言ってくる。

 五月蠅いわボケ死ね。

 まともな経営が出来ると思うな?おk、んじゃ今後あんたらとその関係者とは取引中止な。

 第三者機関なんざ通しても調べれば分かるからなお役所さんよ。

 翌日、調子に乗った馬鹿とその上司の上司の上司が菓子折り持って連座で土下座に来た。

 な、なにを言っているのか(ry

 取り敢えず、価格はそのままだけど量は3割減って事で手打ちになりました。

 

 

 あぁ、月山君も彼女の話が聞きたいの?

 うん、他からも依頼されててね。

 はいコレ、例のコーヒーの実と豆だよ。

 おや、流石の月山君もコーヒーチェリーは初めてだったんだ。

 うん、やっぱり私が食べても美味しいし、月山君も気に入ったんだ、良かったね。

 あー…流石に常食にするには厳しいか、月山君って舌が肥えてるもんね。

 え、軽食や非常食にもなるからもっと買ってくる?

 んじゃ後は使用人さんにお願いしてね。

 後、くれぐれも彼女を怒らせないでね?

 あれ多分死神と同じで、明らかに人類の規格超えてる類の人種だから、幾ら月山君達でも危ないよ。

 うん、それじゃ気を付けてね。

 

 

 その頃、喰種対策局ことCCGでは東京都を中心とした捕食事件の減少に頭を悩ませていた。

 それ自体は喜ばしいのだが、その原因がとある農家の女性一人によるものだと言う事が彼らの矜持に多大なるダメージを与えていた。

 風見幽香、国籍日本人、性別女性、年齢22歳、独身、職業コーヒー農家。

 緑がかった黒髪と色素が薄いのか、喰種程ではないが赤みがかった瞳、そしてグラマラスなボディを持つ美女だ。

 そのプロフィールは大まかな点において極普通の一般人だ。

 しかし、絡んできた暴力団員を再起不能にしただの、お礼参りに現れた暴力団員を事務所ごと潰しただたの、逃走中の喰種を生身で制圧しただの、修学旅行先で遭遇したヒグマを殴り殺しただの、某ブラックロック特別捜査官を彷彿とさせるエピソードを大量に持つ辺り、彼女もまた逸般人なのだろう。

 現在、昼は暢気なお百姓さん、夜は害獣駆除に精を出す無慈悲な女王様として切り替えているらしい。

 それはさておき、問題は彼女が栽培しているコーヒーにあった。

 品種改良により、日本国内という四季がはっきりと存在し、夏には高温多湿となる温帯において自生するコーヒーノキを作り上げ、栽培に成功し、特許を保有している。

 これだけなら精々少しだけお茶の間を騒がすだけだが、このコーヒーが問題だった。

 なんとこのコーヒーノキから採れる実と種は人と喰種の肉とは全く関係ないのに摂取すれば喰種の栄養となるのだ。

 とは言え、人肉よりもエネルギー効率は悪いのか、保っても精々1週間程らしいが、それでも今までの対喰種研究からすれば常識外の出来事だった。

 事の次第を捕獲した喰種の証言から気づき、更に実証する事で完全に把握したCCGは即座に件のコーヒーを予算が許す限り購入した。

 コソコソと人肉を集めるより、このコーヒーを購入した方が安く、職員の精神安定にも良かったが故の即断即決だった。

 そしてCCGとしてはもしもの事を考え、即座に彼女の確保に動いたのだが、余りにも性急に事を進めようとしたため、逆に彼女からの警戒を煽ってしまい、一時は危うく全面取引停止にされる寸前になってしまった。

 これにより、CCGとしては彼女との取引をしつつ周辺を監視する事で身辺警護をし、更に取引をしているであろう喰種を割り出す予定になった。

 本来なら全面協力を頼みたい所だが、下手に刺激して取引停止は勘弁して頂きたいのが本音だった。

 なお、彼女は驚いた事に自分のコーヒーが喰種にとって栄養となる事は知らない。

 今も彼女にとって、喰種とは畑を荒らすコーヒー泥棒でしかない。

 もし彼女が喰種側に行ったとしたらゾッとする事態になっていただろう。

 栄養は彼女のコーヒーで摂取し、捕食行動は単なるスリリングな狩りとなり、個体毎の調査の難易度は遥かに跳ね上がる事が予想される。

 何せ餓えて一定期間毎に襲うのではなく、完全な娯楽として襲うのだ。

 証拠隠滅もタイミングも場所も時間も万全の準備の上で可能となる。

 更には人間を積極的に襲わない喰種の発見率もまた極端に低くなる事だろう。

 犠牲者が減る事は嬉しい、だが素直に喜ぶ事は出来ない。

 それがCCGの本音であった。

 だが、ある意味で現在の人類と喰種同士の終わりなき戦いに終止符を打つ可能性の高い発見である事は事実であり、CCG内の研究所ではクインケやRc抑制剤の開発等と共に、このコーヒーの苗木と肥料を元に解析が進められる事が決定された。

 

 

 取り敢えず様子見と研究を決定したCCGに対し、喰種業界では件のコーヒーに関する扱いは荒れた。

 13区を始めとした治安の悪い区に住まう喰種の間では、件のコーヒーで栄養を取る事は軟弱者、臆病者、人に阿る馬鹿扱いされ、大規模な喰種のグループでは件のコーヒーは負傷時の非常食扱いとして重宝された。

 それに対し、所謂穏健派の喰種にとってこのコーヒーは正に福音となった。

 人間の4~7倍程度の身体能力と捕食器官たる赫子を持ち、通常の物理攻撃では極めて効きづらい喰種と言えども近年の技術革新によって生まれたクインケを持った捜査官らの相手は困難であり、現在も多くの喰種が狩られてきた。

 だが、喰種が危険なのはその能力に加え、人しか食えないという点に集約される。

 単に優れたるだけならばまだやりようはあったが、食人という最大の汚点が人間との共存を阻む。

 しかし、あのコーヒーのお蔭でそれがチャラ、定期的に入手さえできれば人の間で穏やかに暮らす事が出来る。

 こうして、主に子持ちの一家や年寄り、女子供を中心とした戦闘が不得手な、或は人の中で生きる事を望んだ喰種は増々20区に、格安で件のコーヒーを提供してくれるあんていくを目指した。

 だが、余りの人数にいくら数日から一週間は保つとは言え、店の規模とコーヒーの量は少なすぎた。

 幸い、コーヒーそのものに関してはこの件の中心である女性から格安で提供してもらっているため、切らす事は滅多にないのだが、それでも連日大量にやってくる人数に従業員もグロッキー状態だった。

 また、他区から流入した中には狩りが出来ずに極度の栄養失調になった者もいたため、変わらず自殺者の死体集めは続ける事になった。

 取り敢えず店長の指示により応急措置として、従業員向けにしていたコーヒーチェリーもメニューとして出す事である程度負担を減らしたものの、それでもまだまだ負担は大きい。

 古参店員の元部下達にもローテーションで手伝ってもらっているが、そもそも店の処理能力を大幅に超える客足に疲労が溜まり始めていた。

 

 「このままではいけない。やはり、例の計画を実行しよう。」

 「例の…あぁ二号店ですね。」

 「既に十分な資金はある。この状態だと余り喜べないがね…。」

 「あはは…そっちは誰に任せます?何ならこの魔猿が」

 「いや、そちらは四方君に任せる予定だ。残りの人員は信用のおける者を何人か選別するとしよう。」

 「それは良いですけど…店長も少しはお休みしてくださいね。もう御歳なんですから。」

 「ははは、まだまだ現役でいるつもりさ。」

 (とは言え、このままでは誰か過労で倒れるだろうな…。)

 

 この時期から店長がもしもの時のために二号店(ただし別名)の設立を決意したという。

 こうした二極化した対応の中、寧ろ商売のために独占契約を結ぼうと考えた者達、寧ろその農家の女性を捕えて利用しようとした者達もいたが…そうした者達の殆どが、彼女によって死ぬよりも辛い、コクリアばりの拷問を受けた後にCCGへ連行される事となった。

 彼女の暴虐ぶりは、まるで嘗て暴れ回った隻眼の梟を彷彿とさせるものであり、多くの喰種は彼女との交渉は平和に行う方が賢いと悟る事となった。

 

 「素晴らしいですね、このコーヒーは。」

 「はい、観母様。苗と肥料も入手できましたので、現在総力を挙げて栽培しております。」

 「ですが、やはり彼女の育てたものに比べ、味も栄養も落ちている様ですね。」

 「申し訳ございません。」

 「いえいえ、松前君。何も私は怒っている訳ではないですし。」

 

 さて、喰種界きっての富豪である月山グループはと言うと、跡取り息子の友人により逸早くこの情報の真偽を確かめ、行動に移っていた。

 とは言え、それはあくまで穏便な手段でだが。

 

 (まさかあの黒磐特等以外に野良とは言えそれなりの喰種の首を片手で握り潰す人類が存在するとは…。)

 

 命からがら帰ってきた部下の言葉に半信半疑だった松前も、その後に己の目で見たとあっては流石に信じざるを得なかった。

 

 「習君のお友達には私がとても感謝していたと伝えておいて下さい。」

 「畏まりました。」

 「くれぐれもこの波に乗り遅れない様に。また同時に転ばない様に細心の注意を払ってください。」

 「はっ。」

 

 

 

 ある夜の事だった。

 私が久しぶりに本気を出したのは。

 相手は恐らく女の子、年の頃は解らないが、随分と小柄で幼児体形だった。

 顔は全身を覆うフードと包帯によって隠されて分からない。

 だが、片目だけが赫眼の彼女が今まで出会った事が無い程に手練れである事は解った。

 

 「こんばんは、良い夜だね。」

 「こんばんはお嬢さん。所で何の御用かしら?」

 「あは、散歩を兼ねた視察かな?」

 「ごめんなさいね、今の時間は開いてないの。」

 「ううん、こっちこそごめんね。」

 「あら、単なるお散歩なら歓迎よ?」

 「お散歩以外だったら?」

 「そうねぇ…。」

 

 悪い子にはお仕置きが必要よね?

 

 刹那、双方はほぼ同時に人類処か高位の喰種の知覚すら凌駕する速度で互いに踏み出した。

 大気の壁すら重く感じる領域で、私と彼女は拳とトーテムポールの様な不思議な赫子で殴り合った。

 10、20、50、100と、互いに一度の衝突だけで衝撃波を撒き散らすこの世界の怪物同士は、しかし互いに手札を切らない故に互角の様でいて、しかし当人達はしっかりと互いの有利不利を悟っていた。

 力は兎も角リーチと速度は共に負けると、幽香は瞬時に悟っていた。

 なら別の手を考えよう。

 何時ぞやの喰種から奪った鞄を手に取り開封、まるで傘の様な外見をしたクインケを取り出して振るう。

 型も何もあったもんじゃない。

 ただ只管に圧倒的な身体能力によって暴威を成す。

 

 「…君、本当に人間?」

 「さぁ?ま、どっちでも良いじゃない。」

 「そうだね、うん、その通りだ。」

 

 動きが止まった所で傘の先端に極光が収束、真昼の様に周囲を照らし始めた。

 

 「さぁ、豚の様な悲鳴を上げなさい。」

 「うん、やっぱ君、人間じゃないわ。」

 「さっきも言ったけど、どっちでも良いでしょそんなの。」

 

 直後、傘の先端から極太のビームの様に妖力を発射、流石にヤバいと思ったのか慌てて包帯フードの女が回避に移る。

 彼女の持つ反射神経ならこの程度は余裕で回避できる。

 だがそれは、彼女が何時も通りならであり、閃光に身を竦ませたが故に、一瞬遅かった。

 その足に、幾重にも草木が絡みついていた。

 そりゃどんな聡明な人間でも、視界を埋め尽くす程のゴン太ビームが目の前から迫ってきたら慌てるってもんである。

 そして、彼女は光の中に消えていった。

 

 「…っで、たまるかー!」

 

 だから、直線状に抉られた地面の下からぼっこりと彼女が出てきた時は驚いた。

 

 「あらそう。所で貴方、綺麗な声をしてるわね?」

 「あの、この場でそれ聞く意図が分からんのですが。」

 「ふふふ、それはね、貴方に大きくて綺麗な声を出してほしいの。」

 「あ、もう遅いんで帰りますねーさよならー。」

 「ウフフ、逃がすと思う?」

 

 再度四方八方から伸びる植物の根や蔓を、しかし、エトは赫子でそれらを振り解きながら、先程のゴン太光線の跡地を通る事で植物の妨害の薄い場所を走り抜けていった。

 

 「……退いたか。後で連絡と畑の手直しが必要ね。」

 

 だからこれを使うのは嫌なのよ。

 独り言が空しく荒れた夜の畑に響いた。

 

 

 

 

 

 そして一年後のある日、幽香はお気に入りの喫茶店である少年と出会う事になる。

 

 「あら?貴方隻眼なの、珍しいわね。」

 「え、あ!?ごめんなさい!」

 「言わないわよ別に。この店はお気に入りなの。間違っても閉店させるような事はしないから、安心なさいな。」

 「は、はぁ…。」

 「それよりも注文よろしいかしら?」

 「あ、はい!」

 

 物語はその在り様を大きく変え、新しい道を進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うーむ、これじゃない感が。
やはり短編でやるには題材が難しい。
原作沿いで某境ホラTRPGみたく、キャラと能力値、ルートだけ大まかに決定して中編で連載すべきか…。
いやしかしメカニカルもそのつもりだったのにうっかり長編になってるしなぁ(汗

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