徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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がくがくと半ば寝ながら書いたから、誤字脱字と内容が酷いかも(汗


FGO転生 オイフェが逝く

 オイフェ、と言う女性がいる。

 

 彼女はケルト神話、アルスターサイクルにおいて登場する女性であり、女神であるとも言われるが、詳細は不明だ。

 影の国の一角である「揺蕩う島」を治め、その実力は姉である影の国の女王スカサハと互角と言われる。

 未来や過去、遠い場所を視る眼を有し、気に入った者に助言を行うと言う。

 その最も有名な逸話はケルト神話最大最強の英雄たるクー・フーリンとの出会い、そして予言だ。

 オイフェとの出会いと別れ、そして予言により、クー・フーリンは影の国への修行を始めとした数々の冒険を行う事となる。

 

 

 ……………

 

 

 うっす、オラの名はオイフェ。

 2010年代から神話時代にTS転生した者です。

 気づいたらマイサンが消え、蛮族同然の暮らしを強制された元シティーボーイ(失笑)さ☆

 糞親父殿や指南役の爺から課された修行を耐え凌ぎながら、何とか今日まで生きてきました。

 まぁ親父達以上に何故かこっちを殺そうとしてくる愚姉とかいるんで、そっちには余り隔意を抱く事もなかったけどね。

 こちとら前世からのインドア派なのに、あの愚姉と来たらやれ修行だやれ精進しろだやれもっと外に出ろだと煩い事この上ない。

 インドアを表に出しても良い事なんて無いんだよいい加減にしろ!

 なので、徹底的に自分を鍛え、あの愚姉を跳ね除けられる様になった。

 が、そしたら今度はあの愚姉も自分を鍛えて強くなってリベンジしてきやがった。

 なので、今度は魔術を磨いて自分が親父殿から与えられた屋敷へと引きこもり、要塞化した。

 結果、多大な犠牲を払ったものの、猪突猛進な愚姉の撃退に成功した。

 そこからは来る日も来る日も愚姉と時折やってくる魔獣の類を迎撃すれば、好きな様に引き籠れるようになった。

 え?引き籠ってどうするんだって?

 こちとら千里眼持ち、娯楽なんてそれだけで事足りる。

 前世で未完だった小説や漫画の内容なんかを好きに見る事も自由自在!

 更に余所の不思議時空のアマゾネスの宅配便に依頼を出して、現代のゲーム等の品々を持ってきてもらい、電力ではなく魔術で稼働できる様に調整すれば、前世で求めて止まなかった引きこもり生活を満喫する事が出来る…!

 こうして、私は自己鍛錬なんかをしつつ、自堕落な生活を送るのだった。

 

 そんな日々がざっと20年近く続いた後、漸くあの蛮族 of 蛮族の愚姉がこの影の国の王として戴冠する時が来た。

 漸く、本当に漸くこれで面倒な王位継承権なんてものを投げ出せる。

 行きおゲフン!…死に損なう事が確定しているんだから、とっとと王になれば良いものを…。

 なんでか知らんけど、あの馬鹿姉はしょっちゅうこっちに突っかかて来ては「王位を寄越せ!」とか「私を殺してみせよ!」、「いい加減に真面目にやらんか!」等と言って殺しにくるのだ。

 なお、我が愚姉の容姿は対魔忍染みたピッチリスーツと赤い双槍に黒髪と赤い瞳の美女なので、この世界が型月時空である事が確定したと言っておく。

 仕方ないから鍛えた魔術を使って、何度か満足するまで死んでやるのだが、その度に激怒して私の趣味の領域である屋敷を壊して去って行くのだ。

 はっきり言って大迷惑だ。

 修行時代でも散々こっちに喧嘩吹っ掛けてきたメンヘラ気質アリアリな見た目と知識と武力だけは優れた奴だったが、年喰うごとにそれに磨きがかかるってどうよ?

 で、先程使い魔があの愚姉が「今こそ王位を決する時!いざ参る!」とか言って鮭跳びの歩法使って超音速で接近中との報告が来た。

 

 いい加減にしろ。

 追尾式自走核地雷ケルト系メンヘラ女の相手なんてしたくないんだよ、こっちは。

 

 なので、さくっと転移して物理世界のケルトの方(現在のアイルランド)へと避難しました☆

 これであの愚姉が屋敷とその周辺に配備した大量の警備とデストラップの山をクリアして、オレの私室に入ろうとも、残っているのは「王位継承オメデト!これからも私生活を犠牲にして王様稼業頑張ってね(笑)オレは迷惑にならん程度に好き勝手するから(意訳)。」とメモ書きを残しておいたので、これで不戦勝って事で戴冠も問題ないだろう。

 

 

 ……………

 

 

 「ふー、やっぱ普通の土地は良いなぁー。」

 

 散歩するだけで猪とか竜とか蛇とか神霊とかとエンカウントする影の国とは大違いだ。

 あっちは散歩すら命がけだからな!

 

 「あ、そう言えばお金……まぁ吟遊詩人っぽい事すれば良いか。」

 

 一応ケルトの最高権力者でもあるドルイドの資格も持っているので、早々困りはしないだろう。

 亜空間に荷物とかは突っ込んであるから、必要ならそっちから取れるし。

 

 「さ、行こっか。この時代なら、飯マズなんて事も無いだろうし。」

 

 こうしてオイフェは、女王になったが故に国に縛られ、強くなり過ぎたが故に死から逃げられたスカサハを後目に、のんびりと旅を始めるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 影の国領海内、揺蕩う島にて

 

 「………………馬鹿な……。」

 

 薄手の特徴的な黒装束と赤い双槍を持った女が、呆然と瓦礫の上で呟いた。

 島のあちこち、否、海上にすら多くの使い魔やゴーレム、魔獣等の残骸が散らばり、毒や魔術を応用した悪辣なトラップ群の全てが踏破されていた。

 それを成した女は相応に全身に傷を負っていたが、その全てが肌を小さく切るか、僅かに肉を削ぐのみで、その五体に戦闘の支障となりそうな傷は無い。

 そんな彼女は今、槍を取り落とし、僅かに破れ、焦げていたメモ書きを手にして、呆然自失としていた。

 

 「………………何故だ…。」

 

 それでもなお、彼女は、スカサハは負けていた。

 否、正確に言えば「相手にされていなかった」。

 彼女の妹であるオイフェにとって、人類史上でも屈指の実力者である筈のスカサハも、単なる傍迷惑な暴力女でしかない。

 この神代ならば兎も角、現代人のメンタルを持って誕生したオイフェにとって、直ぐに暴力で何事も解決しようとするスカサハやこの時代の戦士達は軽蔑に値する者達であり、積極的に関わる気なんて微塵も起きなかった。

 顔見知り以外で何かあろうものなら、スカサハと互角に戦える実力で以て乱暴者を捻じ伏せるか、無抵抗でズタボロになりながら死んでもなお道理で以て説得をし続けるかの二択だ。

 前者は二度と馬鹿な真似は出来ない様に両膝両肘を砕かれ、戦士として二度と戦えないようにする。

 後者は後者でどちらに非があるのかを明確にし、王族に一方的に手を上げた事も利用して、国全体で村八分状態にされる等、非理性的な行動を行う者を徹頭徹尾嫌っていた。

 だが、そんな事は当時若かったスカサハには分からなかった。

 振るえば振るう程高まる自分の実力に酔って、取返しの付かない事をしてしまった。

 自分と同じ位の実力を持つ妹に勝負を挑み、双方の実力を高めようと言う試み。

 スカサハは喜々として武器を振るい、オイフェはうんざりした顔でそれを受け、回数が重なる毎にその瞳を冷え冷えとしたものへと変えていった。

 それをスカサハは気付きつつも、武をぶつけ合う楽しみを優先して、眼を反らし続けた。

 その果てが、この結果だった。

 

 『戴冠おめでとうございます。

  益々の御国の発展をお祈り申し上げます。

  ですが、現状私が国にいては、私を担ぎ上げて利益を得ようとする輩に利するばかり。

  なので、私は国を去り、別の土地へと向かいます。

  これよりは我が身を妹と思わず、国のために終生尽力して頂く事を願っております。

  

  オイフェより           』

 

 そんな事務的な言葉と報告が欲しい訳ではなかった。

 違う、そうじゃないんだ。

 私はただ、子供の頃の様にお前と戯れていたかったんだ。

 難しい事を考えず、ただ一緒にいて、苦楽を共にしたかった。

 この影の国で、最早私と戦えるのはお前だけで、お前と戦えるのも私しかいなかった。

 だが、そんな子供心は親や周囲の大人達からは見えない。

 生半可な知識があっても、相手への思いやりに欠けた少女時代のスカサハでは、妹の眼の奥に光る軽蔑の色に気付く事は出来なかった。

 妹が争い事を極端に嫌い、それを自分に強制させるスカサハを心底嫌っているという事に。

 その結果がこれだ。

 自身を殺し得る数少ない人間の一人である自身の妹との絆を、スカサハは彼女自身の欲と行いによって無くしてしまったのだ。

 

 「違う、違うんだ!私はただ、お前と一緒にいたかっただけで…!」

 

 だが、全てはもう遅い。

 オイフェは影の国を去り、最早この国にスカサハを殺せる者は一人もいない。

 惨めに毒を飲むか、この首を刈っ切るか、心臓を貫くか。

 そんな名誉も何もない状況なら、もしかしたら死ねるかもしれない。

 しかし、そんな惨めな死に方を、誇り高き影の国の女王となった彼女が選択できる筈もない。

 

 「すまない…すまない……オイフェ……!」

 

 たった一人となってしまった未だ若き女王は、自身の過ちに気付いた所で死ぬ訳にはいかない。

 彼女の他に王位を継げる者はなく、戦士としても魔術師としても、多くの弟子を取ってしまったが故に迂闊に動く事も出来ない。

 スカサハは己自身の咎で愛する妹との再会の権利を剥奪されていた。

 

 残ったのは、瓦礫の山の上で哀れに泣き出す女が一人。

 だが、誰も声をかける事は無い。

 この島にいた全ての生き物を殺し尽くし、今また勝手な理由で泣き叫ぶ女に、誰も味方はいなかった。

 

 

 

 


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