徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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年内の更新はPCの故障もあってこれで最後かもです。
では皆さん、よいお年を~ノシ


血界戦線転生 デザインベビーが逝く

 死んだ、はずだった。

 

 先行きの暗い人生に絶望してか、日々のストレスと疲労か、それとも事故死か他殺か。

 どれだったかは最早分からないしどうでも良いが、間違いなく碌でもないものだったと断言はできる。

 そんな死から、気付けば自分は温くてヌルヌルする液体の中で浮かんでいた。

 薄暗く窓もない部屋で、妙な液体で満たされた容器の中に、自分はいた。

 

 「やはり一部の発達に問題が…」

 「ですが対血界の眷属には…」

 「血液操作を応用できないか?」

 

 白衣を着た学者達がこちらには視線も向けずに熱心に会話し続けている。

 成程、今現在の自分はどうやらこの連中の実験体か何かの様だ。

 しかも、今嫌な単語が聞こえた。

 血界の眷属、確かにそう言っていた。

 と成れば、ここはあの技名叫んでから技が命中する対吸血鬼組織が元ニューヨーク、否、紐育で頑張るお話の世界なのだろうか?

 決めつけは良くないが、そうだった場合、死亡率が凄まじい事になるだろう。

 まぁ、それはあくまでHLだからであって、他の場所で暮らす分には問題無いんだろうけど。

 

 「やはり実戦データが無い事には…」

 「しかしテストするにもまだ未成熟すぎます。」

 「だがこれ以上はスポンサーが…」

 

 おっと、何だかお話の雲行きが怪しくなってきたぞーう。

 さらっと確認した所、この身体はかなり幼い。

 手足が短くて柔らかく、確認できる場所は全体的に華奢だ。

 こんな身体で荒事なんてしようもんなら、一発で昇天できる事だろう。

 だが、よくは分からないが追い詰められている感じのするこの連中と来たら、こんな幼い身体で更に実験をするつもりらしい。

 端的に言って屑だが、現状ではどうしようもない。

 何の訓練や入力も無しに行われるとは思わないが、もしもの時の事は覚悟しておこう。

 だが、何れはこの連中に報復する。

 人を人と思わない連中、しかも人体実験まで躊躇いなく実行していたであろう連中に、情け容赦は必要ないしな。

 

 そして、嫌になる程の実験とその倍位の気絶と強制的な覚醒を繰り返す日々を送った。

 苦痛に次ぐ苦痛に、記憶と意識、人格は磨耗していった。

 日も差さないこの場所では、時間の経過を実感する事は出来ない。

 ただ、学者達が就寝のためにいなくなる時間が来る毎にカウントしているだけだ。

 それによれば、日に数度は実験のための投薬(各種副作用アリアリ)と刺激実験(電撃や熱に寒さ等)で気絶しているらしく、自身の精神が鑢で削る様に擦り減っていく事が実感できてしまう。

 まぁ前世でも程度は違えどこの手の苦痛には慣れているので、まだまだ持ちはするのだが。

 そんな腹の底に黒いものがドンドン溜まっていった頃だった、転機が訪れたのは。

 

 「糞、何がどうなっている!?」

 「警備の連中はどうした!敵は何処の…!」

 「狼狽えるな!それよりも今は研究資料の避難が先だ!」

 

 何かここ、襲撃されてるらしいです。

 正義の味方的な人だったら良いなーとは思ってますが、はてどうだか…。

 

 「何…?警備部隊が沈黙?相手は……」

 

 あ、何かモニターに監視カメラの映像が出てるらしく、真っ赤に染まった通路らしき所を一人の女性?(見難いけど美人っぽい?)が歩いてる。

 って、あれ?

 殺された死体とか血液が何か吸収されてるくさい。

 さっきから真っ赤だった通路が綺麗になっていってるし。

 

 「馬鹿な、血界の眷属に嗅ぎつけられたのか!?」

 

 その映像見てた学者の一人が叫んだので、やっぱり確定らしい。

 

 「全隔壁封鎖!後に施設を自爆させろ!」

 「その程度でどうにかなる相手か!?そもそも我々も巻き込まれるぞ!」

 「ならどうしろと言うんだ!」

 

 「いや……此処に取って置きがいるだろう。」

 

 そう言って、リーダー格の学者がこちらを見た。

 あーこれはあれですね、試作機なのに出撃させられるパターンですわ。

 

 斯くして、自分は全く嬉しくない形で、容器の外に出る羽目になった。

 

 「え?」

 

 リノリウムの白い床に立つと同時、指先を噛んでつけた傷から出血する。

 その血液は対吸血鬼、即ち血闘道へと最適化されるべく作られたもの。

 極僅かな血液を操作し、ピアノ線以上の細さと頑強さを併せ持った超極細のワイヤーを作り出し、薙ぎ払う。

 瞬きも出来ぬ程の刹那で、子供以外の全ての学者達はその行いの報いを受ける事となった。

 

 

 ……………

 

 

 「おや、今度の出し物は何かしら?」

 

 吸血鬼、血界の眷属を殺す手段は無い。

 或は、彼らの祖を生み出したであろう超越存在ならば、その方法を知っているかもしれない。

 しかし、現状では人類のみならず、如何なる異界人達でも、彼らの殺害の方法は知らない。

 人体のDNAに直接改造術式を刻み込まれた彼らは個体差こそあるものの、身内を除いたあらゆる他者と隔絶した能力と極めて高い術式運用能力を持つが故、傲慢で慢心で残虐だ。

 あらゆる法と理を無視して、彼らは今日も血を啜る。

 そして今日、自分達の対抗手段を研究していると言う噂を聞きつけ、その噂の出元にやってきた物好きな吸血鬼がいた。

 

 「……?」

 

 通路の奥、この施設の最奥部のドアが開くと、不意に自分がぶちまけていない筈の匂いがした。

 夥しい血の匂い。

 自分がまいた分は既に吸収しており、何処にもない。

 つまり、この奥で人間同士が殺し合ったのだ。

 

 「またつまらない真似を…。」

 

 吸血鬼となってからは何時もこれが。

 勝てないと悟った相手は、あっさりと降伏か命乞い、或はこうして自害する。

 最後の最後まで必死に抵抗して、剰え自分達と戦える者は少ない。

 

 (これじゃ研究資料も期待できないわね。)

 

 術式を始め、各種知識にも精通しているのが血界の眷属の特徴だが…何の事は無い、不死による永久ともいえる退屈を紛らわせるための手慰みの一つに過ぎない。

 この吸血鬼もまた、そうした目的の一環で此処にやってきた。

 

 「ん?」

 

 ゆらり、と通路の奥の部屋から何かが出てきた。

 

 「子供?」

 

 奇妙な子供だった。

 全身に返り血を浴びた、真っ白な子供。

 肌も髪も白く、目だけが血の色をしているアルビノの子供。

 見た所、構造上は間違いなく人間のそれだ。

 

 「………。」

 

 ゆらゆらと、何処か覚束ない足取りで子供は自分の脇をすり抜ける様にして少しだけ右に逸れて通路をすれ違おうと歩いていく。

 

 「少し待ってくれるかな?」

 「?」

 

 が、見過ごす訳にもいかないので、吸血鬼は声をかけた。

 

 「後ろの連中は君がやったの?」

 「……。」

 

 こくこくと、幼子そのままに答える姿にふと違和感を抱く。

 話さない、否、話せないのだ。

 

 (しかし、同胞でもないこんな幼児が複数の人間をああも殺せるかしら?)

 

 そこで気付く。

 この子供こそが、奴らの作った「兵器」なのだと。

 

 (馬鹿な事を。我々を倒すために、新たな怪物に殺されては意味が無いでしょうに。)

 

 例え勝った所で、今度はこの子供とその後継機による問題が出る事だろう。

 否、この様子では見た通りの者として制御できていないと見るべきか。

 どの道、新たな厄種を生み出しただけでしかない。

 

 (とは言え、どうするべきか。)

 

 ここで殺すのはまぁ簡単だ。

 しかし、それは何とも芸が無い。

 

 「行く当てがないのなら、私と一緒に来る?」

 

 同胞の中にはペットとして、或いは何がしかの思う所がある故に人間と共に過ごすという。

 これもまた永い時を過ごすための一興と、女吸血鬼は戯れに子供を飼う事を決めた。

 それがこの子供にとって、その中身の人物にとって、どれ程大きく深い意味があるのかと知らないままに。

 

 「………。」

 

 少し逡巡した後、子供はこくんと頷いた。

 おずおずと伸ばされた手を美貌の女吸血鬼は微笑みながら握った。

 

 「さぁ行きましょう。此処は居心地が悪いもの。」

 

 子供は何も言わない、喋らない。

 ただ、自分と同じ白い髪と紅い目の色をした吸血鬼の手をぎゅっと握った。

 

 

 ……………

 

 

 「例の研究所が壊滅した?」

 

 その報告を聞いた時、スティーブンの胸に去来したのははやはりな、という思いだった。

 あそこは牙狩りでも鼻摘み者の集まりだった部署、吸血鬼を殲滅するために彼らと同じく血闘術を伝える家のDNAを採取し、改造し、同格かそれ以上の兵器を開発するのが目的という狂気に満ちた場所だ。

 スティーブンの家もDNAの提供を請われたが、クラウスの家と同様にこれを断固として断った。

 だが、幾つかの衰退した家ではこれに応じたとの噂もあり、流石のスティーブンもこれには眉をしかめた。

 

 「で、原因は?どうせ実験体の暴走とかだろう?」

 「いえ、それが血界の眷属によるものらしく…。」

 「なに?」

 

 普段は人間の行動にノータッチのノーライフキング共が態々自分達を殺すための兵器を開発している場所に何故?

 普通なら開発を頓挫させるため、と思う所だが相手は血界の眷属、未だ殺す方法の発見されていない相手だ。

 そんなものを気にした所で何になるというのか?

 

 (まさか、見つけたのか、奴等を殺す方法を?)

 

 スティーブンの思考はそう的外れでもない。

 確かにあの幼児は桁外れの才覚と適正を併せ持った怪物的な人間だが、それだけでは吸血鬼は殺せない。

 しかし、既にこの街には、ライブラには吸血鬼を数百年封じる手段がある。

 滅ぼす手段があったとしても、何ら不思議ではない。

 

 「詳細は不明ですが、現在は研究所跡から出てきたと思われる二人組を捜索している所です。」

 「捜索を続行。連絡は密に、決して気取られるなよ。」

 「はっ。」

 (悪い事にならなければよいが…。)

 

 スティーブンの心配を他所に、二人組は捜索を振り切った後にその一ヵ月後にHLに出現、レオによって正体を見抜かれた事から、戦闘に突入する事となる。

 その際、吸血鬼を母親と慕い、見事な連携と血闘術を操る子供に大苦戦する事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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