徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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IS転生 魔改造セシリアが逝く その6

 「えー皆さん、来週はクラスリーグマッチがありますので、今の内から備えておいてくださいねー。」

 「「「「はーい!」」」

 

 今日もIS学園一年一組は元気だった。

 山田先生への返事も元気よく皆笑顔で返している。

 まぁ内容はIS学園独特なものだったが。

 クラスリーグマッチはクラス代表同士が行う総当たり戦で学年ごとに行われ、現在の各クラスのIS学習の進捗を測るために開催される。

 また、外部からの観戦者も多く、企業等が優秀な人材を見つけ、自社へと勧誘する場合もある。

 そのため、例年は皆気合を入れ、相手側の情報収集や機体の調整や装備選択に走るのだが、今回の一組は参加するのがセシリアであり、他の組には専用機持ちが4組以外いない事もあり、その4組にしたって大人しそうな理系(と言うかオタク)の簪なので、皆警戒心が皆無だった。

 

 (簪さんは射撃よりですが全距離対応可能な腕前。打鉄弐式も武装は兎も角機体の方は出来上がっている筈ですし、油断は禁物かな?)

 

 が、セシリアだけは油断なく勝ち筋を考えていた。

 

 「その情報、古いよ。」

 

 そんな一人除いて緩んだ一組の空気を吹き飛ばす様に、一人を除いて見慣れないツインテールの小柄な少女が一組の扉を開けていた。

 

 「今日から二組に転校してきた鳳鈴音よ。今日は宣戦布告に来たわ!」

 

 ババーン!とSEが鳴り響きそうな感じだったが、生憎とシリアスはそこまでだった。

 あっさりと一夏に化けの皮を剥がされた鈴音はそのまま口論するかと思いきや、やってきた千冬の出席簿を食らって敢え無く退散した。

 

 (何がしたかったのかな?)

 

 セシリアは原作にあるシーンだけど、よく分からんと頭を捻った。

 

 

 ……………

 

 

 「即座にISを解除しなさい、鳳鈴音代表候補生。」

 

 一夏に貧乳だと揶揄され、教室内で怒りのままにISを部分展開した鈴音の背後、そこには普段の穏やかさの一切を捨て、冷徹な眼差しで氷の如く警告を発するセシリアの姿があった。

 その手にはいつも使っているスターライトmkⅢカスタムが構えられ、その照準が既に鈴音へと合わせられているのは言うまでもない。

 下手に動けばそのまま発砲する事もまた同じ。

 

 「っ、あんた…!」

 「学内での無許可のIS装備は校則によって禁止されています。」

 

 急ぎセンサーのみ部分展開をした白式が言うには、既にレーザーライフルの安全装置が解除されている事も告げていた。

 

 「これ以上は私も中国政府及び学園側へ報告せねばなりません。」

 

 その声音から感じられる威圧感に、その場にいた全員が言い知れぬ冷たさを感じていた。

 ある者は喉元に突き付けられたナイフを、ある者は背筋に差し込まれた氷を、またある者は冬の海に落ちてしまった時の感覚を、それぞれ感じていた。

 これこそが殺気、或いはプレッシャーと言われるもの。

 未だ本物の戦場へと出た事のない、正しく高校生になったばかりの子供達には余りにも強烈すぎた。

 

 「く…………っ……………ふー、分かったわよ。」

 

 諸々の感情を吐き出したのか、鈴音は素直にISを格納し、両手を頭の上に挙げた。

 

 「で、私をどうするつもりかしら?」

 「ISを展開したのはやり過ぎですが、今回は初犯であり、先程の会話内容から非は織斑さんにあります。ですので、私からはこれ以上何も致しません。」

 

 自身も武装を格納し、粛々と判断を告げるセシリア。

 しかし、その視線は未だ冷え冷えとしていた。

 

 「で、織斑さん?」

 「は、はい!!」

  

 にっこり、と花咲く様な笑顔を浮かべるセシリアに、しかし一夏は背筋を正して答える。

 だって千冬ねぇのキレた時みたいでめっちゃ怖いんだもんby一夏

 事実、彼女の視線は絶対零度、或いは道端の犬の糞を見るが如く嫌悪感に満ち溢れていた。

 

 「顔馴染同士で口論していたとは言え、女性の体型をけなすのは人として最低な行為です。」

 「はい、申し訳ありませんでした!」

 

 そのまま綺麗に腰を直角に曲げる一夏。

 しかし、セシリアばかりではなく、周囲からの視線は未だ冬真っ盛り。

 それも当然、一夏は謝る相手を間違えているからだ。

 

 「私に言ってどうするのです?」

 「はい!鈴、本当にごめん!」

 「あ、うん。」

 

 余りの事態に鈴音は目をぱちくりさせる。

 中学時代では考えられなかった事態に、流石の彼女も戸惑っていた。

 

 「取り敢えず、この場ではここまで。言いたい事があれば、互いに人目の付かない所でやってくださいませ。」

 「そうだな。まさか私の目に届く場所でこうまでやらかされてはな?」

 

 セシリアの背後、そこから聞こえた声とプレッシャーに、その場の全員が凍り付いた。

 

 「さて、取り敢えず事情を話せ織斑。お前達への罰はそれから考えてやろう。」

 

 世界最強のマジギレ笑顔に、セシリア含むその場の全員が顔を青ざめさせた。

 

 

 ……………

 

 

 「いやーびっくりしたー。オルコットさんだっけ?あの人、色々凄いわね。」

 

 放課後、特別課外授業も終わった頃、偶にはと訓練を休みにして、鈴音と一夏は箒を見届け人として互いに謝罪を行い、遺恨無しとなった。

 そして、一夏と箒の部屋でお茶をしながら話すのは、セシリアの事だった。

 

 「うむ、我々もオルコットには随分世話になっている。正直頭が上がらん。」

 「ってか、もう足向けて寝られない感じだよ、うん。」

 「そこまでって、具体的には?」

 

 二人の様子に鈴音は目を丸くしながら興味津々で尋ねる。

 彼女としても、昼間の様子から色々と気になっていたのだ。

 

 「ISの訓練に授業の遅れてる所全般。」

 「後はISに関わる者としての心構えとかだな。」

 

 今現在は特別課外授業は先生二人のどちらかによって行われているが、クラス代表決定まではセシリアのみによるものだった。

 そして先生二人の本職による基礎固めのための授業を経て、改めてセシリアの授業内容がいかに初歩的かつ分かり易かったのかを実感した。

 最近では一年生の授業内容なら十分についていける様になった二人は、成績面でもめきめき結果を出してくれて教師陣も満足だった。

 

 「『ISであるかどうかは関係ありません。殺傷力を持った道具を扱うのなら、それ相応の心構えと知識が絶対に必要です』。正直、目から鱗だった。」

 「私もだ。姉さんが作ったものだからと、勝手に嫌厭していた。」

 

 道具は道具であり、それ以上ではない。

 ISと言うものを新聞やニュースでしか知らなかった二人にとって、嘗て道場で習った剣を持つ事の重さと通じるその言葉は、本当の意味で二人がISに向き合う切っ掛けでもあった。

 

 「私も専用機を与えられるかもしれん。その時、今日の鳳の様にISを振り回し、結果誰かを傷つけないか心配だ。そうならないためにも、しっかり課題をこなしたい。」

 

 セシリアによる常識の刷り込み兼カウンセリングにより、箒は漸く年齢に合った落ち着きや判断力を身に着けつつあった。

 些か以上に持っている武力が過剰だが、それでも大きな前進だった。

 

 「そっか、成長してんのね。」

 

 その二人の様子を、鈴音は嬉しい様な寂しい様な、複雑な表情で見るのだった。

 

 

 ……………

 

 

 5月中旬、クラス対抗リーグマッチの季節がやってきた。

 その第一試合の組合わせは1組VS2組。

 それまでの間、一夏達は相変わらずの訓練と課外授業を行い、セシリアも訓練とクラス委員の仕事をしていただけだった。

 その中で鈴音とも交流し、互いに先日の騒ぎについても既に済んだ事として、友人関係を構築できていた。

 だがまぁ、それはそれとして勝負に手を抜く訳も無く。

 

 『オルコットさん、ちょっと良いかな?』

 『何でしょう?』

 

 間もなく試合開始。

 既にISを纏い、ピット内で待機していた所に、鈴音から通信が入った。

 

 『このままだと言いそびれちゃうから言うね。一夏達、鍛えてくれてありがとう。』

 『いえいえ。初心者に手を差し伸べるのは先達として当然の事ですわ。』

 

 相変わらずのんびり優雅で穏やかなセシリアの声に、鈴音も知らず笑みが零れる。

 

 『一夏の奴、再会した時にすんごい大人びた顔してたからさ。正直、そんな顔をさせたオルコットさんが羨ましかった。私じゃ絶対無理だって分かったから余計に。』

 『………。』

 

 鈴音にとって、一夏はヒーローだった。

 虐められていた自分を助け、友達となり、学校に馴染める切っ掛けを作ってくれた人。

 当然の様に恋を抱き、しかし家庭の事情で両親は離婚、自身は母の母国へと移住する事となった。

 また会いたい。しかし尋常な手段では許されない。

 だから、鈴音は必死に努力を重ね、僅か1年で中国の代表候補生と成り上がった。

 無論、専用機の貸与は政府側の思惑もあるのだろうが、それでも彼女の努力無くしてはあり得ない結果だった。

 そして、そうまでして再会した初恋の相手は、嘗てよりも大人に、男の顔をする様になっていた。

 本当の大人からすればまだまだ青二才、若輩者なのだろうが、それでも鈴音にとっては驚天動地だった。

 正直、見ててドキドキしまくってちゃんと話せているか分からなくなる時もあったが、それでも大凡の経緯を掴む事は出来た。

 セシリア・オルコット。

 英国の代表候補生筆頭にして、第三世代ISブルーティアーズを駆る生粋の貴族令嬢。

 誇り高く、穏やかで、包容力と責任感を併せ持った、とても同年代とは思えない少女。

 正直、彼女が一夏に惚れてたら負け確定と心折れていたかもしれない。

 それは兎も角、鈴音はまだ友人の立場として、一夏を成長させてくれた人にお礼を言いたかったのだ。

 

 『私もクラスメイトが不遇というのは良い気分ではありませんので、礼には及びませんわ。』

 『そっか。でも言いたかったんだ。』

 『ふふ、なら仕方ありませんね。』

 

 くすくす、と互いに何がおかしいのか笑みが零れてしまう。

 これから試合だと言うのに、二人の間には穏やかな空気があった。

 

 『でも、手加減なんてしないんだから!』

 『えぇ、そこはまた別のお話ですから。』

 

 「鳳鈴音、甲龍行くわよ!」

 「セシリア・オルコット、ブルーティアーズ行きます!」

 

 そして、二機のISが空へと躍り出た。

 

 

 ……………

 

 

 「先手、貰うわよ!」

 

 ピットに出た二機のIS、先に仕掛けたのは鈴音の駆る甲龍だ。

 初手は第三世代兵装である「龍咆」。

 空間自体に圧力をかけ砲身を作り、衝撃を砲弾として打ち出す衝撃砲を主兵装とする。

 砲弾だけではなく砲身すら目に見えない上に、実弾兵器と違ってエネルギーさえあれば幾らでも撃てる。

 その上、光学兵器の類にありがちな排熱も低く抑えられている辺り、エネルギーの伝達効率に優れている。

 また、その特性上砲身の稼動限界角度が無く、搭乗者のイメージする位置に砲身を形成、発射する事が出来るという、機体本体の燃費の良さも合わせて、隙の無い良作と言えるISだ。

 甲龍の背後に浮かぶ非固定浮遊部位、そこから放たれる不可視の砲弾に、セシリアは自身の前面へとストライクシールドを展開しつつ、その隙間からレーザーライフルを構え、自身の第六感の言うがままにレーザーを発射する。

 ここで改めて言うが、龍咆の砲身は圧縮された空間だが、その砲弾は衝撃であり、衝撃を伝えるための媒介となるのは空気である。

 つまりは、ドラえもんで有名な空気砲なのだ。

 これが水中なら水がその代わりとなるが、その場合は減衰が凄まじく、至近距離でしか通じないだろう。

 また、宇宙空間においては空気が無いので意味がない。

 そういう意味ではISとして失敗しているのだが、それはさておき。

 

 Q.砲弾として使用可能な程に圧縮した空気をレーザーで一気に過熱したら?

 A.只でさえ圧縮して高熱化してるんだから、そりゃ爆発するでしょ。

 

 何も無かった筈の空間にレーザーが命中した瞬間、鈴音が発射したのと同じ数だけ立て続けに爆発する。

 初見殺しとも言える不可視の砲弾は、ニュータイプの勘と言うどうしようもないもので至極あっさりと攻略されてしまった。

 

 「なんで、初見で龍咆が分かるのよ!?」

 「Don't think, feel it!」

 「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 鈴音の叫びを余所に、セシリアは一定の距離を保ちながら立て続けにレーザーを発射する。

 その射撃はいっそ魔的と言ってもよく、鈴音の必死の回避の甲斐もなく、必ず命中し、そのエネルギーを削っていく。

 加えて、セシリアは全く被弾していない。

 精々が至近距離で迎撃した龍咆の砲弾の爆風だが、それとてきっちりストライクシールドで防ぎ切っており、攻撃と機動分のエネルギーしか消耗していない。

 如何なる妙技か、彼女は鈴の撃つ龍咆を完全に初見で見切り、たとえ迎撃せずともまるで何処に放たれるのか分かっているかの様に、一切の危なげなく回避していく。

 対して、甲龍はその燃費の良さと接近戦型特有の頑丈な装甲もあって何とか落ちていないが……

 

 「隙あり。」

 「きゃぁ!?」

 

 開始1分で左の非固定浮遊部位、龍咆のユニットが撃墜され、更に装甲を一枚一枚剥がしていく様にじわじわと嬲られていく。

 有利な事もあるのだろうが、セシリアの顔には一切の動揺も苛立ちも、慢心も油断も無い。

 まるで淡々と決められた作業をこなしていく様な、一切の雑念の混ざらない真顔で鈴音を追い詰めていく。

 その姿に観客どころか解説役すら実況を忘れて見入ってしまう。

 努力の天才とも言える鈴音には悪いが、多くの者達がこう思ってしまった。

 

 格が違う。

 

 セシリアの技量、と言うよりも特典込みの実力は既にモンドグロッソの様な国際大会でも十分通じるレベルになっている。

 だというのに、未だ多くいる代表候補生達の中の一人では、その中でも屈指の才覚を持っているとは言え、相手をするのは余りにも荷が重かった。

 

 (このままじゃジリ貧…だったら!)

 

 開始から2分、彼我の戦力差を完全に悟った鈴音はそれでもなお勝利への道筋を諦めていなかった。

 射撃で完敗ならば得意な接近戦で戦う。

 残った龍咆を牽制のために連射しつつ、二振りの無骨な青龍刀「双天牙月」を連結、そのまま回転させ、即席の盾としながら瞬時加速を敢行、強引に距離を詰める。

 それをセシリアは最初から予期していのか、大方の予想とは反対に、自身もまたレーザーライフルに銃剣を付けると、応える様に瞬時加速で前に出た。

 

 「ッ!」

 

 判断は一瞬、双天牙月を分離させる暇も構えを取る暇も無い。

 

 (だったらこのまま押し切る!)

 

 盾として前面で回転させていた刃をそのままに突貫する。

 衝突すれば、近接型である甲龍の方が当たり勝ちできる。

 だが、見ていた全ての者達を含め、彼女の予想は外れた。

 

 「ッ!」

 

 不意に、セシリアの脳髄に電撃にも似た閃きが過ぎる。

 無邪気な悪意と命の無い殺気、それが空から落ちてくる感覚。

 レーザーライフルの出力を最大値に設定した上で、正面から迫り来る回転刃の中心部、即ち青龍刀の連結部へと照射、ものの半秒で焼き切ってしまう。

 すると、鈴音は身を守る盾を失い、回転時のベクトルのまま明後日の方向へとすっ飛んでいく青龍刀を捕まえるために両腕が伸びきってしまった。

 

 (あ、終わ)

 

 だが、鈴音の予想は外れた。

 セシリアはライフルではなく、その脚部でまるで正面から抑え込む様に鈴音の両肩に衝突、自機の脚部へメキメキと負荷をかけつつ、その推力を急激に減少させる。

 そして、何を思ったのか、鈴音を反対方向へと蹴り飛ばし、自身もその反動で一気に後退する。

 

 直後、二機のいなくなった衝突地点を、アリーナのエネルギーシールドを直上からぶち破った極太のビームが貫いていった。

 

 

 




セッシー「キュピーン!」
2組「もう何が何だか」

セッシー、アホ共にブチ切れる&順調にNTとして成長中。

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