徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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IS転生 魔改造セシリアが逝く その7

 「な、何なのよぉ!?」

 

 鈴のその叫びが、その場の一同全員の意見を代表していた。

 観客席と試合会場を隔てるアリーナのエネルギーシールド。

 それが直上から大出力のビーム砲で以て一撃で貫通、地面に着弾し盛大な爆発と共にクレーターと噴煙を上げたのだ。

 

 「あら。」

 

 そんな中、セシリアは特に動揺する事もなく、己目掛けて発射されたビーム砲をヒラリと回避する。

 見れば、クレーターの真ん中に一機のIS?が右手をセシリアに向けて立っていた。

 頭部と胴体は兎も角として、肥大化した両肩と腕部に比し、その脚部はISにしては偉く小型でほっそりとしている。

 まるで乗り手の体を考慮していない、否、する必要のない構造に、セシリアはすっとその垂れ気味な目を細める。

 

 (殺気はするのに人の気配がしない。やはり無人機ですか。)

 

 凡そ原作通りの展開にうむと内心で頷くと、再度ビーム砲を発射した不明ISに対し、セシリアは戦闘を開始した。

 

 

 ……………

 

 

 アリーナ全体を管理する放送室では、突発的な事態にてんやわんやだった。

 

 「どうしてもダメか?」

 「はい。やはりこちらの操作を受け付けません。アリーナのシールドは最大出力のままで、通路も全隔壁が降りてます。外とも連絡がつかないですし、これじゃ避難のしようが…。」

 

 不明ISが衛星軌道上から急降下してアリーナをビーム砲でぶち破って侵入した後、アリーナは外部からのクラッキングによってその機能を完全に奪われていた。

 今できるのは、精々が内部での通信位なものだった。

 

 「ふむ……織斑に繋げろ。こんな時こそ役に立ってもらうとしよう。」

 

 にやりとニヒルに笑いながら、千冬は使えるものを使う判断を下すのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「皆、今から隔壁をこじ開ける!そうしたら手順通り避難を開始してくれ!」

 

 観客席、そこではパニックにこそ未だなっていないものの混乱したままの生徒達が鮨詰め状態だった。

 このままではいつパニックになるか分かったものではない。

 もしそうなってしまった場合、暴走した生徒達によって悲惨な事故が起きかねない。

 だからこそ、千冬は打てる手を打った。

 

 「一夏!この扉からやってくれ!ここの通路が一番隔壁の数が少ないし、すぐ外に出られる!」

 「分かった!箒は下がってくれ!」

 

 そして、ISを手足のみに纏った一夏が雪片弐型を大上段に振り被り…

 

 「せぇあッ!!」

 

 一刀の下に両断する。

 

 「ありがとう織斑君!」

 「まだだ、次の隔壁に行くぞ!」

 「皆、落ち着いてついてきてくれ!」

 

 左右に切り開かれた通路を通って、生徒達が徐々に避難を開始する。

 例えアリーナのシールドエネルギーを破って加勢に入った所で、一夏の腕前ではたかが知れている。

 ならば、こうして周辺の安全確保にこそその力を使った方が遥かに効率が良い。

 セシリアに負け、それでいて勤勉に知識と実践を積み重ね続けた故に、一夏は千冬からの避難の支援という命令に快く是と答える事が出来た。

 

 「一夏!皆の避難が終われば、訓練機の格納庫に行くぞ!」

 「分かった!先生方を案内すれば良いんだな!」

 「あぁ!急いでくれ!」

 

 一夏一人ではたかが知れている。

 だが、プロである教職員らが練習機に乗る手助けはできる。

 彼女らは全員が元代表候補生や国家代表、そうでなくても優れたISライダーである。

 確実に現時点の一夏よりは役に立ってくれる事だろう。

 

 (待っててくれ、オルコットさんに鈴!)

 

 三枚目の隔壁を切りながら、一夏は今も戦っている二人のためにと避難を急ぐのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「飽きましたわ。」

 「そんな問題なの!?」

 

 不明ISとの戦闘を開始して早十分。

 敵の攻撃の全てを回避してみせたセシリアは、退屈そうに呟いた。

 

 「射撃を始め行動には一定のルーチンがあり、挑発すれば直ぐに照射か拡散ビーム。余りにも分かり易いですわ。これではデーモンズスピリットのHardを周回プレイしていた方がマシというものです。」

 「あんたがマゾゲーマーなのは分かったけど……ルーチンがあるってマジ?」

 

 ヘイトの殆どがセシリアに向けられており、時折放たれる牽制のための射撃にさえ気を付ければ比較的気楽な鈴音は、セシリアの聞き捨てならない言葉を聞き返した。

 

 「生体反応もIS越しと言えどもなく、ルーチンで動くとなれば……無人機の可能性が高いですわね。」

 「マジかー。」

 

 IS業界としては異例中の異例であり、前例が無い。

 しかし、目の前に現れたとなれば信じる他無い。

 

 「予想よりも学園側の増援が遅い事ですし……手足破壊して鹵獲してしまいましょうか。本国への良い手土産になりますわよ?」

 「正気!?」

 

 そんな事を宣ったセシリアに、鈴音が聞き返す。

 

 「このままですと、やけになった相手が全力射撃を全方位に撃つ可能性もあります。とっとと片付けてしまいましょう。」

 

 セシリアが危惧を抱いていたのはそこだ。

 如何に最新のアリーナのエネルギーシールドと言えども無敵ではない。

 それはつい今しがた証明されたし、何よりコントロールは相手側に握られている。

 それにどうやら相手側もそれを望んでいる節がある。

 現に、不明ISの行動ルーチンが変化する。

 というよりも、ルーチンに見せかけた遠隔操作に切り替わった様だと、セシリアは弱いながらも相手から伝わってくる人間特有の精神波からそう推測した。

 

 「で、勿論山分けよね?」

 「勿論。学園側が総取りする可能性もありますが…。」

 「良いって良いって。戦闘情報だけでも本国で評価されるだろうしね。」

 「ふふ、お話が早いですこと。終わったら美味しい紅茶をご馳走しますわね。」

 「なら、あたしも美味しい飲茶をご馳走するわね!」

 

 直後、二人は左右に散開する様に離れると、その空白を貫く様に大出力のビームが空を焼く。

 

 「では行きます。援護をお願いしますわ。」

 「普通逆なんだけど…任せるわ!」

 

 本来、ブルーティアーズは高機動射撃型で、甲龍は防衛よりの近接格闘型であり、前に出るのは鈴であるべきだ。

 しかし、この少ない時間の中、鈴音はセシリアの実力が己を上回り、機体のエネルギー残量も上であることから前衛を任せる事にした。

 

 (さて、どうしましょうか。)

 

 とは言え、このまま攻めた所で先にブルティアーズの方がエネルギー切れになりかねない程、彼我のエネルギーの保有量と変換効率には差があった。

 後にゴーレムⅠと判明するこの無人IS、大天災の作品だけあって各種性能は高レベルで纏まっていた。

 故に、近接兵装以外の武装で徒に攻撃した所で有効にはなりにくいのはこれまでの時間稼ぎで分かっていた。

 

 「であれば、するべきは一つですわね。」

 

 ストライクシールドのスラスターが最大出力を吐き出し、同時に周辺に満ちるビーム砲の熱量と残留した粒子が背面のブースターへと吸収・圧縮された上で再度放出し、爆発的な加速で以て踏み込んでいく。

 瞬時加速というISの基礎にして奥義とも言える加速技術。

 未だ代表候補生にして学生である身とは思えない程に高レベルで纏まったセシリアのそれは、しかし瞬時加速である故に一つの欠点が存在する。

 それは加速力の関係上、どうしても軌道が直線になるという事だ。

 

 「Pi!」

 

 勿論、それを見逃すゴーレムⅠではない。

 透かさず迎撃へと移行し、チャージしていなかったために大出力とはいかないまでも、十分に一撃でブルーティアーズを撃墜できるだけの威力のビームを放つ。

 

 「ふ……!」

 

 並みの代表候補生ならまず反応できないだろうその一撃を、セシリアはストライクシールドの推進方向をずらして加速方向はそのままにバレルロール、ビームはギリギリを掠めて僅かに脚部装甲の表面を融解させるだけで済ませてしまった。

 透かさず二撃目を撃とうとするも…

 

 「私を忘れんな!」

 

 エネルギーが枯渇寸前の甲龍による援護射撃。

 初見殺しである龍咆の一撃は、ゴーレムの装甲を破壊する事こそなかったが、攻撃のシークエンスを一時中断させるには十分な威力があった。

 二発三発と続く射撃は、しかし初撃を除いて回避される。

 だが、その役割は十分に果たされた。

 気づけば、もう接近戦するしかない間合いにまで、セシリアに踏み込まれてしまった。

 ゴーレムⅠのAI、そして操作している人物はそう判断すると、先程射撃したために排熱の終わっていない右腕ではなく、左腕で殴り掛かる。

 

 「残念。」

 

 しかし、態勢の整っていない状態で放たれた拳がこのセシリアに有効な訳がない。

 顔面を狙って突き出されたそれを首を傾けて回避すると、装甲の薄い関節部が露出している手首へと、何時の間にか左手に持っていたナイフを突き立て、そのままえぐる。

 

 「Pibi!」

 

 左腕を振るって急上昇するゴーレムⅠ。

 腕の範囲から逃れ、ほぼ真下からそれを追撃するセシリア。

 

 「Pi!?」

 

 この時、ゴーレムは一つミスを犯していた。

 いや、これはミスとは言えないものだった。

 真下からの追撃の際、セシリアはゴーレムの真下のやや背中側にいた。

 ここはどうしても下半身が邪魔になって死角の存在する場所だった。

 とはいえ、ゴーレムの腕部は通常よりも長く、関節の可動範囲も人間よりも広いためにその死角は小さい。

 しかし、確かに存在しており、そこに潜り込まれた故に、ゴーレムは咄嗟の射撃を中断し、別の最適な行動を模索してしまう。

 そう、ここが無人機の限界だ。

 常に最適な行動を取る、取ってしまう。

 それは人間という知恵持つ者を相手取る時、如何にスペックで優っていようとも敗北する原因となりうる。

 その一瞬の隙を、セシリアは見逃さなかった。

 

 「BAN!」

 

 関節部、取り分け股間は関節の密集部分であり、他よりも関節部が露出している面積も大きい。

 そこに背部ビーム砲4門とレーザーライフルの最大出力を叩き付ければどうなるだろうか?

 重厚な装甲は、しかしその役目を全うする事が出来ずに内側から貫かれ、内部機構を溶解させて各部のビーム砲へと誘爆し、その熱量を一気に開放させ……

 

 轟音と共に爆発した。

 

 「ちょろいもんですわ。」

 

 ようやく開いた隔壁の向こう、遅れて駆けつけてきた教師陣のIS部隊にセシリアはドヤ顔でそう言った。

 

 

 ……………

 

 

 後日、今回の無人ISによる襲撃は緘口令が敷かれたものの、各企業・各国政府へと所属する生徒から密やかに知れ渡る事となってしまった。

 学園側がそのことへの対処に頭を悩ませる中、しかし一組と二組の二人の代表候補性にしてクラス代表はのんびりとお茶会を開いていた。

 

 「今回は分かりやすく饅頭(=中華まん)にしたけど、どう?」

 「素晴らしいですわ。特にこのジャスミン茶、花びらが開くのが目でも楽しいです。」

 「ふふ、紅茶の国の人って言ってたから、ダージリン・ホワイトにでもしようと思ったけど、気に入ってくれたなら嬉しいわ。」

 「あら、英国ではコーヒーもよく嗜むのですよ?地域によっては紅茶よりも消費量が多いとか。」

 「マジで!?意外だわ……。」

 「ですがまぁ、紅茶について煩いのは本当ですのよ。」

 「言うだけあって、オルコットさんの紅茶とスコーンもすごい美味しいわ。私、あんまり紅茶とか飲んだ事なかったのに…。」

 「日本暮らしの長い凰さんなら、ダージリンが合うと思ってお気に入りを選びましたの。気に入っていただければ幸いですわ。」

 

 こうして、二人の午後のお茶会は終始和やかに進んだのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ふー久々だから色々忘れてる感
次は赤城かファフニールかな

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