自分は転生者だ。
とは言え、特にチートだとかそういったものを持っている訳ではない。
精々が田舎の祖父母のおかげで野草に詳しく、簡単な手当て等が出来るだけだが、それとてこの時代、平安の頃の人々にとってはあって当たり前程度のものでしかない。
一応庄屋?村長?の三男なので、近くの寺である程度学ぶ機会があり、この時代の文字の読み書きは過不足なく行える。
前世知識でチート?この迷信と神秘溢れる時代に下手な事をすれば物の怪に憑かれたとか何とか騒ぎが起こって最悪殺されるだろう。
村長の家とは言え、三男なぞそんなものだ。
そんな自分は寺で経の読み書きや掃除をする時を除くと、村で野良仕事の手伝いをしたり、怪我人や病人の手当て等をしたりする。
無論、この時代ではまともな医療知識も道具も無い。
救えぬ命の方が多いし、精々が苦しみを和らげる程度のものだ。
とは言え、村人からは感謝されてるし、両親や兄弟、寺の和尚等からの受けもよいので、変える気は無いが。
しかし、一応気を付けていたのだが、どうにもならぬ事もある。
流行り病。
こればかりは一介の薬師擬きではどうにも出来なかった。
病そのものが何なのか直ぐに分かった。
結核。
21世紀に至るまで根絶されずに多くの人々を死に追いやってきた感染症だった。
予防も難しく、咳や唾、痰の飛沫によって空気感染する。
この時代、栄養状態の良い人間は殆どおらず、一度感染すれば抗菌剤も無いので数年以内に死に至る。
感染を防ぐには患者の隔離位で、後は汚染物の消毒(この時代では焼却)しか思い浮かばない。
その事を父である村長を始めとした村の重役達に話すと、全員が重苦しい雰囲気に包まれた。
既に村にも数人ながら感染者がおり、近隣の村々でも被害が出ている。
この事が他に漏れれば、先ず間違いなくパニックになり、感染者とその疑いのある者は殺されるだろう。
「三太、どうすりゃ良いと思う?」
「…隔離しかない。ただ、何もやらずに飢え死にさせるんは忍びねぇ。森の中で家作って、そこで暮らしてもらう。足りないものはオレが纏めて届ける。他にも増えたらそっちに移す。」
「すまん、頼んだ。」
「良いさ。親父や和尚、村の皆には世話になったからね。」
これしか手は無かった。
その後、村に新たに感染者が出ると、森の中の家に移され、そこで暮らす事になった。
無論、それを嫌だと泣き、暴れる者もいたが、何とか皆で抑え付けて連れて行った。
そうしなければもっと危被害が広がるからだ。
そう自分に言い聞かせながら、オレは行動するしかなかった。
………
そうして隔離生活が始まって3年、この家で6人が死んだ。
早めに対処したのが良かったのか、他に感染者は出なかった。
苦しみ続ける6人を、オレは本人らの同意を得た後、最後は眠り薬と毒薬を使って、安楽死させた。
遺体は穴に入れた上で火葬にし、結核菌が残らない様に気を付けた。
胸にぽっかりと穴が空いた気分だった。
老いも若きも、男も女も、何の区別もなく死んでいった。
中には稼ぎ時の父親や嫁入りしたばかりの娘もいた。
この時代の命の軽さは解っていたが、それでもやり切れず、悔しくて悲しくて涙が出た。
でも、6人も家族から離して死なせたせいだろうか、6人目の葬儀が終わった頃にはオレも感染の疑いがあった。
そのため、オレは村に帰る事もせず、必要な荷物を纏めた後、森の中の隔離小屋に火を点け、置手紙ならぬ板を残して立ち去った。
出来るだけ人目につかぬ様にしながら、この時代に既に有名だった熊野へと参拝に向かったのだ。
目的はオレが死なせてしまった6人の冥福と…まぁ懺悔だ。
誰かにこの事を話さないまま死ぬとか、もうある種の拷問だったからだ。
罪は裁かれねばならない。
罪悪感を持つ者にとって、裁きと言うのはある種の救いにも感じる。
口元を粗末な布で隠し、勝手に剃髪し、一人称も「私」に変えて、偽名として安珍と名乗った。
対外的には偽名の私度僧と言う奴だが、この時代、寧ろそうした者の方が多い位だった。
況してや真面目に寺で経を学んだお蔭で、大抵の者よりも仏教に詳しくなっていたがために尚更バレる事もなかった。
他者への感染に細心の注意を払いながら、オレは人気の少ない道とも言えない道を選びながら熊野を目指した。
道中の盗賊には病持ち(感染の可能性あり)と話せば大抵は去り、時には有り金を渡せば納得してくれた。
この時代に絶滅していない山野の獣に関しては、毒草や蓼等の劇物一歩手前の草から作った獣除けが効果を発揮してくれたので大丈夫だった。
他にも明らかに物理法則を無視した様な物の怪とか天狗とかにも会ったが、前者は逃げたり経を読んで退散させ、後者は暢気に世間話したり呑み会したりと世話になってしまった。
流石平安日本、幻想が生き生きとしていやがる…!(戦慄
………
さて、熊野と言えば21世紀にも知られた観光名所であり、この時代でも既にそうだった。
そのため、どうしても熊野近辺は何処に行っても人気が多くなり、紀伊国に入ってから仕方なしに街道から少し外れた場所の宿を取る事にした。
その時、偶々同じ宿に泊まっていた貴族の妻が体調を崩したと耳にした。
それだけなら他の者に任せるのだが、他の医者らしい者は別件で捕まらないとも聞いてしまい、口元を隠す布に気を付けながら、貴族の従者の一人に薬師としての心得もあるから自分に診せてほしいと頼み込んだ。
この際何でも良いとの事で診察した所、貴族の妻(細身で色白、お多福ではない美人)は激烈な腹痛を患っていた。
何でも、道中に山の渓流で釣った魚を食べたとの事。
寄生虫の疑いから、一先ず手持ちの薬草で副作用の少ない痛み止めと虫下しの丸薬を飲ませた所、半刻程で痛みが引き始め、疲労により気絶する様に眠った。
感謝した貴族から報酬に結構な額の金子を提示されたが、宿代を払ってもらうだけで良いと告げ、そのまま自分の部屋へと戻ろうとした。
「あ、あの!」
そんな時、彼女に声をかけられた。
「私、清と申します。先程はありがとうございました、安珍様。お蔭で母の具合も良くなりました。」
先程の奥方によく似た、色白だが子供特有のふっくらと健康的な印象のする美少女だった。
「いえいえ、仏門の者として当然の事をしたまでです。寧ろ御父君から報酬を貰ってしまった事の方が恐縮ですよ。」
「あの、出来れば私と少しだけお話を…。」
「いえ、残念ですが、もう夜分遅くです。今日は床について、明日もう一度奥様の様子を診ますので、その折にでも時間を取らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい!お待ちしております!」
こうして、私は彼女と約束をした。
これが果たされない事になろうとは、この時の私は思いも因らなかった。
翌朝、私は日がまだ登り切らぬ内に出発した。
宿の者に追加の薬と所用が出来たため、早めに出立するとの伝言を置いてきたので、ギリギリ無礼にはならないだろう。
出来ればあの美少女とはお話してみたかったが、生憎とそういう訳にも行かなかった。
昨夜、唐突に胸の苦しみを覚えたと同時に吐血したからだ。
幸いにも、口元の布のお蔭で血は零れなかったが、出来るだけ進行を抑制してきたのがここに来て限界を迎えつつあった。
それに、長々と彼女と一緒にいれば、感染のリスクも高まってしまう。
力の入らない身体を引き摺る様にして、私は熊野詣へと急いだ。
この時、後の事を思うと少しだけでも時間を取るべきだったと思うが…後悔先に立たずとはよく言ったものである。
………
漸く熊野詣を終え、旅の目的が済んだ私は来た道を引き返し始めた。
とは言え、故郷には恐らく辿りつけないだろう。
何処か人気のない場所で、身体を火葬出来れば良いのだが…。
命数の殆どを使い果たし、最早軽く感じられる身体を動かしながらそんな事を考えていると、上野の里の辺りであの貴族の娘と再会する事になった。
「安珍様…何故、またお会いしてくれなかったのですか…。」
おどろおどろしい気配を纏った清と再会したのだ。
「私を…お嫌いになったのですか…?」
「そんな事はありません。あの時は急いでいまして…。とは言え、今は時間もあります。先ずは身を清めてから、改めて話しましょう。」
見れば、清は裸足で歩いてきたのか足袋も履物もないし、素足が結構見えていて(この時代の人としては)かなりはしたない事になっていた。
気付いて赤くなった清を直ぐに近くの宿に入れ、念入りに身支度する様に金子と共に言いつけておいた。
(正直、もっと早くに出会ってればなぁ…。)
彼女はまだまだ若い身空、こんな死に体の男と付き合って、最悪病にかかる事も無いだろう。
既に自分の身体は全体にガタが来ており、今横になってしまえばそのまま二度と動けなくなるだろう。
今何とか動けているのも、蝋燭の火の最後の輝き、火事場の馬鹿力、死に瀕して肉体が苦痛を感じなくなっているからだ。
(何とか道成寺まで辿り着かないと…。)
あの寺の住職には以前世話になった事があり、こちらの事情も知っている。
既に手紙で自身が亡くなった時は火葬してほしい旨を伝えているので、自身の体調を鑑みて、何とか間に合いそうだった。
だが、それは今から動いて本当にギリギリ間に合うかどうかであり、清と歓談する時間は取れそうになかった。
既に口元を隠す布の内側は己の血で真っ赤に染まっており、刻々とタイムリミットが迫っているのを告げていた。
また、この場で死のうものなら、宿の者達にも風評被害が及ぶ可能性が高い。
そのため、私は宿の者に清への言伝を頼むと、そのまま宿を後にした。
(熊野権現様、どうかあの子が思い詰めて私を追いかけてきませんように。どうか良縁に巡り合えますように。)
念のため、先日も熱心に患者の冥福を祈った相手に再び祈る私だった。
………
日高川を渡り、何とか道成寺に着いた頃、既に全身の感覚が麻痺していた。
今自分が歩いているのか倒れているのかすら判断出来ず、寺の住職達も既に伝えていた手紙で末期を迎えるのを理解してくれていたので、火葬の準備は着々と進んでいた。
先程から吐血が続き、口元の布も既に外から見ても真っ赤に染まっており、畳や寝具を血で汚すのも忍びないので、辛うじて準備が終えるまで鐘に寄り掛からせてほしいと伝える。
もう満足に手足は動かず、今にも意識を失いそうだった。
とは言え、今まで自分が看取って来た人達と同じで、今度は自分の番が来たと言うだけだと思えば、そう恐ろしくもなかった。
ただ、まともに話す機会を設けられなかった清の事だけが少々ならず心残りだった。
………
日もとっぷりと暮れ、所謂逢魔が時と言われる頃、不意に境内が騒がしくなった事に気づき、億劫に思いながらも瞼を開けた。
すると、視界一杯に白い鱗が入って来た。
何とか頭を上げると、やせ細った自分の胴を安々と超える程の太さの胴を持った白い竜が鎌首をもたげてこちらを見下ろしていた。
「何とまぁ…見事な…。」
不意に口をついて出た感想はそんな暢気なものだった。
だが、瞬きをした時には白竜の姿は消え、代わりに何故か角を生やし、髪色も淡い若草色へと変じた清が立っていた。
「安珍様…?そのお姿は…。」
心配そうな、しかし変わってしまっても可愛らしい彼女の姿に、これは末期の幻だと思った。
何せ、彼女には「もし自分に怒りを抱いているのなら、どうかこのまま帰って親元で幸せになってほしい」と言伝を頼んでいたからだ。
裏返せば「もし自分を好いてくれるなら、どうかこのまま追ってきてほしい」と言っているのだが…まぁ貴族の娘さんにそんな根性も行動力も無いだろう。
素直そうな彼女なら、文字通りの意味を取ってくれると思ったのだ。
「あぁ…これは失敬。御夫人にお見せできる姿ではありませんね…。」
そう言えば、彼女と話したかった事を思い出すと、これも末期の幻なのだしと考え、私はポツポツと彼女に今までの事を語った。
村長の三男として生まれ、近くの寺で学び、薬師紛いの事をしていた事。
流行り病で手を尽くしたが何人も死なせてしまい、自分も感染した事。
自分が死なせてしまった人達のためにも高名な熊野詣をしたかった事。
清が可愛くて話す時間を設けたかったが、長居してしまえば病気が移ってしまうかもしれなかったので出来なかった事。
土葬では病気が移るかもしれないので、念入りに火葬してくれるように道成寺の住職に頼んだ事。
何か余計な事を言ったかもしれないが…死にぞこないの戯言として忘れてしまってもらっても構わない事。
言いたい事を言い終えると、急に眠くなってきた。
最早、清の幻すら私には見えなくなっていた。
「安珍様…」
なんですか?
「安珍様はお疲れの様ですから、どうかごゆっくりお休みくださいませ。」
よろしいのですか?
「えぇ。後の事は私にお任せくださいまし。」
そうですか。
「はい。」
では、休ませていただきます。
ありがとうございます、清。
「…っ…お休みなさいませ、安珍様。」
……………………………………………
轟々と、道成寺の境内が燃え盛っていた。
白い大蛇の様な身体を持った竜がその口から灼熱の炎を吐き、鐘に身体を預けていた安珍の遺骸を灰も残さぬとばかりに焼いていた。
『安珍様、貴方様の願いは私が叶えます故…。』
清は、安珍に惚れていた。一目惚れだった。
高い知性を感じさせる面差しに、優しげな瞳。
口元こそ布で包んで隠していたが、それを考慮しても僧にしておくには勿体無い程の美形であった。
だが、母を助けてくれた恩人の上に彼は僧であり、夜這い等とても出来なかった。
それでもまた会う事を約束してくれた彼を、清は信じて待った。
だが、二度も安珍はその約束を破った。
一度目は急用を偽り、二度目は身支度を長引かせる事で。
更には熊野権現に祈り、神通力で己を縛って動きを封じもした。
それでも清は驚く程の執着と情念と怒りで以て、安珍を追い続けた。
だが、追いついた時の安珍は、今にも息絶えそうに血を吐いて美貌を汚し、自ら立ち上がる事すら出来そうになかった。
その安珍の口から辛うじて聞かされた事もまた、驚きの連続だった。
それは安珍の人生そのもの。
小さな村の村長の家の三男として生まれ、寺で学を得て、薬師として生計を立てていた事。
しかし流行り病で村人を死なせてしまい、自身も流行り病にかかってしまった事。
最後に死なせてしまった村人の成仏のため、態々熊野詣を行った事。
そして、そして…本当は清とゆっくり話をしたかった事、でも病を移してはならないと自戒して会わずに去った事。
清の事を憎からず思っていた事。
万が一にも病が広がらない様にこの寺の住職に自分を火葬してくれる様に頼んだ事。
本当に、嘘偽りなく、全てを語ってくれた。
そして、安珍は清に礼を告げると、眠る様に息を引き取った。
「 ッ!!!」
番を失った雌竜の咆哮が境内を超え、近隣一帯に響き渡った。
初めて見た時から心惹かれた。
執念の余りに変じてしまった姿すら見事と言ってくれた。
自分に病を移さぬ様にずっと身を案じてくれた。
最後には、こんな化生に礼まで言って事切れた。
そんな人が、もう自分では決して手に届かぬ所に逝ってしまった
最早人間の可聴域に留まらぬソレは溢れる程の悲哀と悲嘆が込められ、境内にいた僧侶達も先程までの怯えも忘れ、一様に顔を曇らせた。
『ガァァァァァァァァァッ!!』
そして、白竜が炎を吐いた。
安珍の願い通り、彼を火葬していく。
その余りの火勢に、鐘を吊り下げていた釣鐘堂は焼失し、真っ赤になった鐘と石造りの土台だけが残っていた。
『安珍様、私も貴方様の下まで参ります…。』
そして、白竜となった清もまた天へと飛び立ち、日高川へと身を投げ、入水した。
この一連の事件は事情を知っていた道成寺の住職らによって書に写され、当時熊野詣を軸とした悲恋の代名詞「安珍・清姫伝説」として語り継がれて、多くの講談や創作の元とされた。
…………………………………
2004年、炎上汚染都市冬木
「ど、わぁっと!?」
寸前まで迫ってきた刃を必死に飛び退いて回避する。
「くそ、本当にここ日本か、よっと!」
先のレイシフトに巻き込まれた関係か、どうやら自分も2004年の冬木市に跳ばされた様だが…なんだ、このマッポー都市(汗
文明崩壊直後の有様でしょうかね?(滝汗
事の始まりはまーた転生してしまった事だ。
但し、今度は平安時代じゃなくて懐かしの20世紀の日本にだ。
そして、今度は魔術師なる面妖な家に生まれてしまった。
とは言え廃れて久しいらしく、他の家の様に根源への到達に血道を上げると言う事はなく、ライフワーク兼医学研究(特に薬学)の一環として魔術を研究している家だったが。
だが、二度も転生した影響か、どうも魔術回路(チャクラと言うか経絡の一種)が人より多めらしく、研究と後学のためと称して時計塔と言うイギリスの魔術の名門大学(と言うか三つしかないのだが)へと入学する事になった。
んで、ここで家の治療技術が目に留まったのか、アニムスフィア家の現当主からお声がかかったのだ。
結果、給与及び研究環境(魔術師が毛嫌いする科学技術も利用可とか地味に凄い)を考慮して人理継続保障機関カルデアへと所属する事となった。
いやぁ給与も良いし、ネットも出来るし、上司のロマン氏は素晴らしいしで万々歳だなぁ!と思っていたのだが…。
「これは無い、な!」
強化の魔術を使いながら、必死こいて逃げる逃げる!
この骸骨共、多すぎる!
カルデアからの救援は期待できない。
初の大規模レイシフトの実施につき、現地での医療担当として第二陣の一番後ろで待機していたオレは、辛うじて爆破工作の被害を免れた。
そう、工作だ。
爆心点が明らかに所長がいた位置の真下だった事から、あの爆発は事故なんかじゃなく、相手は明らかに所長に、カルデアに害意を持った何者かなのは明白だった。
「っ…!」
そろそろヤバい。
強化魔術によって常人の倍近い身体能力を持とうが、30人近い骸骨の化け物なんて捌き切れるものじゃない。
そして、助けが来てくれる可能性は絶望的だ。
「えぇいクソ!使いたくなんてなかったんだけどなぁ!」
だから、この窮地を突破できる戦力を確保するしかない。
懐に忍ばせていた、金色の札を取り出す。
呼符と言われる、カルデア印の使い捨て礼装だ。
これの効果は一つ、術者側には一切の消費無しの英霊召喚だ。
だが、英霊以外ではなく、元となった冬木の聖杯戦争の術式に縁のある礼装も召喚の対象となってしまうため、デメリットもある。
しかし、現状どう足掻いても詰んでるのなら、礼装でも英霊でも良いから、状況をひっくり返す要素が欲しかった。
最悪、制御不能のバーサーカーでも囮に出来るし、礼装でも何かの足しになるだろう。
ごめんナマ言いましたお願いだから誰かボスけて!
「誰でも良いから来てくれぇー!!」
誰も聞く筈のなかったこの叫びを、しかし、聞き届けた者がいた。
「はい、畏まりました。」
轟、と炎が走り、周囲を囲んでいた骸骨達が灰となり、燃え尽きていく。
英霊召喚の残滓たる黄金の粒子、即ちエーテルが舞う中、一人の少女が炎を纏いながら、英霊の座からやってきた。
「サーヴァント清姫、こう見えてバーサーカーですのよ?」
炎を背にうっとりと微笑む懐かしい彼女の姿に…
「どうか末永くよろしくお願いしますね、安珍様?」
オレは、どうしようもなく見惚れてしまった。