「我が名はめぐみん!爆裂魔法を操るアークウィザード!」
「わ、我が名はゆんゆん!中級魔法を操るアークウィザード!」
片方は照れていたが、未だ粘液塗れのままでポーズを取って変な自己紹介をする二人に、カズマの目が死んでいく。
取り敢えず助けた二人は、頭のおかしい人達でした。
「えっと、アクア? この二人って…」
「紅魔族よ。生まれつき高い魔力と魔法適正を持った種族で、基本全員が厨二病なの。」
「う わ ぁ。」
事前知識があったアクアがあっさりと答えるが、その目もやっぱりカズマ程ではないが死んでいた。
種族全員ネタとしか思えんような奴らである。
まぁ作った奴が作った奴なので仕方ないのであるが。
「取りあえず、今日はもう公衆浴場に行って、宿で食事を取って休みましょう。」
空気を切り替える様にアクアが宣言する。
しかし、その出鼻を挫く様にぐきゅ~~……と情けなくもひもじい音が二つ響いた。
「「………。」」
「ごめんなさい。ここ二日何も食べてなくて……。」
「出来れば…何か食べ物を……パンの耳でも野菜くずでも構いませんから…。」
アクアとカズマは目を合わせ、深々とため息をついた。
……………
そこからの対応は早かった。
アクアは浄化の魔法で二人を大雑把に清め(やり過ぎると体内の不純物諸々が消えて死ぬ)、カズマが適当に買ってきたパンを二人の口に突っ込んだ後、公衆浴場と併設された洗濯屋へと連れて行った。
そこで丹念にカエルの粘液と垢を落とした後、魔法であっと言う間に洗濯された服を着て冒険者ギルドに戻って報酬を受け取り、4人で食事となった。
「はむはむはむはむ……」
「がつがつがつがつっ!」
具沢山のサンドイッチを一心不乱に咀嚼するめぐみん、カエルの唐揚げやポークステーキ等の肉類に貪欲に食らいつくゆんゆん。
その姿からは年頃の女の子としてのお淑やかさ等感じられない、正に鬼気迫るものがあった。
幸い、初心者の初の依頼としては破格の14匹の討伐だったため、飢えた紅魔族二人分の食事を追加しても多少の余裕があった。
「そんな小柄でよく入るな。」
「紅魔族って魔力が高い分、そっちに栄養取られるんで燃費悪いのよ。」
その様子にカズマは目を丸くし、アクアが解説を入れる。
二人とも食事をしているのだが、目の前の二人の勢いに今一箸が進んでいない。
「ぷっはー!ごっつぁんでした!」
「ごちそうさまでした!」
「「あ、はい。」」
二人が止まったのは30分後、その周囲には大量の空皿が積み重なっていた。
食事のメニューはどれもボリュームと栄養価だけを考えられた体力仕事をする人向けだったのだが、一体何処にこれだけ入ったのか不思議でしょうがない。
「本当に助かりました。なんてお礼を言ったら良いか……。」
「はい。お二人に出会えて本当に幸運でした。ありがとうございます。」
「いーのよこれ位。アークプリースト的に、多少の喜捨は構わないわ。」
ぺこり、と頭を下げる二人。
その二人ににっこりと微笑みながら、アクアは鷹揚に受け取った
「で、落ち着いた所で説明してくれないか?紅魔族って魔法が得意なんだろ、何でそんな飢えてたんだ?」
「う、それは……。」
「私が爆裂魔法しか使わないからです。」
口ごもるゆんゆんに対し、めぐみんはあっさりと伝えた。
「め、めぐみん…。」
「ゆんゆんも何を動揺してるのです。爆裂魔法とは我が人生、我が魂、我が生き様。誰にも恥じる事はありません。」
ふんす、と鼻息荒く語るめぐみんには一切の影が無い。
本当に心の底から爆裂魔法に誇りを持っているのだろう事が分かる。
「アクア、爆裂魔法って?」
「超広範囲に対して超高火力の爆発を叩き付ける対城・対軍向けの上級魔法。但し燃費は劣悪。」
「しかもめぐみんは爆裂魔法しか習得してなくて、しかも一日一発しか撃てないんです…。」
「一日一爆裂がモットーです。」
「いやそれ自慢じゃないからな?」
カズマの突っ込みに、しかしめぐみんは一切怯まない。
寧ろそっちのが恥ずかしいんじゃないの?と言わんばかりの太々しさだ。
「とは言え、十分な事前準備と支援こみなら、用途は色々あるわね。」
「だな。今日のカエルはもう使った後だったから逃げてたのか?」
「はい。一度使って一掃したんですけど、爆音を聞きつけて大量に寄って来てしまって…。」
「あちゃーヘイト稼ぎすぎたか。」
カズマからすれば、ゲーム内と付くが十分分かる話だった。
相手に高火力マップ兵器持ちがいるのなら、集中砲火で落とすか被害を警戒して分散するのは、対処法としては常識ですらある。
「そもそも、その辺の事を考えずにどうして街の外に出てきたの?」
「それがその……。」
「それはゆんゆんが恥ずかしがりで奥手なせいで、どこのパーティーにも入れなかったせいです。」
「ちょーーーーーー!?」
めぐみんの言葉に、ゆんゆんが慌てて口を塞ぎにかかるが、時既に遅し。
「わ、私だって頑張ったんだよ!?」
「でも結果はどうです?いっつも後一歩の所で尻込みしていじけて落ち込んで。そんなだから私以外に誰も友達がいないんですよ。」
「うぅぅぅぅ……。」
ずーん、と落ち込むゆんゆん。
その様子を見たカズマは、元引きニートとして多大な同情を感じてしまった。
そうなのだ、好きでそうなった訳ではないのだ。
ただ、他の人にとってなんでもない事が、自分には苦痛で困難に感じてしまうだけで…。
「なぁアクア…。」
「う~ん、カズマもOKなら良いかしら。結局は運用次第だし。」
めぐみんは一発屋だが高火力広範囲、ゆんゆんは汎用性の高い中級魔法全般の使い手と、バランスを見れば悪くない。
後は支援と使い方次第でかなり化けるだろう。
「ねぇ二人とも、良ければ私達と組まない?」
「勿論、嫌って言うなら強制はしないけどさ。」
「「え?」」
アクアとカズマの言葉に、食後のお茶を飲んでいた二人が驚きで固まった。
「よ、良いの?私達、その、変だし…。」
「私、もう何度もお断りされてるのですが…。」
流石に助けてもらった上にただでお風呂・洗濯・ご飯まで奢られ、更に願ってもない事を言われるとゆんゆんはもちろん、めぐみんも流石に気まずくなるらしい。
「私達も駆け出しなの。で、まだ張り紙出してないんだけど、パーティーメンバー募集中なの。」
「二人とも多少尖がってるけど専門分野なら優秀そうだし、他に予定があるなら取り下げるけど…。」
その言葉に、めぐみんとゆんゆんは互いの顔を見合う。
互いに不安、不信があるものの、それ以上に期待と興奮をその瞳に感じた。
「「よろしくお願いします!」」
だから、二人は笑顔で了承を告げた。
「おう!こっちこそよろしくな!」
「よろしくね二人とも。私達も歓迎するわ。」
こうして、また一つの冒険者パーティーが結成されたのだった。
「こうなると、後は前衛が欲しくなるなぁ。」
「そうねぇ。私もめぐみんもゆんゆんも後衛だし、めぐみんは爆裂魔法を撃ったら動けなくなって誰か一人が運ばないといけないし…。」
深刻な前衛不足だった。
「オレは冒険者で盗賊みたいな支援系軽戦士で行く予定だし…。」
「誰かいないかしら、ガチ前衛の人。」
うーん、と一同で悩む。
カエル相手ならこのメンバーでも余裕とはいかないものの、しっかり安全マージンを取りながら狩れば大丈夫だろうが、それ以降に関しては不安しか感じない。
尤も、アンデットに関しては地上最強クラスの人材もとい神材がいるので安心なのだが。
「カエル相手でもあんな事があったしな…。」
「もう粘液塗れになるのはちょっとね…。」
「知ってます? カエルの中ってあったかいんですよ?」
「うぅぅぅもう食べられるのはいやぁぁ……。」
先程の出来事が未だ頭から離れないのか、一同の頭の中がカエル関連のトラウマに埋め尽くされる。
鮮烈な体験とグロ画像は脳裡にこびり付いて離れず、一様に暗い顔色になった。
「カエル相手に粘液塗れ、だと…?なんて羨まけしからん!是非私も仲間に入れてくれ!!」
「「「「えっ?」」」」
そして何故か変態クルセイダーが釣れた。
「………今の所は順調、か。」
そしてその狂騒を、食堂の隅から見つめる女盗賊がいた。