Web版は当時最後まで見てたんだけど、書籍版とアニメ版は見る時間が足りない(汗
未知を楽しむ。
それがユグドラシルというDMMO-RPGという分野における金字塔を打ち立てたゲームのメインテーマだ。
実際、700種を超える種族、2000を超える職業、そして10万を優に超える装備やアイテム類、更には追加される数多のクエスト類。
そしてプレイヤーの見栄と虚栄心によって白熱するPvP、GvG。
この暗い時代において、庶民の間で一大ムーブメントとなるのは道理だった。
とは言え、このゲームは基本的にファンタジー要素がメインである。
Q つまり?
A SF要素が少ない。
Q じゃあどうすんの?
A 自分で作れば良いじゃない。
幸いにも、自動人形(ロボット)の種族もあり、再現するのは(低課金が前提だが)比較的簡単だった。
無論、外見は兎も角満足の行く性能まで兼ね備えるとなるとLv70~90台まで上げねばならなかったし、一人のアカウントには基本一体のPCのみとなっている。
つまり、再現できるのはソロでは一体のみなのだ。
だから、ロボオタの自分は多くのロボ好きを募り、「自分の推しロボを追及するためのギルド」を設立した。
その名こそ「レコード・オブ・スティール」である。
古今東西のSF好き、その中でも特にロボ好き達が集った「全員が種族・自動人形」で統一されたギルドである。
「てめー!空戦最強はマクロスだろうがJK!」
「ミサイルサーカス乙。」
「エウレカディスってんのかクルォラー!?」
「アーマードコア4系列…。」
「楽園追放を忘れないでください…。」
「あの、クロスアンジュ…。」
「忠犬乙。」
「ヒロインが理不尽過ぎる。」
「よし、表出ろ。」
が、各々が好きな作品がそれぞれ違うため、ついついヒートアップして頻繁にPvPに発展する騒がしいギルドでもあった。
……………
とは言え、そんな過剰なまでの情熱もあり、廃課金勢も多かった事から、彼らは皆各々のキャラビルドを欲望のままに行い、ユグドラシルでも屈指のネタギルドと言われた。
だがまぁ、特化型ビルドが余りにも多かったため、PvPは兎も角、ギルドの参加人数も200人と人数だけ見れば大手であった事からGvGのみで言えば実に8割を誇った。
そんな中、彼らは同じロボ好きが参加しているあるギルドと交流試合としてGvGを行う事となった。
その名もアインズ・ウール・ゴウン。
悪名高い異形種のみで構成されたPKギルドである。
とは言え、彼らにはその辺のプレイに関しては偏見はない。
彼ら自身そう言った偏見とは戦う側であったし、PKされたというプレイヤーも元々異形種狩りをしていた連中であるため、寧ろ「いいぞもっとやれw」と囃し立てる側だった。
そのため、彼らは全ギルドメンバー合意かつギルド武器を壊さない事、更に動画を撮って編集の上でネットにアップする事を条件として、異形種ギルド最大手と二番手ギルドのGvGが開始される事となった。
「で、戦術はどうするのギルド長?」
「正直、正面から戦うのはきついですよ?」
「核弾頭…。」
「おいバカその自爆兵器しまえ。」
この時期、アインズ・ウール・ゴウンは最盛期であり、レベルだけでなくPSも高いメンバー全員が揃っている事に加え、全ギルド中最多のワールドアイテムを保有し、1500人ものプレイヤーの超大規模侵攻を返り討ちで全滅させた事で向かう所敵無しの状態だった。
「正面から馬鹿正直に消耗戦をするからいけないんだ。」
1500人を41人で返り討ちとは聞こえは良いが、要は連携のなってない烏合の衆をキルゾーンへ誘い込んで殲滅したのが実態だ。
であれば、連携を取った上で相手のキルゾーンをどうにかしてしまえば良いのである。
「内部は基本転移禁止でその階層の守護者を倒した場合のみ次の階層へ移動できる。そして鬼門は第8階層のキルゾーン。」
「各種耐性をしっかりしてないと各階層で詰む上に、第八階層では巨大ゴーレムと正体不明のスタンと。」
「正直、うちら単体で挑むにはきつくないですか?」
そんな警戒とも弱音ともいえるギルドメンバーの言葉に、しかし、ギルド長は素晴らしい笑顔で答えた。
「大丈夫だ。私に良い考えがある!」
「コ○ボイ乙。」
こうして、ツイッターや動画での告知から一週間、遂に異形種ギルド同士の初のGvGが始まった。
「キルゾーンだらけの地下要塞?特化型プレイヤー同士の連携?」
先手を取ったのは攻め手のレコード・オブ・スティール。
「ジャブロー落とすならこれでFA。」
「ギレンの野望乙。」
再現した超大型の円筒形コロニーによる高高度からの特攻を敢行。
ナザリック地下大墳墓表層及び第五階層までが崩落。
「相手は生物系?よろしい、ならば核の炎だ。」
「皆ー核弾頭ぶっぱよー。」
「わーいたーのしー!」
「ソロモンよ…私は帰ってきた!」
「ソロモンじゃないし来た事ないけどな。」
第六階層、核の炎により焼却。
「相手は悪魔系で統一されている。無論、神聖属性には耐性ありでフィールドは炎。」
「よろしい、ならば消火作業だ。」
動かなくなったコロニー内に備蓄されていた大量の海水(水中系モンスター及びPC入り)を流し込む。
フィールドの上書きにも等しい荒業に、防衛側はほぼ全員が徐々に溺れ状態になって後退。
第七階層、コロニーからの海水流入により水没。
「そして本命の第八階層。」
「正直、情報が少なくて対策が取りようがない。」
「つまり?」
「ワールドアイテムで状態異常無効空間作って物理で殴れば良い。」
「う わ ぁ。」
「人形が…落ちてしまえ!」
「落ちろ、落ちろ!」
「■■■■■■■■■■■ーー!!!」
「うわーデカ物同士の壮絶な殴り合い。」
「敵も味方も巻き込まれて惨い事に。」
第八階層、ワールドアイテムによるフィールド全体が状態異常無効によるガチ戦闘になるも、巨大ゴーレムVS巨大ロボ(になれる変身アイテムを使用したプレイヤー)の戦闘により双方痛み分け。
防衛側はトラップの破損により第九階層まで後退。
「なんだこのロボメイド作りこみ凄い!」
「なんだこの執事強い!?」
「って手狭な通路で肉弾戦特化相手はきつ」
第九階層、構造上通路での戦闘が多く、基本遠距離系を得意とする攻撃側が不利となり、磨り潰される。
結果、GvGはアインズウールゴウン側の勝利となった。
この異形種ギルド二大トップの戦闘は一部編集された動画がネットでUPされ、大反響を呼んだ。
また、多くのギルドの結論として「この攻略方法はとてもではないが真似できない」とされた。
何せコロニー落としとその後の海水流入に必要となるアイテム及び資源の必要量が計算された結果、とてもではないが一ギルドどころか複数のギルドが提携してもなお鉱山が三つや四つは枯れ果てるのではないかと推測される程に膨大な量という試算が出たからだ。
これにより、両ギルドの名声と認知度は不動のものとなった。
更に来月、勝ったとは言え雪辱に燃えるアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがレコード・オブ・スティールのギルドへの侵攻戦(無論ギルド武器は破壊しない約束)を開始すると、彼らからしても度肝を抜かれた。
数少ない浮遊型拠点、そこまでは良い。
コロニーの時点で予想はしていた。
SF的な外観を持つ灰色の浮遊戦艦。
各所に搭載された砲台が迫り来るアインズウールゴウンのメンバーへと向けられるが、彼らはそれを巧みに回避して接近していく。
しかし、しかしだ。
彼らはレコード・オブ・スティールなのだ。
ただの浮遊戦艦である筈がなかった。
「拠点まで変形巨大ロボかよ!?」
「しかも弾幕凄いし!これどうやって乗り込むのさ!?」
「愚弟!今こそあんたが活路を開きなさい!」
「合点承知!アイキャンフラーイ!」
マクロス作れるなら作るだろJK、と言うのが彼らの言い分だった。
これから戦闘をしかけようとした浮遊戦艦が突然人型に変形し、弾幕張りながら襲い掛かってくるとは露とも思ってなかったアインズ・ウール・ゴウンのメンバーは驚愕しきりだ。
だが、空戦最強の誉れも高い変態バードマンを主軸に即座に戦闘を仕切り直した。
「来たぞ、奴だ!」
「ロボ愛を介さぬ変態が!」
「今日こそ奴を焼き鳥にしてくれる!」
「はん!ロリ萌えを理解しない奴らに落とせるかよ!」
「ペロロンチーノぇ…。」
「茶釜さん…。」
「愚弟、後で絞める。」
そんなこんなで、今日も彼らはユグドラシルを満喫するのであった。
なお、結果はアインズウールゴウン側が浮遊戦艦を撃沈せしめるも、敢え無く敗退する事となった。
後日、編集して上げられた動画はやっぱり大人気で、「変態VS変態」、「なにあの鳥男変態機動」、「板野サーカス乙」、「空のワールドチャンピオン決定戦」と掲示板も大賑わいだった。
とは言え、そんな楽しい日々も今は昔、遠い過去の事となってしまった。
……………
「終わりか…。」
最早自分以外は誰もいないギルド拠点の中、その司令部にてただ一人、自動人形系種族最上位の「デウス・エクス・マキナ/機械仕掛けの神」はぽつりと零した。
ユグドラシルはファンタジー要素の強いゲームだった。
それはつまり、他にSF要素の強いMMORPGが出れば、そちらに人が流れるのは分かっていた事だ。
そして、基本的に後から出たゲームの方が性能が高いのが世の常であり、そんなゲームが多数存在すれば、最初期の名作であっても廃れるのは必然だった。
「だが、確かに楽しかったんだ。」
機械の神は、200人もの友人達との日々を懐かしむ。
この4代目となるギルド拠点も、作るには大変苦労した。
初代の空中戦艦ホワイトベース、二代目の円筒形コロニー、三代目の可変機動戦艦マクロス、そしてこの四代目となる恒星間航行艦エクセリオン。
全長7kmにして多数の人型兵器(モンスター)と自動人形部隊を擁し、内部にギルドに必須とされる各種機能を搭載し、更に小なりとは言え都市を内包した完全循環機構を搭載したこの艦を落とすには、それこそプレイヤーが1000人が必要となるだろう。
しかし、そんな連中が仕掛けてきたら全ギルド拠点中最速を誇るこの艦なら逃げきれるし、逆撃も可能だ。
とは言え、今はそんな相手もいないのだが。
「コマンド…『司令部内の全NPC、敬礼』。」
ギルドマスター権限での指示に、司令部内に詰めていた全てのNPCが立ち上がり、敬礼を返す。
それを満足そうに眺めて頷く。
「モモンガさんも、きっとこんな気持ちなんだろうな…。」
ぽつりと零すのは、何度も遊んだ有名ギルドのギルドマスターの名前だった。
あの人のポン骨ぶりにも随分助かった。
皆がいなくなり、それでも過去を忘れられずにいつまでもユグドラシルにインしていた頃、一人で資金稼ぎをしていたモモンガさんと再会し、それ以来ずっと二人で一緒に狩りをしていた。
自分は高機動射撃型の前衛で、モモンガさんは純粋な魔法詠唱者なので、相性自体は良好だった。
彼がペロロンチーノとの連携に慣れていた事も大きい。
互いにギルドを維持するために頑張って狩りを続けていたが……それももう、する事はない。
サービス停止が宣言されて一か月、今日でユグドラシルは終わりであり、もう後3分も残っていた。
「この世界最後の日に、君達と共に在れた事を嬉しく思う。」
司令部の最も高い位置にあり全体を見下ろせる司令席から告げる。
10年も愛したゲームが消える事は悲しいが、不思議と涙は出なかった。
そして、無常にもカウントダウンは進む。
それをレコード・オブ・スティールの残党は静かに眺めていた。
23:58
23:59
00:00
ユグドラシルが終わるその瞬間、突然司令部の外部モニターがブラックアウトした。
「な!?状況報告!」
ついつい癖でロール時のセリフが出てしまい、直ぐに正気に戻って自分でコンソールを操作して確認しようとして……
「外部環境が突如変化!現在海洋上を航空中!」
「大気成分及び気温から1G下の地球型惑星と推測!」
「外部要因による強制的な空間転移だと思われます!」
「…診断完了。艦及び内部乗員に被害無し!」
「全機能オンライン。司令、ご指示を。」
「ふぁ?」
今まで敬礼したままだった司令部の自動人形達が一斉にその職分を果たさんと一斉に動き出し、素早く情報を挙げてくる。
NPCがまるで生きている様に動き、こちらに話しかけてくる。
その姿に内心で大いに混乱するものの、不思議と自分がすべき事をすっと理解できた。
「艦全体はこれより第二種警戒態勢へ移行!そして格納庫は無人偵察機の準備!周辺のあらゆる情報を収集し、異変あれば報告せよ!」
「「「「「「「了解!」」」」」」
こうして、100年に一度の大騒ぎに怯え竦むこの世界に、新たなプレイヤーが大戦力と共にやってきた。