徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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こっちと前話のどっちを集中連載すべきか悩む(汗
という事で、活動報告にてアンケート取っておきます。


オーバーロード二次 TSモモンガが逝く

 

 「今日で、もう最後かぁ…。」

 

 最早全てのギルメンが去った円卓の間。

 そこでモモンガは、鈴木悟子は呟いた。

 日本初のMMORPG「ユグドラシル」。

 その廃課金勢の一人である彼女の所属したユグドラシル最大のDQNギルド「アインズ・ウール・ゴウン」。

 僅か41人の手勢で1500人ものプレイヤーを討ち取る程の防衛力を誇る拠点「ナザリック地下大墳墓」、最上級レアアイテムである世界級アイテムを一ギルドとしては最大の11も保有し、正に最高無敵の自慢のギルドであり、そのギルメン達もまた彼女にとっては最高の友人達だった。

 しかし、それはもう過去の事。

 ここにはもう彼女一人しかいない。

 

 全てのギルドメンバーは、恐らくだが死亡した。

 

 2198年現在、世界は荒廃し汚染され尽くし、資源は枯渇し、人心は荒み、点在する小さな「アーコロジー/循環型都市」に辛うじて人類が生存しているだけだった。

 しかし、それを維持する事ももう出来ない。

 この10年間で世界各地のアーコロジー内部やアーコロジー同士で戦争・紛争・各種テロが続発し、次々とその機能を停止し、人々は汚され尽くした大地へと投げ出され、次々と死に絶えていった。

 予想されていた人類の絶滅が迫る中、この日本においてもそれは例外ではなかった。

 何人ものギルメンを見送った。

 リアルで周囲の脅威と戦う者、最後まで職務を全うせんとする者、唐突に音信不通になった者。

 そして……死に場所にナザリックを選び、モモンガに看取られた者。

 仕事の時間以外はほぼ常にログインしていたモモンガは、幾人ものギルメンの最期を看取った。

 最初はブループラネット。

 自然環境再生プロジェクトの研究に参加する熱心な自然愛好家の彼は、しかしそれ故に頻繁にアーコロジー外に出る事で体を汚染され、終末医療を拒否し、強い鎮痛剤を服用しながら、最後まで自身が手塩にかけたナザリック第六階層の森と空を見つめ、次第に鎮痛剤の効果すら効かなくなって発作を起こして死んだ。

 次にヘロヘロ。

 以前からブラック企業で体を酷使していたのだが、テロが頻発するようになると情報インフラの維持すら危うくなりだしたせいで更に酷使され、半年ぶりのモモンガとの会話の後、眠る様に息を引き取った。

 そしてつい先程、ペロロンチーノが逝った。

 姉の手伝いをしていた所、自爆テロに遭遇し、姉であるぶくぶく茶釜含む大勢のアニメ・ゲームの製作関係者が死亡・重軽傷を負い、自分ももうダメだからと何とか最後にログインしてきたのだ。

 

 『モモンガさん……ありがと……おれもねぇちゃんのところh』

 

 それがペロロンチーノの最後の言葉だった。

 

 「皆、急ぎ過ぎだよぉ……。」

 

 知らず、涙が零れ落ちていた。

 自分ももう直ぐ逝くとはいえ、こう何度も置いて逝かれるのは辛すぎる。

 最初は幼い頃に両親に、次にギルメンの皆に。

 モモンガは、鈴木悟子は常に見送る側だった。

 だが、それは独りぼっちで寂しりがり屋の彼女には酷に過ぎた。

 故に彼女は仕事も止め、最近巷に流れている安楽死用の毒薬と最低限度の栄養剤等を購入して、自宅へ引き籠り、もう間も無くサービスを停止するユグドラシルへとログインし続けた。

 誰かギルメンが一人でも来てくれるかもしれないと、そう思ったからだ。

 その間、ついついゲーマーの習性として捨て値で売り出されたレアアイテム等を購入してしまったが、それはさておき。

 彼女の期待に反して、その間には誰も来なかった。

 メールも何も、誰も返信してくる事は無かった。

 それはつまり、もうそういう事なのだろう。

 

 「私も、もう少しでそっちに逝くからね……。」

 

 段々重くなってくるリアルの肉体を酷使して、何とかキャラを第十階層の玉座の間へと移動させる。

 モモンガ、そのキャラは鈴木悟子の分身であり、何より愛着あるキャラだ。

 誇りある悪を標榜するアインズ・ウール・ゴウンの首魁たる事を目標として作成されたキャラは、悍ましくも美しい。

 通常は骨だけの外見が一般的な「オーバーロード/死の支配者」だが、モモンガは焦げ茶の長髪が特徴な、際立ってこそいないが優し気な女性の容姿をしている。

 とは言っても、その顔面の左半分は半ば髪に隠れているがその下は骨と赤い光が灯る暗黒の眼孔があり、右半分の美女の顔もアンデットらしく青白い死人のそれだ。

 胸元こそ黒いインナーに包まれ、バストも女性的で柔らかなものだが、その下には肋骨が露出し、丁度谷間の真下、肋骨がない辺りには彼女の切り札たるワールドアイテムである深紅の球体が輝いている。

 その彼女が纏うのは漆黒に金の縁取りをされたローブ、巨大な生物の骨に赤い球体が埋め込まれた肩当、床に長く引き摺る紫紺のスカートを穿いていた。

 美しさと悍ましさ、そして手に持つ黄金のギルド武器による荘厳さが加えられた姿は、ユグドラシルのモチーフとなった北欧神話における冥界の女王ヘルそのものだと評するべきだろう。

 タブラさんを始め凝り性の面々が全力を尽くした結晶であるモモンガというキャラは、鈴木悟子にとっても誇りであった。

 そんな彼女は玉座に到着し、震える身で何とか座ると、閉じようとする思考を何とか保ちながら、NPCの内動かせる領域守護者や戦闘メイド達を玉座の間へと集めた。

 

 「さいごまで……かっこつけないと…。」

 

 アインズ・ウール・ゴウンのギルド長にして最後のギルドメンバーとして、最後までそのロールを貫く覚悟だった。

 早く早くと終わりが迫る中、ゲーム終了3分前にして、漸く指定したNPC達が勢揃いした。

 その事にほっとして胸を撫で下ろす。 

 

 「ふぅ…ふぅ…『整列せよ』。」

 

 NPC達が綺麗に整列すると、その様子にモモンガは微笑んだ。

 あぁ、これで準備は整った。

 

 「もう、置いて逝かれないね…。」

 

 これだけのNPCに、ギルメンの皆の形見に見送られて逝くのなら、寂しくない。

 

 「く……もうちょっとだけ…。」

 

 本音で言えば、もっと皆で楽しく遊びたかった。

 あの日々で時間が止まってしまえばと思った。

 でも、それは出来ない。

 あの時にいた誰も彼もが自分を置いて逝ってしまった。

 それも、皆が原因ではない、どうしようもない流れに巻き込まれて。

 

 「かなしいなぁ…さびしいなぁ…。」

 

 死にかけなのに、涙は未だ枯れる事はない。

 そして、最後の瞬間が訪れようとしていた。

 

 「あいんず……うる……ごうんに……」

 

 死が迫る中、朦朧とした意識で悟子は最後の言葉を綴る。

 それが彼女に出来る、友人達への最大の弔いだと信じながら。

 

 「えいこう…あれ……。」

 

 その瞬間に、「リアル」の鈴木悟子は間違いなく死亡した。

 だが、「モモンガ」が最後に見た光景は、玉座から崩れ落ちる自分へと血相を変えて駆け寄るNPC達の姿だった。

 

 

 ……………

 

 

 「ん………。」

 

 ふっと、意識が唐突に戻ってきた。

 はて、自室のベットはこんなふかふかかつ滑らかな感触だっただろうか?

  

 「えっと……。」

 

 辺りを見回すと、豪奢な調度品の数々、そしてギルドメンバーに個別に与えられる紋章、左半分の髑髏と右半分の美女の顔が印章化されたそれに此処がナザリック地下大墳墓、その第九階層にある自分用のスイートルームである事を悟った。

 はて?ユグドラシルは終わった筈では?と疑問符を乱舞させながらキョロキョロと周囲を見ていると、不意にがシャーン!と派手に食器が割れる音が響き渡った。

 

 「あ あ あ!」

 

 そこにはナザリック第九階層付きの41人のメイドの一人がわなわなと震えながらこちらを見ていた。

 名前は確か……

 

 「エトワル、だっけ?」

 「くぁwせdrftgyふじこlpーー!!?!?!」

 

 エトワルと呼ばれた一般メイドは礼儀作法とか一切合切無視し、文字化できない叫び声を上げながらドアも閉めずに廊下へと出て行った。

 

 「誰か!誰か!モモンガ様が!モモンガ様がお目覚めになられましたーーー!!!」

 

 随分リアルな末期の夢だなーとほのぼのしているモモンガの元にモモンガの治療&検査のために組織された医療部隊と仕事ぶん投げてきた守護者達が殺到して仰天する3分前の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 


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