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目が覚めて5分としない内から、目まぐるしく事態は動き続けた。
挨拶もままならぬまま、先ず選抜されたアンデット向け治療部隊が自分を徹底的に検査し、意識もはっきりしているので質疑応答する事で一時間は経過した。
次にそれが終わったのを見計らった様に守護者達が入れ代わり立ち代わりやってきては涙ながらに回復を祝っていく。
漸く落ち着いた頃には丸一日経過していました…(げっそり)。
とは言え、やるべき事があるのに寝てられません。
一応肉が残ってるとは言えこの身は死の支配者/オーバーロードなので、肉体的な疲労も精神的状態異常にも無縁の筈です(やせ我慢)!
と言う事で、玉座の間に移動して移動可能な守護者及び名有りのシモベ達(戦闘その他に役立ちそうな者のみ)を呼び出して指示を出す事にします。
ってーかNPCが動き出すとか何それ怖い(今更感)。
どう考えても何か正体不明の異変が起こってます。
早急な調査が必要です。
最悪、このナザリックそのものが変異している可能性すらあるのですから。
……………
玉座の間、そこに集められた守護者及び名有りの役職持ち達は緊張した面持ちで玉座の前に跪いていた。
そこに座る彼らの主、41人の至高の御方々の最後の一人にして、最も慈悲深きお方。
アインズ・ウール・ゴウンがギルド長、慈悲深き安らかなる死の支配者モモンガ様。
「面を上げなさい。」
その言葉と共に全員が顔を上げ、その尊き御姿を目にする。
「皆、よく集まってくれました。」
昨日までの触れれば消えてしまいそうな儚さは鳴りを潜め、支配者たる荘厳な気配を纏っておられた。
その様子に、先日のお倒れになった場に居合わせたシモベ達はほっと胸を撫で下ろす。
不死身の筈のアンデットであるモモンガ様がお倒れになられた時、その場の全員が血相を変えた。
最速で玉座から倒れる御方を抱き止めたのは、その日初めて宝物殿より呼び出されたパンドラズ・アクターであり、彼の病状を伝える声に急遽医療班を組織して治療に当たらせたのがデミウルゴスだった。
なお、本来こういう時に真っ先に声を上げねばならない守護者統括のアルベドはわたわたしていた。
ついでにシャルティアとアウラとマーレもわたわたして使い物にならなかった。
が、当時の醜態はシモベ同士でも触れない事になった。
何せ、その時動揺していなかった者も、他の至高の御方々の鎮魂の儀の際には総じて動揺していたからだ。
誰もが泣いた。
特に自身の創造主がもう二度とこのナザリックに来なくなってしまったと悟ってしまった者は酷く嘆き悲しんだ。
亡くなった御方々の中には最後にここナザリックに戻ってくる方々もいた。
ヘロヘロ様やペロロンチーノ様がそうだった。
皆、モモンガ様と最後に話し、息を引き取っていった。
何も出来ない自分達が歯がゆく、無力感に苛まれ、ただただ絶望ばかりが心を満たしていく。
ステータス上では何の問題も無いのに、それでも御方々は確かに弱り切り、死んでいった。
これが御方々の言うリアルでの出来事が関係しているのは明らかなのに、何もできない。
ただ、見て、祈る事しか出来なかった。
他の御方々までは分からないが、死の支配者たるモモンガ様に看取られたならきっと御方々の魂が安らぎを得られるだろうと信じ、祈った。
そして、先日は遂にモモンガ様まで!という事態になったのだ。
幸い、彼女は持ち直したが、あのまま本当に死んで、もとい滅んでしまったのなら、きっとシモベ達の誰もが狂乱し、悲嘆し、絶望と憤怒のままに行動していたかもしれない。
「皆には今日、大切な話をしなければなりません。」
その言葉に、知らず誰かがごくりと唾を飲む音が聞こえる。
その音は或いは自分自身が知らずに発した者かも知れないが、少なくともその場の誰もがそれが分からぬ程に緊張を強いられていた。
「私達が言うリアルに関する事です。」
そして、モモンガは訥々と、頑張って考えた色々脚色したリアルの設定を話し始めた。
曰く、ユグドラシルは、シモベ達が生まれた世界は滅んだ。
曰く、ユグドラシルが滅んだのは規定路線だったが、自分達至高の40人が死去したのは、リアルという世界も滅んだから。
曰く、リアルという世界は元々滅びかけており、それを先送りするためにユグドラシルの様な小さな世界を作り、そこに人々を生活させようとという試みだった。
曰く、でもその試みは成功せず、その中でも旧型だったユグドラシルは消滅する予定だった。
曰く、そしてリアルの方も予想よりも早く限界を迎え、そこに暮らしている至高の御方々もまた死亡してしまい、生き残ったのは自分ただ一人となってしまった。
曰く、現状こそが有り得ない。自分も皆も消滅している筈だった。ならば今自分達がいる世界は今まで観測された事のない全くの異世界である可能性がある。
モモンガが語り終えた時、玉座の間には静寂が広がった。
シモベ達にとって、その言葉はとてつもなく衝撃的であり、自分達が至高の41人以外の者の掌の上にいたのだと、生殺与奪の全てを握られていたのだと告げられるに等しかった。
「質問を、よろしいでしょうか?」
「許します。」
手を挙げたのは、デミウルゴスだった。
「我々が生まれたユグドラシル、それを管理していた者達はウンエイという者達でしょうか?」
「えぇ、そうです。」
「では、至高の御方々があれ程運営を蛇蝎よりも嫌悪していたのは何故でしょうか?」
「それは彼らが自分達の都合のためにしょっちゅうユグドラシルの法則を変えたり、悪辣な商売をしていたからです。」
「お答え頂きありがとうございます。成程、強欲だったのですね、ウンエイとは。」
その言葉に、デミウルゴスはその優れた頭脳で多くの事を推理し、納得した。
要は、自分達も至高の御方々も、ウンエイの家畜だったのだ。
ユグドラシルという名の牧場で、奴らの掌の上で、利益を生み出すための体の良い労働力であり消費者として。
だが、その事を此処で言うつもりはない。
内心の煮え滾る憤怒をそれ以上の意思で以て覆い隠す。
言えば収拾がつかなくなるし、この後に待っている事態を思えば、悪戯に場を乱すのは悪手だと判断したからだ。
「皆にとっては、本当に驚きの連続だと思います。でも、現在私達に起こってる異変に対処するためには、皆の協力無くしては成功しません。」
故にこそ、死の支配者は玉座から立ち上がり、頭を直角にまで下げた。
「ナ!?」
「モモンガ様!?」
「あ、頭をお上げください!」
「いいえ、こうする必要があります。」
頭を下げたまま、モモンガは続けた。
「私ではもう、貴方達にしてあげられる事は殆どありません。」
曰く、ウンエイによる干渉が消えた今、シモベ達は誰もが自由に生きていける。
曰く、このナザリックはギルド維持費を払わねば消えてしまうが、外に出られるようになったシモベは巻き込まれない可能性が高い。
「41人いたメンバーで最後まで残ったのも、私が少しだけ運が良かっただけ。」
決して優れている訳ではなかった。
カリスマ性ならたっち・みーやウルベルト、死獣天朱雀等の方があった。
プレイヤーとしての強さにおいては、ロマンビルドの自分よりも強い者達はギルメンの中に大勢いた。
自分はたた、皆が楽しく過ごせるように間に入って調整しただけだと、モモンガは自覚していた。
「強さもカリスマも、知識も意志力も、私より凄い人は沢山いました。」
彼女は平凡だ。
凡庸で、中立で、何処にでもいるOLだ。
「でも、どうかお願いします。」
平和な世界なら誰にも見向きされずに一生を終えていくだけの女性だった。
「どうか、助けてください。」
だが、非凡な者達を纏められるだけのものが確かにあった。
「消したくないんです、このナザリックを。皆がいた証を、思い出を、アインズ・ウール・ゴウンを。」
彼女は平凡だった。
凡庸で、中立で、何処にでもいるOLだった。
正直者で、自分のための嘘が吐けない。
そして、ある出会いを機に困ってる人がいたら自分も転ぶかもしれないのについつい手を差し伸べてしまうようになっただけの、何処にでもいる人間だった。
「だから、どうか、此処から去らずに、助けてください。」
だからこそ、その言葉は掛け値無しの本音だった。
だからこそ、その言葉は嘗てのギルメン達にも響いた。
置いて逝かれたシモベ達にとって、置いて逝かれた彼女の心からの言葉は、他の誰よりも強く響いた。
「発言をお許しください。」
「許可は必要ありません。今、私と貴方達の間に上下関係はありません。」
「では、どうか頭を上げて、私達を見てくださいませ。」
アルベドの言葉に、おずおずとモモンガは頭を上げた。
すると、そこには自分へと跪くシモベ達の姿があった。
「シモベ達よ。至高の御方へ、忠誠の儀を!」
「第一、第二、第三階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に。」
「第五階層守護者コキュートス、御身ノ前ニ。」
「第六階層守護者アウラ・ベラ・フィオーラ、御身の前に。」
「お、同じく第六階層守護者マーレ・ベロ・フィオーレ…お、御身の前に…っ。」
「第七階層守護者デミウルゴス、御身の前に。」
「ナザリック付執事兼家令セバス・チャン、御身の前に。」
「宝物殿領域守護者パンドラズ・アクター、御身の前に!」
「守護者統括アルベド、御身の前に。」
跪き、右手を胸へと当てる。
よく見れば、彼らの目尻に光るものが流れていると気づけるだろう。
シモベ達は歓喜していたのだ。
長い間見送るだけだった自分達が、確かに御方に必要とされているのだと。
同様に、この最後まで残ってくださった御方は決して我らを見捨てないのだと。
それを悟ったが故に、彼らの心中には歓喜で満たされた。
「第四階層守護者ガルガンチュア及び第八階層守護者ヴィクティムを除き、各階層守護者並び同格の者。皆、御身の前に平伏し奉る。」
彼らは主もシモベも全てが全て人外であり、異形の者であり、きっと人類は彼らを邪悪な存在だと決めつける事だろう。
「貴方達……。」
「我らシモベ一同、至高の御方への忠誠に曇り無し。どうかご命令を、モモンガ様。」
モモンガはアンデットだ。
故に呼吸も食事も必要なく、負のエネルギーで稼働するだけの、決して揺らがない心の持ち主だ。
だが、どうしてだろう。
今は何故か残った目元が熱くて、思い通りに話す事が出来ない。
「ありがとうっ……皆、ありがとう゛…!」
ここを去る事も出来た筈だ。
反逆して全てを自分のものにする事も出来た筈だ。
或いは、今まで支配していた者へと反逆する事すら出来た筈だ。
だが、彼らはそれをしない。
その忠義を捨てる事も出来た。
なのに、それをしない。
故にこそ、この光景は尊いのだ。
「貴方様のためならば、如何なるご命令も遂行致しましょう。」
「私達にお任せくださいなまし!」
「コノ身ハ一振リノ剣。御方ノタメノ剣ナレバ。」
「どの様な願いも、我ら一同が果たしてみせましょう。」
「私達だって頑張ります!任せてください!」
「は、はい!僕も頑張ります!」
「どうか、何なりとご命令を。」
「NeinNein!皆さーま、その前に先ずすべき事がございます!」
次々とシモベ達が声を上げる中、この中で最も喧しいパンドラズ・アクターがゆったりとモモンガの元へと近づき、軍服の胸ポケットから取り出したハンカチで自身の創造主の目元を優しく拭った。
「先ずは乙女の涙を拭う事こそが肝要ですとも!Ich denke mal, mein Meister?」
「ふふ、そうね。ありがとうパンドラズ・アクター。」
ドイツ語できざったらしく言う自分の作ったシモベに、モモンガはこの場で初めて心からの笑みを浮かべた。
「よろしい。では我がシモベ達よ。これよりナザリック存続のため、貴方達に任務を与えます。速やかに取り掛かる様に!」
「「「「「「「「は!かしこまりました!」」」」」」」」
こうして、ナザリック地下大墳墓は、アインズ・ウール・ゴウンの残党は、新たな世界での第一歩を踏み出したのだった。
「あ、先ずパンドラズは可哀想ですがドイツ語は暫く禁止です。分からない子達もいるのですから、私と二人の時だけにするように。」
「Oh……畏まりました、我が母よ。」
≫曰く、リアルという世界は元々滅びかけており、それを先送りするためにユグドラシルの様な小さな世界を作り、そこに人々を生活させようとという試みだった。
この部分は名作映画マトリックスの生体電池扱いされてる人間を思い浮かべてほしいです。
ユグドラシル他電子虚構世界は全てそのための技術から派生したものだと推測。
そうでもなきゃあんな終末世界でVRMMORPGとかいう最新技術の塊が公開される訳ない。
だが未完成or目標レベルに達せず、市民の不満解消と実働データの蓄積のためにゲームとして売り出した、というのがねつ造設定になります。
≫シモベの記憶
勿論、皆他の御方が死んでったのを覚えていますとも。