週が明け、月曜日。今日は、俺と一夏とオルコットによる、クラス代表決定バトルロワイヤルが行われる。
「場所は第三アリーナ、開始時刻は放課後です!気になる対戦カードは……第一試合!セシリア・オルコットVS山代紅也!!第二試合!オルコットVS織斑一夏!!第三試合!山代VS織斑!!見どころは第三試合!史上初の、男性IS操縦者対決です!」
「「「「えーっ、見たーーーい!!」」」」
「そう言うと思っていました!ここにありますのは、数量限定の観戦チケット!」
「「「「いいなぁ、欲しいなぁ。でも……高いんでしょ?」」」」
「ご安心ください!今なら第一試合、第二試合の観戦チケットを500円、第三試合の観戦チケットを700円、三枚セットで1600円と格安で販売いたs……」
ズドン!!パパパパァン!今日も元気に男女平等ラッシュが炸裂する。
「勝手に売るな、馬鹿者。そしてお前ら、なにをやっている」
「えー織斑先生」
「山代くんが」
「サクラやってくれたら~」
「明日のお昼をおごってくれるってぇ、言ってくれたんですよ」
一斉に俺を見つめる元・共犯者たち。……おのれ、暴力に屈しおって。
「見たい奴は勝手に見に来ればいい……。と、いうわけだ。並んでる奴らも解散しろ!」
「「「「やったぁ♪」」」」
「そ、そんなぁ……殺生な……織斑先生……」
いい小遣い稼ぎになると思ったのに。無料公開なんて、ヒドすぎる!!
「やまぴ~」
そんな中近付いてきたのは、サクラを頼んだうちの一人、布仏さんだった。
その朗らかな笑顔や態度に、思わず癒される。何だい?慰めてくれるの?なんて優しい……
「それはそれとしてぇ、サクラやったんだから~、約束は守ってね~」
ドン、と先ほど叩かれた以上の衝撃が、俺を襲った気がした。
仲間だと思っていた少女は、最初から敵だったのだ……。
◆
今度こそ放課後。
場所は第三アリーナのAピット。こっちには俺のほかに一夏・箒・葵がいる。
「―――なあ、箒、紅也」
「何だ、一夏」「ん、何だ?」
「気のせいかもしれないんだが」
「そうか、気のせいだろう」「もったいぶるなよ、何だ?」
「ISのことを教えてくれる話はどうなったんだ?」
……あー。忘れてた。俺は箒への指導と、レッドフレームの調整。箒は、予告どおりに剣術特訓……。正直、ISのことなんて忘れてた。大事なことなので二回言いました。
「……し、仕方がないだろう。お前のISもなかったのだから」
「初日みたいに、打鉄を借りればよかったじゃないか!」
「いや、こう考えろ。初日にISの練習はやったから、それで十分……。どうだ、二人とも」
「うむ、そうだな」「足りねぇよ!」
息ピッタリなのは分かったが、内容は真逆だった。
「つーか、訓練機なら、一夏が借りれば良かったじゃねぇか。箒ばっかし責めんなよ」
「……男らしくない」
「ぐうっ!?」
一夏が俺達―特に、葵の言葉―にダメージを受け、胸を押さえる。
……葵は、口数が少ないうえに、毒舌なのだ。だけど、時折見せるひまわりのような笑顔や、眼をそらしながら「頑張って」と照れくさそうに言う姿は――たまらん。
……ああ、シスコンで悪いか!こちとら、昔っから二人で力を合わせて頑張ってきたんだ。シスコンにもなるさ。
「……しかし、まだ来ないのか。一夏のISは」
そう、用意されるはずだった専用機は、一週間たった今でも到着していない。
……まさか、あの四機のように強奪されたか?ありえない話ではないな。
「……時間」
葵が呟く。そろそろ、第一試合が始まる。
「紅也。準備は大丈夫か?」
先程まで一夏と口論していた箒も、それに気づいてこちらを向く。
一夏は……ダメだ、まだダメージが残っているようだ。
「大丈夫だ、問題無い」
「……フラグ」
え、負けるって?じゃあテイク2。
「一番いいのを頼む」
「意味がわからんぞ」
確かに、文脈を完全無視していたな。では、テイク……
「山代。開始時間だ、早くしろ」
「…………」
織斑先生に急かされ、レッドフレームを展開する。
《もう話さなくていいのか?》
「ああ、じゃあ一言だけ」
8に言われた俺は、皆の方に向き直り、フェイス部分を収納した。
「じゃあ、楽しんでくるぜ!」
笑顔で、一言。
正直、俺はこの戦いを楽しみにしていた。
山代紅也としての、初の戦い。葵以外のISとやりあうのは、これが初めてだったりする。それに、このレッドフレームが、表舞台に立つことができる。ASTRAY(王道ではない者)が、花道に立つ。それが何より……嬉しい。
「ああ……行って来い」
「おう、頑張ってな」
「……瞬殺希望」
三者三様の応援を受け、俺はフライトユニットに点火する。一瞬の加速の後、俺の体は空にあった。
◆
「全身装甲とは……珍しい機体を使いますのね」
「そうか?俺の所属してる所じゃ、むしろメジャーなんだが」
オルコットは、既に空にいた。その目は、相変わらずこちらを見下したようであるが、しっかりと俺の目を見据えている。
「……改めて聞くぜ。お前の相手は、誰だ?」
「決まっていますわ。今の私の敵は、目の前にいるアナタ――山代紅也だけですわ!」
ライフルの銃口が、こちらを向く。既に光が集まっている銃口。
不意打ちではない。これは……開戦を告げる一発だ。
「上等ォ!!」
フェイスを展開し、バーニアに再点火。相手の足下にもぐりこむように動き、ビームから身をかわす。
《回避成功。敵武装、従来型ビームライフルと推定。波形がなにやら特殊だが……次弾充填中!》
(わかってるよ!!)
左右に機体を動かし、降り注ぐビームを回避する。着弾地点から土埃が立ち上り、こちらの姿を覆い隠していく。
「くっ、ちょこまかと……」
《敵操縦者は短気。ああいうタイプには、挑発が有効だ》
(それは知ってる。でも、やらないぜ?)
なおもビームの雨は止む気配を見せない。葵よりも、はるかに雑な射撃。射線が見えなくても、余裕で避けられる。……おそらく、こちらを見失ったな?
(……8。左右燃料タンクのエネルギーを、半分推進に回せ。突撃するぞ)
《飛行可能時間が減るぞ?いいのか?》
(大丈夫だ、なんとかなる!)
瞬間、背中に突き上げるような衝撃。装甲が無ければ、体が砕けるほどの空気抵抗が俺を襲う。この瞬間、俺は一発の弾丸となっていた。
「!?下方向に熱量を感知?……ッ!早い!!」
ライフルがこちらを向くが、もう遅い。俺は、一秒以内にオルコットにたどり着く。
「うおりゃあ!!」
ガーベラを一閃。ライフルを両断する。そして、返す刀で本体を……両断しようとして気付く。
(……アレ?速すぎたか?)
そして、体に衝撃が走る。
「ぐっ……うおおおおお!?」
「いやああああぁぁぁ!?」
俺とオルコットは、密着したまま仲良く上空へ飛んでいった。
◆
「なんてことをしますの!?」
「わりぃ、出力が高すぎた!!」
この急加速の中、普通にしゃべるオルコットには恐れ入る。こっちと違って、顔がむき出しなのに……。ISのデタラメさを、改めて思い知った。
現在、ブルー・ティアーズのシールドエネルギーは残ってはいるが、あまりの急加速と衝突の勢いでPICが不調になり、抵抗をモロに受けてジリジリと目減りしている。
「も、もうわたくしの負けでいいですわ!早く、早く止めて下さいな!!」
「さっきから減速してる。だけどよ、加速度が大きすぎたんだ、止まらねぇ!!」
《……だから、いいのか?と言ったんだ》
「ハチィィィィ!!」
《……が、手はある》
「何!?どうするんだ?」
《……耐えろよ》
―――警告、フライトユニットが
フライトユニットが、背部からパージされる。そして俺達を追い抜き、反転してからオルコットの後ろに回り込む。
そして―――残りの燃料全てを使い、地面へと加速し始めた。
「いやああぁぁ!!つぶれる!つぶれてしまいますわ!!」
オルコットは、背部からの急な加速に苦しみだす。
「悪い、耐えてくれ!お前も、スラスターで加速するんだ!」
「ううっ……。何であなたの言うことなんか……」
「このままじゃ俺、マジで死ぬ!ISが解除される前に、早く!」
オルコットのエネルギーは、既に二桁になっていた。しかも今なお、フライトユニットのせいで減り続けている。
「た、確かに、ここでいがみ合っていても仕方がありません……。ブルー・ティアーズ!!」
オルコットの背中から青いパーツが分離し、独立したスラスターとして機体を押し始める。
「現在速度30……10……5……0!停止したぜ、オルコット!!」
「ええ……。ブルー・ティアーズ、停止!」
互いの背中に、あるべきパーツが帰ってくる。
「8、燃料残量は?」
《残量10%未満……。ギリギリだったな》
「た、助かりました……わ」
そう言うと、オルコットの体が光に包まれ……って、マズイ!!
《セシリア・オルコット、シールドエネルギー残量ゼロ。ISの稼働限界だ》
「分かってる!クソ!安心して集中力が切れたのか?気絶してるぜ」
あわててオルコットを抱きとめた。その顔にはうっすらと汗が浮かび、体はぐったりとしていた。
「……8。足と胴体以外の全エネルギーをフライトユニットに回せ。それで足りるか?」
《ギリギリだな。まあ、後は根性で何とかしろ》
「……ハハッ、お前……本当にメカかよ」
レッドフレームから腕が、脚が、顔が消えていく。残ったのは姿勢制御バーニアのある足と、フライトユニットと連結した胴体のみ。
「レディがいるんだ……。ゆっくり下りるぜ」
《合点承知だ》
セシリアを抱きかかえたまま、俺はアリーナへと降りていく。
◆
〈side:セシリア・オルコット〉
―――夢を、見ていた。
それは、昔の記憶。懐かしい、そしてもう二度と会うこともない、家族の記憶。
名家に婿入りした父と、強い母。父は、母の顔色ばかりうかがう人だった。そんな父が、母はどこか鬱陶しそうだった。
そんな二人だ。結婚生活は、そう長くは持たなかった。
父と母はやがて、別々に暮らすようになった。セシリアは、情けない父親よりも、母と共に暮らすことを望んだ。そして、あの日がやってくる。
三年前のある日。事故が起こった。
越境鉄道の横転事故。死傷者は100人を超え………その中には、自分の両親の名もあった。
あの日、一言「出かけてくる」とだけ言った、母の笑顔は今でも覚えている。
なぜ、私を置いていくのか。待ってほしい。そう思い、手を伸ばし―――
「待って……はっ!?」
目が覚めた。白い天井。そこに伸ばされた右腕は、何もつかんではいなかった。
遅れて、自分が横になっていることに気づく。消毒薬の臭いがするから、ここは保健室なのだろう。
「気が、ついたか」
唐突に声が聞こえる。誰かに見られていたという事実に、顔が赤みを帯びる。
それを隠すようにして、声の方に顔を向けると。そこには、先程まで戦っていた男、山代紅也がいた。
《脳波その他のバイタルサインは正常。完全な覚醒状態だ》
彼の脇に置かれた端末に、そのような文字が表示される。それを見た山代さんの表情には、隠しきれないほどの安堵が浮かんでいた。その表情に、セシリアは形容しがたい感覚を感じる。
「……わたくしは、どうなりましたの?」
覚えているのは、自分が打ち上げられたこと。そして、その速さを相殺するため、ブルー・ティアーズを使ったこと。――そのあとの記憶は、もやがかかったようにあやふやだ。
「速度をゼロにしたのは良かったんだが、お前の機体が解除されてな。お前自身も気絶してたみたいだったから、こうして保健室まで運んできた……ってわけだ」
「そうでしたの……。では、わたくしは………負けたの、ですね」
この男が私を助けたということは、彼のエネルギーは残っていたのだろう。
初めて、男に負けた。その事実から逃げるように、セシリアは顔を伏せた。
「いや、ありゃあ引き分けだ。はっきりいって、あんな戦い方をするつもりはなかった。まあ……事故だ、事故!だから、無効!織斑先生にも、そう言ってきた」
だが、彼の言葉は予想外であった。こちらを慰めようとしているのか?男に、情けをかけられるなんて……このわたくしが!?
「……このわたくしに、情けをかけたつもr……」
「言っておくが!」
睨むようにわたくしの眼を見る山代さん。その目には、まぎれもない怒りの色が混ざっていた。
「言っておくが、情けをかけたつもりはねぇ。あんな結果、俺だって納得できないんだよ」
「…………」
その真剣な眼差しに、わたくしはただただ圧倒される。
「それになぁ……あそこでお前を斬って!落として!ガーベラを突き付けてフィニッシュ!っていうのがカッコよかったのに、どうしてくれんだよ!」
「は……。ええっ!?わたくしのせいですの!?」
真剣な表情から一転。子供のように拗ねた顔をして、理不尽な文句を言い始める。
……そのギャップに、思わず笑いそうになってしまう。
「ああーーっ!笑ったな!!
ふーんだ、オルコットなんて、もう知らないぞ!じゃあな!!」
端末の取っ手をつかんで、勢いよくドアへと向かい―――ちら、とこちらを見てから、
「ホントに、本当に帰っちゃうぞ?」
なんて言っている。
「え、ええ、帰ってもよろしくってよ?」
わたくしがそう言うと、彼はガックシと肩を落とし、今度こそ出ていった。
―――部屋に、静寂が戻ってくる。
「……あら?」
ふと、おでこに感じた違和感。そこには、よく冷えたタオルが置かれていた。
続いて、外を見る。夕暮れだった空は、すでに真っ黒になっていた。
(まさか……今までずっと看病を?)
そして思い出す。
薄れる意識の中で、自分を抱きとめた、優しい、そして暖かい腕のことを。
そして、フェイスマスクの下から現れた、慈愛に満ちた笑みを―――
(ああ……。敵いませんわね。)
戦っている相手までも気遣うその余裕。それは貴族のように、自分に余裕がある者ならば自然にできること。
自分と相手の態度の差。それを思い出し、セシリアは初めて、男に負けを認めたのであった……。
第一試合、引き分け。
自分の機体の性能を、数値だけ見て把握したつもりになってはいけません。