IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第9話 戦え、紅也!学園がリングだ!

 週が明け、月曜日。今日は、俺と一夏とオルコットによる、クラス代表決定バトルロワイヤルが行われる。

 

「場所は第三アリーナ、開始時刻は放課後です!気になる対戦カードは……第一試合!セシリア・オルコットVS山代紅也!!第二試合!オルコットVS織斑一夏!!第三試合!山代VS織斑!!見どころは第三試合!史上初の、男性IS操縦者対決です!」

「「「「えーっ、見たーーーい!!」」」」

「そう言うと思っていました!ここにありますのは、数量限定の観戦チケット!」

「「「「いいなぁ、欲しいなぁ。でも……高いんでしょ?」」」」

「ご安心ください!今なら第一試合、第二試合の観戦チケットを500円、第三試合の観戦チケットを700円、三枚セットで1600円と格安で販売いたs……」

 

 ズドン!!パパパパァン!今日も元気に男女平等ラッシュが炸裂する。

 

「勝手に売るな、馬鹿者。そしてお前ら、なにをやっている」

 

「えー織斑先生」

「山代くんが」

「サクラやってくれたら~」

「明日のお昼をおごってくれるってぇ、言ってくれたんですよ」

 

 一斉に俺を見つめる元・共犯者たち。……おのれ、暴力に屈しおって。

 

「見たい奴は勝手に見に来ればいい……。と、いうわけだ。並んでる奴らも解散しろ!」

 

「「「「やったぁ♪」」」」

「そ、そんなぁ……殺生な……織斑先生……」

 

 いい小遣い稼ぎになると思ったのに。無料公開なんて、ヒドすぎる!!

 

「やまぴ~」

 

 そんな中近付いてきたのは、サクラを頼んだうちの一人、布仏さんだった。

その朗らかな笑顔や態度に、思わず癒される。何だい?慰めてくれるの?なんて優しい……

 

「それはそれとしてぇ、サクラやったんだから~、約束は守ってね~」

 

 ドン、と先ほど叩かれた以上の衝撃が、俺を襲った気がした。

 仲間だと思っていた少女は、最初から敵だったのだ……。

 

 

 

 

 

 

 今度こそ放課後。

 場所は第三アリーナのAピット。こっちには俺のほかに一夏・箒・葵がいる。

 

「―――なあ、箒、紅也」

「何だ、一夏」「ん、何だ?」

「気のせいかもしれないんだが」

「そうか、気のせいだろう」「もったいぶるなよ、何だ?」

 

「ISのことを教えてくれる話はどうなったんだ?」

 

 ……あー。忘れてた。俺は箒への指導と、レッドフレームの調整。箒は、予告どおりに剣術特訓……。正直、ISのことなんて忘れてた。大事なことなので二回言いました。

 

「……し、仕方がないだろう。お前のISもなかったのだから」

「初日みたいに、打鉄を借りればよかったじゃないか!」

「いや、こう考えろ。初日にISの練習はやったから、それで十分……。どうだ、二人とも」

「うむ、そうだな」「足りねぇよ!」

 

 息ピッタリなのは分かったが、内容は真逆だった。

 

「つーか、訓練機なら、一夏が借りれば良かったじゃねぇか。箒ばっかし責めんなよ」

「……男らしくない」

「ぐうっ!?」

 

 一夏が俺達―特に、葵の言葉―にダメージを受け、胸を押さえる。

 ……葵は、口数が少ないうえに、毒舌なのだ。だけど、時折見せるひまわりのような笑顔や、眼をそらしながら「頑張って」と照れくさそうに言う姿は――たまらん。

 

 ……ああ、シスコンで悪いか!こちとら、昔っから二人で力を合わせて頑張ってきたんだ。シスコンにもなるさ。

 

「……しかし、まだ来ないのか。一夏のISは」

 

 そう、用意されるはずだった専用機は、一週間たった今でも到着していない。

 ……まさか、あの四機のように強奪されたか?ありえない話ではないな。

 

「……時間」

 

 葵が呟く。そろそろ、第一試合が始まる。

 

「紅也。準備は大丈夫か?」

 

 先程まで一夏と口論していた箒も、それに気づいてこちらを向く。

 一夏は……ダメだ、まだダメージが残っているようだ。

 

「大丈夫だ、問題無い」

「……フラグ」

 

 え、負けるって?じゃあテイク2。

 

「一番いいのを頼む」

「意味がわからんぞ」

 

 確かに、文脈を完全無視していたな。では、テイク……

 

「山代。開始時間だ、早くしろ」

「…………」

 

 織斑先生に急かされ、レッドフレームを展開する。

 

《もう話さなくていいのか?》

「ああ、じゃあ一言だけ」

 

 8に言われた俺は、皆の方に向き直り、フェイス部分を収納した。

 

「じゃあ、楽しんでくるぜ!」

 

 笑顔で、一言。

 正直、俺はこの戦いを楽しみにしていた。

 山代紅也としての、初の戦い。葵以外のISとやりあうのは、これが初めてだったりする。それに、このレッドフレームが、表舞台に立つことができる。ASTRAY(王道ではない者)が、花道に立つ。それが何より……嬉しい。

 

「ああ……行って来い」

「おう、頑張ってな」

「……瞬殺希望」

 

 三者三様の応援を受け、俺はフライトユニットに点火する。一瞬の加速の後、俺の体は空にあった。

 

 

 

 

 

 

「全身装甲とは……珍しい機体を使いますのね」

「そうか?俺の所属してる所じゃ、むしろメジャーなんだが」

 

 オルコットは、既に空にいた。その目は、相変わらずこちらを見下したようであるが、しっかりと俺の目を見据えている。

 

「……改めて聞くぜ。お前の相手は、誰だ?」

「決まっていますわ。今の私の敵は、目の前にいるアナタ――山代紅也だけですわ!」

 

 ライフルの銃口が、こちらを向く。既に光が集まっている銃口。

 不意打ちではない。これは……開戦を告げる一発だ。

 

「上等ォ!!」

 

 フェイスを展開し、バーニアに再点火。相手の足下にもぐりこむように動き、ビームから身をかわす。

 

《回避成功。敵武装、従来型ビームライフルと推定。波形がなにやら特殊だが……次弾充填中!》

(わかってるよ!!)

 

 左右に機体を動かし、降り注ぐビームを回避する。着弾地点から土埃が立ち上り、こちらの姿を覆い隠していく。

 

「くっ、ちょこまかと……」

《敵操縦者は短気。ああいうタイプには、挑発が有効だ》

(それは知ってる。でも、やらないぜ?)

 

 なおもビームの雨は止む気配を見せない。葵よりも、はるかに雑な射撃。射線が見えなくても、余裕で避けられる。……おそらく、こちらを見失ったな?

 

(……8。左右燃料タンクのエネルギーを、半分推進に回せ。突撃するぞ)

《飛行可能時間が減るぞ?いいのか?》

(大丈夫だ、なんとかなる!)

 

 瞬間、背中に突き上げるような衝撃。装甲が無ければ、体が砕けるほどの空気抵抗が俺を襲う。この瞬間、俺は一発の弾丸となっていた。

 

「!?下方向に熱量を感知?……ッ!早い!!」

 

 ライフルがこちらを向くが、もう遅い。俺は、一秒以内にオルコットにたどり着く。

 

「うおりゃあ!!」

 

 ガーベラを一閃。ライフルを両断する。そして、返す刀で本体を……両断しようとして気付く。

 

(……アレ?速すぎたか?)

 

 そして、体に衝撃が走る。

 

「ぐっ……うおおおおお!?」

「いやああああぁぁぁ!?」

 

 俺とオルコットは、密着したまま仲良く上空へ飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

「なんてことをしますの!?」

「わりぃ、出力が高すぎた!!」

 

 この急加速の中、普通にしゃべるオルコットには恐れ入る。こっちと違って、顔がむき出しなのに……。ISのデタラメさを、改めて思い知った。

 現在、ブルー・ティアーズのシールドエネルギーは残ってはいるが、あまりの急加速と衝突の勢いでPICが不調になり、抵抗をモロに受けてジリジリと目減りしている。

 

「も、もうわたくしの負けでいいですわ!早く、早く止めて下さいな!!」

「さっきから減速してる。だけどよ、加速度が大きすぎたんだ、止まらねぇ!!」

《……だから、いいのか?と言ったんだ》

「ハチィィィィ!!」

 

《……が、手はある》

「何!?どうするんだ?」

《……耐えろよ》

 

 ―――警告、フライトユニットが排除(パージ)されます。

 

 フライトユニットが、背部からパージされる。そして俺達を追い抜き、反転してからオルコットの後ろに回り込む。

 そして―――残りの燃料全てを使い、地面へと加速し始めた。

 

「いやああぁぁ!!つぶれる!つぶれてしまいますわ!!」

 

 オルコットは、背部からの急な加速に苦しみだす。

 

「悪い、耐えてくれ!お前も、スラスターで加速するんだ!」

「ううっ……。何であなたの言うことなんか……」

「このままじゃ俺、マジで死ぬ!ISが解除される前に、早く!」

 

 オルコットのエネルギーは、既に二桁になっていた。しかも今なお、フライトユニットのせいで減り続けている。

 

「た、確かに、ここでいがみ合っていても仕方がありません……。ブルー・ティアーズ!!」

 

 オルコットの背中から青いパーツが分離し、独立したスラスターとして機体を押し始める。

 

「現在速度30……10……5……0!停止したぜ、オルコット!!」

「ええ……。ブルー・ティアーズ、停止!」

 

 互いの背中に、あるべきパーツが帰ってくる。

 

「8、燃料残量は?」

《残量10%未満……。ギリギリだったな》

「た、助かりました……わ」

 

 そう言うと、オルコットの体が光に包まれ……って、マズイ!!

 

《セシリア・オルコット、シールドエネルギー残量ゼロ。ISの稼働限界だ》

「分かってる!クソ!安心して集中力が切れたのか?気絶してるぜ」

 

 あわててオルコットを抱きとめた。その顔にはうっすらと汗が浮かび、体はぐったりとしていた。

 

「……8。足と胴体以外の全エネルギーをフライトユニットに回せ。それで足りるか?」

《ギリギリだな。まあ、後は根性で何とかしろ》

「……ハハッ、お前……本当にメカかよ」

 

 レッドフレームから腕が、脚が、顔が消えていく。残ったのは姿勢制御バーニアのある足と、フライトユニットと連結した胴体のみ。

 

「レディがいるんだ……。ゆっくり下りるぜ」

《合点承知だ》

 

 セシリアを抱きかかえたまま、俺はアリーナへと降りていく。

 

 

 

 

 

 

〈side:セシリア・オルコット〉

 

 ―――夢を、見ていた。

 

 それは、昔の記憶。懐かしい、そしてもう二度と会うこともない、家族の記憶。

 名家に婿入りした父と、強い母。父は、母の顔色ばかりうかがう人だった。そんな父が、母はどこか鬱陶しそうだった。

 

 そんな二人だ。結婚生活は、そう長くは持たなかった。

 

 父と母はやがて、別々に暮らすようになった。セシリアは、情けない父親よりも、母と共に暮らすことを望んだ。そして、あの日がやってくる。

 

 三年前のある日。事故が起こった。

 越境鉄道の横転事故。死傷者は100人を超え………その中には、自分の両親の名もあった。

 あの日、一言「出かけてくる」とだけ言った、母の笑顔は今でも覚えている。

 なぜ、私を置いていくのか。待ってほしい。そう思い、手を伸ばし―――

 

 

 

 

「待って……はっ!?」

 

 目が覚めた。白い天井。そこに伸ばされた右腕は、何もつかんではいなかった。

 遅れて、自分が横になっていることに気づく。消毒薬の臭いがするから、ここは保健室なのだろう。

 

「気が、ついたか」

 

 唐突に声が聞こえる。誰かに見られていたという事実に、顔が赤みを帯びる。

 それを隠すようにして、声の方に顔を向けると。そこには、先程まで戦っていた男、山代紅也がいた。

 

《脳波その他のバイタルサインは正常。完全な覚醒状態だ》

 

 彼の脇に置かれた端末に、そのような文字が表示される。それを見た山代さんの表情には、隠しきれないほどの安堵が浮かんでいた。その表情に、セシリアは形容しがたい感覚を感じる。

 

「……わたくしは、どうなりましたの?」

 

 覚えているのは、自分が打ち上げられたこと。そして、その速さを相殺するため、ブルー・ティアーズを使ったこと。――そのあとの記憶は、もやがかかったようにあやふやだ。

 

「速度をゼロにしたのは良かったんだが、お前の機体が解除されてな。お前自身も気絶してたみたいだったから、こうして保健室まで運んできた……ってわけだ」

「そうでしたの……。では、わたくしは………負けたの、ですね」

 

 この男が私を助けたということは、彼のエネルギーは残っていたのだろう。

 初めて、男に負けた。その事実から逃げるように、セシリアは顔を伏せた。

 

「いや、ありゃあ引き分けだ。はっきりいって、あんな戦い方をするつもりはなかった。まあ……事故だ、事故!だから、無効!織斑先生にも、そう言ってきた」

 

 だが、彼の言葉は予想外であった。こちらを慰めようとしているのか?男に、情けをかけられるなんて……このわたくしが!?

 

「……このわたくしに、情けをかけたつもr……」

「言っておくが!」

 

 睨むようにわたくしの眼を見る山代さん。その目には、まぎれもない怒りの色が混ざっていた。

 

「言っておくが、情けをかけたつもりはねぇ。あんな結果、俺だって納得できないんだよ」

「…………」

 

 その真剣な眼差しに、わたくしはただただ圧倒される。

 

「それになぁ……あそこでお前を斬って!落として!ガーベラを突き付けてフィニッシュ!っていうのがカッコよかったのに、どうしてくれんだよ!」

「は……。ええっ!?わたくしのせいですの!?」

 

 真剣な表情から一転。子供のように拗ねた顔をして、理不尽な文句を言い始める。

 ……そのギャップに、思わず笑いそうになってしまう。

 

「ああーーっ!笑ったな!!

 ふーんだ、オルコットなんて、もう知らないぞ!じゃあな!!」

 

 端末の取っ手をつかんで、勢いよくドアへと向かい―――ちら、とこちらを見てから、

 

「ホントに、本当に帰っちゃうぞ?」

 

 なんて言っている。

 

「え、ええ、帰ってもよろしくってよ?」

 

 わたくしがそう言うと、彼はガックシと肩を落とし、今度こそ出ていった。

 ―――部屋に、静寂が戻ってくる。

 

 

 

「……あら?」

 

 ふと、おでこに感じた違和感。そこには、よく冷えたタオルが置かれていた。

 続いて、外を見る。夕暮れだった空は、すでに真っ黒になっていた。

 

(まさか……今までずっと看病を?)

 

 そして思い出す。

 薄れる意識の中で、自分を抱きとめた、優しい、そして暖かい腕のことを。

 そして、フェイスマスクの下から現れた、慈愛に満ちた笑みを―――

 

(ああ……。敵いませんわね。)

 

 戦っている相手までも気遣うその余裕。それは貴族のように、自分に余裕がある者ならば自然にできること。

 自分と相手の態度の差。それを思い出し、セシリアは初めて、男に負けを認めたのであった……。

 




第一試合、引き分け。
自分の機体の性能を、数値だけ見て把握したつもりになってはいけません。
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