IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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総合評価が444ptとなりました。綺礼なゾロ目で感激です!

さて、前回盛大にフラグを立てた紅也の明日はどっちだ⁉︎


第90話 これが、俺の戦いだ。誰にも文句は言わせねぇ

「えーと……これは?」

「うん、袴だよ」

「知ってますよ、それくらい!」

 

 あの会話からしばらくして、俺と更識先輩は畳道場にいた。

 先についていたとおぼしき一夏はいきなり会長に話しかけ、自分の格好についての疑問を口にしている。

 ……何か間違ってんのか?たしか「ハカマ」って、サムライの戦闘服だったはずだけど。

 ちなみに、更識先輩からそう聞いた。だから――

 

「しかも!何で紅也まで袴なんだよ!」

「これを着て戦うのがルールだと言われたんでな。着替えた」

 

 まあ、弓道着も似たようなものだし、ね。

 

「さて、勝負の方法だけど、私を床に倒せたらキミの勝ち」

「え?」

「逆にキミが続行不能になったら私の勝ちね。それでいいかな?」

「え、いや、ちょっと、それは……」

「どうせ私が勝つから大丈夫」

 

 おおう、いきなり挑発だ。

 一夏の奴……熱くなるなよ。ここで勝負に乗ったりしたら、相手の思うつぼだぜ?

 ……っておいおい、構えちまった。

 

「はぁ……。じゃ、試合始めっ!」

 

 両者やる気まんまんなようなので、試合を始める。

 すると一夏は剣道特有の、すり足での移動を行い、更識先輩へと迫る。

 ……ふうん。臨海学校以前とは比べ物にならない、いい動きだな。夏休みの間に自分を見つめ直すとか、鍛え直すとか、そういう少年漫画的なイベントでも挟んだのだろうか?

 

 ま、それでも温いが。

 

 もっと実戦的な格闘技……例えばマーシャルアーツやソバットと比べると、どうしても鋭さに欠ける。

 これは武術の流派がどうこう、という問題ではなく、一夏がまだ未熟であることが原因とも言えるけどな。

 

 ところで一夏、投げ狙いか?露骨過ぎて俺でも気付くんだが……そんなものが通用するとでも?

 

 更識先輩の腕に伸ばしたその手はあっさりとからめ捕られ、一夏は逆に畳へとダイブする。

 肺が圧迫され、そこにたまった空気が漏れる。

 が、先輩は止まらない。

 そのまま一夏を押さえこみ、無防備な首へとその手を伸ばし――頸動脈を指でなぞってみせた。

 

「う…………」

「まずは一回」

 

 一回……死亡、っと。

 笑顔で死刑宣告をした更識先輩は、そのまま一夏から離れる。

 これが、学園最強……。

 それを肌で感じた一夏は再び構え、今度は鋭いまなざしで更識先輩を観察し始める。

 

 ……これはあれか?『先に動いた方が負け』的な展開か?

 そして某異常(アブノーマル)過負荷(マイナス)の如く、互いに勝負を決めるのか?

 

「ん?来ないの?それじゃあ私から――行くよ」

 

 どんっ、と足音ひとつ。

 しかし実際の歩数はどれほどだったのか?

 一夏と先輩の間にあった距離が、一瞬にして零になり、追撃が行われる。

 

 肘、肩、腹へと掌打が決まる。

 それらは決して重い一撃ではない。

 なぜなら――それらはすべて、牽制(フェイク)なのだから。

 

 手が触れた箇所を防御するため、一夏の筋肉が反射的にこわばる。

 残されたのは、無防備なままの一夏。

 額、頸、肺、心臓、鳩尾、金的……狙い放題だ。

 そんな中で先輩が選んだのは、肺。

 双掌打をモロに喰らった一夏は、再び空気を強制排出される。

 

「がっ、はっ……!」

 

 白目を剥く一夏。しかし、更識先輩は止まらない。

 

「足下ご注意」

 

 再び投げる。

 今度は背中から。

 当然、一夏に受け身など取れるはずが――無い。

 

「これで二回。まだやる?」

 

 息も絶え絶え、既に満身創痍な感じの一夏に対し、更識先輩は襟元一つ乱れていない。

 両者の実力差は明らかだ。もし、ここで一夏がギブアップしても、誰も責めはしまい。

 しかし――

 

「まだまだ、やれますよ……!」

 

 一夏は深く息を吸い込み、それを吐きだすと共に一気に立ち上がる。

 その瞳に映るのは、勝利への渇望。

 こいつは、まだあきらめていない。

 

「ん。がんばる男の子って素敵よ」

「それはどうも……」

 

 足取りはふらつき、身体はボロボロ。

 それでも一夏は更識先輩を見据え、構えを取る。

 対する更識先輩は、変わらぬ笑顔。

 見る者全てを引きつけ、見る者全てを拒絶するような、いつもの笑顔のままだ。

 

 その笑顔に押されたのか、一夏は二度、深呼吸をする。

 そして――雰囲気が変わった。

 

「む、本気だね」

「………………」

 

 おそらく、次に繰り出されるのは、一夏にとって最強の一撃。

 それを、更識先輩はどう攻略するのか。見せてもらうぜ……。

 

 二人はにらみ合う。それは先程と同じ。

 そして睨みあいの中……唐突に、一夏が動いた。

 

「!」

 

 そのスピードに、更識先輩は半歩下がる。

 いや、スピードのせいじゃない。

 おそらく、仕掛けるタイミングを読まれたのだ。

 そのうえで、仕掛ける直前に『動』に転じた。

 それが、一夏の本気の正体。

 相手のリズムを狂わせ、精神の空白につけ込む。

 

 ……確か、篠ノ之流古武術だったか?今度、箒に聞いてみるとしよう。

 

 さて、更識先輩が晒した隙は、決して大きなものじゃない。

 でも、『完全無欠』を破るチャンスであったことは確かだ。

 だというのに、一夏が狙ったのは初手と同じく投げ。

 オウム返しの戦術が、通用するわけがない!

 

 ズドンッ!

 

「がはっ!」

 

 カウンターを喰らった一夏が、前のめりに畳に叩きつけられる。

 それは、まるで最初の再現。

 出来の悪いリメイク映画を見てるみたいだ。

 

 しかし、そこから先の展開は違う。

 強烈な一撃を受けたはずの一夏は、気合いのみで身体を動かし、更識先輩の足を掴む。

 型も何もない、力任せの追撃。意地でも倒れないという、帝王のごとき信念から放たれたそれは確かに、彼女の意表を突いた。

 

「あら」

「今度こそ、もらったぁっ!」

 

 これぞ火事場のクソ力。

 足首を空中へと投げられた先輩は、地に足着かぬ不安定な状態。

 起き上がった一夏はそんな彼女の胴を掴み、そのまま投げ飛ばそうとする。

 

 ……すげぇな。あんなの、俺でも思いつかねぇよ。

 

「甘ーい」

 

 それでも、先輩には届かない。

 掴まれる直前、右腕を畳に接地させた先輩は、それを軸に回転し、さらにそのまま蹴りを繰り出した。

 それはさながら、カポエラーのトリプルキック。

 まさかの反撃に、今度は一夏の方が驚愕した。

 

「なぁっ!?」

「攻め方はよかったんだけどね」

 

 まあ、そうだろう。

 今、一夏にもっと力があれば――具体的には、右腕がつかない高さまで彼女を飛ばせれば――勝敗は決していたハズ。

 吹っ飛ばされ、とっさに受け身を取ろうとした一夏。

 さて、これで仕切り直しか……

 

「でやああああっ!!」

「何ッ!?」

 

 その行動は、予想外だった。

 一夏は腕と脚で着地した後、またも力任せに飛び出したのだ。

 一方の先輩は、既に体勢を整えている。

 破れかぶれの一撃。こんなもの、通るわけが無い!

 

 それでも一夏は加速する。

 型を捨て、なにがなんでも一撃加える、という覚悟を秘めた、野生の一撃。

 それは確かに先輩に届き――

 

「あっ……」

「きゃん」

 

 ……いや、その、何だ。

 一夏の伸ばした手は胴着に届き、勢いそのまま服をはだけさせた。

 シルクのレース下着に包まれた更識先輩の胸が、衆目にさらされる。

 

 ……それがお前の欲しかった力か、一夏。

 武装解除の魔法でも習ってろ。ハリ○タ版じゃなくてネ○ま版の方を。

 

「一夏くんのえっち」

「なぁっ!?」

 

 そう言う更識先輩だが、特別顔を赤らめたりとか、そんな気配は微塵も無い。

 彼女が気にしているのは、勝負の決着のみだ。

 

 ……とか冷静に解説してるつもりの俺も、客観的に見れば、下着姿の美女を視姦している変態なんだろうなぁ……。顔を見てるってことは、当然、その下も見えるわけだし。

 なんというか……ごちそうさまでした。

 

 さて、更識先輩の一言で動揺した一夏は、せっかく掴んだ腕を払い落され、そのまま蹴りあげられた。

 そして繰り出される――暴力の嵐。

 

 誰かが言ってた。空中では、地面に衝撃を逃がすことは出来ない……と。

 

 更識先輩は、まるで母さんのごとき空中コンボを繰り出す。

 既に白目を剥いている気がする一夏を、気にも留めずに。

 

「おねーさんの下着姿は高いわよ?」

 

 そんなことを言いながら、とどめの一撃を放った。

 鮮やかなハイキックで飛ばされた一夏は、まっすぐにこちらへ飛んでくる。

 それを見た俺は、つい――

 

 一夏を全力で蹴り飛ばしてしまった。

 

 

 ・コンボが繋がった!

 

 

 放物線を描く一夏は、再び先輩の元へ飛んでいく。

 

「あら、まだ足りなかったのかしら」

 

 再びの乱打。宙を舞う一夏。

 明らかにオーバーキルな気もするが……ラッキースケベのハーレム野郎にはちょうどいいか。

 男たちの恨みを抱えて死ぬがいい!

 

「……49、50っと」

 

 今度こそリフティングを終えた先輩。

 開放された一夏は、なんというか……モザイク処理が必要な状態だった。

 

「さて、これを見てもまだやる気?」

「さすがに引きましたけど……やり合いたいって気は変わりませんね」

 

 級友の無残な姿を視界の隅に捉えつつ、俺は先輩に返答する。

 あれだけの空中コンボを決めた後だ。先輩も、少しは疲れてる筈。

 それなら――勝機はある。

 

「じゃ、今度はジャッジなしの真剣勝負ね。ルールはさっきキミが言ったのと同じ」

「ええ。それで異論が無いなら、今すぐ始めましょう」

「ふふっ、本気で勝ちに来たね。それじゃあ……」

「ええ……」

「「試合開始!」」

 

 宣言すると同時に、俺は先輩に飛びかかる。

 先程の一夏と同じ、投げ狙いの技。当然、先輩はカウンターを狙って腕を掴もうとするも……。

 

「あれ?」

 

 掴み損ねる。

 いや、その言い方は厳密じゃない。

 掴んだはずのその手は、更識先輩をすり抜けた。

 

 ……ククク。正面から挑むと思ったか!

 今のは、武術でも何でもない。純粋な科学技術!

 俺のISに搭載された機能の一つ――ホログラフ投影機能!

 

 その隙をついて、俺は先輩の後ろに回る。

 全ては、自分の姿を見失わせるために。

 

「甘いわよ」

 

 が、そんな小細工は通じない。

 後ろに回った次の瞬間には、俺の心臓めがけて抜き手が迫っている。

 そしてその手は……山代紅也の体を貫いた。

 

「残念、残像です」

「嘘おっしゃい。ズルしてるくせに」

 

 山代紅也を貫いた会長が、右に視線をずらす。

 そこで、ようやく。

 俺と、目があった。

 

「ホログラフを使った自分の投影なんて、やってくれるわね」

「俺が決めたのは勝利と敗北の条件だけです。ならば、他に何をやっても自由でしょ?」

「なるほどね。さすがは、騙しでのし上がって来たきた会社の社員なだけあるわ」

「それはどうも」

 

 俺が仕掛けたのは、二つだけ。

 ホログラフによって自分の輪郭をごまかしたことと、自分そのものの映像を投影したこと。

 要は、分身ってやつだ。

 

「さて、これが俺の『手段』です。……まだ続けますか?」

「当然ね。偽物が何人いようとも、本物はキミ一人。逃げられると思わないことよ」

「……ま、そうでしょーね」

 

 ホログラフから手を引き抜き、俺を見据える会長。

 対する俺は、ホログラフの山代紅也と共に、全く同じファイティングポーズをとった。

 

「「「では、行きますよ」」」

 

 そう、俺が告げる。

 しかしその声は、全く異なる三か所から同時に聞こえてきた。

 

「今度はスピーカーを乗っ取ったのかしら。どれだけ小細工が好きなのよ」

「「「まあ、こうでもしないと勝てないもので」」」

 

 作戦その二。音による幻惑。

 気休め程度だが、注意力を削ぐことはできるはずだ。

 さらに……。

 

「「「必殺の跳び膝蹴りィ!!」」」

「適当なことを言わないでよね」

 

 二人の山代紅也と、三つの音源。

 そして繰り出される右ストレートとローキック。

 

 ……膝蹴りなどやっていない。完全なハッタリだ。

 

「学園最強は……搦め手にも強いのよ」

 

 しかし、入らない。

 俺が放ったローキックは回避され、山代紅也(げんえい)のストレートは先輩を貫通する。

 さらに――

 

「「「頭上注意!」」」

 

 宣言通りに俺が放ったチョップは防御され、山代紅也のタックルは相手をすり抜ける。

 

「だから、甘いわよ」

 

 しかも防御に使ったのと逆の手で俺の左手首をつかみ、投げ飛ばそうとまでしてくる強かさときたら。

 なるほど。伊達や酔興で背負っている看板では無いらしい。

 学園最強というものは――!

 

「もらっ――!?」

 

 が……そんなことは分かってる。

 成程。確かに、この人は生徒の中では最強だろう。

 しかし――それはあくまで『人間』という枠の中での話。

 ならば……。

 

「「「こんな返し手は予想外でしょ?」」」

 

 掴まれた左手首から走る、目に見えぬ超常のチカラ。

 それにより更識先輩の手が離れた瞬間に、俺は蹴りを加えて離脱していた。

 

「いったぁい……。かよわいおねーさんに何するのさ」

「ハハハ、御冗談を」

「「学園最強なんでしょ?どこがかよわいんですか?」」

「言ってくれるわね……」

 

 二、三度手を握って開いて、そのうえで俺を睨む先輩。

 相変わらずの笑顔だが……その質が変化したのを、俺は見てとった。

 おお。美人の笑顔が恐ろしいって思ったのは……初めてではないな。

 母さんとか、エイミーさんとか。前例は身近に転がってる。

 

 ――と、余計なことを考えてたのが悪かったのだろうか。

 気がついたら先輩は俺の目の前に存在し、俺の頚部目がけて右腕を突き出していた。

 ガードしなければ……と思ったときには、既に俺の腕は動いている。

 左腕で()の腕をはじく……が、手ごたえは無い。

 おそらく、手と腕が触れ合った瞬間に力を緩め、横に逃げたんだろう。

 

「なるほどね。見えたわよ、その能力(チカラ)

「「「何の話ですか?さっぱり分かりませんね」」」

 

 そうは言いながらも、俺の心は平静だ。

 その冷静な思考が告げている。

 ……彼女は、嘘を言っていない、と。

 

「義手にスタンガンとは恐れ入るわ。自分を改造するなんて、正気かしら?」

「腕の秘密まで知ってるなんて……。流石は、更識家ってとこですかね?」

 

 売り言葉に買い言葉。

 彼女が秘密を暴露すれば、こっちも情報をアピールする。

 

「更識のことを知ってるのね。おねーさんびっくりだわ」

「最初から知ってたわけじゃありませんよ。簪と仲良くなって、その過程で聞いた話ですよ。“お姉さん”?」

「――ッ!」

 

 が、舌戦は長続きしない。

 俺が放った決定的な一言が、先輩の心に隙を作った。

 そして――そんなものを見逃す俺ではない!

 

「「「今っ!」」」

 

 再び左腕を突き出す。

 彼我の距離は5mほど。とうてい、ここから届く距離ではない。

 しかし、俺は手を伸ばす。

 そんな人間(・・)の常識など、知ったことかとでも言わんばかりに。

 

         「貰った!」

「貰った!」

     「貰った!」

 

 バッテリーの出し惜しみは無し。

 今度は分身を一人増やし、三人による同時攻撃。

 しかも、声をずらして再生するというオマケ付き。

 対する先輩は、まだわずかに動揺が残っている。

 つまり……今が、最大のチャンス!

 

  「伸びろ!」

        「伸びろ!」

「伸びろ!」

 

 俺の声に答え、俺達の左前腕が伸び――否、肘から外れる。

 

「はぁっ!?」

 

 あまりの光景に、あの更識先輩が、間抜けな声をあげた。

 

 そう。

 これは。

 いわゆる。

 

 男の浪漫、ロケットパンチ。

 

 肘から伸びたワイヤーが、前腕部と連結し、どんどん伸びる。

 そんな超兵器の前にあっては、5mという距離などあってないようなものだ。

 

「くっ……」

 

 珍しく、焦った様子の更識先輩。

 こんな表情を見た男ってのは、俺が初めてなんじゃねーの?

 ……まあ、冗談はさておき、これは必殺の一手だ。

 更識先輩は、一度俺から目線を外してる。

 つまり――どれが本体か、分かっていない。

 そんな状況の中で迫る、三本の腕。

 それを回避することなど、出来る筈が――

 

「……って、よく考えれば、こんなもの避けるまでもないか」

 

 しかし、あっさりと。

 あまりにもあっけなく。

 更識先輩は諦めた。

 

 襲いかかる、三本の左腕。

 それは――否、それらは、全て更識先輩を貫通した。

 

「うげっ……」

「いやあ。冷静に考えれば、キミは最初からホログラフを使ってた」

 

 余裕の表情で、更識先輩は俺に歩み寄る。

 一歩、一歩、確実に。

 いつもの笑顔で、ゆっくりと。

 

 対する俺は、その迫力に押され、下がるしかない。

 確かに、俺は接近戦型。

 でも――俺の距離の中だとしても、相手の方が一枚上手のはずだ。

 ゆえに、距離をとる。

 俺が勝つにはカウンターしかない。そう知っているから。

 不意に、足が冷える。

 畳の床からフローリングの床に変わったのだろう、と、どうでもいいことを考える。

 

「義手は本物。電撃も本物。そして続いたキミの言葉。

 まったく。おねーさんとしたことが、一度は騙されちゃったよ」

 

 背中に、冷たい感覚が走る。

 恐怖から生じたものではない。

 俺の背中に密着した……道場の壁から伝わって来たものだ。

 

「だけど、キミは明らかに突撃姿勢を取っていた。腕が本当に伸びるなら、向かってくる必要なんてないのにね。なのに、キミは来た。つまり――」

 

 もはや逃げられない。

 観念した俺は、右手を背中に隠す。

 そして――拡張領域に収納していた、あるものを出現させた。

 

「――キミのロケットパンチは、ハッタリに過ぎない!」

「くそっ!」

 

 姿勢を低くする先輩を見た俺は、すぐさま右手の中身を投げる。

 高速で飛び立ったそれは、先輩と俺の中間地点に着弾し、その中身をぶちまけた。

 

「この程度!」

 

 が、コンマ以下の判断でそれを飛び越えた先輩は、構えを取らぬまま俺へと肉迫する。

 3mは距離があるものの、すぐさま詰められてしまうだろう。

 だからこそ、俺は――

 

「「「今、仕掛ける!」」」

 

 伸ばしたのは、左右両腕。

 それが先程と同じように肘から飛び出し、更識先輩に迫る。

 空中にいる先輩は、そこに突っ込むしかない。

 そう、さっきは使わなかった右腕へと――!

 

「甘いわね」

 

 が、彼女は俺の予想を超えた行動を取る。

 右腕と左足を動かしたと思うと、空気抵抗を変化させ、軌道をわずかに逸らしたのだ。

 これと同じものを、俺は知っている。

 

 ――AMBAC。

 

 宇宙空間でISを操作する際に用いられる、体を用いた運動方向操作方法。

 身近な例では、葵のブルーフレームセカンドKが挙げられる。

 あれの両肩についてるスラスターも、地上で不規則な運動をするためのものだ。

 それを、生身の人間が行った……?

 

 驚く俺をよそに、更識先輩はもう一本の腕に向かっていく。

 そう。先ほど看破したニセモノの左腕へと。

 激突する両者。

 しかし、それは幻想だ。

 

 左腕はホログラフである。

 それは、彼女が類稀なる洞察力と推理力を持って看破した、青き真実である。

 

「……がっ!?」

 

 ――ハズだった。

 

 幻想に過ぎないはずのそれは確かに現実を捉え、元いた場所へと押し返す。

 絶賛混乱中の更識先輩は、先程俺がばらまいた液体――油がたまった床へと押し戻され、そのまま転倒した。

 

「……これで、俺の勝ちっすね。更識楯無先輩?」

 

 尻もちをつく先輩を見下ろしながら、俺は自身の勝利を宣言した。

 




タイトルではああ言ったものの、苦情その他は受け付けております。

変態技術者たちが作ったものが、ただの義手であるわけがない。
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