さて、前回盛大にフラグを立てた紅也の明日はどっちだ⁉︎
「えーと……これは?」
「うん、袴だよ」
「知ってますよ、それくらい!」
あの会話からしばらくして、俺と更識先輩は畳道場にいた。
先についていたとおぼしき一夏はいきなり会長に話しかけ、自分の格好についての疑問を口にしている。
……何か間違ってんのか?たしか「ハカマ」って、サムライの戦闘服だったはずだけど。
ちなみに、更識先輩からそう聞いた。だから――
「しかも!何で紅也まで袴なんだよ!」
「これを着て戦うのがルールだと言われたんでな。着替えた」
まあ、弓道着も似たようなものだし、ね。
「さて、勝負の方法だけど、私を床に倒せたらキミの勝ち」
「え?」
「逆にキミが続行不能になったら私の勝ちね。それでいいかな?」
「え、いや、ちょっと、それは……」
「どうせ私が勝つから大丈夫」
おおう、いきなり挑発だ。
一夏の奴……熱くなるなよ。ここで勝負に乗ったりしたら、相手の思うつぼだぜ?
……っておいおい、構えちまった。
「はぁ……。じゃ、試合始めっ!」
両者やる気まんまんなようなので、試合を始める。
すると一夏は剣道特有の、すり足での移動を行い、更識先輩へと迫る。
……ふうん。臨海学校以前とは比べ物にならない、いい動きだな。夏休みの間に自分を見つめ直すとか、鍛え直すとか、そういう少年漫画的なイベントでも挟んだのだろうか?
ま、それでも温いが。
もっと実戦的な格闘技……例えばマーシャルアーツやソバットと比べると、どうしても鋭さに欠ける。
これは武術の流派がどうこう、という問題ではなく、一夏がまだ未熟であることが原因とも言えるけどな。
ところで一夏、投げ狙いか?露骨過ぎて俺でも気付くんだが……そんなものが通用するとでも?
更識先輩の腕に伸ばしたその手はあっさりとからめ捕られ、一夏は逆に畳へとダイブする。
肺が圧迫され、そこにたまった空気が漏れる。
が、先輩は止まらない。
そのまま一夏を押さえこみ、無防備な首へとその手を伸ばし――頸動脈を指でなぞってみせた。
「う…………」
「まずは一回」
一回……死亡、っと。
笑顔で死刑宣告をした更識先輩は、そのまま一夏から離れる。
これが、学園最強……。
それを肌で感じた一夏は再び構え、今度は鋭いまなざしで更識先輩を観察し始める。
……これはあれか?『先に動いた方が負け』的な展開か?
そして某
「ん?来ないの?それじゃあ私から――行くよ」
どんっ、と足音ひとつ。
しかし実際の歩数はどれほどだったのか?
一夏と先輩の間にあった距離が、一瞬にして零になり、追撃が行われる。
肘、肩、腹へと掌打が決まる。
それらは決して重い一撃ではない。
なぜなら――それらはすべて、
手が触れた箇所を防御するため、一夏の筋肉が反射的にこわばる。
残されたのは、無防備なままの一夏。
額、頸、肺、心臓、鳩尾、金的……狙い放題だ。
そんな中で先輩が選んだのは、肺。
双掌打をモロに喰らった一夏は、再び空気を強制排出される。
「がっ、はっ……!」
白目を剥く一夏。しかし、更識先輩は止まらない。
「足下ご注意」
再び投げる。
今度は背中から。
当然、一夏に受け身など取れるはずが――無い。
「これで二回。まだやる?」
息も絶え絶え、既に満身創痍な感じの一夏に対し、更識先輩は襟元一つ乱れていない。
両者の実力差は明らかだ。もし、ここで一夏がギブアップしても、誰も責めはしまい。
しかし――
「まだまだ、やれますよ……!」
一夏は深く息を吸い込み、それを吐きだすと共に一気に立ち上がる。
その瞳に映るのは、勝利への渇望。
こいつは、まだあきらめていない。
「ん。がんばる男の子って素敵よ」
「それはどうも……」
足取りはふらつき、身体はボロボロ。
それでも一夏は更識先輩を見据え、構えを取る。
対する更識先輩は、変わらぬ笑顔。
見る者全てを引きつけ、見る者全てを拒絶するような、いつもの笑顔のままだ。
その笑顔に押されたのか、一夏は二度、深呼吸をする。
そして――雰囲気が変わった。
「む、本気だね」
「………………」
おそらく、次に繰り出されるのは、一夏にとって最強の一撃。
それを、更識先輩はどう攻略するのか。見せてもらうぜ……。
二人はにらみ合う。それは先程と同じ。
そして睨みあいの中……唐突に、一夏が動いた。
「!」
そのスピードに、更識先輩は半歩下がる。
いや、スピードのせいじゃない。
おそらく、仕掛けるタイミングを読まれたのだ。
そのうえで、仕掛ける直前に『動』に転じた。
それが、一夏の本気の正体。
相手のリズムを狂わせ、精神の空白につけ込む。
……確か、篠ノ之流古武術だったか?今度、箒に聞いてみるとしよう。
さて、更識先輩が晒した隙は、決して大きなものじゃない。
でも、『完全無欠』を破るチャンスであったことは確かだ。
だというのに、一夏が狙ったのは初手と同じく投げ。
オウム返しの戦術が、通用するわけがない!
ズドンッ!
「がはっ!」
カウンターを喰らった一夏が、前のめりに畳に叩きつけられる。
それは、まるで最初の再現。
出来の悪いリメイク映画を見てるみたいだ。
しかし、そこから先の展開は違う。
強烈な一撃を受けたはずの一夏は、気合いのみで身体を動かし、更識先輩の足を掴む。
型も何もない、力任せの追撃。意地でも倒れないという、帝王のごとき信念から放たれたそれは確かに、彼女の意表を突いた。
「あら」
「今度こそ、もらったぁっ!」
これぞ火事場のクソ力。
足首を空中へと投げられた先輩は、地に足着かぬ不安定な状態。
起き上がった一夏はそんな彼女の胴を掴み、そのまま投げ飛ばそうとする。
……すげぇな。あんなの、俺でも思いつかねぇよ。
「甘ーい」
それでも、先輩には届かない。
掴まれる直前、右腕を畳に接地させた先輩は、それを軸に回転し、さらにそのまま蹴りを繰り出した。
それはさながら、カポエラーのトリプルキック。
まさかの反撃に、今度は一夏の方が驚愕した。
「なぁっ!?」
「攻め方はよかったんだけどね」
まあ、そうだろう。
今、一夏にもっと力があれば――具体的には、右腕がつかない高さまで彼女を飛ばせれば――勝敗は決していたハズ。
吹っ飛ばされ、とっさに受け身を取ろうとした一夏。
さて、これで仕切り直しか……
「でやああああっ!!」
「何ッ!?」
その行動は、予想外だった。
一夏は腕と脚で着地した後、またも力任せに飛び出したのだ。
一方の先輩は、既に体勢を整えている。
破れかぶれの一撃。こんなもの、通るわけが無い!
それでも一夏は加速する。
型を捨て、なにがなんでも一撃加える、という覚悟を秘めた、野生の一撃。
それは確かに先輩に届き――
「あっ……」
「きゃん」
……いや、その、何だ。
一夏の伸ばした手は胴着に届き、勢いそのまま服をはだけさせた。
シルクのレース下着に包まれた更識先輩の胸が、衆目にさらされる。
……それがお前の欲しかった力か、一夏。
武装解除の魔法でも習ってろ。ハリ○タ版じゃなくてネ○ま版の方を。
「一夏くんのえっち」
「なぁっ!?」
そう言う更識先輩だが、特別顔を赤らめたりとか、そんな気配は微塵も無い。
彼女が気にしているのは、勝負の決着のみだ。
……とか冷静に解説してるつもりの俺も、客観的に見れば、下着姿の美女を視姦している変態なんだろうなぁ……。顔を見てるってことは、当然、その下も見えるわけだし。
なんというか……ごちそうさまでした。
さて、更識先輩の一言で動揺した一夏は、せっかく掴んだ腕を払い落され、そのまま蹴りあげられた。
そして繰り出される――暴力の嵐。
誰かが言ってた。空中では、地面に衝撃を逃がすことは出来ない……と。
更識先輩は、まるで母さんのごとき空中コンボを繰り出す。
既に白目を剥いている気がする一夏を、気にも留めずに。
「おねーさんの下着姿は高いわよ?」
そんなことを言いながら、とどめの一撃を放った。
鮮やかなハイキックで飛ばされた一夏は、まっすぐにこちらへ飛んでくる。
それを見た俺は、つい――
一夏を全力で蹴り飛ばしてしまった。
・コンボが繋がった!
放物線を描く一夏は、再び先輩の元へ飛んでいく。
「あら、まだ足りなかったのかしら」
再びの乱打。宙を舞う一夏。
明らかにオーバーキルな気もするが……ラッキースケベのハーレム野郎にはちょうどいいか。
男たちの恨みを抱えて死ぬがいい!
「……49、50っと」
今度こそリフティングを終えた先輩。
開放された一夏は、なんというか……モザイク処理が必要な状態だった。
「さて、これを見てもまだやる気?」
「さすがに引きましたけど……やり合いたいって気は変わりませんね」
級友の無残な姿を視界の隅に捉えつつ、俺は先輩に返答する。
あれだけの空中コンボを決めた後だ。先輩も、少しは疲れてる筈。
それなら――勝機はある。
「じゃ、今度はジャッジなしの真剣勝負ね。ルールはさっきキミが言ったのと同じ」
「ええ。それで異論が無いなら、今すぐ始めましょう」
「ふふっ、本気で勝ちに来たね。それじゃあ……」
「ええ……」
「「試合開始!」」
宣言すると同時に、俺は先輩に飛びかかる。
先程の一夏と同じ、投げ狙いの技。当然、先輩はカウンターを狙って腕を掴もうとするも……。
「あれ?」
掴み損ねる。
いや、その言い方は厳密じゃない。
掴んだはずのその手は、更識先輩をすり抜けた。
……ククク。正面から挑むと思ったか!
今のは、武術でも何でもない。純粋な科学技術!
俺のISに搭載された機能の一つ――ホログラフ投影機能!
その隙をついて、俺は先輩の後ろに回る。
全ては、自分の姿を見失わせるために。
「甘いわよ」
が、そんな小細工は通じない。
後ろに回った次の瞬間には、俺の心臓めがけて抜き手が迫っている。
そしてその手は……山代紅也の体を貫いた。
「残念、残像です」
「嘘おっしゃい。ズルしてるくせに」
山代紅也を貫いた会長が、右に視線をずらす。
そこで、ようやく。
俺と、目があった。
「ホログラフを使った自分の投影なんて、やってくれるわね」
「俺が決めたのは勝利と敗北の条件だけです。ならば、他に何をやっても自由でしょ?」
「なるほどね。さすがは、騙しでのし上がって来たきた会社の社員なだけあるわ」
「それはどうも」
俺が仕掛けたのは、二つだけ。
ホログラフによって自分の輪郭をごまかしたことと、自分そのものの映像を投影したこと。
要は、分身ってやつだ。
「さて、これが俺の『手段』です。……まだ続けますか?」
「当然ね。偽物が何人いようとも、本物はキミ一人。逃げられると思わないことよ」
「……ま、そうでしょーね」
ホログラフから手を引き抜き、俺を見据える会長。
対する俺は、ホログラフの山代紅也と共に、全く同じファイティングポーズをとった。
「「「では、行きますよ」」」
そう、俺が告げる。
しかしその声は、全く異なる三か所から同時に聞こえてきた。
「今度はスピーカーを乗っ取ったのかしら。どれだけ小細工が好きなのよ」
「「「まあ、こうでもしないと勝てないもので」」」
作戦その二。音による幻惑。
気休め程度だが、注意力を削ぐことはできるはずだ。
さらに……。
「「「必殺の跳び膝蹴りィ!!」」」
「適当なことを言わないでよね」
二人の山代紅也と、三つの音源。
そして繰り出される右ストレートとローキック。
……膝蹴りなどやっていない。完全なハッタリだ。
「学園最強は……搦め手にも強いのよ」
しかし、入らない。
俺が放ったローキックは回避され、
さらに――
「「「頭上注意!」」」
宣言通りに俺が放ったチョップは防御され、山代紅也のタックルは相手をすり抜ける。
「だから、甘いわよ」
しかも防御に使ったのと逆の手で俺の左手首をつかみ、投げ飛ばそうとまでしてくる強かさときたら。
なるほど。伊達や酔興で背負っている看板では無いらしい。
学園最強というものは――!
「もらっ――!?」
が……そんなことは分かってる。
成程。確かに、この人は生徒の中では最強だろう。
しかし――それはあくまで『人間』という枠の中での話。
ならば……。
「「「こんな返し手は予想外でしょ?」」」
掴まれた左手首から走る、目に見えぬ超常のチカラ。
それにより更識先輩の手が離れた瞬間に、俺は蹴りを加えて離脱していた。
「いったぁい……。かよわいおねーさんに何するのさ」
「ハハハ、御冗談を」
「「学園最強なんでしょ?どこがかよわいんですか?」」
「言ってくれるわね……」
二、三度手を握って開いて、そのうえで俺を睨む先輩。
相変わらずの笑顔だが……その質が変化したのを、俺は見てとった。
おお。美人の笑顔が恐ろしいって思ったのは……初めてではないな。
母さんとか、エイミーさんとか。前例は身近に転がってる。
――と、余計なことを考えてたのが悪かったのだろうか。
気がついたら先輩は俺の目の前に存在し、俺の頚部目がけて右腕を突き出していた。
ガードしなければ……と思ったときには、既に俺の腕は動いている。
左腕で
おそらく、手と腕が触れ合った瞬間に力を緩め、横に逃げたんだろう。
「なるほどね。見えたわよ、その
「「「何の話ですか?さっぱり分かりませんね」」」
そうは言いながらも、俺の心は平静だ。
その冷静な思考が告げている。
……彼女は、嘘を言っていない、と。
「義手にスタンガンとは恐れ入るわ。自分を改造するなんて、正気かしら?」
「腕の秘密まで知ってるなんて……。流石は、更識家ってとこですかね?」
売り言葉に買い言葉。
彼女が秘密を暴露すれば、こっちも情報をアピールする。
「更識のことを知ってるのね。おねーさんびっくりだわ」
「最初から知ってたわけじゃありませんよ。簪と仲良くなって、その過程で聞いた話ですよ。“お姉さん”?」
「――ッ!」
が、舌戦は長続きしない。
俺が放った決定的な一言が、先輩の心に隙を作った。
そして――そんなものを見逃す俺ではない!
「「「今っ!」」」
再び左腕を突き出す。
彼我の距離は5mほど。とうてい、ここから届く距離ではない。
しかし、俺は手を伸ばす。
そんな
「貰った!」
「貰った!」
「貰った!」
バッテリーの出し惜しみは無し。
今度は分身を一人増やし、三人による同時攻撃。
しかも、声をずらして再生するというオマケ付き。
対する先輩は、まだわずかに動揺が残っている。
つまり……今が、最大のチャンス!
「伸びろ!」
「伸びろ!」
「伸びろ!」
俺の声に答え、俺達の左前腕が伸び――否、肘から外れる。
「はぁっ!?」
あまりの光景に、あの更識先輩が、間抜けな声をあげた。
そう。
これは。
いわゆる。
男の浪漫、ロケットパンチ。
肘から伸びたワイヤーが、前腕部と連結し、どんどん伸びる。
そんな超兵器の前にあっては、5mという距離などあってないようなものだ。
「くっ……」
珍しく、焦った様子の更識先輩。
こんな表情を見た男ってのは、俺が初めてなんじゃねーの?
……まあ、冗談はさておき、これは必殺の一手だ。
更識先輩は、一度俺から目線を外してる。
つまり――どれが本体か、分かっていない。
そんな状況の中で迫る、三本の腕。
それを回避することなど、出来る筈が――
「……って、よく考えれば、こんなもの避けるまでもないか」
しかし、あっさりと。
あまりにもあっけなく。
更識先輩は諦めた。
襲いかかる、三本の左腕。
それは――否、それらは、全て更識先輩を貫通した。
「うげっ……」
「いやあ。冷静に考えれば、キミは最初からホログラフを使ってた」
余裕の表情で、更識先輩は俺に歩み寄る。
一歩、一歩、確実に。
いつもの笑顔で、ゆっくりと。
対する俺は、その迫力に押され、下がるしかない。
確かに、俺は接近戦型。
でも――俺の距離の中だとしても、相手の方が一枚上手のはずだ。
ゆえに、距離をとる。
俺が勝つにはカウンターしかない。そう知っているから。
不意に、足が冷える。
畳の床からフローリングの床に変わったのだろう、と、どうでもいいことを考える。
「義手は本物。電撃も本物。そして続いたキミの言葉。
まったく。おねーさんとしたことが、一度は騙されちゃったよ」
背中に、冷たい感覚が走る。
恐怖から生じたものではない。
俺の背中に密着した……道場の壁から伝わって来たものだ。
「だけど、キミは明らかに突撃姿勢を取っていた。腕が本当に伸びるなら、向かってくる必要なんてないのにね。なのに、キミは来た。つまり――」
もはや逃げられない。
観念した俺は、右手を背中に隠す。
そして――拡張領域に収納していた、あるものを出現させた。
「――キミのロケットパンチは、ハッタリに過ぎない!」
「くそっ!」
姿勢を低くする先輩を見た俺は、すぐさま右手の中身を投げる。
高速で飛び立ったそれは、先輩と俺の中間地点に着弾し、その中身をぶちまけた。
「この程度!」
が、コンマ以下の判断でそれを飛び越えた先輩は、構えを取らぬまま俺へと肉迫する。
3mは距離があるものの、すぐさま詰められてしまうだろう。
だからこそ、俺は――
「「「今、仕掛ける!」」」
伸ばしたのは、左右両腕。
それが先程と同じように肘から飛び出し、更識先輩に迫る。
空中にいる先輩は、そこに突っ込むしかない。
そう、さっきは使わなかった右腕へと――!
「甘いわね」
が、彼女は俺の予想を超えた行動を取る。
右腕と左足を動かしたと思うと、空気抵抗を変化させ、軌道をわずかに逸らしたのだ。
これと同じものを、俺は知っている。
――AMBAC。
宇宙空間でISを操作する際に用いられる、体を用いた運動方向操作方法。
身近な例では、葵のブルーフレームセカンドKが挙げられる。
あれの両肩についてるスラスターも、地上で不規則な運動をするためのものだ。
それを、生身の人間が行った……?
驚く俺をよそに、更識先輩はもう一本の腕に向かっていく。
そう。先ほど看破したニセモノの左腕へと。
激突する両者。
しかし、それは幻想だ。
左腕はホログラフである。
それは、彼女が類稀なる洞察力と推理力を持って看破した、青き真実である。
「……がっ!?」
――ハズだった。
幻想に過ぎないはずのそれは確かに現実を捉え、元いた場所へと押し返す。
絶賛混乱中の更識先輩は、先程俺がばらまいた液体――油がたまった床へと押し戻され、そのまま転倒した。
「……これで、俺の勝ちっすね。更識楯無先輩?」
尻もちをつく先輩を見下ろしながら、俺は自身の勝利を宣言した。
タイトルではああ言ったものの、苦情その他は受け付けております。
変態技術者たちが作ったものが、ただの義手であるわけがない。