「じゃあ、始めましょうか。最初は経験者の真似からね。シャルロットちゃんにセシリアちゃん、『シューター・フロー』で
「ちょっと待てや更識簪姉。まだ何一つ解決してねぇよ」
先輩への敬意など忘れ、俺は更識先輩に詰め寄る。
そして右手で指さすのは、一夏たちの現状――否、惨状。
「逃げても無駄だよ、一夏っ!」
「シャル、待った!ビームは反則……」
「く、屈辱的ですわ。わたくしが、こんな……」
「紅也!逃げるな!」
ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを展開し、逃げる一夏を追うシャル子。
妄想の海に飛び込んで、未帰還者になったセシリア。
そして……あんまりうるさいから電気ショックで身体の自由を奪った、箒。
……こんなんでトレーニングになるか!
「いや、半分はキミのせいだと思うんだけど」
「ってことは、半分は先輩の責任ですよね?」
二人で睨みあい、同時にはあっとため息をつく。
「じゃあ、とりあえず鎮圧しましょうか。先輩、シャル子は任せます」
「何言ってるの紅也くん?ISの相手はキミに任せるよ」
…………。
「いや、俺ISスーツ着てないし、無理ですって」
「ISのエネルギーで形成すればいいじゃない。それに、おねーさんのISをタダで見ようなんて甘いわよ」
「そっちこそ、俺のIS見たいんでしょ。見物料とりますよ?」
売り言葉に買い言葉。
互いの思惑がぶつかり合い、なかなか事態が進まない。
ああ!政治とはかくも難しいものなのか。
目の前にいる相手一人助けるにしても、利益を得たいがために足踏みしてしまう。
「……って!どうでもいいから助けてくれ!!」
おっと、いかん。そろそろ一夏が限界だ。
仕方が無い。会長のISに関しては諦めよう。いつかきっと、次の機会があるはずだ。
「じゃ、俺が一夏の方に行きますよ」
「うん、素直でよろしい!」
うるせえ。してやったり顔でそんな事を言うな。
美人の笑顔が信じられなくなるだろうが。
まあ、悔しいから、そんなことは絶対に口に出さねーけど。
(行こうぜ……デルタ!)
額に巻かれた、白いヘッドバンドに手をやる。
今度からは8の補助が無い。だからこそイメージする。
曲面構成の機体、チューブ状の特殊な関節機構、そして胴体と一体になった赤い翼を。
緊張は一瞬。すぐに俺の視界は、センサーとリンクする。
(よし……出来た……!)
「アハハハハッ!さようなら……さようなら一夏ァ!」
「シャル!キャラが違う!具体的には某宇宙海賊の『シャル』になってるって!!」
おっと。早く止めないと、シャル子がヒロインとして引き返せなくなっちまう。
リアル『スクールデ○ズ』を見るのはゴメンだぜ?
ヴォワチュール・リュミエール、システム起動。
バッテリー、ならびにコアからのエネルギー供給、正常。
パイロットの健康状態、正常。
システムオールグリーン。
ヴォワチュール・リュミエール、最大出力。
「――え?」
それは、誰が上げた声だったのだろう?
ドップラー効果で変質したその声を、俺は聞きわけることが出来なかった。
というか、そんな余裕もない。
こちとら、超加速をコントロールするので精一杯だっ……!
ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを抱えたまま、俺はシステムの出力を落としていく。
一度ついた加速は容易には止まらない。
かといって今PICで急停止を行ったら、身体に相当な負担がかかる。
現に今も、身体を動かすたびに腕やら脚やらが圧迫され、相当痛い。
負荷軽減用のISスーツでなかったら、と思うと正直ゾッとする。
ゴメン。もう文句は言わないぜ、8。
……お、だいぶスピードが落ちてきた。
といっても、最大加速時のレッドフレームくらいのスピードにはなってるけどな。
そして、そんな加速に晒されたシャル子はというと……。
「うわわわわわっ!?何?」
絶賛混乱中のようだ。
まあ、無理もない。
なにせ、周囲の景色は色のついた線のようにしか見えず、しかも音すら聞こえないのだから。
それにしても、正気に戻ったようで何より。ヤンデレフラグは折れたか。
これで安心……とでも言うと思ったか!
「シャル子……」
「あれ?紅也!?僕は一体……」
「俺の機体を晒させた報い……受けてもらうぜ!」
「え――」
俺は上空へと移動する。
もうスピードは結構落ちてるから、実は今すぐにでも停止できる。
でも、さ。
けじめをつけて貰わないと、困るんだよね……。
急降下しながら、シャル子を離す。
ただでさえ速いスピードが、重力によってさらに加速する。
そして、轟音。
一秒もしないうちに、シャル子はアリーナの地面へと叩きつけられた。
「……さて、じゃあ更識先輩、続きをどうぞ」
「これだけの事態をさらっと流すキミも大概だよね」
悠々と地上に下りてきた俺を、更識先輩がジト目で睨んできたのは、御愛嬌ってことで。
◆
くるくると。
二機が廻る。
互いに接近せず、しかし正面に互いを捉えたまま、くるくると。
円運動を行いながら、軌道を変えずにスピードに緩急をつけ、互いを狙って弾丸を放つ。
しかし、当たらない。
行き先を予想し予想され、弾丸を外し外される。
終わることのない
くるくると。
二人は廻り続ける。
「これが
「すげぇ……」
空を舞うセシリアとシャル子の動きを、俺達四人は地上から見ていた。
なぜか得意顔で解説する更識先輩をよそに、一夏は二人の動きに感嘆の声を漏らす。
「円軌道での移動はオートでもできるけど、そこに加速を加えるなら話は別だ。迂闊に加速すれば軌道から逸れて制御不能になるし、かといって制御に集中し過ぎると……」
「今度は射撃が疎かになる、か」
「セリフを盗るなよ、箒。…ついでに言うなら、加速タイミングを一定にすると、当然狙われやすくなる。回避にも気を使わなきゃいけない訳だから、難しいぜ?」
「なるほど……。俺にはまだまだ難しそうだな」
加速していく二人を見ながら、一夏がため息をつく。
「……まあ、先輩も言ったように、あれは射撃型のスタンスだ。お前に馴染みが無いのも無理はないって」
「紅也……」
「ちなみに、紅也くんにはできるんだよね?」
「もちろん」
「うわぁぁぁぁん!」
「一夏!泣くな、一夏!……いちかぁぁぁぁぁ!!」
せっかくのフォローを、先輩に台無しにされた。
しかも箒が変なことを言うから、何かゲームオーバー的な音楽が流れているかのように錯覚する。……これ、シリアスに戻せるのか?
「泣かないで、一夏くん。君にはね、経験値も重要だけどそういった高度なマニュアル制御も必要なんだよ」
「ぐすっ……。せん、ぱい……?」
「安心して。初めてでも、自信が無くても大丈夫。おねーさんが手とり足とり教えてあげるから、ね?」
「ぶっ!?」
な、何が起こった?
否、何が起こっている?
俺の隣にいたはずの更識先輩が、いつのまにやら後ろに移動し、一夏に甘い言葉をかけている。
そう。言葉……だけ、のはずだ。うん。
でも……そのセリフはないだろ!?
俺とて健全な男子高校生。人並みの妄想力は備えている。
だから……なんというか……
「こ、紅也!?血が出ているぞ!」
「だ、大丈夫……。俺のS2機関が暴走しただけだ」
不可抗力だよね。鼻血くらいは。
……うーん。あの街にいたときは、女の子と関わる余裕なんて無かったからなぁ。
ちょっと免疫が落ちてるのかも。
『い、一夏!?』
『な、な、何をしていますの!?』
ん、頭の中から声がする。
……ああ。ISコアを搭載したから、俺にもオープン・チャネルが聞こえるのか。
それにしても、こんなところを見てていいのか?
マニュアル操作なんだから、集中力を切らしたら、当然……
『『あ』』
互いを狙っていた銃弾は、まっすぐに機体へと吸い込まれていく。
……ま、そうなるわな。
PICをマニュアル制御していたため、銃撃の衝撃は殺しきれない。
弾丸に押された二機は円軌道を外れ、そのまま壁へと突っ込んでしまった。
「おーい、二人とも。機体は大丈夫か?」
『『そっちの心配!?』』
俺の言葉に反応した二人は、まっすぐにこちらに飛んでくる。
それだけ動けるなら大丈夫だろ?そもそも、この程度で怪我しないのがISの特徴なわけだし。
「ま、無事で何よりってことで。……で、一夏は放っておいていいのか?」
「あ、そうだった!一夏!」
「わたくしたちが真面目にやっていますのに、何を遊んでいますの!?」
矛先をちょこっと変えてやると、二人は慌てて一夏の元へ。
フフフ、修羅場だ。修羅場。……って、アレ?
「箒。お前は行かないのか?」
「何を言ってるんだ?別に大したことではないだろう」
……おかしいな。
普段なら真っ先に斬りかかる箒が、一夏を放置なんて。(※その認識が既におかしい)
やっぱり、俺のことを気にかけるあまり、一夏から目線が逸れてるのか?
だとしたら……マズいな。
この歪みが、どこかで深刻な事態を引き起こすかもしれない。
そんなことを考えていたせいだろうか。
俺の脳裏に、昔の記憶がフラッシュバックする――
*
「いいかいコウヤ。世界にはな、流れっていうものがあるんだ」
「流れ……?」
寝ぼけ眼をこすりながらも、僕はおとうさんに手を引かれ、歩いていく。
行き先は知らない。でも、感覚で分かるんだ。
そこはきっと、すごくわくわくして、どきどきする場所なんだって。
でも、おとうさんと一緒に行けるのは一人だけだったみたい。
アオイやおかあさんも一緒に来れないのは残念だけど、なんだか自分が特別な存在になったみたいで、嬉しかった。
だから、突然こんな話を始めたおとうさんのことを、僕は忘れないようにしようと思ったんだ。
「ああ、流れだ。川っていうのは、決まった形で流れてるだろう?それと同じだ」
「ふうん……。でも、この間、川の工事してたよ。流れって、工事で変わるんだよね?」
「ハハ、そうだね。確かに、ヒトの手で流れを変えることはできるよ。でもね、無理やり変えることは出来ないんだ。元の流れを残したまま、ちょっとずつ変えていかないといけない。そうしないと、川が怒っちゃうんだ」
「怒ると、どうなるの?」
「水がたくさん流れてきて、元の流れに戻ろうとするんだ。そして、新しい流れが出来るんだよ」
「そうなんだー。じゃあ、工事のおじさんたち、大変だね!」
「うん、大変だ。だから、みんな時間をかけて頑張ってるんだよ」
にこり、と微笑むおとうさんを見て、僕も笑ってお返しする。
話の内容はよくわかんないけど、とにかく覚えとこう。
僕には、それが出来る能力があるんだから。
「ほら、見えてきたよ。ここが宇宙開発センターだ」
「うちゅう?お空のことだよね」
「違うよ。お空の向こうにある、星の世界のことさ」
「おほしさま……?すごい!見てみたい!!」
「そう言うと思ったよ。だから、お前を連れて来たんだ」
おとうさんが入り口にいる人にカードを見せると、門が開いた。
すごい。モルゲンレーテよりはちっちゃいけど、僕の家よりずっと大きいや!
白い光に照らされた廊下を歩きながら、周りをきょろきょろ見回す。
そんなとき、またおとうさんが話し始めた。
「……今日、世界の流れが変わるかもしれない」
「え?でも、急に流れを変えちゃダメなんだよね」
「そうだよ。急に変わった流れは、必ず歪みを生み出すんだ。
……コウヤにも、いつかきっと分かる。なんせ、お前は――」
◆
「世界の流れを作ってるヤツ。お前は、どこにいると思う?」
*
「あれ……?」
お前は……何て言われたんだっけ?
いや、それよりも。
あれは誰だ?
どこで……いや、十年前、あの施設で会ったのは間違いない。
色素の抜けた金髪に、どこか凶暴そうな顔。
なにより印象的だったのは、血のように紅い、あの……
「紅也、どうしたんだ?……まさか、さっき無理をしたから……」
「ん、ああ。大丈夫だ、問題ない」
「いや、駄目だろう。葵が昔言ってたぞ?お前がそう言ったときは……」
「いや、今回は本当に大丈夫だって!目の前の惨状から、思わず目を逸らしただけだ!」
「目の前……って、一夏!お前は何をやっているのだ!」
挽回策としての何かを探していた所、一夏がセシリアとラウラにもみくちゃにされているのが見えたため、つい密告。
すると箒は今度こそそれに注目し、抜刀しながら走っていった。
「うん。これぞいつもの風景だ」
「資料だけだと分からなかったけど、ずいぶんとバイオレンスな日常を送ってるんだね」
いつの間にやら戻って来た元凶――更識先輩が、俺の独り言に答える。
ふとその横顔を見ると、いつもとは質の違う、なにやら楽しそうな笑みを浮かべていた。
――何故だろうか。
寒気がする。
「これはなかなか、見てる分には楽しそうだね」
「そうですね。ま、当事者たちは必死なんでしょうけど」
「ま、恋する乙女の特権ってやつよ。それにしても……ふふっ、いいこと思いついちゃった♪」
それは、誰にとっていいことなんだろうな?
少なくとも、『一夏にとって』ではないことだけは確かだ。
だけど……
「それ、俺にも一枚噛ませてくださいね?」
「考えとくわ、紅也くん」
止める気はないぜ。だって、面白そうだし。
更識先輩。最初は警戒してたけど、案外上手くやっていけるんじゃねえかなぁ……。
気をつけてても餌食になる。それが「人たらし」楯無さんだと思います。