翌日、再び放課後。俺はまたしてもピット内にいた。
昨日は遅くまで起きていたせいで、少し寝不足だ。まあ、自業自得って言われればそれまでなんだが、やりたいことをやったのだから、後悔はしてない。
………授業中に何度も舟を漕いでは、織斑先生に怒られたのはお約束。正直、まだ頭が痛い。
そんなわけで休み時間は全て睡眠に使い、一日を無駄にした後、昨日の続きをやりに来たってわけだ。
今、俺の目の前には、白式を纏った一夏がいる。昨日届かなかった専用機がようやく届いたため、現在フォーマットとフィッティングの最中だ。この作業は8がやっているため、俺はただ見てるだけ。つまりヒマだ。
「いやぁ、すごいですねぇ、山代くんのIS」
ヒマなのは俺だけではなかったらしい。一夏と箒と織斑先生の会話に置いていかれた山田先生も、沈黙に耐えかねて話しかけてきた。
「まさかAIを積んでる上に、自動でISの整備までできるなんて……。さすがはモルゲンレーテ、ってところですね!」
なんだか、妙にテンションが高い。やはり、これからの試合を楽しみにしてるんだろうか?
……まあ、俺も楽しみだけどな。
「ハハ、モルゲンレーテがすごいんじゃなくて、8が特別なんですよ。
昔、師匠が宇宙で拾ったらしいんですけど、中身は完全なブラックボックスで、解析不能らしいです」
「宇宙って……。なんだか、神秘的ですねぇ」
「同感です。誰が作ったのか、どこから流れてきたのか…。いつか、探しに行ってみたいなぁ……」
「…………」
山田先生は熱に浮かされたようにぼーっとして、黙っている。……やべぇ、俺、結構恥ずかしいこと言ってたかも!?
すると唐突に、8からブザー音が鳴る。正直助かった。こんな微妙な雰囲気のまま、待たされるのは御免だ。
「どうした、8?」
《フィッティングエラーだ。原因は不明だが、おそらくは操縦者が男性であることが原因だと思われる。
時間をかければフィッティング完了まで行けるが……継続するか?》
「いや、あまり時間がない。山代、継続はするな。織斑、残りの作業は実戦でやれ。できなければ負けるだけだ。わかったな」
「了解です、織斑先生。……だ、そうだぜ一夏。やれるか?」
「やるしかないんだろ?じゃあやるさ」
8と白式をつなぐケーブルを回収する。白式が起動し、一夏が立ち上がる。
「ISのハイパーセンサーは問題なく動いているな。一夏、気分は悪くないか?」
一夏、と―――名前で呼んだ織斑先生。物言いはキツイが、やはり心配なのだろう。
「大丈夫、千冬姉、いける」
「そうか」
二人が交わす言葉はそれだけ。しかし、それで十分に気持ちは伝わるのだろう。
……だが甘い!俺と葵なら、目線だけで完全にやりとり出来るぜ!!
「箒」
「な、なんだ?」
「行ってくる」
「あ……ああ。勝ってこい」
先程まで、声をかけるかどうか迷っていた様子の箒だったが、一夏の方から話しかけられたようだ。箒も表情が晴れ、一夏を送り出す。……いい笑顔だ。
白式がピット・ゲートへ進んでいく。一夏の意識は、既に戦闘に向いているはずだ。
―――それを確認し、俺は8に、あるものを実体化するように指示を出す。
「……山代。何だ、それは」
織斑先生の呆れた声。どうやら、殴る気はないようで安心した。
「見てのとおり、実況席ですよ。織斑先生、良かったら解説役をお願いします」
俺の前には、白い長テーブルと、2つのマイクが置かれていた。
◆
「さあ、始まりました第二試合、セシリア・オルコットVS織斑一夏!実況は私、山代紅也と」
「解説の織斑千冬だ。……まったく、なぜ私がこんなことを」
「以上のメンバーでお送りします!……ホラ、本物のISの動きを解説付きで見せるなんて、良い機会だと思いますよ。授業だと思ってやってください」
「本物の……?何か引っかかる言い方だな。まあいい。やってやる」
「ありがとうございます。さて、織斑先生。試合開始は告げられたものの、両者動きがありませんねぇ。何をしているんでしょうか?」
「さあな。大方オルコットが織斑に、降伏勧告でもしているのだろう」
「そうですか。あっ、ライフルが光を―――放った!一夏、直撃だぁ!」
「不意打ちとはいえ、あの程度はかわせるだろう。全てはあいつの未熟さゆえだな」
《バリアー貫通、ダメージ46。シールドエネルギー残量、521。実体ダメージ、レベル低。戦闘に影響は残らないだろう》
「……8。すげぇ悪いんだけど、コレ、音声のみ発信中だから、お前が解説しても無駄だぜ?」
《な……なんだと!?》
「実況に戻れ、馬鹿者。試合が動くぞ」
「さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる
「ふん、何をカッコつけているか、小むs……」
「ドラグーン!?ウチでも実用化されてないのに!……あ、そういえば、織斑先生。昨日の試合、やっぱ俺の勝ちにしてくれませんか?勝てばデータくれるって約束だったんですよ!!」
バアン!
「うるさい!男が一度決めたことを、簡単にひっくり返すな!!」
「冗談なのに……。まあ、それは置いといて。あの特殊兵装……いえ、ファングとでも言っておきましょうか。そういえば、あの国連大使もあんなしゃべり方でしたね。最終決戦では同じ武器を使ってましたし。金ぴかだったけど。そういえば、ウチで作った試作機にも金ぴかはあるんですがね、そっちに似合うのは
「うるさい馬鹿者。アレの正式名称は『ブルー・ティアーズ』。パイロットのイメージによって動く半自立稼働式の砲台だ」
「え、やっぱりファ○ネルですか!?じゃあオルコットはニュータイプ?空間把握能力者?」
「知らん。が、BT兵器の適性はあったんだろうな」
「あ、今度は白式に動きが!近接ブレードの『月光』を展開しました」
「変な名称をつけるな。アレは、今はまだ無銘の剣だ」
「……『今はまだ』?織斑先生、何かご存じなんでしょうか」
「まあ、黙って見ていろ。そろそろ、白式が目を覚ますぞ」
「……!
さあ、白式、ブレードを持ってブルー・ティアーズに迫る!しかし、さすがと言うべきか、ブルー・ティアーズ!敵を間合いに寄せ付けません!!」
「この試合のカギは、織斑がBT兵器の弱点に気付くかどうか、だな。あれをどうにかせねば、オルコットの勝ちは揺るがんだろう」
「おやぁ、織斑先生?ずいぶんと一夏に肩入れしてますねぇ」
バアン!2Hit!
「格上への挑戦では、格下の立場で実況するのがセオリーだ」
「俺はディフェンディングチャンピオンも好きですけどね。――おっと、また被弾した」
「シールドエネルギーが100を切ったか……。さて、どうなるか見ものだな、山代」
「さて、オッズはオルコットが1.1倍、一夏が15倍……え、すみません織斑先生。聞いてませんでした」
ズドン!3Hit!
「謝ったのに……。っと、ブルー・ティアーズがブルー・ティアーズを……ああ、めんどくさい!エルメスがビットを呼び戻しましたね。トラブルでしょうか?」
「両方の名称を変更する必要はないだろうが。……この行動はおそらく、ただの余裕のあらわれだろう。わざわざ右腕をかざして攻撃宣言とは、やれやれ……」
「歴代の艦長はだいたいみんなやってますね、あの動作。……おっと、ビットが白式を挟み込む!回避成功――と、言いたいところだが、ライフルが狙っているぞ!」
「狙いは左足だな、悪くない。あれでは絶対防御が発動して、白式はエネルギー切れだ」
「さあ、どうす……おおっと!白式、エルメスに突っ込んだ!昨日の俺のパクりか!?そして、同じ手を二度もくらうのか、オルコット!?」
「どうやらオルコットは、接近戦は苦手らしいな。完全に予想外だったのだろう。銃口が逸れた」
「白式、首の皮一枚でつながったぁ!……っと、オルコット、また手を振ってます。ビットの追加入りましたぁ!ハイ、喜んでぇ!!」
「どこの居酒屋か、馬鹿者。……む、ビットを切り裂いただと!」
「2機目も!どうやら、まぐれではないようです。……なんてセンスだ。ソルディオスをブレードで斬るなんて」
「織斑の勝機が出てきた……と、言いたいところだが、あの馬鹿者。浮かれているな」
「そりゃ、勝ち目が見えたら浮かれもしますよ。ですよね?山田先生?」
「えっ!?ひゃ、ひゃい!そこで私に振るんですかぁ!?
……それにしても、織斑先生。どうしてわかったんですか?」
「さっきから左手を閉じたり開いたりしているだろう。あれは、あいつの昔からのクセだ。あれが出るときは、大抵簡単なミスをする」
「へぇぇぇ……。さすがご
「ま、まあ、なんだ。あれでも一応私の弟だからな……」
「あー、照れてるんですかー?照れてるんですね―?」
「妬けちゃいますねー、ひゅーひゅー♪」
「……………」
がしっ!×2。ぎりりりりっ。
「「いたたたたっ!!」」
「私はからかわれるのが嫌いだ」
《実況はどうした!一夏が動いたぞ!!》
「おっと、試合は急展開。織斑が、さらに二機のビットを無力化しました!そして、オルコットに急接近!!」
「これで障害は無い―――と、考えているのだろうな、あの馬鹿者は」
「……お、おおっ!!エルメスがさらに二機を展開!『このままでは殺られる……わけ無ぇだろ!!』のパターンです!ビットが白式に命中アンド爆発四散!!ハワード・メイスン!!!」
「一夏っ……!」
「箒、待て!今実況中だから、静かにしてろ!!」
「さあ、煙が晴れてきたぞ……白式は、どうなってしまったのか!?」
「―――ふん。機体に救われたな、馬鹿者め」
「煙が吹き飛んだ!白式、健在です!!しかも、姿が変わっています。装甲が割れ、赤いラインが走り、さらに角が割れてV字のアンテナに……」
「状況を捏造するな。フォーマットとフィッティングが完了しただけだ」
「実体ダメージも消えていますね。ようやく、
「オルコットのやつ、ずいぶんと狼狽しているな」
「それはそうでしょう。いままで、初期設定だけの機体にやられていたんですから。彼女のライフはもうゼロです」
「シールドエネルギーなら、まだ残っているぞ」
「………ハア。このネタが通じませんか。それより、月光の形が変わりましたね。織斑先生、あれは?」
「―――あの剣の銘は『雪片弐型』。それだけ言えば十分だろう」
「……なるほど、『雪片』ですか。だいたい分かりました。おっと織斑選手、なにやら語り始めました!音声を出してみましょう。――じゃあ、俺はこの辺で」
「何だ、最後まで見ていかないのか?」
「……『零落白夜』。アレを使えば、勝負は終わりです。俺は、次の試合の準備を始めます」
実況遊びはここまでだ。次は―――俺の出番だ。
俺は今いる場所とは反対、Bピットへと急ぐ。
今回の話はだいぶ趣が違いますね。このテンションでやった話は、後にも先にもこれっきりでした。