IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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最後のstardust、舞いあがれ


第103話 傷だらけの硝子の心が忘れかけた熱を灯す

 二日前に楯無先輩と相部屋になってから、俺の日常は崩壊した。

 引越しの当日にやってきた箒には怒られたり呆れられたり。その事実を知った鈴からはひどく怒られ、シャルも何だか機嫌が悪そうだった。

 だって、いつものように挨拶したら、「おはよう、織斑くん」とか返されたんだぜ?今回の件は、完全に俺の意思とは関係ないのになあ。あ、でも、元はと言えば俺の約束が原因なわけだから、やっぱり俺のせいになるのか?うーん。

 

 ……って、こうして思い出してみると、原因は楯無先輩じゃなくて、むしろ俺の周りの女子じゃねえか。楯無先輩に文句を言うのは筋違いだな。

 

 え?話に出てこないみんなはどうしてたか、って?

 セシリアとラウラは……最近、仲よさげだよな。何でも、『扱いの悪さ』で意気投合したらしい。……なんてネガティブなんだ。とにかく、最近はあんまり話してないな。俺と楯無先輩の同居は、まあ、知ってると思うけど。態度が変わらないのはいいことだ。

 簪は……昨日話しかけたら、普通に返事をくれた。今までは倉持技研関係のトラブルのせいで嫌われてたことを考えると、大きな進歩だ。なんかいいことでもあったのか?

 

 そして、ある意味問題なのが、葵と紅也だ。

 紅也は最近……昨日の朝くらいからか?調子がおかしい。

 授業中は上の空で、千冬姉にもバシバシ叩かれてた。……どういう理屈か、全部防御してたけどな。夏の間に何があったんだ。死にかけてから生き返って、戦闘力が跳ね上がったのか?それとも、ナ○ック星で潜在能力でも引き出してもらったのか?

 それはともかく、常に「心、ここに在らず」って感じで、休み時間もボーっとしてる。

 ……まあ、こっちは心配ねえだろ。のほほんさんが言うには、今朝はセシリアと盛り上がってたらしいからな。なんか『残留』がどうのこうの、って……。サッカーの話か?

 

 問題は、葵の方だ。

 表面上はいつも通り。誘えば飯にもついてくるし、会話も成立する。

 だけど……どこか違うんだ。儚いというか、ふわふわしてるというか……うまく言えねえけど、いつも俺が見てたクールだけど、心の奥底に『熱』みたいなものを秘めてる、かっこいい葵とは違う気がする。

 

「一夏くん、お待たせ。……待った?」

「まあ、少しだけ」

「そこは『いや、俺も今来たとこ』……とか言うでしょ。男の子なら」

 

 そういうもんなのか?弾と待ち合わせするときなんか、いつもこんな感じだけど。

 

「女の子は複雑なのよ。まったく、そんなんじゃ鈴ちゃんに愛想尽かされちゃうわよ。

 ……そう思わない?」

「……一夏に、そういうのを期待しちゃだめ」

 

 いつもより若干遅れて来た楯無先輩は、同意を求めるかのようにその顔を後ろへと向けた。すると、後ろにいる(と、思われる)人物はぼそり、と呟きをもらし、先輩も首を縦に振る。

 ……この声。聞き覚えがある。

 いや、「聞き覚えがある」なんてもんじゃない。こいつとはそれなりに付き合いが長いんだし、さっきまで思い描いていた相手だ。間違えるはずがない。

 でも、意味が分からねえ。

 何で……なんで……

 

「葵!?どうして、ここに……?」

 

 普段、滅多に俺の特訓に顔を出すことのない葵が、ここにいるんだ?

 

 ……待てよ、紅也がいなくて葵だけがいる状況ってのは、実は初めてなんじゃねえか?

 

 そんな俺の困惑をどう受け取ったのか、楯無先輩は俺と葵を交互に見て、笑顔で話し始めた。

 

「私が呼んだのよ。この子、文句無しで一年生最強だから」

「えーと……答えになってないんですけど」

「そうかしら?まあ、立ち話もなんだし……葵ちゃん、入ってきて」

「……言われなくても」

 

 今まで声だけで判断してたけど、その背中まで伸びた青い髪、透き通った翠の瞳、ISスーツ越しでもはっきりとしたふくらみを見て、確信する。

 先輩が連れてきたのは、間違いなく葵だった。

 

「よう、葵。どうしたんだ?お前が紅也と一緒じゃないなんて……」

「……紅也は関係ない」

 

 俺としては話しやすい話題を振ったつもりだったんだけど、葵はぷいっと横を向いてしまった。……地雷踏んだか?やっぱり、紅也となんかあったのか?

 

「…それに、『どうした』と言われても……私は、ただついて来ただけ」

「ついて、って……楯無先輩に?」

 

 こくり、と無言のままに頷き、葵は楯無先輩へと目線を向ける。つまり、葵本人も何で連れてこられたのか分かってないんだな。

 それを問いかけようと思って俺も楯無先輩の顔を見ると……まるで俺の考えを先読みしたかのようなタイミングで、彼女は話し始めた。

 

「一夏くんは、役に立たない戦闘技術(バトルスタイル)の練習ばっかりで不満なのよね。だから、おねーさんは考えました。これは本当に無意味なのか?こんなことばっかりやってて実力がついてるのか?それを確認するために、葵ちゃんと戦ってみよう!」

「なるほど、分かり……って、えええ!?」

 

 いや、確かに思ってましたよ?接近戦の技術を磨かなくていいのか?って!

 でもそれ、一言も口に出してないし、それに葵と模擬戦って……。難易度高すぎるだろ!

 

「口に出さなくても、態度で分かるわよ。ね、葵ちゃん」

「……一夏は、分かりやすい」

「ぐっ……」

 

 分かりやすいって、確かにシャルにはよく言われるけど!

 ていうか二人とも、いつの間にこんなに仲良くなったんだ?葵はなかなか人に心を開かない性格だったはずなのに、さすがは“人たらし”!箒ともすぐに打ち解けてたし。

 

「さ、分かったら急いで白式を展開しなさい。私は二人の戦いを見てるから」

「はいはい」

「……………」

 

 楯無先輩の言葉に従い、俺と葵はお互い別のピットへと入っていく。

 緊張してない、といったら嘘になる。なにせ、相手はあの葵だ。

 

 学年の専用機持ちの中で、唯一第二形態移行(セカンド・シフト)した機体を持ち、本人の操縦技量もダントツ。さらに俺以上の接近戦型で、かと思えば中距離もこなせる。

 

 ……無理じゃね?

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 葵〉

 

 ……模擬戦?私と、一夏が?

 

 何で私がそんなこと……。剣の腕だけでも私の方が上なのに、射撃武器の無い白式が相手なんて、あり得ない。

 ……楯無先輩に相談したのは間違いだった?

 

 ……でも、「紅也が何を考えてるのか分からなくて、怖い」って相談したら、「いい考えがある」って言って、ここに連れて来られて。

 

 ……一夏との模擬戦が、いい考え?

 

 ……分からない。

 

 ……でも。

 たとえ模擬でも、戦いは戦い。先輩の意図は分からなくても、やらせてもらおう。

 

 そう自分を納得させ、首から胸元に下がっている蒼いロケットに触れる。

 瞬間、溢れる光が私を包み込み、眼球越しに見ていた世界はデジタル情報へと変換される。頭部センサーの両眼(デュアル・アイ)が捉えた情報から、一夏も白式を展開したのがすぐに分かった。

 

 ……良かった。私を見て戦意喪失してたようだったから、ひょっとしたらやる気がないのかと思ったんだけど、気のせいだったみたい。

 軽く腰を落とし、両肩とバックパックにエネルギーを送る。

 そして右足で床を蹴り、一気に跳躍。そのまま空中に躍り出て、〈タクティカルアームズ〉をソードフォームで構えた。

 

 時を同じくして、ピットから飛び出てくる一夏の『白式』。

 その瞳に怯えの色は無く、まっすぐに私の目を……というか、フェイスカバーを見つめている。

 

「二人とも、準備は出来た?それじゃ、模擬戦……始め!」

 

 オープンチャネルから更識先輩の声が聞こえ、戦いの火蓋は切って落とされた。

 一夏は即座に加速し、私に突っ込んで……来るわけではなく、スラスターを使って私の周りを周回し始めた。

 

 ……円状制御飛翔(サークル・ロンド)。なかなか様になってるわね。

 でも、それからどうするのかしら?それは遠距離型のスタイルであって、接近戦向けじゃないわよ?

 興味を持った私は、そのまま観察を続ける。

 

 単調に、円軌道を描いてる一夏。零落白夜の展開もしてない。

 ……ただ見てるだけ?それじゃあ……つまんない。

 

 タクティカルアームズを変形、中距離射撃型のガトリングフォームに。

 片手で構えたそれを即座に一夏の進路上に向け、パラパラと実弾をバラ撒いた。

 一夏はそのまま弾幕へと突っ込んでいく――かのように見えた。

 

「甘いぜ!」

 

 私が構えたことに気付いた瞬間、一夏はスラスター出力を上げ、加速することで弾幕をすり抜けた。

 ……基礎はできるみたいね。なら、次は?

 

 再びの射撃。今度は一点のみでなく、広めに……帯状に弾幕を展開する。

 さて、どうするの?今度は、多少の加速じゃ逃げられないわよ?

 

 それがすぐに分かったのか、今度の一夏は瞬時加速を行い、被弾覚悟で弾幕内を突っ切っていった。

 ……マニュアル制御の最中に瞬時加速なんて。一夏、いつの間にあんな器用なことが出来るようになったの?

 

「すげぇ……。上手くいった!昨日は失敗したのに……」

「……………!」

 

 失敗した?昨日は?

 ……つまり、一夏は。

 

 ぶっつけ本番で、この技術を身に付けたって言うの!?

 

 ありえない。

 いくら、あの“ブリュンヒルデ”の弟とはいえ、この戦闘センスは……

 

 イレギュラー。

 

 そんな単語が、私の脳裏に浮かんだ。

 ――そしてそれは、大きな隙だった。

 

「今だっ!」

「ッ!」

 

 再びの瞬時加速。ただし、今度は円軌道を外れ、まっすぐに私に向かってくるコース。

 しかも、私が想定してたより遥かに早く。

 

 ……やられた!

 加速しながら円軌道を維持するんじゃなくて、逆に軌道半径を小さくしてたのね。

 しかも、さっきの瞬時加速も、全力じゃなかった。

 多分、一夏の速さを誤解させるために……。

 

 乾坤一擲、というわけか。

 他のISではこうはいかないけど、一夏の場合はその一撃で十分だ。

 なぜなら、一夏にはアレがある。

 強制的に絶対防御を発動させ、相手のエネルギーを断ち切る、現代の魔剣――零落白夜。

 そしてその白い輝きは……すでに、目前に迫っていた。

 

「でぇぇぇい!」

 

 でも、それがどうしたっていうの?

 元々モルゲンレーテのISは、この魔剣に対抗すべく進化したもの。

 故に……対処法は心得てるわよ!

 

 タクティカルアームズを手放し、取り出したのは二本のナイフ。

 そのまま両肩のスラスターを全力で稼働させ、逆に一夏との距離を詰める。

 

「げっ!?」

「行くわよ!」

 

 一夏の得意分野は、近接戦闘。

 剣が届く限りの距離。それが一夏の戦闘領域(バトルレンジ)

 その弱点は、ただ一つ。剣の届かない範囲に逃げられること。

 剣の届かない範囲とは、すなわち……間合いの外か、あるいは――

 

 刀身よりも内側の、超近距離。

 

 瞬時加速を発動した機体同士が、超高速で激突する。結果、一夏の刀身はブルーフレームを傷つけることなく、私のアーマーシュナイダーは一夏のむき出しの腹へと吸い込まれていった。

 

 絶対防御が発動し、大幅にエネルギーを減らす白式。

 必殺の一撃を思わぬ方法で回避された一夏はすぐに距離を取り、光を失った〈雪片弐型〉を正眼に構える。

 

「くっそー……今のは、絶対に決まったと思ったんだけどな」

「……………」

 

 一夏がなにか言ってるようだけど、私には関係ない。

 ……いや、気にする余裕がない。

 視界の片隅に表示されるデータ。それに、私の目は釘付けになっていた。

 

 ――胸部装甲へのダメージが、閾値を超過。装甲のフェイズシフト化を実行しました。

 

 一撃。

 一夏の一撃は、確かに私へと届いていた。

 

 ……今まで、未熟だ未熟だと思ってたけど、これは予想外。

 

「まあ、今度こそ決めさせてもら……」

「……一夏」

 

 これなら――思ってたよりも、楽しめそうじゃない!

 

「本気で行くわよ!ついて来れるかしら?」

「! そのしゃべり方……。……いいぜ!やってやるよ!」

 

 向こうもやる気は十分みたいね。だからこそ……私も、やる気に火が点いた!

 だけど……ここは、あのセリフを言わせてもらいましょうか。

 

「気合いを入れるのは勝手だけど……その前に、右に避けなさい!」

「えっ!?……って、のわぁっ!」

 

 さて、思い出しなさい。

 一夏を迎撃するとき、私はタクティカルアームズをどうしたのか?

 そして、タクティカルアームズには、どういった機能があるのか?

 

 正解発表!

 一夏の背後から飛来する自立飛行の大剣は、白式の装甲をわずかに抉り、そのまま私の手元に戻ってきた。

 

「ふぅ……忘れてたぜ、それ。でも、何でわざわざ警告したんだ?余裕の表れか?」

「それもあるけど……違うわよ。だって、こんな面白い勝負――」

 

 両手でタクティカルアームズを構え直し、同じく正眼に構えて一夏を見つめる。

 

「――不意打ちで終わらせるなんて、もったいないじゃない!」

「それもそうか!」

 

 〈雪片弐型〉の刀身に、零落白夜の光が復活する。

 

 ……いいわ!すごくいい!

 

 何故だろう?相手が強いわけでも、実力が伯仲してるわけでもないのに……

 心が躍る!

 

「行くわよ!今度こそ正真正銘、小細工無し!真っ向勝負よ!」

「ああ!エネルギーも残り少ないし、この一撃に全てを込める!」

 

 胸が高鳴る。

 気力が溢れる。

 そして。

 

 ブルーフレームの装甲の胸部。そこに、緑色の蛇のエンブレムが浮かび上がった。

 




一夏も、とうとう葵に認められる領域まで上がってきたようです。
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