IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第106話 かざした刃の先に

「そーだよ!身体が二つあればいいんだ!」

 

 学園祭の出し物を決めるLHRが終わり、寮の部屋へと帰って来た私を迎えたのは、部屋の内側から聞こえた意味不明な叫び声だった。

 ……え?壊れたの、紅也。

 慣れない悩み事なんか抱えてたから、ぶっ壊れちゃったの!?

 

 ……とはいえ。

 久々に元気そうな声を聞いて、安心してる私もいる。

 紅也に、深く考えることは似合わない。そういうのは大人の仕事……だと、思う。

 私達は子供なんだ。ISなんていう『兵器』を扱うっていっても、結局はただの高校生。祭りのときくらい、はしゃいでもいいじゃない。

 前に一夏や箒と一緒に回った夏祭りは、最後を除けば、やっぱり楽しかったわよ。

 

 ……話が逸れたわね。

 とにかく、今の紅也だったら、私を避けることはないだろう。

 例え、それが一時的なものでしかないとしても、私にとっては好都合。

 私は、私の日常を取り戻すために。

 迷いなく、淀みなく、自室のドアを開け放った……。

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 紅也〉

 

 LHR後、部屋に戻った俺は悩んでいた。

 昨日までの、俺自身の進路に関する問題に、ではない。

 さきほど浮上した、学園祭の過ごし方のことだ。

 

 俺の所属する弓道部は、和服喫茶をやる予定。

 一方、一組の出し物はご奉仕喫茶。

 しかも、どちらも、俺をダシにしようとしてるフシがある。

 

 ……つまり、自由時間以前に、俺は二つの出し物を両立させなくてはならない。

 

「…どうすりゃいいんだろうなぁ、8(ハチ)

《どうもこうも、交渉するしかないだろう。弓道部35%、教室35%、休憩30%辺りが落とし所だろうな》

「そうは言ってもなぁ……部長にも『最低6時間は働きなさい』って言われたし、クラスのみんなも、俺がずっといる前提で話をしてたし」

《今日話すべきだったな。どうする?今から教室に戻るか?》

「いや、もう解散してるよ。……あ~!俺が分身(ダブル)でも使えれば……」

 

 と、そこまで言って思い出す。

 オレンジフレーム強化のために研究してるプログラム。ラウラのVTシステム対策で使った手法。そして、ゴールドフレームを動かした現象。

 それらすべてが俺の頭の中で混じり合い、一つの答えを導き出す!

 

「そーだよ!身体が二つあればいいんだ!」

《いきなり何を言い出すんだ、お前は!》

「だから、俺の腕を作ったのと同じ技術で……」

 

 カチャリ。

 

 ……むっ、誰だ?俺のすばらしいアイデアを邪魔する輩は?

 まあ、鍵を持っているのは葵だけだから、葵に決まってんだけど。

 

 ……あ、言っておくけど、葵が邪魔って言ってるわけじゃないからね!

 ホントに、ホントだよ!

 

「……紅也、今は忙しい?」

「いやいや、忙しくないよ。ヒマヒマ、超ヒマ」

《態度が540度変わったな》

「540度じゃ、一周して……って、あれ?180度回転してんのか?」

「……やっぱり、邪魔だった……?」

「いやいやいや!邪魔じゃないよ?それで、用件は?」

 

 話を逸らすように、あるいは誤魔化すように、俺は続きを促す。

 これで、ただ帰って来ただけだとしたら間抜けだが、葵の雰囲気はそんな感じじゃない。

 きっと、話があるんだろう。何か、重要な話が。

 

 ――いや、ぼかしてもしょうがない。箒にもバレたんだ。葵にも、バレたんだろう。

 

 きっと、問い詰められる。

 そう覚悟しての問いだったが……葵の言葉は、俺にとっては予想外のものだった。

 

「久しぶりに、模擬戦がしたい。……二人で」

 

 そう言った葵の瞳に一切の曇りはなく、言葉に他意もない……そう、思えた。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、準備はいいか?」

「もちろん。じゃ、始めましょ!」

 

 この第一アリーナには、俺と葵の二人だけ。

 監視カメラもごまかしてあるし、観客もいない。

 

 ――つまり、他人の目を気にせず、全力で戦える。

 

 互いに向かい合い、同時にISを展開する。

 顔以外の全体を装甲が覆っていき、PICによって機体が浮き上がる。

 

「開始はいつ?」

「いつでも。今の私達なら、きっとピッタリ同じに始まる」

「それもそうだな。何せ、俺達は……」

 

 目の前に浮かぶのは、いつも鏡で見ている顔。

 唯一違うのは、かつての俺が染めてしまった青い髪。

 葵も、俺の顔をじっと見ている。

 きっと……いや、絶対、こいつも同じことを考えてる。

 

 俺達は、同じだった。

 同じ資質を母から受け継ぎ、同じ環境で育てられ、互いが互いを“自分”だと思ってた。

 鏡に映った像ではなく、目の前にいるもう一人の自分。

 唯一の違いは、持って生まれた“X”と“Y”だけ。

 

 ――それが、俺と葵を分けた。

 

 ISに乗れるのは、女性だけ。

 過ぎた力を望んだ代償として、俺は左腕を失った。

 

 ……だけど。

 一度失ったからこそ、手に入ったものもある。

 

 難しく考える必要はねぇ。

 葵の真意なんか関係ねぇ。

 今、この瞬間は――

 

 葵の顔が隠れ、白と青のフェイスマスクが展開されていく。

 そのころには、俺が見る景色はハイパーセンサー越しのものに変化していた。

 

「ヴォワチュール・リュミエール!」

 

 膨大な光の奔流を迸らせ、俺は葵へと突貫する。

 葵が取った対策は、タクティカルアームズによる迎撃。だが……遅い!

 

 小細工無しのスピード勝負。葵の右側に回り込み、すれ違いざまにガーベラストレートを抜刀し、居合の一撃を喰らわせる。

 が……伝わってきたのは、まるでひのきの棒でデスタムーアを殴ったような感触。

 つまり、装甲を“斬る”ことはできなかったってことだ。

 

「速かったわね。正直、焦ったわ。……でも!」

「ッ!!」

 

 日本刀を振り抜き、一瞬硬直した俺の背中に、振り下ろされるタクティカルアームズ。

 くそっ!油断した!!

 

「だが……甘い!」

 

 甘く見るなよ、葵。

 それは元々、俺が設計した武器だ。

 刃渡り、機能、戦術パターン、そして葵の癖……。その全てを、俺は把握してるんだ!

 

 最低限の加速を行い、俺は背後から迫る刃を見切る(・・・)

 

「そっちがね!」

 

 が、避けただけでは逃げ切れないのがタクティカルアームズの特徴だ。

 葵はタクティカルアームズに取り付けられたスラスターを使用し、強引に間合いを広げ、剣を振った姿勢のまま突きを繰り出してくる。

 でも、言ったじゃねぇか。

 そんなことは、分かってる(・・・・・)って!

 

「残像だ!」

 

 左、下、回転して前進。刀を構えたまま葵の脇をすり抜けた俺は、勢い任せにブルーフレームの脚部を斬りつけた。

 ……今度は、通った(・・・)

 絶対防御が発動し、シールドエネルギーを大幅に減少させる。

 居合ほどの威力は無かったが、速さに任せただけあって、想定以上の威力だったらしい。

 

 ……が、こっちも無事では済まなかった。

 脇をすり抜けた際に、腰に感じた違和感。

 どうやら、葵の蹴りが……そして、つま先に仕込まれていたアーマーシュナイダーが、腰部の装甲を抉っていたようだ。

 あの一瞬で、浅いとはいえカウンターをかますとは……。我が妹ながら恐れ入るよ、まったく。

 

 一連の攻防が終わり、俺と葵は再び向かい合う。

 

「驚いたわね、私に一撃くれるなんて……。驚異だわ、その速さ」

「そっちこそ、いつの間にそこまで堅くなったんだ?通常装甲とPS装甲の複合二重構造とは、恐れ入る。……忘れてたぜ」

 

 第二形態移行を果たしたブルーフレームセカンドKの胸部装甲には、拡張領域内に存在していたPS装甲材が組み込まれた。

 外部の通常装甲が損傷、もしくは一定以上の衝撃を受けると内部の装甲に通電し、フェイズシフト化して硬度を引き上げる。

 PS装甲の燃費の悪さを解決した夢のような機能が、あの機体には備わっているのだ。

 

「だけど、二度目はもうないわ。ヴォワチュール・リュミエール……見切ったわよ!」

 

 いつの間にか無手となっていた葵は、大腿部のナイフシースから二本のアーマーシュナイダーを取り出す。このスピードに対抗するためには、隙が大きいタクティカルアームズを捨てるしかないと考えたらしい。

 ……いや、待て。本当に捨てたのか?なら、何でタクティカルアームズは背中に戻ってないんだ!?

 

 悪い予感に突き動かされるかのように、俺は機体を上昇させる。

 同時に、足を掠める緑と黄色の火線。葵の股下からガトリングフォームで飛び出してきた、分離飛行中のタクティカルアームズによる攻撃だ。

 しかも、攻撃はそこで終わらない。

 射撃を外した瞬間、タクティカルアームズは即座にソードフォームに変形。さらに葵は大剣の上にその両足を押し付け、空中でサーフィンをするかのような体勢で俺へと突撃をかけてきた!

 

「分離飛行中の空中変形、そしてリフター代わりの運用……。そんな使い方、想定してねぇぞ!」

「そうでしょ?でも……私には出来る!」

 

 その宣言通り、葵は大剣ごと瞬時加速をかけ、不意をつかれた俺へと突撃する。

 ヴォワチュール・リュミエールは間に合わない。

 ならば……“技”で乗り切るしかない!

 

 ガーベラストレートを水平に構え、“流し”の体勢を取る。

 ナイフを受け流す?無理に決まってんだろ!

 相手は二本、しかも、日本刀よりはるかに短い獲物。

 それに、ナイフによる流しは、葵の得意分野だ。

 

 ならば、狙うは一つ。

 足場だ。

 

「防ぎきれる!?この連撃が!」

「無理に決まってんだろ!だから……連撃自体を潰させてもらう!」

 

 機体を左にスライドさせ、タクティカルアームズの刃に沿ってガーベラストレートを走らせる。

 狙いは成功。攻撃の起点を潰された葵は、まっすぐに俺の双眼を見つめ……って、待て!

 

 何で、剣の下に潜り込んだはずの俺と、剣の上に乗ってたはずの葵の目が合ってるんだ!?

 

「その手で来るのは分かってた!」

「俺は予想して無かったよ!」

 

 いつの間にやら体勢を変えていた葵は、上下逆さまになったままナイフを繰り出す。

 一撃、二撃と装甲が削り取られ、さらに両足でもう二発。それが終わるころには、復活した両腕がまたナイフを繰り出すべく、俺の胴体へと迫る。

 

 通常、剣術でも拳法でも、相手が上下反転したまま攻撃してくるなんてことは想定していない。

 当たり前だ。そんなこと、舞空術でも使えない限りは不可能なのだから。

 ゆえに、俺はなすすべなく一巡目の攻撃を直撃し、追加の連撃も喰らってしまう。

 

 が……これ以上はさせるかよっ!

 ようやくヴォワチュール・リュミエールが起動して、宙域から離脱することができた。

 逃げに徹する俺には、たとえ葵の個別連続瞬時加速でも追いつけない。

 ゆえに、俺は即座にガーベラストレートを構え直し、ナイフを構える葵を見据える。

 止まっていたら狙われる。正眼に刀を構えたまま、右へ左へゆらゆらと、しかし高速で移動する。

 ついでに、“腕”の機能である、ホログラフ投影を使用。今の葵には、俺の輪郭がぼやけて見えていることだろう。

 さて……反撃開始だ!

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 葵〉

 

 ――強い。

 条件は一夏と同じく、刀一本なのに……技量が段違いだ。

 

 いや、そもそも。

 今の紅也は、レッドフレームに乗っていたころより、遥かに強い。

 それはきっと、デルタアストレイに装備された〈ヴォワチュール・リュミエール〉のせいじゃない。

 ――まっとうなISにならついてる、絶対防御のお陰だ。

 

 昔の紅也は、怪我を恐れるためか、慎重な攻めが多かった。

 だけど、さっきの受け流し、そしてインファイトは、紛れもなく“紙一重”の行動。

 それが、元々高かった紅也の技量を、さらに引き立てている……!

 

「行くぜ!……と、見せかけて行かない!」

「くっ……」

 

 加えて、あの幻影。

 あれが私の間合いを狂わせて、なかなか反撃に移らせてくれない。

 

 ……でも。

 持久戦では、ヴォワチュール・リュミエールを展開している紅也の方が不利になる。

 だから、紅也は必ず、必勝のタイミングで仕掛けてくる。

 

 シュッ!

 

 またも、デルタが突撃を仕掛けてきた。

 構えたガーベラストレートに対して、アーマーシュナイダーで応戦。刃と刃で打ちあったら、こっちが斬られるのは目に見えてる。

 だから、私は……刀の腹を狙い、剣線を逸らす!

 

 ……が。

 命中し、確かにぶつかったはずの刀は。

 私のアーマーシュナイダーも、私のボディーもすり抜け。

 そのまま機体ごと、私の後ろに飛んでいき――消え去った。

 

 ……幻影!?

 

「残念。幻影だ!」

「……ッ!」

 

 後ろから聞こえた声。すぐさま肩のスラスターによって独楽のように回転し、振り向きざまにアーマーシュナイダーで斬りつけるが……手ごたえは無い。

 

「こっちだよ!」

 

 下方、上方からの同時攻撃を、瞬時加速によって回避。直後、右足に痛みを感じ、即座にダメージチェックを開始する。

 

《ダメージ48。実体ダメージ軽微》

 

 攻撃を受けた部位は、右足。

 上からでも、下からでもない。さっき幻影を切り裂いたはずの、後ろからの攻撃。

 

「それだけじゃ、終わらないぜ!」

 

 上下左右、様々な方向から襲い来るデルタアストレイ。

 もちろん、どれが本物でどれが偽物か、なんて判断は出来ない。

 もし、8がバックアップについていたなら、見破ることもできただろうけど……今は無理だ!

 

 胴体、頭部、また右足、それから左腕。

 

 無数に分裂する刃と、迫る影。

 それらを全て避けることはできず、私の身体には少なくない傷跡が刻まれていく。

 

 ……ダメだ。

 目に頼るな。

 センサーを見るな。

 感じるんだ。

 

 身体の動きを。

 風の動きを。

 ()の姿勢を。

 目線を。

 

 意識を内面に集中し、全身で自分以外の存在を感じとる。

 

 すると、ISコアから()が流れ込んできて、私の知覚を活性化させていく。

 

 そして胸に現れる、緑色の蛇の紋章(エンブレム)

 燐光が私の身体を包み込み、体内時間の流れが加速していく。

 

 ――これだ。

 デュエルと戦ったときや、昨日一夏と戦ったときと同じ、あの感覚。

 

 私の、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)

 

 ――敵意が見えた。

 

 7つの影のうち、目に見える範囲全てに存在するのは、偽物。

 後ろから迫っている影も、偽物。

 上空から私を一刀両断しようとしてるのが、本物だ。

 

 ……恐るべきことに。

 この引き延ばされた時間の中、紅也は動き続けていた。

 それは、とてもゆっくりした、プールの中を歩くようなスピードだったけど。

 デュエルだって、バスターだって、一夏だって停止したこの世界の中で。

 

 紅也だけは、動くことが出来ていた。

 

 全身のスラスターで、姿勢を制御。タクティカルアームズをソードフォームで呼び出し、正面に紅也の姿を捉える。

 それを見た紅也は、刀を構え、タクティカルアームズの軌道に対応し刃を向け、さらにスピードを上げてみせる。

 

 ……本当に。

 本当に。

 楽しませてくれる!

 

「…………」

「遅いわよ!」

 

 紅也が口を開くより早く、瞬時加速を使用して軌道を変更。無防備な胴体に向け、大剣を横薙ぎに振りかぶり……紅也を吹き飛ばした。

 

 そして、時は動き出す。

 

「俺より速い!?」

 

 自分が弾き飛ばされたことに気付いた紅也は、体勢を立て直そうともがき出す。

 でも……もう、手遅れ。

 フライトフォームのタクティカルアームズを、背中に接続する。本体から供給されたエネルギーが三基のスラスターを全力で稼働させ、瞬間的にヴォワチュール・リュミエールを超えるスピードを叩きだした。

 

 両腕に召喚するのは、大型のアーマーシュナイダー。

 それを、ようやく姿勢制御を終えた紅也に向け――連続して叩きこむ!

 

「紅也!」

「ッ!」

 

 牽制のための、左腕のナイフ。それは本来の役目を果たさず、対応できなかった紅也の右手に突き刺さる。

 

「紅也はすごい!すごく、強くなった!」

 

 加速したまま右腕を突き出し、デルタの脇の装甲を抉る。

 

「だけど、それは私も同じ!」

 

 回転しながら、右足で蹴りを入れる。つま先から飛び出したアーマーシュナイダーは、紅也の大腿部を削り取り、下方に吹き飛ばす。

 

「私も、この半年で……強くなった!」

 

 回転の勢いを殺さずに、今度は左足を繰り出す。さらに勢いのついた紅也の身体は、きりもみ回転をしながら地上へと落ちていく。

 

「紅也が何を悩んでるか……何を隠してるのか、私は知らない!」

 

 そう。

 私はそんな紅也に気付いていても、その内容までは分からなかった。

 所詮私は、戦うことしかできない女。

 どうしようもなく不器用で、どうしようもなく臆病で、どうしようもなく矮小だ。

 でも、昨日の模擬戦で気付いた。

 私が最も饒舌に語れるのは、戦っている間だけだ!

 

 左手のナイフを投げ、紅也の頭部に命中させる。

 

「でも、それが何であっても関係ない!」

 

 だからこそ、この戦いで伝えたい。

 

 紅也が作った大剣を構え、大上段に構えて、最後の瞬時加速を行う。

 

「私は、大丈夫だから!」

 

 紅也の軌道を感覚で捉え、ここぞというタイミングで、一気に剣を振り下ろす!

 果たしてタクティカルアームズは紅也の頭頂部を直撃し、ひびの入ったフェイスカバーを一撃で粉砕した。

 

 ――デルタアストレイ、シールドエネルギーゼロ。

 

 大剣を振り終えた私と、顔を露出させた紅也の目が合い、互いに見つめ合う。

 

 

 

 ――強くなったな、葵。

 

 ――紅也こそ。

 

 ――もう、大丈夫なんだな?

 

 ――うん、力だけじゃなくて、心も。

 

 ――そっか。そうだよな……。

 

 

 

 言葉は不要。視線だけで意思を伝えあった私達は、そのままゆっくりとアリーナへと降りていった……。

 

 

 

 

 

 

〈side:更識 簪〉

 

 放課後。紅也くんからの呼び出しを受けた私は、整備室まで来ていた。

 用件は聞いてない。でも――甘い話じゃ、ないと思う。

 だって、この間のこともあるし……。

 

「簪、来てるか?」

「……うん。入って」

 

 私の部屋に入るわけじゃないのに、わざわざノックしてからやってきたのは……やっぱり、紅也くんだった。

 

「やー、悪い。ビーム発振器の現物は届いてないんだが、デザインは先に決めとこうかと思ってな」

「そう……なんだ……」

 

 やっぱり、それだけだった。

 この間詰め寄ったときは、なんかドギマギしてた様子だったから、ちょっとは意識してくれたと思ったんだけど……って、あれ?なんか、紅也くんの顔……。

 

「ねえ、紅也……くん」

「ん?どうしたんだ?」

「なんか……嬉しそうな顔してる。……いいこと……あったの?」

「ああ……そうだな。すごくいいことが、ひとつ」

 

 ……いいこと?

 まさか、誰かにこ……告白された、とか……?

 

「ああ……もう、何も怖くない――!」

 

 ……それは、さておき。

 

「そのセリフは、止めた方がいい……」

 

 わずかに脱力感を覚えた私は、ため息ひとつ。

 妙に晴れ晴れとした顔の彼に、そんな言葉をかけたのであった……。

 




がっこうぐらしを通して、葵はかなり自立したようです。
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