IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

122 / 196
※今回はギャグパート多めで、いつもよりメタいです。


第108話 認めたくないものだな。若さ故の(以下略)

「もうすぐ、ね」

 

 どことも知れぬ屋敷の中。一人の妙齢の女が、紅茶を片手にそう呟いた。

 これが中庭あたりだったら、なかなかに絵になる光景だっただろう。しかし、生憎窓から見える景色は、全てを押しつぶすかのような土砂降りの雨だった。

 

 しかし、それでも。

 

 何故だか、彼女にはそれが一番似合っているように見える。

 

「何が『もうすぐ』なの?秋雨前線の後退の話?」

 

 女の口から洩れた独り言に、今まさに部屋へと入ろうとした人物が疑問を呈す。

 ……が、それを気にすることもなく、女は再び口を開いた。

 

「祭りが始まるのよ。もうすぐ……ね」

「祭り、ね……。なら、今回の『集合』もその為のものなんでしょうね?」

 

 疑問を発した人物は、ゆったりとした歩調で部屋へと足を踏み入れる。

 その後ろから、一人、二人、三人……。影のようにつき従う者たちは、本来の部屋の主を無視し、そのまま椅子に腰かけた。

 一方、女が綺麗なティーカップをソーサーの上に置き終えると、これまたどこから現れたのか。二人の女が出現し、空いている椅子へと体を預けた。

 

「では、今回の目的をお話しましょう」

「その前に、確認だ」

 

 呼び出した全員が揃ったところで、女が話を始める。

 もちろん、こんな会議は形式だけのもの。あくまで足並みを揃えることが目的であり、これから語られる内容など、全員が知っている。

 予定調和で進められる予定の、ありふれた儀式。

 が……進行を遮るかのように、その場の一人が声を発した。

 

「あそこには、エッジを()った奴がいるんだろ?……俺様も連れてけ」

「なっ!?テメェ……自分の立場が分かってんのか!」

 

 それは確認ではなく、命令だった。

 あまりに傲岸不遜な物言いに、一度は着席したはずの参加者の一人が声を荒らげ、発言者へと詰め寄る。

 しかし、議長役の女はそれを目線で制し――

 

「それは許可できないわね。無理よ、あなたじゃ」

 

 足手纏いだ、とはっきり告げた。

 

「はんっ。俺じゃ、ISを使えねぇからか?……アホくせぇ。人を殺すのにISなんざ必要ねぇよ」

「それ以前の問題よ」

 

 なおも食い下がる()に対し、女は微笑みを崩さぬまま、言葉を続ける。

 

「あなたの容姿は目立ちすぎる。しかも、男だから余計に、ね。……そもそも、あなたにスーツなんて似合わないわ」

「ぎゃはははは!確かに!」

 

 女は男の全身を値踏みするような目で眺め、はっきりとそう言いきった。

 その言葉を聞いた参加者からは、少なからず笑いが漏れ……特に、最初に彼に詰め寄った人物は、腹を抱えて下品な笑い声を洩らしていた。

 

「……ケッ」

 

 模範解答に妨げられた男が発したのは、小さな悪態だけだった。

 

 

 

 

 

 

〈side:ラウラ・ボーデヴィッヒ〉

 

 時刻は午前5時。一般学生の起床よりはまだまだ早いこの時間に、私はある部屋の前に来ていた。

 IS学園学生寮、1017室。

 

 ――まあ、嫁の部屋だ。

 

 先日は、スタンガンのようなもので気絶させられてしまったが……今日は不覚を取らん!

 なにせ、この日のために、本国から専用の装備を取り寄せたのだからな!

 これで、今日こそ夜這いを成功させてみせる!

 

 ……む、日本語がおかしい?何の話だ?

 

 ともかく、まずは敵情視察だ。この器具をドアに取りつけて、耳を澄ませば……

 

『ぐぅっ……うぅ……はぁっ……』

『……次は、ここ』

『うきゃっ!?ぐ、ぐぬぅ……』

『……もっと、する……?』

 

 ……………。

 

 ……い、いや、待て。

 落ちつけ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 これは、その、あれだ。この間と同じだ。

 紅也は、そんなことをする男じゃない。

 だから、もう少し聞いてみれば、きっと……

 

『い、いや、まだだ!男の俺が、この程度で……』

『ここが……ダメなの?』

 

 結論。突入、制圧すべき状況だ。

 

 『シュヴァルツェア・レーゲン』の右腕を部分展開する。狙うは目の前に存在し、私の行く手を阻む憎き扉。壊したその日のうちに修復されたそれを、再び塵芥と変えるべく、私は右手を大きく振るった。

 

「紅也!先日に続き今日までも!一体何をやって……」

 

 ドアを吹き飛ばし、ISを解除して部屋へと踏み込んだ私が見たのは……

 

「誰だ!……って、痛たたた!」

「紅也、無理しちゃだめ」

 

 ベッドにうつ伏せになり、パンツ一枚で寝転がっている紅也と。

 隣に座り、その背中にペタペタと湿布を貼り続ける葵の姿だった。

 

「……何をやっているのだ」

 

 先程言いかけた言葉の続きだが、そこに込められた意味は全く異なる。

 剣呑な雰囲気が消えたことを察したのか、葵はため息をつきながら、こちらも見ずに答えた。

 

「……筋肉痛」

「痛いって!そこはらめぇぇぇぇ!!」

 

 パシン!と小気味よい音が響き、新たな湿布が紅也に張り付く。

 これで、紅也の顔と左腕以外は真っ白だ。

 包帯を全身に巻いたことでこういう状態になった者は、私の部隊にもいたが……湿布だけで白ミイラになった奴は初めて見たぞ。部屋が妙に薬品臭いのはそのためか。

 

「それは理解したが……紅也。どうしてこんなことになるまで無茶をしたのだ?『銀の福音事件』のときもそうだが、あまり周りに心配をかけるなよ?」

「悪い、ラウラ……。いや、昨日はなんとも無かったんだけどさ、シャワー浴びて寝てて、夜中に目が覚めたら身体が動かなくて。で、無理して動かしたらこの有様だ。情けねぇ」

「お前は新兵か。……まったく。たとえ興奮状態で疲労を一時的に忘れても、そういうものは後から必ずやってくるのだ。自己管理くらいきちんとせんか」

「う、一言も言い返せな痛ぁ!」

 

 私の言葉で紅也は項垂れるが……その動作のせいでまたどこかを痛めたようだ。

 

「無理はするな。……それに、例え嫁が自己管理を出来なくても、私が……」

「ラウラの言うとおり。自己管理は徹底すべき」

 

 ……葵。どうあっても、私の邪魔をするか。

 

「え、えと、葵?それにラウラ……さん?どうしたの?何か、部屋が寒いんスけど……」

 

 嫁が何かを言っている気がしたが、そんなものに気を配る余裕はない。

 私の目に映っているのは、目の前でどこか勝ち誇ったような顔をしている、嫁と全く同じ顔を持った女の姿だけだ。

 

「ラウラ、安心して。紅也の体調管理は、私がきちんとやっておくから」

「何、気にするな。いずれ私の仕事の一つになるのだ。今からやっても大差ない」

 

 私も葵も〈衝撃砲〉を持っているわけではないが、空間への圧力が高まっていくのを感じる。同時に、高まっていく緊張感。久しく味わっていなかったその感覚を心地よく感じながら、私は目の前の相手を睨む。

 が……葵はそんな私を気にも留めず、変わらずに余裕をもった笑みを浮かべている。

 

「これ以上は止めましょう?紅也、寝ちゃったみたいだから」

 

 寝た?私には、白目を剥いて気絶しているように見えるのだが。

 

「そういうわけだから、ラウラはそろそろ帰って。……あ、後、織斑先生に『紅也が一時間目を休む』って伝えておいてね?」

「……仕方がない、朝のHRのときに伝えておこう」

「今伝えられてもいいのだぞ?」

 

 ――第三者の声が、部屋の中に響く。

 

 それは、かつてよく聞いていたし、IS学園(ここ)に来てからはほぼ毎日聞いていた声。静かで、決して大きくは無いが、それでも万人を沈めるだけの力が込められた声。

 

 ……毎日聞いていたはずなのに、ここ最近は全く聞いた覚えが無いのは何故だろうか?

 

「ほう、私を無視するとは……。ずいぶんと偉くなったな、小娘」

「き、教官!」

 

バシン!

 

「ここでは織斑先生だ、馬鹿者。……それで、ボーデヴィッヒ。これで二枚目か?ドアを壊すのは楽しいか?」

「あ、いえ、その、あの……」

 

 久々に間近で見ることになったその迫力に、私の足はすくんでしまう。

 うまく言葉が出ない。

 どうやってこの危機を回避したらいいのか、分からない――!

 

「私もヒマではないのだぞ?出番がないからヒマだと誰が決めた?山代妹や更識妹の出番が少ない?ボーデヴィッヒの扱いが悪い?では、そんな指摘すら受けたことがない私は何だというのだ?」

「……お、織斑先生?」

「20話だぞ?山田君ですら『あ、最近出番少ないな。ここらでHRの話を書いとくか』という理由で出番があったのに、私はどうだ?『最後に出したのって3章だったっけ?……あ、88話でちらっと出てた』程度の認識だ。滑稽か?滑稽だろう。いっそのことN.G.Iに就職して、ストライクのオペレーターでも勤めるか?その方が出番も増えて、続編や外伝にも出演して、10年後にはHDリマスターされて、いつまでも若者の記憶に残るんじゃないか?

 ……と、いうわけでボーデヴィッヒ。ちょっと来い」

 

 『と、いうわけで』の使い方がおかしい。

 ちらり、と葵の方を見ると、どこか憐れむような目で私を見ていた。それは、私を『失敗作』と罵った研究者たちとは全く違う、むしろそれよりも私を暗くさせる表情だった。

 

 ところで教官、襟を離してくれませんか?片手で私を持ち上げるのをやめてくれませんか?そして……イメージが壊れそうなので、呪詛を吐くのを止めてください!

 

 

 

 

 

 

「……と、いうわけで紅也は遅刻するそうだ」

「あ、朝からハードな生活してるね、ラウラ……」

 

 苦笑しながらもその言葉に頷くのは、部屋にいなかった私を探しに来たシャルロットだ。

 まったく、私がいなかっただけで心配するとは。私も子供ではないのだが……今回に限って言えば、助かった。おかげで、あの地獄から逃げ出すことが出来たのだからな。

 

「筋肉痛とはいえ、大丈夫なのか?まったく、あいつはいつも無茶ばかりしているな」

「昨日……は、そんなに……無理してるようには、見えなかったけど」

 

 呆れた奴だ、とため息をつきながらもどこかほっとした様子の箒と、珍しく一人で食堂にいた簪が、それぞれ反応を返す。

 

「……簪。昨日、紅也と会ったのか?」

「う、うん……。実は、『打鉄弐式』の完成の……目処が、立って」

「へぇ。あの機体、まだ未完成だったんだ。マルチロックなんて積んでたくらいだから、もうロールアウトしてるのかと思ってた」

 

 シャルロットの言う通り、もう完成しているものだと思っていた。

 だが……確かに、よく考えてみれば武装は薙刀とミサイルだけだったような。

 

「では、来月の“キャノンボール・ファスト”には出れるのだな?」

「それは……調整が、間に合えば……」

「ならば、そこで初めて専用機持ちが揃うわけだな」

「ちょっと楽しみだね。ほら、臨海学校のときは全員が集まれなかったわけだから……」

 

 そう言って、少し顔を伏せるシャルロット。……そういえば、シャルロットは嫁と入れ違いになったから、最後の場面には立ち会えなかったのだったな……。

 

(途中ですれ違った可能性はあるけどな。あいつはミラージュ・コロイド全開で飛んでたから、熱源センサーを使ってないと気付かなかったはずだぜ)

 

 それは分かっている。私が転校してくるよりも前に、あの“GATシリーズ”の一機が襲撃してきて、それを嫁と葵が退けた。そのときに得た戦闘データを用いて、〈ミラージュ・コロイド〉を再現した、という話だったが……

 

(どうせ、どさくさまぎれに強奪したのだろう)

(さあ、何のことやら?)

 

 ……こいつは。本当に、肝心なことは一つも話さないのだな。

 それにしても、その機体はどうなったのだろうな?一ヶ月前に鹵獲した『バスター』の改修機が完成していることを考えると、既に何らかの強化を受けているのか。いや、しかし、そんな情報は……。

 

(それより、早く会話に復帰しろよ。ボーデビッヒ(・・・・・・)。また怪しまれるぜ?)

「私も楽しみだな。模擬戦での勝利と、実戦での勝利は全く違う。今度こそ、一位を取ってみたいものだ」

「それはそうだが……『今度こそ』も何も、今まで学園行事が無事に終わった試しがないではないか」

「……箒……不吉過ぎ……」

「あ、アハハ……。今のはちょっと、笑えない……かな?」

「なっ!?べ、別に、そういうつもりでは……」

 

 ……学園行事が無事に終わった試しが無い、か。

 7月の福音事件も、5月のクラス代表対抗戦も。

 そして――6月の、学年別トーナメントも……。

 

 ……では、今回の学園祭は?あの、ひと癖もふた癖もありそうな生徒会長が企画した、あのイベントでは?

 

 ……少し、警戒したほうが良いかもしれんな。

 

「ほら、ラウラも怖い顔してるし……」

「む、じ、冗談だ!だから、睨むな!」

 

 睨んでるつもりはないのだがな。はぁ……。

 

「今度はため息だと!?ええい、冗談ではない!」

「……冗談、なのか……冗談じゃない……のか、はっきりして」

「今の『冗談じゃない』って、そういう意味じゃないと思うな……」

 

 イライラしたような様子で立ち上がる箒。わざとなのか天然なのか分からない発言をする簪。そして律儀に収拾をつけようとするシャルロット。

 このメンバーを見ていると、先程の懸念を口に出すことが憚られる。

 

 ……まあ、例え何かがあっても大丈夫だろう。

 

 この学園には12人もの専用機持ちと、30機の練習機。さらに各国の代表候補生や、選りすぐられた教員までいるのだ。

 例え一国が本気を出しても、ここを陥落させることは不可能だ。

 

 このときは、そう思っていた。

 

 ……そんな考え自体が、いわゆる『フラグ』だったことには気付かずに。

 




専用機持ちの人数を数えてるとき、紅也葵一夏箒鈴シャルラウラ簪楯無ダリルフォルテで11人……あれっ?って何度もなりました(笑)

「彼女」的にはオイシイ状況ですかね?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。