IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第115話 死して屍拾うもの無し

 ……弓道部の和服喫茶を後にした俺たちは、今度は校舎の方へと足を進めていた。

 

「なあ、次はどこに行く?」

「どこ、っていってもなぁ……」

「飲食店以外がいいですね。さっきのあんみつ、美味しかったなぁ」

 

 そんな会話を交わしながら、俺たちは屋台の並ぶ校庭を歩く。周りに見えるのは軽食、サンドイッチ、ホットスナック、ソフトクリーム……と、やっぱり食事系が多く、蘭の希望には沿えないようだ。

 

「鈴のところも喫茶店だろ?……あ、そうだ!葵さんのクラスは?」

「三組か?そういや、何やってんのか聞いてなかったな」

 

 話しながらも、視線は右へ左へ。二人が楽しめそうなものを探してみるけど、やっぱり外にそんなものはないみたいだな。

 ……あ、あの人。始業式のときに紅也に声をかけてた女の人だ。三年生だったのか。

 

「……あ、葵さん……あれ?」

「どうした蘭!?葵さんがいたのか?」

「え、いや、その……見間違いだったみたい。後ろ姿が似てたから……」

「まあ、これだけ人がいるんだから、そういうこともあるって。とりあえず、行こうぜ」

 

 この時間、葵はクラスの方にいるって言ってたから、多分見間違いだろう。

 

 ……そういえば、蘭は葵からチケットを貰ったって言ってたな。なら、三組が何をやってるにしても一度顔を出した方がいいよな。

 

「一年の教室はこっちだから、はぐれるなよ」

「俺はガキじゃねぇ!……と、言いたいところだが、この混雑じゃ洒落にならねぇな」

「あ、あの、一夏さん。はぐれたら困るので、その、て、手を繋いで欲しいかな……なんて」

「なっ、蘭!?それは許さんぞ!」

 

 

 

 

 

 

 ……と、いうわけで一年三組の教室に来たんだけど。

 

「いらっしゃい、一夏くん。チップは20枚100円、1000円で300枚よ。どうする?」

「あ、じゃあ、とりあえず500円分……じゃ、なくて!どうしてここにいるんですか、楯無さん!」

 

 探していた葵の姿は見当たらず、代わりにテーブルに座ってたのは一組を手伝ってくれていたはずの楯無さんだった。

 

「葵さん、いないなぁ……。やっぱり、蘭の言うとおり外にいたのか?」

「入れ違いだったのかな?……そ、それより一夏さん!この人、誰ですか?」

 

 弾はなぜかがっくりと肩を落としながらちらり、と蘭の方を見るが、蘭はそんな弾を半ば無視して俺へと詰め寄る。

 まあ、気持ちは良く分かるな。俺だって、中学の頃の友達が仲良くしてる人を見たら、ちょっとは気になるし。それが異性ならなおさらだろう。

 

「ああ、この人は――」

「初めまして、一夏くんの同居人の更識楯無よ。よろしくね?」

「――え?」

 

 紹介しようと口を開いたら、先に楯無さんが自分から話しだした。……って、その説明、ずいぶんと内容を端折ってませんか!?

 

「どういうことですか!?この人と一夏さんが、その……ど、同棲なんて!」

「お、おい、蘭!同棲じゃなくて――」

「どうもこうも、合意の上よ」

「楯無さんも、無意味に煽らないでください!」

 

 まったく、この人は!どうしていつもこうやって周りを混乱させるんだ!?

 

「なあ、一夏。お、お前、こんな美人さんと付き合ってるのか!?チクショウ、裏切り者!」

「一夏さん、違いますよね!合意の上なんて嘘ですよね!?」

「え!?」

 

 い、いや、付き合ってるとかそういうのは弾の誤解だけど。同居に関しては厳正な勝負の結果であって、楯無さんの『言うこと』聞いた結果だから、合意の上かどうかといえば……ええと……。

 

「ま、まあ、確かに、合意はしたんだけど――」

「神は死んだ!!」

「ら、蘭が壊れた!?」

「ふふふ」

 

 あ、あれ!?なんか、蘭が真っ白に……。俺、なんか変なこと言ったか?

 

 なぜかてんやわんやの俺達三人を見ながら、楯無さんはいつものように微笑みを浮かべている。笑顔を半分ほど隠している、開いた扇子に書かれた文字は……『混沌』。

 こうなるのが分かってるなら、止めてくださいよ!いや、本当に!

 

「……で、私がここにいる理由だったわね」

「せめてこの場を収拾してください!」

「それは駄目。だって、面白いもの」

 

 ああ、もう!紅也と話してるみたいだ!

 

「嫌!認められないわ、こんな現実……。そうよ!きっとこれは悪い夢よ!」

「え、ATフィールドだと!?なんてこった!俺の妹が最強の拒絶タイプなわけがない!」

 

 弾と蘭は、もう一周回ってコントみたいになってるし。

 こういうときは……。

 

 スルーしよう。うん、それがいい。

 

「……で、理由は?」

「一夏くん、成長したわね。おねーさん嬉しいけど、微妙に悲しいわ。

 実はね、葵ちゃんに頼まれたのよ。まあ、交換条件ってやつね。私のお願いを一つ聞いてもらう代わりに、この教室で受け付け嬢をやることになったの」

「交換条件?それって……?」

「乙女の秘密、よ。……はい、チップ100枚。ゆっくりしていってね」

 

 見る者全てを虜にするような笑みを浮かべ、用は済んだとばかりにチップを渡す楯無さん。その表情を見て、周りから黄色い声が上がる。

 ……やっぱり、人気あるなぁ。

 

「どうも。おーい、弾、蘭!チップ渡すからこっちに来いよ」

「……あるいは、幻覚?鏡花水月!?邪眼!?それとも、写輪眼!?」

「ここはIS学園だぞ。愛染も蛮もサスケもいねーよ。……な、分かっただろ、蘭。お前も早く諦めて、新しい恋を……」

「二人とも、早く正気に戻ってくれぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

〈side:篠ノ之 箒〉

 

 ……む?今、一夏が叫ぶ声が聞こえたような……。

 

「今の声、一夏だよね?」

「……三組の方から」

「おおかた、あの生徒会長にからかわれているのだろう」

 

 シャルロットも葵もラウラも聞いていたから、空耳ではなかったようだ。

 

「はい、これ使って」

「……ん、分かった」

 

 今、私たちは『ご奉仕喫茶』の裏で集まっていた。

 もちろん、サボっているわけではない。……まあ、さっきから水しか注文されてないから、仕事が無いのは事実だが。

 それはさておき。

 

「……本当に良かったのか、葵」

「……大丈夫。私は、あんまり気にしてないから」

「済まない。私が、もっとしっかりしていれば……」

「ラウラ……」

 

 話しながらも葵はリボンを緩めて上着を脱ぎ、スカートを下ろし、下着を外して胸を露出させる。そしてシャルロットから受け取ったコルセットを代わりに身につけ、きつく、きつく胸を締めていく。

 

「どう……って聞くのも変だけど、大丈夫?きつくない?」

「……もちろん、きつい」

「だよね。僕も、結構きつかったし」

「むう……」

 

 自分の胸のあたりをさすり、がっくりと肩を落とすラウラは、まあ放っておこう。

 コルセットで胸を隠した葵は、今度はロッカーから一着の燕尾服を取り出す。

 

 そう。女子用のメイド服ではなく、男子用の……予備の燕尾服を。

 

 葵は、私たちの頼みを了承してくれた。

 それこそ、さんざん悩んで結論を出した私たちを、拍子抜けさせるほどあっさりと。

 

『あの頃のことは、別に気にしてない。髪も、もう元に戻ったし』

 

 葵はそう言って、紅也のフリをすることを了承してくれたのだ。

 

「……できた。どう?」

「おお……」

「これは……」

「昔の紅也そのもの、だな」

 

 燕尾服に袖を通した葵は、髪を染める前の紅也と瓜二つだった。

 ……いや、まあ、双子なのだから当たり前と言われれば、まあそれまでなのだが。

 それでも、この姿を見ると、二人が双子であるという事実を否応なく実感させられた。

 

「髪は……上着の中に隠せるかな?後はウィッグでどうにかするとして……肌の色は?」

「……そこまでは変えられない」

「後は、口調と声だな。これもこのまま行くしか……」

「ちょっと待って。んっ、ん……『これでいいか?』」

「! ……そういえば、葵は声真似が得意だったな」

 

 夏祭りのときに織斑先生の声でからかわれたことを思い出し、私は一人納得した。

 他のみんなは、というと……ずいぶん驚いているな。ラウラなど、どこかに紅也がいるんじゃないかとキョロキョロと目線を動かしている。

 珍しい姿だ。

 

『ヘッドバンドも必要だな。ウィッグはどこにある?』

「り、両方ともそこに用意してある。試してくれ」

『分かった。サンキュー、ラウラ』

 

 どうやらなにか“スイッチ”が入ったらしい葵は、立ち振る舞いまで紅也に似せている。

 ……あの二人が本気で入れ替わったら、誰も気付けないのではなかろうか。

 

「葵さん、準備はできていますか?」

『完璧だぜ、セシリア』

「え!?……ああ、葵さんでしたか。てっきり、紅也さんが戻ってきたのかと……。」

「それよりセシリア。葵を呼びに来たんじゃないの?」

「そうでしたわ!準備が済んでいるのなら、早速接客をお願いしますわ!」

 

 セシリアの慌てようから察するに、もはや猶予は無いようだ。

 

「葵、頼む!」

『箒……今の俺は紅也だ。間違えんなよ?』

 

 ニヒルに笑った葵は、きゅっとネクタイを締めると、惚れ惚れするほど颯爽とフロアへと出て行った。

 

「じゃあ、僕たちも」

「ああ。今まで停滞した分、存分に取り返すぞ!」

「おう!」

 

 さあ、ここからが正念場だ。

 ラウラの言った通り、ランチタイムに一時間近く営業ができなかったというのは大きな痛手だ。

 後30分もすれば紅也が帰ってくるだろうが……その30分が致命的になりかねない。

 

 ……む?何故、私はここまで真剣になっているのだろうか?

 最初は、『ご奉仕喫茶』そのものに乗り気ではなかったはずなのに……。

 

「きゃあぁぁぁぁ!やっときた、山代くん!」

「こっちよ、こっち!」

「一万年と二千年前から待ってたわ!」

 

 執事の登場により、フロアの空気は一気に盛り上がった。

 それをきっかけに、飛び出す注文の数々。外の行列はずいぶんと小規模になってしまったが、それでも、元の活気を取り戻すのにそこまで時間はかかるまい。

 

「すいませーん、メイドさん。注文いいかしら?」

「篠ノ之さん、よろしく!」

「わ、私か?お待ちください!」

 

 他に手の空いている者もいないため、慌てて注文の入ったテーブルへと向かう。

 ……しかし、今の声。どこかで聞いたような気がするが……?

 

「お待たせしました。ご注文をどうぞ」

「ハーブティーと……って、箒ちゃんじゃない。一ヶ月ぶりね」

「えっ……あっ!」

 

 思い出した!

 臨海学校のとき、紅也と私を助けてくれたあのIS――「ストライク」の操縦者。

 エイミー……なんとかさんだったか。

 

 ……し、しょうがないだろう!

 あのときは私も混乱してて、よく覚えていないのだ!

 

「ちょうどいいわ。箒ちゃんに聞きたいんだけど……何で、アオちゃんが執事やってるの?コウくんは?」

「……気付きましたか」

「当たり前じゃない。私、あの二人とはそれなりに付き合い長いんだから」

 

 エイミーさんは、一目見ただけであれが紅也ではなく葵であると見抜いてみせた。私でも一瞬見分けがつかなくなったというのに……。

 そう思って声量を落とし、確認を取るが、どこか余裕を感じる笑みと共に返事を返される。それを見た私は、何となく……そう、何となくすっきりしない気分になった。

 

「で、本題。コウくんはどこにいるの?私、ちょっと彼に話があるんだけど」

 

 心が表情に反映されたのか、私が釈然としない気持ちになったことを感づいたのか、エイミーさんは唐突に話題を変えた。

 

「今は、弓道場にいるはずです。後30分ほどで戻ってくるはずですけど……伝言を預かりましょうか?」

「あー……えっと、それならいいわ。人伝(ひとづて)にする話でもないし」

 

 会ったのは今日で二度目だが、この人がこういう奥歯に物が挟まったような言い方をするのは珍しいな。なんというか、もっとこう……ハキハキした女性、という印象だったが。

 

「……あっ、そうそう。ついでに『執事とゲーム』もお願い。種目はじゃんけんで」

「分かりました。ハーブティーと『執事とゲーム』ですね?しばらくお待ちください」

 

 注文を復唱し、一礼し、私はテーブルから離れる。

 ここからは葵の役目だ。例え正体がばれているとしても、あえてバラすような人ではないだろう。

 

 ……だが、果たして『話』とは何だったのだろうな?あの態度は、やはり、こう、引っかかるのだが。

 

 脳裏に疑問を残したまま、私はキッチンスペースへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

〈side:???〉

 

「ここにいたの、ワイズ。……まったく、そんな制服着てるから、見つけるのが骨だったじゃない」

「まーまー、いいじゃん。おかげで、私の分のチケットはいらなかったんだから」

 

 学園祭のさなか、屋台の立ち並ぶ校庭からやや離れたところで、二人の女が言葉を交わしていた。

 一人は、腰まで届く空のように青い髪を持つ、IS学園の制服を身に纏った少女。

 もう一人は、ワイシャツとホットパンツという服装で、一見するとどこかの大学にでも通っていそうな、背の高い美女。

 どうやら二人は待ち合わせていたものの、この混雑のせいで合流が遅れたようだ。

 

「……で、何でこんなところで待ち合わせにしたのかしら?私、もう少し敵情視察をしておきたかったんだけどね」

「『敵情視察』、ね……。……ほっぺにソース付いてるわよ」

「え、どこかしら?

 ……コホン。冗談はこのくらいにしておきましょうか」

 

 少女の碧眼に睨まれた長身の女性は、わざとらしく咳払いをしたうえで話題の転換を促す。少女の方も深くツッコむ気はないのか、すぐに視線を他所へと向け、ゆっくりと口を開いた。

 

「紅也を見かけたから、ちょうどいいかと思って。ほら、あそこ。……見える?」

「人を指差すなと……まあ、小言は止めておきましょうか」

 

 文句を言いながらも、女性は少女の指先を追う。

 ……が、その先に人影は見えず、ただ何か丸いものが転がっているようにしか見えなかった。

 

「……人影など無いぞ。私はお前のように常識外れの肉体を持っているわけではないのだから、もっと近づいてから――」

「あら、見えなかったの?あの地面にボロボロの状態で打ち捨てられてるのが、私の紅也よ」

「――は?」

 

 少女の指摘通りに目を凝らすと、先程までゴミかなにかだと思っていた物体が、わずかに身じろぎしたのが見えた。ついでに、彼のトレードマークである紅い髪も、ぼんやりと。

 

「……何で、あのようなことに?」

「さあ?誰もが見て見ぬふりをしてるところから察するに、地雷でも踏んじゃったんじゃないの?」

「……………」

 

 二人は、呆れて物も言えないといった様子で、紅也を眺め続ける。

 

「……私は、あんな奴の相手などしたくはないな」

「別にいいんじゃない?オータム辺りをぶつけておけば十分だと思うけど」

「相違ないな」




なにやらきな臭くなっております。
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