あ、ありのまま今起こっていることを話しますわ!
臨海学校の際に共闘したアメリカのIS操縦者の方と葵さんがじゃんけん対決をしているのですが、一向に決着がつきません!
「じゃんけん、ぽん」と掛け声を上げる間に、何度となく手が動き、互いにそのちょっとした動きから相手の挙動を読み取り、手を変えていく……。
ハイスピードとか、未来予知とか、そんなチャチなものではありません!もっと恐ろしいものの片鱗を味わいましたわ……。
◆
〈side:山代 葵〉
5分間のじゃんけんを続けたけど、結局決着はつかなかった。
だけど、その健闘を称えるとか何とかで、うやむやのままにその場にいたお客さん全員で写真を撮った。
訳が分からなかったけど……みんな喜んでたから、まあ、いっか。
そして、店内の客を一掃した今、ようやく、お店が回り始めた。
噂を聞きつけ、復活する行列。構成員を見るに、どうやら三組のカジノで時間を潰していた客もいるようだ。
後は、二年生がちらほら……かしら。三年生はまだ一人もいないわね。まあ、紅也が戻ってくる頃には、大盛況になってるでしょう。
「あ……じゃなかった、紅也!執事にご褒美セット、注文来たよ!」
『お待たせしました、お嬢様!』
ポッキーとハーブティーを載せたトレーを受け取り、テーブルへ向かう。
テーブルに向かい合って座っていたのは、二人の二年生。どちらも、私にとっては見覚えのない顔……って、当たり前か。
「もー、山代くん遅いー!ずっと待ってたんだからねー?」
『失礼致しました。少々、別件で外しておりまして』
「まあ、それならしょーがない。許す!」
『……ありがとうございます』
な、何なの、この上から目線は……。
いくら客商売とはいえ、ここまで態度がデカいと、ムカつくわね。
……でも、ま、一緒にいる子の顔も引きつってるのを見る限り、全ての上級生がこんな態度じゃないことは理解できるけど。
「ねえ、ねえ、山代くん!織斑くんはいないの?」
『申し訳ありません。織斑は今休憩中でして……』
「そっかー、残念。織斑くんと写真を撮りたかったんだけどなー」
『……私では不足でしょうか?』
「うん!」
「ちょっと、美樹!……ごめんなさい、山代くん。でも、私たち、もうキミの写真は持ってるの」
『そうだったんですか』
紅也がお店に出てた頃に来店してたのかしら?迂闊だったわ……。
「そういうわけだから、とりあえずしゃがんで!ポッキーゲームしようよ!」
『失礼、そのようなサービスは受け付けていませんので』
◆
仕事を続けている間に、妙なことに気付いた。
来店する客のほとんどが、何らかの“執事”によるサービスを注文するにもかかわらず、『執事とゲーム』だけは一夏への質問が集中しているのだ。
しかも、ほとんどの人が紅也との写真は持っている、と言う。
これは、明らかにおかしい。
最初は何の疑いも持っていなかったけど、その数が20人を超えたとなると、どうしても違和感に気付かされる。
「ねえ、ラウラ」
「葵!素に戻っているぞ!」
「今はいいの、裏方だから。……ねえ、あそこのお客さん、紅也とゲームした?」
「そこの……?いや、少なくとも私は初めて見るが」
こんなナリでも軍属のラウラが言うなら、間違いは無いだろう。
ならば、あの客は……いや、今まで紅也の写真を持っていた客は、別の何らかの手段を用いて紅也の写真を入手したと考えるべきだろう。
その手段とは?
……まあ、偽造しかないでしょうね。
「ありがとう、ラウラ。おかげで、ちょっとやることが出来たわ」
「? よくわからんが、ほどほどに、な」
「……ラウラからそんな言葉が聞けるとは思わなかったわ。ありがと」
「~~~~~!き、気にするな!」
颯爽とスカートを翻して、小柄な体のわりには大股でラウラは歩き去っていった。
まだ頼みたいことがあったんだけど……まあ、いいわ。別の娘に頼みましょう。
……ん、噂をすれば……。
◆
〈side:エイミー・バートレット〉
コウくんと会えなかったのは残念だったけど……まだまだ時間はあるし、焦る必要はないわね。
あの第四世代機の娘……箒ちゃんが言うには、弓道部の手伝いをしてるらしいから、そっちに行けば会えるのよね?
……弓道部、か。私はてっきり、部活は剣道でもやってるのかと思ってたけど。
剣術と剣道は違う、ってことかしら?日本語の概念は難しいわね。
「すみませ~ん!」
とりあえず、近場にいた案内役っぽい女子学生を捕まえ、声をかける。
分からないことは聞く。それは別に、恥ずかしいことじゃない。
「はい、なんでしょう?」
「弓道部の出し物に行きたいんだけど……どこでやってるか、分かる?」
「弓道部、ですか?それならそこに見える、4つ目の屋台を左に行くと見えてくる、弓道場で開いているはずです」
クリップボードに目を落としながら、眼鏡の少女はそう答える。
今どき珍しいくらい真面目な娘ね。どこか、そういった教育を受けているようにも見えるし。
……私の入場券をチェックした子に似てるけど、お姉さんかしら?
ともかく、聞いたとおりに歩き、左に曲がったところで人の列を発見したためそこに並び、一番後ろにいた女の子に尋ねてみると……
ビンゴ!これが弓道部の出し物、『弓道喫茶』の行列で間違いは無いみたい。
しかも、コウくんの勤務時間は午後1時までだから、これだけ人が集まってるんだとか!私、なんていいタイミングでここに来たのかしら!
それにしても、行列が入り口の前で不自然に蛇行してるのは何でかしら?
みんな、まるで過負荷の人が近くにいるかのように目を背けてるんだけど。
私も、気にはなるけど……厄介事のニオイがするから、パスで。
な~んか起こりそうな気がするのよね、今日。
◆
〈side:織斑 一夏〉
「ま……また、負けた……」
一通り遊んだ後、楯無さんの周りに人が集まっていたことに気付いた俺たちは、何事かと思い騒ぎを見物することに。
するとそこにいたのは、涙を流して悔しがる3年生と……「圧倒」という文字の書かれた扇子を持つ楯無さん。
床に散らばったカードと、積み上げられたチップの山を見る限り、どうやらポーカーか何かで勝負してたみたいだ。……ていうか楯無さん。あなたは受付じゃなかったのか?
「残念だったわね。IS学園の生徒会長は、生徒最強。それは、賭け事においても例外ではないわ」
「くっ……。我ら『ギャンブル研究会』が権力を握り、IS学園をドリームキ○グダムばりのギャンブル帝国に改造するという野望がっ!」
「例え生徒会長でも、そんなことができるわけないでしょう」
俺の隣の蘭が、うんうんと頷く。……そういや、蘭も生徒会長だったな。俺は生徒会がどの程度の力を持ってるのかは知らないけど、やっぱり学園を改革するレベルのことは無理みたいだ。
「そんな……。あなたに勝つために、時間を惜しんで福本作品を全部読み返したのに……」
「少なくともそれ、ポーカーの実力には全く関係ないわよね。むしろ、カジノロワイヤルでもレンタルすべきよ、ポーカー勝負なら」
それも同感。あの漫画に、ポーカーなんてまともなギャンブルは無い。
「……って、あら一夏くん。チップの追加購入かしら?」
「いえ、十分楽しんだので、もういいです」
「すげーな、この人……。俺なんて、開始10分で全部スっちまったのに」
「それはお兄が無茶な賭け方するからでしょ!」
後ろの五反田兄妹も、どうやら追加購入の意思は無いらしい。
……そろそろ、鈴のところに行ってやるか。
「じゃ、俺はこれで」
「うん。じゃ、また後でね」
扇子を閉じ、開いた瞬間に、書かれていた文字は「再見」に変わっていた……。
相変わらずの早業だ。扇子を入れ替えたのか、文字を変えたのか、俺には判断がつかなかった。
……それにしても、「また後で」?
ちょっと気になるけど……まあ、いいか。またお店に来るってことだろ。
◆
「いらっしゃいませ~」
「ぶはっ!?り、鈴、おま、お前っ……な、何してんの?」
「なぁっ!?どうして弾がここにいんのよ!」
「むっ、鈴さん……」
「ん?あー、誰かと思ったら蘭じゃない。どうしたのよ、二人して?」
弾と蘭を連れて二組へ向かうと、接客担当だった鈴の態度が豹変した。
頭を下げ、顔を上げた瞬間に相手が弾だと分かるや否やキッ、と睨みつけ、即座にからかう弾に即座にお盆を投擲しようと構え……たところでその隣の蘭の存在に気付き、一瞬で険悪な雰囲気を作り上げる。
なんかこの二人って、昔っからこうなんだよなぁ……。仲良くすりゃあいいのに。
まあ、そんなことを言ったら、なんか藪蛇な気がするから、口が裂けても言えないけどな。
「ま、とりあえず席に着きなさいよ。いつまでもそんなところに突っ立ってられたら邪魔だから」
「邪魔って何ですか!」
「おい、鈴。蘭も。落ち着けって」
「「一夏(さん)は黙ってて(ください)!」」
う……なんでこんなときばっかり息ピッタリなんだ。
そんなこんなで席に着き、メニューを開く。鈴はというと、お盆を回収してからさっさとどこかへ行ってしまった。
「で?」
「『で?』って、何だよ?」
「鈴とはどうなった?教えろよ」
「そうです!鈴さんです!何でIS学園に居るんですか!」
「え……前に、中国の代表候補生になったって話を蘭にもしたはずだけど……」
「そ、そうじゃなくって!」
「そうだそうだ!そんなことはどうでもいいんだよ!」
弾も蘭も、何が聞きたいんだ?
『どうなった?』って言われても、何について答えればいいのか分からねえよ。
……ん、もしかしてアレか?
「最近は、けっこう進展があったぞ」
「し、進展!?そいつは良かっ……」
「良くないです!一夏さん、進展って何ですか!?鈴さんと、その……」
「ああ!鈴にもだいぶ追いついた。このままのペースでいけば、勝てるようになるぜ!」
「「……………」」
あれ?何で、二人とも黙るんだ?
「はい、お水……って、何でちょっと目を離した隙に微妙な空気になってんのよ」
鈴が三人分の水を持ってきたのは、そんなときだった。
心底不思議そうな眼で俺たちを見てるけど……俺だって原因が分からねえんだよ。
「鈴、お前……」
「鈴さん……」
「なっ、何よ、二人して!そんな生温かい目であたしを見るのは何でなのよ!?」
弾どころか、さっきまで鈴に噛みついていた蘭までもが、どこか慈愛すら感じられる表情になって鈴を見る。
……あれか?『もうちょっと手加減してやれよ』的な目線か?
言っておくけど、俺は手加減した鈴に勝っても、嬉しくなんかねえぞ!
「なあ、鈴……」
とりあえず、そのへんの誤解を解いておこうと声を上げた瞬間。
ポケットに入れていた携帯が、音を立てて振動した。
ちなみにこの話が、(本編としての)「にじファン」掲載分ラストの話でした。