IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第124話 シンデレラ・ガールズ

 ジェットコースターのようなイベントの嵐と全力疾走のせいで、俺の心臓はアップテンポのビートを刻み、休まらない。

 しかし第4アリーナの扉を目の当たりにし、ちらりと余裕があることを確認して一安心。大きく息を吸い込み、吐き出し、眼を閉じて一度、自らの内面と向き合う。

 

 ここから先は、祭りの時間。

 たった一度の大舞台。台本はあるがアドリブ上等、されど失敗だけはしちゃあいけない、泥臭くて華麗な劇場。

 だからこそ――俺は、先程までの出来事、動揺の一切をひとまず忘れ、今後の段取りを思い出す。

 少なくともそうしている間は、俺はモルゲンレーテの山代紅也でいられるから。

 

 

 

 

 

 

「遅かったわね、紅也くん。――大丈夫?」

「その『大丈夫』が何を指しているかは分かりませんけど……時間通りですよ」

「……まあいいわ。もう一夏くんは連れてきたから、早く衣装に着替えなさい」

「りょーかいですよ。さて、お遊戯なんて何年ぶりか……」

 

 更識先輩から受け取った、童話の世界の王子様のような衣装を手に、俺はアリーナの更衣室へと向かう。

 

「ノックしてもしもお~~~し。一夏、いるか?」

「ノックしてる音には聞こえなかったけど、紅也か?お前まで巻き込まれてたのか……」

 

 スライドしたドアの先に広がる更衣室。そこに立っていたのは、かぼちゃパンツだけを身につけた、変身途中の王子様であった。しまらないったらありゃしない。

 

「まあ、道化は道化らしく、せいぜい観客を楽しませようぜ。客寄せも立派な仕事だろ?」

「客寄せって……はあ、一組でもここでも、俺の扱いってそんなもんか……」

 

 がっくし、という擬音が似合う男No.1に選ばれてもおかしくないようなポーズを決め、肩を落とす一夏に、俺は何も言えない。なにせ今回の茶番では、こいつだけは正真正銘、本物の道化なのだから。

 

「ここに来る“お客さん”を楽しませる、それで俺たちもできる範囲で楽しむ!それでいいじゃねぇか。なんたって今日は、年に一度の学園祭なんだぜ?」

「紅也……俺はそこまで割り切れねえよ」

「そうか?クラスの出し物ではずいぶん活躍してくれたみてえだがよぅ」

「お前が休憩取ったからだろうが!……その後もいろいろあったし」

 

 いろいろ、の部分が気にはなったがいつまでも立ち話をしていてもしょうがない。俺も手に持った衣装を床に投げ出し、身に纏った和装を解き、丁寧に畳んでロッカーへと納める。

 一夏ももうすぐ着替え終わりそうだし、開演準備まで後3分を切っている。持ち前の高速着替え術(コスプレ、あるいは変装術ともいう)で着替えを済ませると、ジャストナウなタイミングで開かれるドア。もちろん、開けたのは俺でも一夏でもない。

 

「一夏くん、ちゃんと着たー?」

 

 更識先輩だ。

 

「開けるわよ」

「開けてから言わないでくださいよ!」

「なんだ、ちゃんと着てるじゃない。おねーさんがっかり」

「しかも見る気まんまんでしたか……。薄々気付いてましたけど」

 

 古いコントのようなやり取りをする二人はさておき、俺の注目を集めたのは彼女の手に装備されたアイテム。かぼちゃを水平に両断し、へたの代わりにキリスト教の象徴を取り付けたような形の、まばゆく輝く黄金がそこにあった。

 

「はい、王冠。こっちが一夏くんので、こっちは紅也くん用ね。演劇中はこれを絶対に放さないこと。いいわね?」

「はあ……。でも、何でですか?」

「俺たちが“王子様”だからだよ、決まってんだろ?」

 

 腰に装備された、よくできてるけど切れ味はさっぱりな模造サーベルを振り回しつつ、俺は一夏を窘める。王冠の秘密に気付かない方が面白い展開になりそうだし、な。分かるだろ?

 まだまだ不安がある様子の一夏は、今度は台本を貰ってないと不満をこぼすが、更識先輩はそんなもの無い方が盛り上がるとでも言わんばかりに一蹴。実際、これから舞台は大盛り上がり、どころか軽く狂乱状態になると予想できる。

 理由は……まあ、言わぬが花という奴だろう。強いて言うなれば、騒動の中心はいつだって一夏だ、とだけ。四人目ともなると、絆がテーマの超人男の最終回並みの大盤振る舞いである。その例に照らして考えるなら、四人目の時代は即時終了することになるが。

 

「さあ、幕開けよ!」

 

 先輩の言葉と同時、ブザーが鳴り、証明が落ちる。

 開園を告げる鐘が鳴ると、いよいよ幕が上がっていく。姿を現すのは、舞踏会の会場をあしらった円形のホール。これらすべてが学園内の有志によって制作されたというのだから、彼女の人望はやはり侮れない。

 

『むかしむかしあるところに、シンデレラという少女がいました』

「王子は二人いるのに、ナレーションは普通なのか、よかった。ところで、シンデレラ役は誰なんだろうな?」

 

 更識先輩によるナレーションと同時、明かりによって照らされ始めたセットへ移動するさなか、一夏が俺に問いかける。

 あまりにも今更な問い。『ヒロインは誰なのか』。

 どうやら彼は状況に流され、そんなことすら気付かずにこの舞台に上がったらしい。

 

「おいおい、一夏。何言ってんだ」

『否、それはもはや名前ではない。幾多の舞踏会を抜け、群がる敵兵をなぎ倒し、灰燼を纏うことさえいとわぬ地上最強の兵士たち。彼女()を呼ぶにふさわしい称号……それが“灰被り姫(シンデレラ)”!』

「……え?」

 

 ナレーションを聞き、俺の笑みを浮かべているであろう顔を見て、ようやく何かに気付いたような表情を見せる一夏。

 が、全ては既に遅すぎた。無駄だったのだ、無駄無駄。

 

『今宵もまた、血に飢えたシンデレラたちの夜が始まる。王子の冠に隠された隣国の軍事機密を狙い、舞踏会という名の死地に少女たちが舞い踊る!』

 

 俺が送ることが出来るのはひとつだけ。たったひとつのシンプルな言葉だ。

 

「――いつからシンデレラが一人だと錯覚していた?」

 

 ポン、と肩に手を置き、笑みを浮かべる。

 ――そして、祭りが始まった。

 

 

 

 

 

 

「もらったぁぁぁ!」

 

 どうやら、第一の刺客……もとい、シンデレラの鈴音が一夏に襲いかかったようだ。

 第一フェイズ、開始。

 IS学園に所属する専用機持ちが、IS装備以外何でもありというあってないような制約下で王子に襲いかかり、王冠を奪おうとする。

 

 ……とまあ、冷静に実況し解説したいところだが、狙われる対象には俺も含まれてるわけで。

 

「その王冠、貰い受ける!」

 

 セットの影から飛び出してきたのは、眼帯の似合うちんまいクールビューティ、ラウラである。

 葵よろしくタクティカルナイフを両手に構え、猛禽の様な眼で獲物を狙い、飛びかかってくる様はまさに銀色の流星。しかし悲しいかな、そのフォーム、スピードも、ほぼ毎朝見ていたら嫌でも慣れてしまう。

 たとえ武器がなくても、逃走に専念すれば遅れをとることはないだろう。……敵が、彼女一人なら。

 

 問題は、薄暗いステージを走る赤い光。物理的な破壊力こそないものの、どこか危険を感じさせるそれは、レーザーサイト。

 このステージのどこかにスナイパー―おそらくはセシリア―が潜んでいる。

 現在は一夏を狙っているようだが、奴が物陰に隠れ、こちらが無防備ならば彼女はすぐにでも発砲するだろう。なにせスナイパーは、悠々と獲物を選ぶことができるのだから。

 だが一方で、彼女の目的が王冠の回収ならば、今の状況は非常にまずいと言える。

 よしんば王冠を弾き飛ばしても、このようにラウラが至近にいる状況であれば、自分で回収することなどできるだろうか?

 

 ――否、断じて否。

 

 となればいずれ、弾丸が狙うのは俺ではなくラウラとなる。それまで逃げ切れれば、第一フェイズは無事終了だ。

 それに、保険も掛けてある。万に一つの可能性すら排除した俺に、負ける要素などありはしねぇ!そうとわかれば――

 

「せいぜい派手に踊るとすっか!」

「覚悟を決めたか!」

 

 ラウラに背を向けるのを止めた俺は、彼女を正面に見据え、半身を捻って右腕を前に出した。右足は斜め前へ伸ばし、左足は大きく曲げてつま先で立つ。右手は開き、左手は脱力したかのように垂らし、準備は完了。

 さて、この拳法を実戦で使うのは何年ぶりか。案外、身体が覚えてるもんだ。

 

「せいっ!」

 

 襲い来るラウラを眼前に、伸ばした右腕を使ってナイフを持った左腕をいなす。同時に捻っていた身体を腰から回転させ、右脚を軸とした回転蹴りを放ち、彼女の胴を狙う。

 もちろん彼女が黙ってやられてくれるはずはない。攻撃に回していた右腕を防御に使い、直撃を防ぐことに成功する。

 その様子がたいそうウケたようで、観客からは大きな歓声が上がった。うん、いいねぇ。これぞ主演男優の醍醐味ってやつか。

 

 ここで、ラウラは体勢を崩した――ように見えるだけ――の俺に向け、あろうことかナイフを投擲してきた。

 そんな手は、正直葵との戦いで嫌というほど経験している。飛んできたナイフは手刀で叩き落とし、その勢いのまま左手を舞台につけ、腕と足の力で後退する。

 

 ……つもり、だった。

 

「ぐっ!?」

 

 背中に感じた、鈍い衝撃。おそらく硬質ゴム弾であろうそれにより、俺の身体は前に倒れる。

 セシリアの仕業、ではない。赤い閃光は未だに一夏を狙い、俺とは無関係な位置でふわふわ漂っている。狙撃ポイントが変わっているが、そんなのは些細な問題だ。

 結果として、俺は無様に膝をつき――追撃に来たラウラのナイフを、床を転がるという非常に情けない方法で回避せざるを得なかった。

 

(チッ……誰だ!?)

 

 鈴音の飛刀ではないだろう。感触は間違いなくゴム弾だった。

 セシリアは除外、ラウラも違う。簪はそもそもこういったイベントに出るタイプではないし、葵が俺を狙うことはないだろう。なにせ、もうすでに同室なんだから。

 メリットがない、という点ではケーシィ先輩や、二年生の専用機持ちも同様だ。それに、確かこのイベントには出場していなかったはず。

 箒は……あんなことがあったんだ。この場にいるわけがない。そもそも、彼女の武器は刀であって、断じて銃ではない。それに真っ直ぐで一途な性格、あの頑固なところが災いして、もし出てきていたとしても正面からの一騎打ちになるだろう。……いや、むしろ先にラウラを排除しようとするかもしれない。

 

「……何故、そんな顔をしているのだ。そんなに悔しかったか?」

 

 ひゅっ、と音を立て、ナイフが俺の頬を掠める。どうやら王冠を狙われていたが、左腕で勝手に軌道を逸らしていたらしい。

 

「悪いな。脳内作戦会議中だったぜ!」

 

 すぐさまバックステップを踏み、テーブルの上へ飛び乗る。

 遮蔽物が無くなった瞬間に、セシリアの銃が俺へと狙いを定めるが、狙われていると分かっているなら狙撃とはいえ怖くない。テーブルを渡り歩く、というサルも真っ青のバッドマナーを披露しつつ、ラウラから距離を取る。

 

 それはそうと、さっき俺を狙ってきた相手、そしてラウラと協力しそうな相手なんて、冷静に考えれば一人しかいない。

 彼女は一夏狙いに違いないのだが、ラウラに頼まれたのなら、ハンドガンによる援護ぐらいはやってのけるだろう。おそらく今もどこかに隠れ、隙を窺っているはず。

 

『王子さまにとって国とは全て。その最重要機密が隠された王冠を失うと、自責の念によって電流が流れます』

 

 おや、このアナウンスが流れたということは、一夏が王冠を奪われそうになった、あるいは自分から外そうとしたかのどちらかだ。

 

「ぎゃああああっ!?」

 

 ……馬鹿野郎が。

 それにしても、事前の打ち合わせよりも電流が強い。せいぜい、前に先輩と戦ったときレベルの放電だと思っていたが、なにやら焦げくさい臭いまで漂ってくる。

 おかげで、俺は一夏と彼女(・・)がいるはずの場所を把握した。

 一気に跳躍し、追手への対策として机をぶちまけ、臭いの方へとひた走る。

 再び流れたアナウンス、物陰から飛び出した一夏、それら全てを無視し、俺は物陰へと飛び込んだ。

 

「い、一夏ってば……あ……」

 

 俺が飛び込んでくるのにようやく気付いた少女は、既に去った少年に注目するあまり、反応が遅れてしまったようだ。慌てて左腕に装備した対弾シールドを構えるが、もう遅い。

 不意打ちが卑怯だって?お互い様だ。

 

「なあ……シャル子」

「……………!」

 

 首筋に一撃。一時は最も勝利に近づいたシャル子は、こうして俺の手にかかって一時退場を余儀なくされた。

 とりあえず、装備は全て貰っていこう。射撃対策にもなるし、今後を考えたら必要になるだろう。

 装備を整えた俺は、こちらを見失ったらしいラウラに気付かれないよう、こそこそと移動を開始するのであった。




ここから視点がバンバン変わるので、読みにくくなるかもしれないです。
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