IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第127話 紅也、紅い稲妻

 時間は少しだけ遡る。

 

 人込みの中を縫うように歩いて一夏くんの手を取った私は、スモークグレネードによって眼つぶしを実行した直後、舞台から飛び降りていた。

 

「葵!飛び降りるなら先に言っ……」

「見つかるよ?……ついてきて」

 

 ほとんど光源の無いセットの下を、持ち前の視力を頼りにすいすいと進んでいく。

 男の子の手を引いて暗闇を歩く、というシチュエーションに懐かしさを感じつつも、私は予め聞いていたルートに従って進み、更衣室を目指す。

 ……女なのに男子更衣室に入るって、普通はあんまり経験しないシチュエーションよね。そういう意味では役得、なのかしら?

 くだらない事を考えていても、身体は勝手に動くし時間は進んでいく。長いようで短かった闇のトンネルを抜けた私たちは、自動ドアに隙間が出来ると同時に滑りこみ、ようやく一息つくことが出来た。

 

「……到着」

「はあ、はあ……。ありがとな、葵。おかげで……助、かった」

「……どういたしまして。それより……」

 

 息も絶え絶えな目の前の男子の顔へと、私はそっと手を伸ばす。

 正確には、その少しだけ上――彼の頭上に乗った、虚構の王冠へと。

 私の顔が近付いたことで、彼は一瞬呆けたような顔をするが、抵抗らしい抵抗はなし。伸ばした両腕は、驚くほど簡単に目当てのものを掴みとった。

 

「王冠、私が盗った。これで、一夏は私と同室」

「え、何で?同室って、やっぱり楯無さんの仕業か!?」

 

 驚いたような表情の彼を見て、納得。どうやらあの生徒会長殿は、一夏くんの意思とは関係なしに同居の権利を切り売りしていたらしい。

 まったく、私が言えた義理はまったく全然これっぽっちもないけど、人権とかどう考えてるのかしら?

 

「……知らなくても、そういうルールだから。これからよろしく、一夏……」

 

 私は王冠をその場に下ろすと、挨拶もかねて右腕を差し出し――

 

 

 

 

 

 

 ――そして、時間は現在へと戻る。

 

〈side:山代 紅也〉

 

 アリーナから響き渡った爆発音。

 気になった俺は、8に先程使われた剥離剤のシステムデータを送信しつつ、デルタのレーダーを使って状況を探る。

 爆発が起こった場所は、男子更衣室。そこにいる人数は3人。

 事前の情報から判断するなら、一夏たちともう一人――つまり、敵がそこにいる。

 

 ……まあ、あっちは大丈夫だろう。あの女の言う“組織”が俺たちの敵だとしても、葵や更識先輩クラスを倒せる人物はそうそういまい。それに、一夏だって更識先輩の特訓を受けた甲斐もあり、実力差を見誤らずに逃げに徹すればそうそうに再起不能(リタイア)はしないはずだ。

 

 今の俺の最優先事項は、こいつを学園の教師に引き渡し、逃げられないようにすることだ。戦ってみて分かったが、この女は割と――いや、かなり口が軽い。挑発するなりおだててやれば、必要以上にペラペラとしゃべってくれるだろう。

 それでも情報を引き出せない場合は……そうだな、夏休みに嫌ってほど目撃したリバティーシティ式拷問法を試してみようか。ISのコアとリンクさせておけば、生命維持機能が働いて死にたくても死ねない地獄を味わわせることができるはずだ。

 

「ホラ、歩けよねーちゃん。……ま、動けるわけないけど」

 

 念のため電気ショックも流しておき、自決防止にハンカチも噛ませてある。

 アラクネを解体する時間こそ無かったものの、それは学園のスタッフに任せよう。四肢の拘束を確認した俺は、再びデルタを起動すると、一直線に職員室に向かう。

 

 そのとき。

 

(紅也、そっちに敵が――くうっ!?)

(葵!?)

 

 とっさのことだったのか、オープンチャンネルで葵からの通信。しかも状況を察するに、あっちも交戦中のようだ。

 派手な戦闘音は聞こえてこない……ということは、低空で、しかも格闘戦を行っているということに他ならない。しかし格闘戦で葵と同格の相手?

 

 ――言い忘れていたが、私は接近戦の方が得意だ。

 

 かつて聞いたそのフレーズと、たった二本のビームサーベルだけで俺や箒を圧倒した姿が、俺の脳裏をよぎる。

 が……俺の意識を過去から引きずり戻すかのように、ASTRAYネットワーク上の8からもたらされる、敵機接近の情報。同時に送られてくる、葵の戦闘ログ。じっくり読んでいる時間はないため、必要最低限の情報――敵の正体だけを確かめる。

 

《GAT-X303 AEGIS》

「……来たか、最後のXナンバー」

 

 アラクネの操縦者をその場に放り出し、俺は戦闘準備を整える。

 GAT-X303、通称イージス。

 GATシリーズの中では指揮官機に当たり、通信機能に優れた頭部センサーを持つ。ストライクやデュエルよりも口径がデカく、銃身の長いビームライフル、腹部には高火力の複列位相エネルギー砲《スキュラ》をもち中・遠距離をカバー。さらに両腕と両足に装備されたクローはビームサーベルは発生させることもできるため、近距離でも侮れない――いやむしろ、わざわざビームサーベルを握らなければいけない他のXナンバーよりも強力な機体であると言える。

 ――だが、この機体の最大の特徴は、そんな小手先の武装ではない。

 

 ハイパーセンサーが、高速接近する槍の穂先の様な物体を捉える。

 その先端は黄色く輝き、何らかのエネルギーによって形成されていることは疑いようがない。

 

「畜生!」

 

 こんな所で戦っていたら、せっかく捕まえた捕虜が消し墨になっちまう!

 俺はスラスターをふかして飛翔すると、出し惜しみすることなく光の翼を形成し、小刻みに動いて敵の突進の狙いを逸らそうとする。

 その甲斐あってか、光の槍は俺の後ろまで飛んでいった後……俺が振り向くと同時、一瞬発光してから人型となる。

 

 これが、イージスに試験的に搭載された機能――変形。

 イージスは、Xナンバー唯一の……いや、現存するISの中で唯一の可変機なのだ。

 

「お前――山代紅也だな?」

「だからどうし――って、うおっ!?」

 

 落ち着きのある女の声が俺の名を呼ぶと同時、眼前の真紅のISが握るビームライフルが火を吹く。

 

「問答無用かよ!」

 

 2発、3発。

 次々と、しかも正確に俺がいた場所を狙って放たれるビームの嵐を、“ヴォワチュール・リュミエール”を用いた高速機動で回避する。レッドフレームを使っていたときにもできたことだ。このデルタなら造作もない。

 相手も、いくらライフルを撃ってもらちが明かないと判断したのか、腰の再度アーマーにビームライフルをマウントすると、人型形態のまま瞬時加速を用いて一気に距離を詰めてきた。

 

「ようやくその気になったか!」

 

 ガーベラストレートを抜刀し、こちらも相手に合わせる形で加速。

 ……とはいえ、直接打ち合うとなると手数が足りない俺では圧倒的に不利だ。こういう相手と戦うのは、葵の方が得意なんだけどな……。

 まあ、泣きごとを言っても仕方がない。この状況で俺の取れる戦法は、とりあえずひとつだ。

 

「せいっ!」

 

 全力の瞬時加速を披露しつつ、すれ違いざまに一閃。

 刃は左手のビームサーベルと拮抗するも、それも一瞬。あっという間に受け流され、デルタはイージスのはるか後方へと流れていく。

 

「もう一丁!」

 

 再びヴォワチュール・リュミエール。こういった短距離の移動で、これに勝るスピード・機動性を誇る動力は現時点では存在しない。

 今度の狙いは頭上だ。PICを切断し、重力すら乗せた全速力の一撃で、頭頂部目掛けてガーベラを振るう。

 ハイパーセンサーのせいで俺の位置は既にばれているだろうが、この超加速に反応できるかどうかは操縦者の腕次第。俺の刃は、確実に敵の長い頭を捉えた――かに思えたが、イージスは宙返りのような格好で直撃を避ける。

 かろうじて胸部装甲へ縦一閃の傷を残すことが出来たが、こちらも両足の先端に装備されたビームサーベルにより右肩の装甲を斬り飛ばされた。

 

 行ける。

 このまま俺のペースにさえ持っていけば、時間はかかるが確実に勝利できる。

 だけど……何だ、この違和感は?今の戦闘中、何かあり得ないことが起こったような、そんな気がする。

 

 ……余計なことを考えていてもしょうがない。

 デルタのパワーにも限りがある。このままヴォワチュール・リュミエールを使い続ければ、3分と経たずにエネルギー切れになりそうだ。

 ならば、次は速度重視の突きだ。背中から攻撃すれば、うまくすれば命中するかもしれねえ!

 再び加速。光の翼が千切れ飛び、残像を発生させながら縦横無尽に無数のデルタが飛びまわる。

 正面から、足下から、上から、左から、浅く当てては引いてを繰り返し、PS装甲に掛かる負荷を増加させていく。

 一方のイージスもこまめに動き回り、攻撃を回避しようとするが、デルタのスピードには追いつけない様子だ。機体に傷が増えていき、離脱しようにも変形する時間は与えられない。

 この状況は、まさにワンサイドゲームと言ってもよかった。

 

 ――そして、俺は留めを刺すべく、最後の策を実行する。

 

 狙うは背後。変形時の加速力の鍵となる、大型メインスラスターの破壊。

 正面からさらに一太刀入れた後、最高速で背後に回り、一撃必殺の突きを使い構造的な弱点――スラスターのジェット部分を狙う。

 連続した急加速、急制動によって、俺の身体はミシミシと悲鳴を上げる。いくら耐G加工が施された専用のISスーツを着ていても、正直もう限界だ。

 

 ――だから、一気に決めさせて貰うぜ!

 

 必殺。

 それだけを望んで放った一撃は、思っていた以上にあっさりと、華麗に。

 敵の装甲――よりも遥かに軽い、空気の壁を斬り裂き、不発に終わった。

 

「……卑怯者め。最後は背後だと分かっていたよ」

 

 直後、背後を見た俺の目に映ったのは、胸部装甲がせり上がり、むき出しになったスキュラの発射口。

 ……おかしい。

 スキュラを発射するためには高速巡航形態への変形が不可欠で、あんなギミックはなかったはずだ。

 

 ……ひどく後悔する。

 俺たちのASTRAYだって、開発当初とは武装も、コンセプトも変わっている。

 なのに、何故、敵の機体が変化している可能性を考えなかったのか?

 

 スキュラが放たれる。

 どうやら、奴は俺が背後に現れた瞬間にトリガーを引くことで速度の差を埋めようとしたようだ。どこか動きに精細さを欠いていたのは、俺が背後に現れる瞬間だけを待ち続けたためか。

 

「……へっ」

 

 ヴォワチュール・リュミエールは既に起動し、クリーンヒットは避けられる。

 だが、スキュラを避けきることは出来なかった。高熱を放つ真紅の光線が焼き切ったのは、奇しくもあの日と同じ左腕だった。

 腰にマウントしたガーベラの鞘が融解し、消滅する。同時に腕に対して絶対防御が発動し、視界の隅に映るシールドエネルギーが大きく減少した。

 さらに、腰部で爆発。ヴォワチュール・リュミエールに独立したパワーを供給するバッテリーの一機が破壊され、稼働可能時間が再計算される。

 

 ――残り、27秒。

 

 戦闘続行は可能だが、このままではこちらが先に力尽きるのは火を見るより明らかだ。

敵の技量、というよりもまんまと策に嵌った自分の情けなさに涙が出そうになる。

 

 即座に体勢を立て直したが、もう遅い。敵は既に高速巡航形態への変形を終え、矢のように一直線に体当たりを仕掛けてくる。

 ヴォワチュール・リュミエールの機動力は確かに高いが、単純な直線での速さ比べをしたのなら変形後のイージスに軍杯が上がる。タイムリミットが迫る中、意趣返しとばかりに一撃離脱戦法を行う敵を見据え、俺はひそかに唇を噛んだ。




イージスの変形については投稿初期から疑問の声が上がっていましたが、一応解説。

この作中でのIS「イージス」は、パーツを動かして変形するのではなく、一旦ISを解除してからMA形態として再展開する方式を採用しています。

操縦者が中○雑技団出身、という設定も考えましたが……流石に、ねぇ?
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