(……紅也、いまどこ?)
舞台から二人の主役が退場したのを確認した後、私は紅也に通信を入れる。
(敵が釣れた。舞台の下を疾走中だよ)
(了解。援護は必要?)
(……必要ない、と思うぜ。お前は何人かに声かけて、外の警戒に移ってくれ。また例の戦闘機が現れるかもしれねぇから)
(……信じてるからね)
一度の敗北を経て、新たな機体を得て、紅也は私と互角に戦えるほど強くなった。
今の紅也なら、何があっても大丈夫。そう思ったからこそ私は、手早くスナイパーライフルを片付けて狙撃ポジションから移動した。
『こうして二人の王子は逃亡し、舞踏会はお開きとなってしまいました。しかし、忘れてはいけません。シンデレラがいる限り、第二、第三の舞踏会が開かれるということを……』
ナレーションを交替した生徒会の布仏先輩のアナウンスにより、シンデレラは強制終了させられる。直後、舞台上にいた代表候補生――鈴音、シャルロット、ラウラの三人も招集をかけられた。
それを確認した私は、先程仕留めたセシリアの元へと赴き、彼女を担いで通路から飛び降りる。同時にブルーフレームの脚部を部分展開し、PICを起動して落下の衝撃を完全に消し去り、すぐに皆の所に向かった。
「山代さん、首尾はどうですか?」
私の姿にいち早く気付いたラウラが声を上げるより早く、布仏先輩が私に声をかける。
「一夏の方には更識先輩が。紅也は不審者と一緒に移動中。二人とも、援護は不要だって」
「待て、葵。まずは何が起こっているのか、説明しろ!」
端的に現在の位置関係を伝えたが、ラウラ的には不十分だったみたい。
他の皆を見てみると、誰もかれもがきょとんとした様子。……ああ、そういえば、それも話してなかったんだっけ。
「……学園祭自体が、敵を捕まえるための罠。敵の狙いは一夏と紅也の二人。だから、返り討ちにする」
「ちょっと!何でそんな大事なことを黙ってたのよ!」
今度は鈴音だ。
「……スパイ、いるかも。だから……念のため、秘密にした」
「すみません皆さん。あまり露骨に動くと、敵に感づかれる可能性もあったのです」
私たち二人の説明に納得したのか、もう反論がある人はいないみたい。
「……で、どうすればいいのだ?ここに呼んだということは、私たちにも何か役割があるのだろう?」
代表候補生を代表して、状況を呑み込んだラウラが一歩進みでる。軍人らしく、こういったモードの切り替えが非常に速いのは、この場では大きなプラスだ。
こちらも、本作戦の参謀役とも言える布仏先輩がディスプレイを展開し、作戦の概要を説明し始める。
「現在学園内にいるのは、招待券によって入場した外部の人間と、学園の生徒のみです。敵は既に内部に潜入しているか、外部から強襲をかけてくる可能性があります。そこで凰さんには織斑君の確保を、デュノアさんには山代君の援護を、残りの3名には外敵への対処をお願いします」
「……判断の根拠は?」
シャルロットが問いかけると、先輩は眼鏡をクイッと持ちあげ、説明を再開する。
「戦術的な合理性からです。凰さんとお嬢様は共に訓練をした経験があるため、万が一戦闘が継続中でも、スムーズな連携を取ることが可能だからです。山代さん、ボーデヴィッヒさんの二名は単独での戦闘能力が高いため、偶発的に戦闘に巻き込まれても援軍が到着するまで持ちこたえることが出来るでしょう。オルコットさんは……聞いてるかどうか分かりませんが、索敵能力の高さ故遊撃担当です。今までのデータを見る限り、デュノアさんは誰かと連携を取った方がいい結果を残しています。他に質問は?」
「いえ、納得しました。僕たちの目的は、敵の足止めでいいんですね?」
そう確認したシャルロットを見て、先輩は笑みを浮かべ――
「もちろん、敵を倒してしまっても構いませんよ?」
まるで挑発するかのように、そう言ってのけた。
◆
その後セシリアを起こし、私はアリーナの外へと出る。
8と連絡を取ったところ、紅也はアリーナ内の緊急避難通路を移動中らしい。引き続き戦場の監視を継続するように伝え、私は周囲の気配に集中する。
あの臨海学校のとき、私はバスター、デュエルを撃墜し、デュエルの操縦者には消えない傷を負わせた。
もし今回動いているのが同じ組織だとしたら、すでに私の顔は知られているはず。
目の前に、仲間を傷つけた憎い敵がいるのだ。私の姿を見つけたとき、敵意を隠し通せるだろうか?……答えは、きっとノー。
そういう意味では、私も紅也と同じく自分を餌にしていると言える。いくら双子だからって、こんなところまで似なくてもいいのになんてちょっと自嘲してみる。
生まれながらに常人よりも発達した五感をフルに活用する。
風の声を聞き、皮膚に刺さる視線を感じ、それらに込められた感情を選別しながら、ゆっくりと人気のない方へ。
追いかけてくる気配は――無い。でも、さっきから首筋がチリチリする。
この感覚は、スナイパーに狙われてるときと同じ。でも、殺し屋とかそういう類のものじゃなくて、射撃部の活動中みたい。敵意は感じるけど、殺気は感じない、という何とも妙な状態。
……確かめてみましょう。
技と敵に背を向けるような形で、2、3歩歩き、振り向く。
そして、気配の主の緊張が最大限に高まったと感じた途端、突撃。
一歩目、生身の脚で跳躍し。
二歩目、白い装甲で覆われた脚部が大地を蹴る。
そのまま、ブルーフレームを展開して瞬時加速。狙いは、あの空き教室の中だ。
ハイパーセンサーが敵の姿を捉える。一見するとどこにでもいそうな、パンツルックの長身の女だ。
その近くに転がっているのは、武孫社製の精密狙撃用ライフル。こいつが私を狙っていた犯人に違いない。
彼我の距離は50m。接敵予想は0.62秒後。
私がアーマーシュナイダーを抜き放つと同時、女の姿が光に包まれる。
――ISを展開されたのだ。
すぐさまASTRAYネットワークを使い、情報を8へと送信する。同時につま先のアーマーシュナイダーも展開し、私は敵機へと躍りかかった。
敵は、真紅の装甲に身を包み、私と同じく両手両足に刃を持つIS――イージス。
航続距離の長いこの機体なら、確かに任務終了後の脱出支援には最適だと思う。
私のアーマーシュナイダーと、敵の右腕から生えたビームサーベルが交錯する。が、拮抗も一瞬。耐ビームコーティングが施されたこの武器なら、ビームサーベルを一方的に無力化することができる。
結果として、アーマーシュナイダーの刃はビームサーベルの発生源である実体剣――変形後の爪に当たる部分だ――の先端を削り取ることに成功するも、ビーム発振器そのものを破壊することは叶わなかった。
「まったく、ホント厄介ね親子そろって!」
イージスはお返しとでも言わんばかりに右脚を振り抜くも、私は肩のフィンスラスターを使った変則機動で回避に成功する。
さらに、私は振り抜かれた右脚を蹴ることで相手との距離を取る。
その際に刃が通った確かな感触がしたため、私は違和感を覚えた。
今のイージスの装甲色は赤。ディアクティブモード時の灰色ではなく、明らかにPS装甲は作動している……はず。
なのに、PS装甲を貫くほどの威力を持たないアーマーシュナイダーは、イージスの右脚大腿部に浅い傷をつけていた。
これが意味することはひとつ。
敵は、何らかの理由でPS装甲を使っていない――もしくは、使えない。
それが何故なのか、技術者ではない私では分からないけど、こちらの攻撃が通用するということだけ分かれば十分だ。私は、ただの戦闘者なのだから。
再びアーマーシュナイダーを構え、バックパック形態のタクティカルアームズにエネルギーを送る。
変形されたら勝機は薄い。だからこそ、息もつかせぬ連続攻撃で仕留める必要がある。
一方のイージスはシールドを実体化させ、自分の間合いを確保しつつ格闘戦に持ち込む腹積もりのようだ。……上手い手ね。あれを弾くためには、どうしてもタクティカルアームズのソードフォームを使わなきゃいけないけど、変形させてる間に自分も逃げることが出来る。
……でも、私の本来の役目は時間稼ぎだ。紅也や更識先輩が敵を倒すまで、こいつを抑えておけばいい。
再びの瞬時加速。敵は今度はビームサーベルではなく、盾を使って斬撃を防ぐ。
突き、蹴り、蹴り、袈裟切り、蹴り、突き。
次々と繰り出す格闘攻撃を、イージスは手に持つ盾ひとつで受け止め続ける。
……どうやらこの人、紅也と似たタイプだ。
攻撃を的確にさばき、相手を観察し、勝機を見つけるまでじっと耐え忍ぶことが苦じゃないタイプ。たまに反撃してくるけど、防御に集中してるせいかその攻め手は雑。ただし――彼女が防御に集中してから、私の攻撃は一発も当たってない。
操縦者の技量だけじゃなく機体も、AEGISの名は伊達じゃないってことね。
どうやら、戦法を変えるしかないみたい。隙を見てタクティカルアームズを分離飛行させて、盾の届かない位置から攻撃したほうがいいかも。
《葵!》
なあに、8?今いいところなんだから、邪魔しないで欲しい……
《避けろ!新手だ!》
「えっ!?」
レーダー上で、急速接近する赤い光点を視認した瞬間、私は半ば無意識で大地を蹴っていた。
そちらの方角に目を向けると、超高速で飛来する砲弾を確認。私は一度飛び上がり、爆発に巻き込まれないよう距離を取る。
地面がえぐれ、土が飛び散り、砲弾の破片が壁やガラスに穴を空けていく。
その最中、イージスは一瞬の発光の後に変形を終え、いずこかへと飛び去っていった。
レーダーを確認する。敵の向かった先は、IS学園第四アリーナ外周部……デルタの反応がある場所だ。
自分ひとりで対処できなかったことにふがいなさを感じつつも、私はとっさにオープンチャンネルを開き、紅也に呼びかける。
(紅也、そっちに敵が――)
敵の種類、情報、私なりの考察を伝えようとも思ったが、そんな時間は与えられていなかった。2発目の砲弾が放たれたのだ。
しかもそれは私を狙ったコースではなく、背後にある校舎を狙ったもの。万が一にも生徒に被害を出すわけにはいかないため、私はその射線上に割り込み、シールドを展開して着弾を防いだ。
(くうっ!?)
すごい威力!
耐ビームコーティングを施されたアンチ・ビーム・コーティングシールドは砲弾を受け切れずに粉々に砕け散り、破片の雨が宙を舞う。
接近する敵機は、まるでこうなることを見越していたかのように急接近し、瞬時加速の勢いを乗せた蹴りによって、私を地面に叩きつけた。
「――ッ!ナメた真似してくれるじゃない!」
今のタイミング。
ISによる直接攻撃ではなく、何らかの武装を使えばより大きなダメージを与えられたはず。なのにそうしなかったということは、私を侮っているからに他ならない。
「――別に、侮っているつもりはない。こうしなければ意味がないと思っただけだ」
思わず悪態を吐いたが、まさか返事が返ってくるとは思わなかった。
しかもこの声、知らない声じゃない。
私が知ってる人。でも、私の味方じゃない人。
つまり、私の敵。
「こうして会うのは二度目だな、ブルーフレームの操縦者よ」
「ええ。私は、もう会いたくなかったけど」
いつまでたっても攻撃してくる様子の無い敵を観察しつつ、私は答える。
すると目の前のISは、やれやれとでも言いたげに砲台のついた肩をすくめ、不自然なほど穏やかに会話を再開した。
「つれないことを言わないで欲しいですね。私はあの日から、片時も貴公のことを忘れたことなどなかったというのに」
フェイスマスクに覆われ、デュアルアイすらフェイスカバーで隠したその機体の操縦者の表情を見る、なんて芸当は私にはできない。
でも、多分それは穏やかな語り口とは真逆の、それはそれは恐ろしい形相なんだろうな、と雰囲気で感じることはあまり難しくなかった。
「そう、来る日も来る日も……。痛かったなァ、あの顔の傷。
痛くて痛くて、痛くて痛くて痛くて!傷の痛みと一緒に、あんたの姿が刻印されて離れねェんだよ!!」
静から動へ。唐突に相手が豹変し、無手だった右腕にビームライフルをコールする。
同時に、右肩に搭載された砲台、左肩の装甲に内蔵された小型ミサイルランチャーが稼働し、真っ直ぐに私に狙いをつけた。
「だから……ぶっ殺してやるよ、山代……アオイィィィ!!」
ペールブルーの装甲が、夕日を受けて怪しく輝く。
同時に、全ての火器が火を吹き、殺到し、それが開戦の合図となる。
GAT-X102、デュエル。
純白の素肌を鎧で覆ったかつての騎士は、復讐者として蘇り、再び私の前に立つ。
葵はこっちにいます。では、前話の彼女は一体……?
そして再び登場したデュエルは、アサルトシュラウド装備形態です。