IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第130話 紅也、コラテラルダメージ

 清き情熱。

 ISから伝達されたエネルギーを、霧を構成するナノマシンが一斉に熱に転換することで対象物を爆破する、楯無さんの必殺技の一つだ。

 開放された空間では使用しにくいこの能力だが、今回は相手が全身装甲型のISを装着していることが幸いした。爆発の触媒となる霧を、直接装甲内に送り込むことによってピンポイント、かつ高威力の爆発を引き起こすことが出来たのだ。

 あの威力なら確実に絶対防御が発動し、ISはあっという間にエネルギーが切れ、活動停止状態になるだろう。

 

 ……そういえば、あのとき、俺は何で弾き飛ばされたんだ?

 気になった俺は、自分の腹部を確認する。そこには、俺の身体を捉えて離さない、ハサミのような形状のロケットアンカー〈パンツアーアイゼン〉があった。多分、剣を捨てた直後に発射して、俺の方へ飛んでいくようにコントロールしたんだろうな。

 

 だけど、ここで一つ疑問が残る。

 

 ――何で、このアンカーは、水色のままなんだ?

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 紅也〉

 

 もう何度目になるか分からない体当たりを、スラスターの噴射による水平移動でかわす。

 機体が交錯するたびに刃を振り上げるのだが、敵の速さに反応できない俺では一向に当たらない。

 

 現在、俺は攻撃の方向を限定するために地上に下り、回避に全力を注いでいた。これなら体当たり攻撃は横方向からに限定されるし、足もとまで気を使わなくてもすむ。

 イージスの攻撃パターンは三種類。爆発的な加速による突進、巡航形態からのスキュラ発射、人型形態に戻ってビームライフルによる射撃。手足を使った格闘攻撃を使っていないということは、先程の様に一方的に嬲られるのを警戒しているのか。どうやら、ヴォワチュール・リュミエールの制限時間が短い事には気付いてないらしい。俺が戦法を変えたのも、相手を油断させるためだとでも思ってるのか?

 一番怖い――同時に、一番のチャンスでもある――格闘攻撃を仕掛けてこないのは、今のところはありがたい。なぜなら時間さえかければ、敵を片付けた誰かが増援に来る可能性が高いからだ。

 しばらく前のアリーナ方向での爆発。あれはおそらく、更識先輩の『清き情熱』によるものだ。事前に得ていた情報が確かなら、あれを喰らって立てるISは早々いないはず。もしかしたら既に敵を片付けて、こちらに向かってるかもしれん。

 そして、もう一つ。

 先程8に提案したあのプログラム。あれが戦闘中に完成すれば、俺の勝率は格段に上がる。

 

 どちらにせよ、時間は必要だ。

 だからこそ俺は、絶対に倒れてやらない。

 

 俺の空破斬ですら届かない距離から、敵はビームライフルを放つ。

 それをステップと最小限のスラスター噴射のみでかわすと、着地の瞬間を狙って変形、体当たり。

 一撃必殺の威力を持つ体当たりの射線上から逃れると、イージスはPICを利用して急停止。クローを展開したまま器用に身体の向きだけを変えて、スキュラを放ってくる。

 並みのビームよりはるかに強烈な破壊を撒き散らすスキュラは、ガーベラでは防げない。射線から逃れるように大地を滑るが、固定砲台と化したイージスはスキュラの向きを変えて俺を追い続ける。

 負けじとこちらもビームライフルを放つが、無意味。ただでさえ銃の扱いが下手な俺が移動しながら発砲するんだから、当たるわけがない。

 かといって移動を止めた瞬間、イージスは再び体当たりで俺を削ろうとするだろう。そしてもし、あのクローで捕えられ、至近距離からスキュラの直撃を受けたとしたら敗北確定だ。

 

 ……それにしてもあのイージス、カタログスペックに比べてやけに燃費がいいな。エネルギー消費量を考えると、そろそろフェイズシフトダウンになってもいい頃だが。

 

 余計なことを考えた罰があたったのか、敵は再び体当たり。

 いい加減見慣れてきたその攻撃に対し、カウンターを繰り出そうと刃を向けるが、それがいけなかった。

 高速巡航中のイージスは、真っ直ぐに伸ばしたクローを突如展開し、すれ違いざまに脇を斬り裂いていったのだ。傷は浅いが、またしても絶対防御が発動。シールドエネルギーが削られる。

 

 昔説明したこともあるが、全身装甲型ISの利点は、強固な装甲を纏うことでシールドエネルギーの代替をするため、稼働時間が長いことだ。こうして簡単に装甲を斬り裂かれてしまうとあっさりと絶対防御が発動するため、今回の様なケースではその特性が仇となる。

 

 ……まあ、くらっちまったものはしょうがない。レッドフレームの頃だったら、大量出血でお陀仏だ。この程度のダメージくらい平気だぜ。

 それに――

 

『紅也、お待たせ!』

 

 ――待ちに待った援軍も来たことだし、な。

 

 

 

 

 

 

 俺の援護に来たのは、オレンジ色の機体を装着したフランスの代表候補生兼モルゲンレーテの雇われIS操縦者、シャル子ことシャルロット・デュノアだった。

 イージスと俺との位置関係を一瞬で把握した彼女は、即座に上昇。アサルトライフル〈ヴェント〉と重機関銃〈デザート・フォックス〉を両手に、〈シールドソード〉を両肩に展開し、四つの砲門から嵐のような実弾掃射を開始する。

 もちろん、PS装甲を削ることは出来ない。しかしPS装甲に実弾が命中すると、命中部分に負荷がかかるため、消費エネルギーを増加させることが出来るのだ。つまり実体弾を使えば、相当な時間がかかるものの、PS装甲採用機を無傷で機能停止させることが出来る。

 

 戦闘不能になることを恐れた相手は、射線上から逃げるように加速し、射程距離外へと逃亡。そして即座に変形・反転して高脅威目標――シャル子のラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡへとスキュラを放つ。

 一方のシャル子は、ガーデン・カーテンのエネルギーシールドを展開。射線に対して斜めに盾を配置することで砲撃をずらし、盾へのダメージを最小限に抑えて防御する。

 しかもお返しとばかりにシールドソードの一基を分離飛行させ、砲撃中のイージスにガトリング砲を掃射。それに気付いたイージスはクローを伸ばして高速巡航形態になり、加速。サイドアーマーと背部スラスターの3基を交互に使うことで瞬時加速状態を維持し、あまりの速さに迎撃が遅れたシャル子へと組み付く。

 

「邪魔をしたのが運の尽きよ、フランス人!」

「それはどうかな!?」

 

 シャル子の腹に密着したスキュラの砲口に、エネルギーが収束していく。しかし当の本人であるシャル子はいたって冷静だ。両手の武装を収納し、新たに展開したのは銃身にアーマーシュナイダーを装着した二丁拳銃――〈MCハンドガン〉である。

 アーマーシュナイダーを装甲に突き立て、発砲。放たれたビームはクローの一つ……変形前の右脚に当たる部分を溶解させ、爆散させる。

 爆発の衝撃により拘束が緩んだ一瞬の隙をつき、シャル子は脱出に成功する。しかしその代償は少なくなく、一瞬とはいえスキュラの照射を受けたラファールのエネルギーは著しく減少していた。

 

「やりますね!」

 

 形勢不利を悟った操縦者は、即座に人型に変形。右腕のサーベルを使ってMCハンドガンを斬り裂き、さらに追撃を試みる。

 だが……俺の存在を忘れてねえか?

 

「空破斬!」

 

 大地に刃をつき立て、右腕一本で振り抜く。

 すると斬撃は衝撃波となって真っ直ぐに空を駆け、無防備なイージスの左腕に傷をつけた。

 

 ……ん?

 

 何かおかしいぞ。何でPS装甲に、空破斬程度で傷が入るんだ?

 

 ……そういえば、あのときもそうだった。

 上空からの幹竹斬りによって、イージスの装甲を傷つけた。しかしそもそも、ガーベラストレートでPS装甲を両断することは出来ない。

 ってことは……

 

「シャル子!マシンガンを使え!」

「! オッケー!」

 

 俺の声に即座に反応したシャル子は、ヴェノムを二丁構えて弾幕を張る。

 敵はバレルロールの様な軌道で銃弾散布を避けてみせたが、その際にスラスター部の装甲が抉れたのを、俺は今度こそ見逃さなかった。

 

「やっぱりな!そのイージス……何でか知らねえがPS装甲じゃない!」

「今更気付いても!」

 

 バレルロールを終えたイージスはシャル子に斬りかかり、彼女も〈ブレッド・スライサー〉で応戦する。さらにいつの間にやら開いていた胸部装甲から、スキュラの砲口がコンチニワしてる。

 避けきれない、と思った俺はヴォワチュール・リュミエールを起動して空へ。熱線により融解した地面を振り返ることなく、動きを止めたイージスへと抜き胴を放つ……が、片腕じゃパワーが足りねえ。くそっ、左脚のサーベルに防がれた!

 

「ちいっ!」

 

 イージスは全身のスラスターを使って独楽のように回転し、接近していた俺とシャル子を弾き飛ばす。

 回転が終わった後に現れたイージスは、なんと地面の方へと刃を向けた状態で変形を終えていた。

 伸ばした三本の爪の先にいる者。それは、未だに眠り続けているアラクネの操縦者。形勢不利を悟ったイージスは、捕虜を奪還した上での離脱を選択したようだ。

 

 ――こうしちゃいられねぇ!

 

「シャル子!あの女を教師に引き渡せ!」

 

 返事は聞かずに、ヴォワチュール・リュミエールを最大出力で起動する。

 同時に、今までの戦闘で得られたデータから、イージスの最大速度と目標への最短距離を計算。予想される軌道を算出し、その地点へと一直線に突っ込む。

 

「ちょっと、紅――」

「間 に 会 えぇぇぇぇっ!」

 

 急激な加速を受け、ISスーツに充満するショック吸収ジェルが腹部、肩部を満たしていく。その圧迫感に顔をしかめるが、それも一瞬。

 イージス本体ではなく、8とISコアが算出したデータのみを見て、そこへと刃を振り下ろす。

 

 ……直後、右腕に大きな負荷を感じた俺は、勢いそのまま吹き飛ばされて墜落した。

 

「紅也、大丈夫なの!?」

 

 シャル子の悲鳴が聞こえるが、それすら無視。すぐさま体勢を立て直し、ハイパーセンサーで状況を確認する。

 まずは捕虜。かなり派手に土を被ったものの、五体満足の状態だ。意識も依然として失われたまま。……グッド。

 近くにラファールが接近している。俺の身を案じているのだろうが、この状況でそれは止めて欲しい。

 

「シャル子、そいつが襲撃犯だ。早く逃げられないところに引き渡してくれ……」

「……でも、それなら二人がかりでアイツを倒した方が……」

「コイツを捕まえれば勝ちなんだよ。頼む!」

 

 返事はない。しかし、ラファールは俺から離れていった。

 

 さて、後はデルタの状況チェックだ。

 墜落の衝撃により、関節部に歪みが発生。さらに背部を強打したせいか、スラスターの噴射口がデコボコだ。こんな状態でヴォワチュール・リュミエールを使ったら、最悪エネルギーが逆流して爆発を起こす危険性もある。

 さらに、イージスのビームクローにより残った右腕の上腕部が大きく削れて、生身の右腕が露出し、出血している。絶対防御が発動しなかったのは、不幸中の幸いと言っていいだろうな。

 

 ……ま、あちらさんよりはマシか。

 

 イージスは迫る刃を見て反射的に回避行動をとったのだが、それがマズかった。

 ただでさえクローを一本欠いた状態での不安定な飛行。そしてデルタの右腕と接触したことで大きく体勢を崩し、頭から地面に落ちたのだ。

 ビームの熱量により融解した地面に爪が突き刺さり、それでも勢いは止まらない。

 身体を支えきれなかった爪が関節部から圧し折れ、サイドアーマー側から地面に接触。その衝撃でマウントしていたビームライフルが潰れ、爆発。機体右側のサイドアーマーは完全に爆散した。

 

 ――これで、イージスは高速巡航形態を使えない。

 

 俺が起き上がると同時、相手も変形して立ち上がる。

 先程折れたクローは、元々は右腕だった部分らしい。火花を上げる上腕部の中から、操縦者の手の平が覗いている。

 右半分を吹き飛ばされ、機能不全のイージス。片腕は使えるが、切り札を封じられたデルタ。状況的には、完全に痛み分けといったところか。

 ビームライフルを失った敵は、左手と左足のビームクローを展開。俺もかろうじて無傷だったガーベラを右腕一本で構え、正眼に構えて敵と相対する。

 

 ……さて、こんなボロボロの状態で、どこまで戦えるか……。




敵が非PS装甲のことに紅也が気付きました。
では、元々の装甲材はどこへ……?
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