IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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タイトルの旬を逃した感


第134話 たとえ化け物になろうとも

 刀の投擲――すなわち、刀擲。

 

 俺が行った、暴挙とでも呼ぶべきそれは、しかし確かに効果を発揮した。

 敵が飛来する刀に気を取られたほんの一瞬。それは時間にしてみれば一秒にも満たない隙だったが、楯無さんの前では致命的な失策だった。

 

 周囲に散乱した水は、その一瞬の間に楯無さんの支配下に置かれ、再び彼女の体を、武装を覆っていく。これで状況は互角に戻った……はず。

 

「お見事」

 

 労うような言葉が聞こえる。

 俺の背後からではない。正面――それも、俺が相対している水を纏ったISからだ。

 

 それを確認した直後、俺はひときわ大きな水球に弾き飛ばされ――

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 紅也〉

 

 俺が最後の一撃を放とうとした、まさにそのとき。

 デルタの背後に命中した攻撃により、完全にエネルギーが尽きた。

 

 具現化限界をむかえ、粒子の塵がキラキラと舞う、幻想的な光景。それに見惚れる余裕などあるはずもなく、俺はイージスの放っていた蹴りにより、上空へと吹き飛ばされた。

 

「がああぁぁぁっ!?」

 

 痛い。痛い。痛い!

 痛覚刺激により、さっきとは違う意味で眼がチカチカする。

 息が出来ない。口は開いているが、流れ込む風によってカラカラに乾いていく。

 意識が遠い。身体が苦しい。

 それでも、俺がこうして意識を保っていられるのは、ひとえにISの機能により、交感神経系が活性化されているためにほかならない。

 

 そんな混乱状態に終止符を打ったのは、背後から抱きとめられたような、不思議な感覚だった。

 

「……紅也、くん」

 

 ……ああ、この声。

 

「かんざし……か」

 

 更識先輩の要望で、今回の作戦には巻き込まないようにしてたはずなんだけど。

 ……ひょっとして、葵がオープンチャネルで話してたのを聞いて、来ちまったのか。

 

「――許さない」

《Open fire!》

 

 簪の声に従い、打鉄弐式が吠える。腰部の荷電粒子砲が、背部のミサイルポッドが開き、クリムゾンと簪によって制御された48の弾頭が一斉に放たれる。

 

「くっ、新手か!?」

 

 対するイージスは、何故だかPS装甲を展開していない。普段なら何の脅威にもならないミサイルでも、今の機体状況であれば致命傷になりうる。

 そういう意味で、簪が来てくれたのは非常にありがたい。……っと、段々調子が戻ってきたな。感謝するぜ、デルタ。

 

 変形機能と右半身を失い、満身創痍のイージスだが、その機動力は損なわれていない。地上を滑るように滑空し、ミサイルの軌道を限定させることで、誘導弾の真価を見事に封じ込めている。

 だが、そんな事態に対応するために荷電粒子砲がある。

 誘導弾の網に開けられた、ちょっとした隙間。誘導されていると分かっていても、敵はそこに逃げ込まざるを得ない。

 

 放たれる〈春雷〉が、イージスを捉える。しかしイージスはいつの間にやら腹部砲塔を展開しており、スキュラによってそれを迎撃する。

 連射するために威力を落とした〈春雷〉と、一撃必殺の威力を持つ〈スキュラ〉では火力が段違い。それを悟った簪は、すぐにスキュラの射線から逃れ、再びイージスに荷電粒子砲を放ちはじめる。

 

 敵の過ちは二つ。

 〈春雷〉が連射可能な武器だと気付かなかったこと。詳細不明の機体に対し、万全とは程遠い状態で挑んだこと。

 その代償としてイージスの腕部は吹き飛ばされ、ダメージレベルはBを越えた。

 

 これなら……多分、今の俺でもやれる!

 

「簪!スモークチャフで奴を包んでくれ!」

「えっ……あっ」

 

 俺の指示を聞いた簪は、反射的にミサイル発射を行った。あるいは、クリムゾンが俺の意をくんでくれたのかもしれない。

 ……ここだけの話、『マイスター』である簪の権限よりも、『クリエイター』としての俺の権限の方が上位に設定してあるし。簪の反応を見る限り後者が正解か?

 

 ともかく、発射されたミサイルと共に、俺はスキュラの発射元に向けて飛び降りる。

 時間差で、俺とイージスの姿を隠すように次から次へとミサイルが爆発し、レーダーをシステム・物理の両面で阻害する金属粒子を散布する。

 だが、俺のデルタに接続されたASTRAYネットワークは生きている。8が感知した熱源反応は素早くデルタのセンサーに送られ、敵の存在を赤裸々に暴きだす。

 

 ここまでお膳立てされてるんだ。後は、俺の頑張り次第。

 敵は多分、まだこちらに気付いてない。今のうちに近付けるだけ近付いて―― 一気に決めてやる!

 

 落下の勢いを力に変え、痛みをこらえて大地を蹴る。

 痛めていない右腕で、さらに一歩。終息しつつあるスキュラの残光がはっきりと見える。

 三歩目。思わずうめき声が漏れる。

 四歩目。イージスと目が合った。敵は撤退を決めたのか、俺を無視して動きだす。

 

「ま、に、あ、えぇぇぇぇっ!!」

 

 左腕を突き出し、イージスの装甲に触れようとする。伸ばした指先はあと一歩で届かず、イージスが浮遊していく。

 だけど……俺を、モルゲンレーテの技術を、ナメんじゃねぇ!

 

 左腕の肘が爆発し、身体から離れて勢いよく飛び出す。更識先輩と組手したときにも使った義手の機能の一つ、ワイヤードフィストだ。

 これには、さすがの敵も動揺した様子。俺を恐れたのか、出力を上げ、さらに速度を上げようとする。

 

 が、もう遅い!今だ出力の衰えない左腕から、今度は手首が分離し、飛び退るイージスへと肉迫する。

 生身の人間にはできない……いや、ありえない動き。こんなもの、知らない人間に対して予想しろって方がムチャだ。二段階の加速をつけた左手は、逃げ遅れたイージスの足首をがっちりと掴んでいた。

 

(今だ――!)

 

 先程8から送られてきた、あるプログラムを起動。

 同時に、俺は肘と手首のワイヤーを巻き取り、自分の体を持ち上げる。

 

「ぐうぅぅぅ、これは、まさか――」

「そのまさかだよ!」

 

 電流に似た衝撃に身を焼かれ、なおも上昇を続けながら悶える操縦者に追いついた俺は、勝ち誇った声で答える。

 

「名付けて《剥離剤・紅也カスタム》!他所の技術を奪って生かすのは、お前らの専売特許じゃねえんだよ!」

 

 アラクネの操縦者が使い、一度は俺とデルタを引き離した《剥離剤》。それを8とデルタが分析し、さらなる改良を施したのがこの《剥離剤・KC》だ。さっきの戦闘の終盤に完成したが、データ転送中に俺が敗れたため、使うことは出来なかった。

 原理まで分析する時間は無かったが、コイツを使えば、ISを無傷で強奪できる!

 

 イージスの輪郭が揺らぎ、操縦者の顔がチラチラと見える。

 激痛に耐えているとは思えない力のある双眸が俺を射抜き、憎々しげに俺を睨む。

 

 その視線は俺の腕で止まり、歪んだ唇が開かれる。

 

「こ、のっ……バケモノめぇぇぇ!」

 

 その言葉と共に、イージスは球系のクリスタルとなり、俺の右手に収まる。

 同時にPICの加護を失い、再び重力に囚われた俺たちは、地面に向けて落ちていく。

 

「バケモノ、か……」

 

 この肉体も、この腕も、戦いの中で生み出され、進歩したものだ。

 俺がバケモノだとしたら、それを生み出す土壌をこの学園に作り出したお前たちは、何だ?答えてみろよ、女。

 そもそも俺を復讐鬼にしたのは、学園祭のときにお前らが――あれ……?

 

『ブル*フ**ム!*に……力を貸し*さい!』

『来*わね、蛇っ!!真の“**”が誰な*か……教*てあげ*わ!』

 

 上も下もない、どこか懐かしさを感じる落下の中、ふいにいつかの風景が――見たとこが無いはずなのに、起こったはずがないのに、覚えのある場面が、脳内に再生される。

 

 ――そうだ。

 

 葵を**(***)に*させない。そのためなら、俺はバケモノでいいさ。

 

「たとえ“化け物”になろうとも、それだけは、成し遂げる……」

 

 空が遠のいていく。しばらくして、再び感じる、誰かに抱きとめられたような感触。

 

「無茶しないでよ、馬鹿っ!」

 

 内向的で、大人しい彼女には珍しい、怒った声。それを聞き、同じ女の怒鳴り声でもこうまで違うものなのか、とどうでもいいことを考える。

 敵は意識を失ったようだ。身動き一つせず、頭から地上へフリーフォール。思春期を殺した少年も真っ青なFlying Awayっぷりだ。

 

 さすがにこのまま死なせるのは寝覚めが悪い。簪に、あいつも助けるように頼もうとしたが、それより早く落下地点に先回りした影があった。

 あのシルエットは……白式だな。この様子だと、あっちも上手くやったみたいだ。

 

 ……いや、待てよ?

 一夏って、あんなに髪、長かったか?

 

 あれは……あの姿は、まるで――

 

 

 

 

 

 

〈side:シャルロット・デュノア〉

 

 二機のビットから放たれた淡い緑の光は、シールドソードの表面に当たって四散する。

 表面での減衰率から考えると、ビットから放たれたのはビームではなく、BTレーザー。さっきのビーム攻撃は、どこかにいるはずの本体が放ったものだろうね。

 

 ラファールのレーダーを使って、敵の姿を探す。敵の正体は分からないけど、そこまで遠くからビットを操作することは出来ないはず。

 

 ……見つけた!やっぱり“本体”は正面にいる!

 

 敵の姿を確認すると同時に、バレルロールの要領で射線から退避する。その判断は正しかったようで、僕がいた空間にビームとレーザーが、まるで囚人を捉える鉄格子のように降り注いだ。

 ビームが1、BTレーザーが4。ビット4機を操作しながら動いてることから、同じビットの使い手であるセシリアよりも格上だと判断できる。

 と、なると、この人を抱えたままだと厳しいかな。

 

 ラファールに地表スレスレを滑らせ、一瞬だけ停止する。

 頭の先をレーザーが通過してヒヤリとしたけど、結果的には無事だったからオーケー。

 背後から迫るレーザーをシールドソードで受け止めつつ、僕は紅也から託された捕虜を地面に下ろし、その身を覆い隠すようにもう一つのシールドソードを呼び寄せた。

 これで、この人が巻き添えになる心配はいらない。後は拠点防衛の要領で、この場を守り切ればいいだけ。

 

《デュノアさん、聞こえますか?》

 

 背後に浮かべていたシールドソードを左肩にマウントしたところで、布仏さんから通信が入る。

 でも、返事を返す余裕はない。捕虜の存在に気を使う必要が無くなった敵は、僕の撃墜を最優先に考えて攻撃してくる。

 

《セシリアさんがそちらに向かっています。協力して速やかに敵機を撃破してください》

 

 良かった。2対1になれば、ここで無理をする必要はない。

 それに、BT兵器を使う相手と戦うなら、特性を十二分に理解してるセシリアが適任だと思う。

 

《それから、そちらに向かった白式は――》

 

 白式、という単語に意識を引かれたのも束の間、通信が不自然に途切れた。同時に、センサー系が不具合でも起こしたのか、ところどころにノイズが走る。

 異常があったのは相手も同じみたい。背後に迫っていたビットが不自然な動きをしたと思ったら、空に向かってレーザーを放つ。

 

 視界に異常がないってことは、システムへの干渉ではないようだね。多分ジャミング。

 周りを見てみると……やっぱり!簪の打鉄弐式が、スモークとチャフの入り混じった妨害弾をバラ巻いていた。

 紅也を逃がすために、敵の視界とセンサーを封じ込めたのかな?幸い煙はここまで来てないけど、妨害範囲がここまで広いなんて……。

 

 ここに至って、僕はようやく敵の姿を目撃することが出来た。

 一言で表すならそれは、ブルーフレームと同じ色のブルー・ティアーズ。

 長いこと――といっても、まだ半年も経ってないけど――セシリアと訓練してきた僕でも違いが分からないほど、“敵機”とブルー・ティアーズはそっくりだった。

 まるで、レッドフレームとブルーフレームのように。

 

「まさか、同型機!?」

 

 イギリスから強奪された機体なのか、それともブルー・ティアーズを参考に造られた模造品(コピー)なのかは分からない。でも、敵の“実績”を考えるなら、十中八九前者に違いない。

 

 四機のビットが再び動き出す。多分、制御方法を切り替えて、手動で操作してるんだろう。そうでなければ、この手の機体がわざわざ姿を晒す必要はない。

 きっと今は、全てのビットを視界に納めていないとまともに扱えないんだ!

 

 高速で僕を取り囲むように移動し、次々とBTレーザーを放つビット。それを回避した先に放たれる、ブルー・ティアーズ2号機のビームライフル。

 初見だったら苦戦するかもしれないけど、セシリアと葵を同時に相手してると思えば……油断したところで格闘戦に持ち込まれて、負けそうだなぁ……。

 

 と、ともかく!今の戦法を続けてたって、僕には通用しないよ!

 今だって、盾で防ぐまでもなく避けれてるし。ただ、反撃に移れないのは少しつらいけどね。

 

 右へ、下へ、身体を捻って、さらに下へ。

 〈ヴェント〉の引き金を引いても、想定以上のスピードで動く敵機に回避され、反撃のビームが放たれる。

 まったく……。相手だけが一撃必殺の武装を持ってるなんて、ズルイよ、本当に。

 

 瞬時加速を使って懐に飛び込んで、接近戦に持ち込めば有利に戦えるかもしれない。でも、今は広く展開してるあのビットを機体を守るように展開されたら、一瞬でハチの巣にされるだろうね。

 

 欲張らずに行こう。今は膠着状態で十分だ。

 

 はやる気持ちを抑え、みたび放たれたレーザーの嵐を掻い潜った、次の瞬間。

 足下から放たれた二条の光線が、僕の逃げ場を完全に封じ込めた。

 

(ま、まさか……)

 

 最初に撃たれたのは4発。今、さらに追加で2発。

 今までの攻撃を考えると、どう考えても数が合わない。

 

 だけど、こう考えたらどうだろう?

 

 最初からビットは6基あって、4基だけが攻撃を行っていた。

 

 それなら、つじつまが合う。

 

「まだ……ビットがあったんだ……」

 

 僕は最初から、あの機体とブルー・ティアーズを重ねて見ていた。

 操縦者の技量ばかりに注目して、性能はブルーティアーズと変わらないと踏んで、ビットの搭載数は4基だと思い込んでたんだ。

 

 逃げ場を失った僕に迫るビーム。とっさにシールドソードを割り込ませたけど、こんな行動に意味がないのは僕自身が一番よく分かってる。

 

 ビームを防いだ直後――四方八方からのBTレーザーに晒されたラファールのエネルギーは、一瞬で0へと向かっていく。




一夏、参戦……?
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