IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第139話 オモイオモワレフリフラレ

 全てが終わった学園祭の夕方、俺は校門へと足を運んでいた。

 

「来て、くれたんだ。コウくん……」

「まさか、まだ居るとは思ってませんでしたよ……エイミーさん」

 

 そこで待っていたのは、N.G.I所属で、『ストライク』の操縦者で、俺の憧れの女性――エイミーさんだ。

 演劇の前、『ずっと待ってる』と言ってたけど、まさか本当に今の今まで……それこそ、戦闘を無視してまでここにいるとは思ってもみなかった。

 

「それで、返事を聞かせてくれる?私の……“告白”の返事を」

 

 ……ああ、やっぱりそれか。

 

 あの戦闘の後、部屋に仕掛けを施したり、モルゲンレーテなどの関係企業と連絡を取っている間、俺は彼女の言葉についてずっと考えていた。

 

 私と一緒に来て欲しい。

 

 それは果たして彼女個人の感情だったのか?

 

 それとも、N.G.Iの『エイミー・バートレット』としての言葉だったのか?

 

 彼女から感じた雰囲気は、直前に箒と話したときのそれとほぼ同じだった。しかし一方で、かつてモルゲンレーテに送られた俺へのラブコールが、俺の心に影を落としていた。

 

 わからない。

 

 だから俺は、原点に帰って考えてみた。

 

 ……つまり、俺はどうしたいのか?

 

「……エイミーさんからの告白。正直、すごく嬉しかった」

 

 当然だ。彼女は、俺に良くしてくれたIS操縦者の一人であり、強く、凛々しく、気高く、それでいて茶目っ気もある……憧れの女性なのだから。胸にこみ上げる懐かしさを噛み砕き、飲み干し、一言一言区切りながら言葉を紡ぐ。

 

「すごくクラッとした。N.G.Iからの誘い自体にも魅力を感じた。でも、あのときの返事は保留にした。……何でだと思います?」

 

 わずかに見せる困ったような笑みと、沈黙。返事が来るとは思ってなかった。だから俺は語り続ける。

 

「昔、俺がモルゲンレーテを離れて旅に出たとき、あいつの心は壊れちゃったんです。だから、俺が側にいないとダメだった。俺一人がまた離れて、N.G.Iに行ったらきっと葵は――。そう思ったら、答えを出せなかった」

 

 相槌を入れず、聞き役に徹してくれる彼女は、やはり大人なんだな、と実感する。

 

「でも、ね……。葵は言ったんですよ。『私は大丈夫』……って。

 驚きましたよ。葵は知らない間に、ずっとずっと強くなってた。もう俺がいなくても大丈夫だ、って思えるくらい、強くなってたんだ……」

 

 IS学園に入学して半年。いろいろな事件に巻き込まれ、その数だけ戦った。

 出会いがあった。喜びがあった。悲しみがあった。怒りがあった。

 その全てを思い出しながら、俺は続ける。

 

「それで、気付いちゃったんです。俺は、葵を言い訳に使ってるだけだった。

 ……葵は、とっくに兄離れしてたんです。俺はそれに気付かなくて、気付かないふりをしてた……。妹離れできてないのは、むしろ俺の方だったんですよ」

 

 すべてのきっかけとなった、あの事件。葵の変貌を目の当たりにした俺は、常に彼女と共にあろうとしていた。

 でも、彼女がイギリスに向かうことになったあの日、確かにこう言われたのを忘れていた。

 

 ――私は、大丈夫。

 

 だけど、俺はこっそり彼女についていった。

 

 ……きっと、それが答えだったんだ。

 

 本当に、なんて遠い回り道。この答えに辿り着くために、どれだけ遠回りをしたんだろう?

 でも、きっと無駄なことなんてない。

 迷って、悩んで、衝突したからこそ、俺は胸を張って言える。

 

「だから、俺は行けません。葵を置いていけないからじゃない……葵と、離れたくないから」

 

 俺の髪と同じ、真紅の夕日が俺たちを照らす。長かった学園祭も、俺の任務も……俺とエイミーさんとを繋ぐ全てが、今、終わろうとしていた。

 

「……あーあ、振られちゃった」

「……ええ、振っちゃいました。今日だけで二人も」

 

 そう言って二人、どこか影のある笑みを浮かべる。

 だけど……箒のときと違い、俺の胸の内はどこか晴れやかだった。

 

「じゃ、返事も聞けたし私は行くわ。……さよなら(・・・・)、コウくん」

「それじゃあエイミーさん、また(・・)

 

 言いたいことだけ言った彼女は、踵を返して颯爽と帰っていった。

 俺の方を振り返ることはない。いつでも凛として、カッコ良くて、サバサバしてる。それが彼女の性格であり――俺が惹かれた、魅力なのだから。

 

 エイミーさん。俺はN.G.Iより、自分の夢より、貴女より――葵を選びました。

 それでも……エイミーさんも欲しい、って言ったら贅沢ですかね?

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 葵〉

 

 必要最低限の私物をまとめ終えた私は、最後の仕上げをする。

 本棚にホログラフの投影機を仕掛け、部屋に隠してあるカメラとマイクを8とリンクさせる。

 ……まったく。こんな小細工しなくても、普通にお別れすればいいのに。

 というか、自分の思いつきで妹を振り回してるのに、自分は女と会ってるっていうのはどうなの!?

 思い出したら腹が立ってきた……。

 

《葵、そろそろ行かないと遅れるぞ!》

「わかってる!」

 

 つい語気を荒げてしまう。

 そもそも、これからのことだってそう!先に一人で帰って、コアと8のデータを持ち帰って、しばらくは別任務!

 せっかくここにも馴染めたし、仲のいい友達もできたのに……。

 

 ……学園に入学したときは、こんな風に思うときが来るなんて思わなかった。

 

 織斑一夏の監視と護衛、および彼を狙うと思われるXナンバー所有組織への対処。モルゲンレーテから派遣できる人物は、年齢がちょうど同じだった私と紅也の二人だけ。

 ホント、できすぎた状況だと思う。一年前ならエルシアさん、クリスさん、三咲さんの三人がいた。一年後なら、そもそも任務自体が発生しないはず。

 

 それでも私は――私たちは一夏と出会い、代表候補生たちと出会い、友人になった。

 今の私を当時の私が見たら、どう思うのかしら?

 セリアやソフィアのいたオーストラリアを離れ、引っ込み思案で、クラスでも浮いてた。話相手は紅也だけで、それで十分満足してた……当時の私。

 

 ……よそう。

 馬鹿らしいと笑うかもしれないし、何も言わないかもしれない。もしかしたら羨ましがるかも。

 でも、今の私も昔の私も、本質はきっと同じ。だから、こんな風に考えること自体が無意味だ。

 

《部屋をサーチ中……。……よし、必要なものは全て揃っている》

「ありがと、8。じゃあ、帰りましょう……私たちの家へ」

 

 一時的に私の住処だった場所に別れを告げ、8を掴んで扉を閉める。

 

 さあ、行こう。次の戦場が私を待っている。

 

 

 

 

 

 

〈side:篠ノ之 箒〉

 

 夜になった。

 

 ルームメイトの鷹月は夕食を食べに行ったため、今はいない。

 

 ここにいるのは、私だけ。

 

 ……何も知らされず、何も出来なかった私だけ。

 

「はぁ……」

 

 失意のままに人気のない校舎を彷徨っていた私は、襲撃事件があったことすら気付いていなかった。

 ただ一夏が保健室に運ばれたとだけ聞き、慌てて駆けつけ、楯無先輩から“事件”の存在を聞き……陰鬱な気持ちになった。

 

 また、私は必要とされなかった。

 

 今度は専用機だって持ってるのに。

 私がいれば、結果を変えられたかもしれないのに。

 

 ……それとも、紅也に言われたように、私にできることなんて何もなかったのか?

 

 紅也……そう、紅也だ。

 最後に会ったのは、生徒会の演劇の少し前。ケンカ別れというか、紅也が言われたくないことを言ってしまって……それきり会話もせず、全てが終わってしまった。

 

 思えば、彼の腕を失わせるきっかけを作ったんだ。嫌われて当然だろう。

 それに、思いあがった発言をして怒らせたり、出過ぎた真似をして怒らせたり……これじゃ、告白なんて上手くいくわけがなかったのだ。

 紅也には、この気持ちは『罪悪感』だと言われた。彼を意識するようになったのも、彼がいつもどおりの学園生活を送れるようにフォローしようとしたから。それがきっかけで彼のことを考えるようになり、恋心……だと思っていたものが、芽生えた。

 でも、本当は違うのかもしれない。

 ただ、彼に認められたくて。私にもできることがあるのだと……彼と共に闘う資格があるのだと思いたくて、私は告白したのではないか?

 彼氏彼女の関係になれば、隣に立つことはできるのだから。

 

 もしそうだったとすれば、最悪だ。

 『罪悪感』などではなく、守られるしかない自分の惨めさを誤魔化すために、自分を偽ってまで告白したことになってしまう。

 そんなの、紅也が怒って当然だ。私が怒鳴られて、愛想を尽かされて……当然だ。

 

 記憶の中の紅也を思い出す。

 

 入学式の翌日、道場で手合わせした。斬撃を飛ばす不思議な技に興味を持ち、一緒に鍛錬するようになった。

 一夏とケンカになったとき、意固地になっていた私を諭し、仲裁してくれた。

 ラウラが嫁宣言をしてからは、日に日にやつれていって心配だった。

 怒った姿を初めて見たのは、福音との戦いのブリーフィングだった。『第四世代』という単語に反応し、姉さんに殴りかかろうとしたほどだ。正直……怖かった。

 

 そして……一番印象に残っているのは、やはりあのシーンだった。

 

 力及ばずバスターに弾き飛ばされ、レッドフレームと背中合わせに衝突し、ビームで撃たれ――紅也に庇われた、あの瞬間。あの背中。

 

 あのとき、私は動揺した。でも、本当にそれだけか?

 満身創痍の紅也に庇われ……私は確かに『安堵』したのではないか?

 

 一夏に語ったように、あのときの私は弱かった。強くなりたいと思った。

 それは何故だ?

 

 理由は、憧れたからだろう。

 

 誰かを安心させることができる、あの背中に。たとえ相手が自分より強くても、『守る』ことでわずかでも絶望を拭ってくれた、あの後ろ姿に。

 

 そして……腕と引き換えにでも私を守ってくれた、紅也自身に。

 

 ……ああ、そうか!

 

 罪悪感なんかじゃない。きっかけがあの事件だったのは間違いないが、私の想いは罪悪感なんかなじゃない、憧れだったんだ!

 

 ああなりたい。認められたい。背中を預けてもらいたい。隣にいて欲しい!

 

 今は必要とされていなくても、一生必要とされないわけじゃない!

 

 もっと力をつけて、女を磨いて、そしていつか――

 

 今度こそ、紅也に求められる女になってやる!

 

 

 

 

 

 

〈side:???〉

 

「うーん、おっかしいなぁ。こんなはずじゃないんだけどなぁ」

 

 青白い光に照らされた、闇に包まれた空間。中空に浮かぶディスプレイが映像を垂れ流し、ネオンのように輝くそれらの中心に、一人の女がいた。

 彼女の名は、篠ノ之束。この世界のパワーバランスを崩したイレギュラーの一人。ISの生みの親。

 自身の専用機『グランクチュリエ』の情報収集専用形態、「(さぐる)の装」を展開した彼女は、全てのISたちが保有する情報やコア・ネットワークの中身を即座に引き出し、認識し、世界中全ての情報をリアルタイムに入手することが可能になっていた。そんな真似ができる人物は、このIA002世界においても5人と存在しないだろう。

 

「おかしいよねぇ。この舞台は箒ちゃんといっくんのためのもの。なのに、どうして毎回邪魔されちゃうんだろ?」

 

 そんな「世界を把握する女」が、あごに手を当て、首をかしげる。

 今まで、彼女の思い通りにならないことなんてなかった。この世界で彼女と並び立つ者などいないのだから、全ては彼女の思うがまま。そう思っていた。

 

「かわりに“中心”にいるのがこの二人。赤いISと青いISかぁ。……コレ作ったのってアイツなんだよね?そんなのに引っかき回されるなんて、ちょっと気にいらないなぁ」

 

 だが、異変が生じた。IS学園に入学した、二人のイレギュラー。

 山代紅也、そして山代葵。いつの間にか、彼ら二人が全ての中心になっていた。

 

「そもそも、二人とも私が名前を覚える必要もない凡人のはずなのに、この“流れ”は不自然だよね。てことは……」

 

 女が再びディスプレイを操作する。映像が切り替わり、場面が切り替わり、彼女たち(・・・・)が見た全てが伝わってくる。

 

「うーん、ちょっと調べてみようかな?」

 

 呟いたのち、女はその場から姿を消す。

 そこでモニターは消え、部屋の明かりが再び灯った。




束の専用機はオリジナルです。名前は声優繋がりで(笑)


……さて!というわけで、無事に第一部「Xナンバー編」完結です。

???「第一部、終わったよ。ねえオルガ、次はどうすればいい?」
???「決まってんだろ、行くんだよ。第二部へ……」

というわけで、これからは週一の投稿となります。投稿時間は日曜夕方5時の予定です。
今後もIS~RED&BLUE~をよろしくお願いします!
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