IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

158 / 196
外伝投稿の順番間違えた……。これじゃ、本編が外伝時系列を追い越してしまいますね。


第143話 復活のK

 月末のキャノンボール・ファストに向け、各々準備を進めること3日。

 

 織斑一夏は元気を取り戻したように見え、機体の無い今は熱心に教科書とにらめっこしていた頃。

 篠ノ之箒が自分を高めるべく、単一仕様能力の練習をしていた頃。

 凰鈴音が取りよせたブースターで最大加速を行った瞬間、空中分解が起こりパニックになっていた頃。

 シャルロット・デュノアが男物の時計のカタログを眺めつつ、ときおりにやけていた頃。

 ラウラ・ボーデヴィッヒがそんなシャルロットを横目で見て、不思議そうに首をかしげていた頃。

 更識簪が軌道補正プログラムを組んでいる最中、突如聞こえてきた爆発音に集中を乱されていた頃。

 更識楯無が学園長と対面し、今後起こりうる事件の対策について協議していた頃。

 

 東南アジアのとある村においてバリー・ホーが討たれ、狂気を宿した男が首輪から解き放たれた頃。

 

 IS学園の寮内において、開かずの扉が開かれた。

 

 

 

 

 

 

「薄暗い……。もう、朝か?それとも夕方か……?」

 

 根元は薄く汚れたくすんだ青、毛先は錆びた鉄の様なくすんだ赤。そんな奇妙な頭髪を持つ人物が、IS学園、学生寮の廊下をひたひたと歩く。

 一見するとウォーキングデッドのような退廃的アトモスフィアを漂わせたそいつは、しかし迷いの無い足取りで進む。

 やがて目当ての場所に辿り着いたのか、その足が止まる。ややほっそりして見える右手が扉の開閉ボタンに伸びると、外と中とを隔てていた扉が勢いよく開いた。

 

「……………」

 

 部屋に立ち言った瞬間に感じる、無数の視線、視線、視線……。

 それらを気に留めた様子もなく、ふらふらと動きながら向かった先はカウンターだ。

 そこで待つ割烹着の中年女性に対し、要求を告げる。

 

「ラップとミートパイ、山盛りで。それから、野菜ジュースも」

 

 IS学園においては珍しい低い声を、カウンター付近にいた女子たちがはっきりと聞いていた。

 ざわめきはやがて驚きへ。突如食堂に姿を現した、一週間ほど引きこもっていた『彼』の存在が、女子たちのネットワークであっという間に伝達される。

 そして、彼が山盛りの主食が乗ったプレートを受け取ったちょうどそのころ――歓声が食堂の空気をビリビリと震わせた。

 

「キャー、山代くーん!!」

「大丈夫?体の具合はもういいの?」

「そんなに痩せちゃって……ちゃんと食事とらないとダメだよ!」

「絶食ダイエットを続けてたアンタがいうと、説得力あるわね……」

「ほら、ここ!ここ空いてるから、おいで!」

 

 学園祭における、複数のISによる襲撃事件。その当事者であり、事件直後にIS学園を去ったはずの男性操縦者。一年一組、山代 紅也。

 数々の伝説とその希少性から、半ば学園のアイドルと化している彼がこの場に現れたのだから、この騒ぎも納得だ。

 

「紅也くーん、こっちだよー」

 

 久しぶりに聞いた、山の様な大歓声でややふらつく彼は、やがて目当ての人物を見つけたのか、4人掛けのテーブル席へ向かっていった。

 そこには、既に先客が3名。

 エルシア・グリーンフィールド。クリスティーナ・キャンベル。観布子 三咲。

 彼女たちはIS学園の二年生であり、モルゲンレーテの登録操縦者。二重の意味で紅也の先輩にあたる人物である。

 

「お、お久しぶりです。M1の予備パーツの件、学園の方にかけ合って下さったんですね。ありがとうございます」

「気にすんなよ。アタシらとお前の仲じゃねーか」

「そーそー。ま、どーしても気にするならぁ、デザートでも奢ってほしい的な?」

「お安いご用です。……あ、一人一品でお願いします」

「じゃあ、私は季節のフルーツタルトにしようかなー?……あ、そうだー。デルタの修理は無事に終わったの?」

 

 紅也の専用機、デルタアストレイは、学園祭における連戦においてダメージレベルDを超える損傷を受け、自力修復は不可能となっていた。特に深刻だったのは『サイレント・ゼフィルス』に撃たれた〈ヴォワチュール・リュミエール〉で、核となる動力部に大きな損傷はないものの、光の翼を発生させる構造が破損したため、最大稼働したら暴走の危険すらある。

 そこで、今はそちらの修理は諦め、最低限の処置として破損した手足を『M1アストレイ』の予備パーツで代用したのだ。パーツの手配は修理やその他の任務に集中する紅也に代わり、彼女たち三人娘が引き受けてくれた。

 

「というわけで、〈ヴォワチュール・リュミエール〉以外は直して、とりあえず戦闘に使える程度にはなりました。出力も、60%くらいまでなら問題なく出せそうです」

「ならいーんじゃない?今は学園も警戒してるしー、敵が攻めてくることもないんじゃね?」

「それに、万が一何かあっても、あたしら3人でどうにかしてやるからよ!」

「はは……。頼りにしてますよ、先輩方!」

「任せてよぉ。今は葵ちゃんもいないしー、女の見せどころだもん!」

 

 敵が来ない、という三咲の指摘は正しい。が、それは彼女が考える理由とは異なる原因であることを、紅也は知っていた。

 東南アジアにおける亡国機業関連施設の襲撃作戦。作戦開始から3日目を迎えた今日、彼らの拠点で大きな動きがあったことを、彼は自分の分身から聞いていたのだ。

 

 まあ、今日本にいる俺にできることはない。向こうのことは、向こうに任せよう。

 

 信頼とも無情ともとれる思考を展開しながら、紅也は食事を平らげていく。

 なにせ、ここ数日はロクに食事もとらず、部屋で作業を続けていたのだ。鈴が届ける食事がなければ、知らないうちにデッドエンドを迎えていた可能性もある。

 ……万が一彼が倒れたら8(ハチ)がヤツに連絡して、ラウラあたりを呼ぶのだろうが。

 

 『デルタアストレイ』の修復、『ブルー・ティアーズ』の修復、トレース・システムのモニタリングと最終調整、『オレンジフレーム』用のデータ整理。

 一つ一つが複数のチームで処理しなければならないような事柄だったが、紅也はそれらを一人で進めていたのだ。髪も伸び放題で、どこか薄汚れて見えるのはそのせいである。

 

「まあ、これでキャノンボール・ファストには出れそうです。何か起こるとしたらそこだと思うんで、気合い入れていきましょう!」

「「「おー!!」」」

 

 同じモルゲンレーテに属するものとして少なくない時間を共有してきた4人は、改めてやる気を出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 常人の三倍は食べ、数日の間に使い果たしたエネルギーを補給し終えた紅也は、誰に会うこともなくひっそりと部屋に戻っていた。

 

 先程までの快活な様子とはうってかわって、沈痛な面持ちである。

 それもそのはず。彼は、東南アジアで進んでいる作戦の全てを把握していたのだ。

 同時に、自らの師の一人でもある『拳神』の死も……。

 

「バリー・ホー……師匠(せんせい)……」

 

 彼がモルゲンレーテに所属していたのは、一年にも満たない間だった。自らを高めるために武を極める、と言った彼の背中はとても大きかった。

 風の便りで元気だとは聞いていた。ようやく居場所が分かったと思ったら、虐げられている人々を守るために、ゲリラに参加していた。そんな行動を見て、彼の信念は一切揺らいでいないと感じ、懐かしさと嬉しさがこみ上げてきた。

 

 そんな彼が、もういない。

 

 エージェントが、施設で起こった異変の原因を調べるために村を離れた。

 帰ってきたら村は焼け、彼は胸に穴を開け、死んでいた。

 

 敵の混乱の隙を突く、という作戦に落ち度はなかった。彼の死に責任を感じることも、誰かに責任を押し付けたいような気持ちもない。

 ただ、もう二度と彼と話すことは出来ない。もう二度と拳を交えることもできない。自分の成長を直接伝えることができない。それが無性に嫌で、嫌で、仕方がなかった。

 

 同時に、ここに至って紅也はようやく気付かされた。

 今までは、みんなで力を合わせてなんやかんやで事件を乗り越えてきた。

 しかし、福音事件のときも、学園祭のときも、誰かが死んでいてもおかしくはなかったのだと。

 織斑千冬がいても、更識楯無がいても、誰も死なない保障などありはしない。

 

 唯一安全を保障してくれるものがあるとすれば、それは――

 

 何かが弾けたような感覚と共に思考領域が拡張されていくのを、紅也は感じとっていた。その感覚を失わぬうちにと、彼の手はキーボードを叩く。

 

 もしこの場に何者かがいたのであれば、彼に起こった変化に気付いただろう。瞳孔が極限まで細められた翠の瞳と、肉体の限界を超えた反応速度に気付けただろう。

 しかし、この場に人間はいない。唯一無二の相棒たる8だけが、沈黙を保ったまま彼の姿を観察していた。

 

 

 

 

 

 

「わわっ、すごいですね~。この波形、ありえないですよ~」

「覚醒した……?それにしては、タイミングが妙ね」

「生命の危機など、極限状態まで追い詰められたときに覚醒する、というのが通説じゃったな。となれば、成程、本来ならもっと前に“弾けて”いてしかるべきじゃな」

「……『彼女』のような例外もある。私はさほど違和感を持たん」

「案外、アンタのことがきっかけかもしれないぜ?短い間だったが、かなり懐かれてたじゃねぇか」

「ま、『再試行』した甲斐があったな。ようやく進化の兆しが見えてきた」

 

 この世界のどの分化様式とも合わない、近未来的な会議室の中。モニターのみが灯った薄暗い部屋の中は無人だが、どこからともなく複数人の声が響いていた。

 

「進化、といえばのぅ……」

「どうしましたか~?」

「篠ノ之束、か」

 

 モニターの映像が切り替わる。そこにはIS誕生以降発生した全ての事件の映像に同時に目を通しつつ、複数の空中投影ディスプレイを操作する女性の姿が映っていた。

 

「こちらの存在に感づきつつあるみてえだな」

「ISを開発した天才科学者という位置づけだけど、予想以上に進化していたようね」

「で……どうする?気付いたところでどうなるわけでもないが、無用な干渉をされてはかなわん」

「そうなったら、しょうがないのぅ。イレギュラーには、イレギュラー。あれを使えばよかろう」

「そうですね~。もうしばらく様子を見て、必要なら……」

「コードA13を使用。それでいこうぜ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。