ここ数話は校正する部分が少ないので、すぐ書けますね。
あいつと私が出会ったのは、一夏と別れて中国に戻った直後だった。
ある日見かけた、学校のそばの剣道場。一夏のことを思い出した私は、気がついたらそこを覗いていた。竹刀を握る、自分と同年代くらいの子たちは皆、一心不乱に同じ動きを繰り返し、汗を流していた。
が……その中に……いや、その外に、異質な存在がいた。
道場の外で一人、体の倍以上はある長さの丸太を振っていた男の子。私は、その子に興味を持った。
「ねぇ、アンタ、何をやってるの?」
「刀を振る練習だよ」
「刀?じゃあ、なんで丸太を振ってるの?」
「これが練習になるんだ。大きな刀を振るから」
「ふーん……変なの」
少年は、再び丸太を振る。私はそれが気になって、しばらくそいつを見ていた。
「おい、
「はい、老師。……じゃ、バイバイ」
名前に合わない見た目だな……と思った私は悪くないと思う。
次の日、再び道場を訪れても、彼はいなかった。なんでも、あの少年とおじいさんは、旅をしながら刀の修行をしているそうで、夜のうちにここを去ったとか。
そんな人いるんだ……と、妙に感心したのを覚えてる。その日の記憶は、ちょっと変わった出来事として、私の中で眠っていた。
◆
〈side:山代紅也〉
……誰だっけ?この子。
なんか、俺のことを知ってるみたいなんだけど、見覚えがない。
ほら、小学校で一緒だった人と、高校の通学路で偶然出くわしたけど、こっちは相手を覚えてない、そんな気まずい感じ。
「あなた……
その呼び方……俺を
「キミ……
「え?誰?」
「
「……ああ、アンタと一緒にいた、あの厳ついおじいさん?」
「それ、本人の前で言うなよ……」
ヤバイヤバイヤバイ!誰だ、ホント!?老師を知ってるなら、中国で会ったってことだ。ってことは去年に会った?あの時は武者修行の最中だったから、旅先で会った人なんて、いちいち覚えてないぞ!?
「おい」
「なによ!?」
バシンッ!
HRの開始を告げる、乾いたチャイムが教室に響く。
……どうやら、凌ぎ切ったようだ。タイムアップ。安心した。
「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」
「ち、千冬さん……」
「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」
「す、すみません……」
すごすごとドアからどく少女。完全にビビって、委縮してる。
両者の絶対的力関係が垣間見える図だ。……まあ、織斑先生相手に強気に出れる相手って、いるんだろうか?初期からアビリティ「威圧」持ちだから、性格が「普通・強気・弱気」だと太刀打ちできないもん。
「また後で来るからね!逃げないでよ、一夏、紅!」
「さっさと戻れ」
「は、はいっ!」
反転、そしてBダッシュ。よく訓練された、アクティブな子だな。
「っていうかアイツ、IS操縦者だったのか。初めて知った」
一夏が呟く。どうやら知り合いらしいから、後で話を聞こう。……と、言っても――
「……一夏、今のは誰だ?知り合いか?えらく親しそうだったな?」
「い、一夏さん!?あの子とはどういう関係で――」
俺が聞かなくても、こいつらが勝手に尋問してくれるだろう。
ただ、今聞くのは避けた方がいいと、山代さんは思うのですよ……。
バシンバシンバシンバシン!
出席簿による乱打。織斑先生の前で雑談したのが運の尽きだ。
◆
時は進んで昼休み。
セシリアと箒は、終始落ち着きが無かった。授業中は上の空で、山田先生に注意5回、織斑先生に3回叩かれていた。歴代2位のHit数。
ちなみに俺も、山田先生の授業中に中国修業時代のことを回想していたため、板書は一夏頼みだったりする。そして今。
「お前のせいだ!」
「あなたのせいですわ!」
「なんでだよ……」
二人は一夏に絶賛八つ当たり中だ。俺は、その矛先がこっちに向いてはたまらないため、口をつぐんでいる。
「まあ、話ならメシ食いながら聞くから。とりあえず学食行こうぜ」
「む……。ま、まあお前がそう言うのなら、いいだろう」
「そ、そうですわね。行って差し上げないこともなくってよ」
二重否定は強い肯定。そんなに行きたいのか、セシリア。
「俺も行くぜ。アイツが誰なのか、教えてほしいからな」
「む?紅也の知り合いではないのか?」
「……いつ会ったのか、心当たりがない」
「で、でも。仲良くお話していたではありませんか!」
「……こっちは、ボロが出ないように必死だったんだよ。
ああいうタイプの奴は、自分が覚えてることを相手が忘れてたら、理不尽に怒るタイプだ」
ガンドとか、ガンドとか、ガンドでな。……いくらなんでも、ISで攻撃してくることはないだろうが。
「だから、ボロが出ないように協力してくれ、一夏」
「あ、ああ。……確かに、昔っから理不尽に怒る奴だったよ」
「助かる。……あ、そうだ。今日、葵も一緒でいいか?」
「おう」
クラスメイト数名を連れて移動する一夏たちと別れ、俺は3組の教室に向かう。
◆
「あ、来たわね、紅。逃げたかと思ったわよ!……と、アンタは、昨日の紅っぽい人!昨日は助かったわ!」
昼食を受け取り、席を探す俺たちを呼ぶのは、大きなテーブルに集まっていた転校生だった。
今なら、アイツが葵に声をかけた理由が分かる。俺と間違えたんだろうな。
「よう、お前も来てたんだな」
「………」
空いてる所に二人で座る。どうやら俺を待っていてくれたようだ。ありがたいぜ。
「鈴、いつ日本に帰ってきたんだ?おばさん元気か?いつ代表候補生になったんだ?」
「質問ばっかしないでよ、一夏。アンタこそ、なにIS使ってるのよ。ニュースで見たときびっくりしたじゃない」
早速会話が始まる。やはり二人は、かなり仲のいい友人同士らしい。
「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」
「そうですわ!一夏さん、まさかこちらの方と付き合ってらっしゃるの!?」
除け者にされた箒とセシリアも、攻撃的な口調で問い詰める。尋問の時間だ。
「べ、べべ、別に私は付き合ってる訳じゃ……」
「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。ただの幼馴染だよ」
「………………」
「? 何睨んでるんだ?」
「なんでもないわよっ!」
……ああ、またこのパターンか。片思いのような何かか。
「幼なじみ……?」
「あー、えっとだな。箒が引っ越していったのが小四の終わりだっただろ?鈴が転校してきたのは小五の頭だよ。で、中二の終わりに国に帰ったから、会うのは一年ちょっとぶりだな」
そこまで話し、ふと何かに気付いたような表情をしてから、再び一夏は話しだす。
「で、こっちが箒。ほら、前に話したろ?小学校からの幼なじみで、俺の通ってた剣術道場の娘」
「ふうん、そうなんだ。初めまして。これからよろしくね」
「ああ。こちらこそ」
互いに挨拶を交わすも、対抗意識が消えてない。……あれだな、「幼なじみ」という名の縄張りを巡って、争ってる感じだな。
「ところで、俺からも聞きたいんだけどさ。鈴と紅也って、どうやって知り合ったんだ?」
……一夏、グッジョブ!!ここでその質問に持っていくさりげなさは、高評価だ!
「紅也って……
「おいおい、俺の名前、知らなかったのかよ……」
その発言に、俺はやれやれと肩をすくめ――おい、お前ら。その「どの口が言うか」って顔はやめろよ。悟られる。
「しょうがないじゃない!紅って名前だって、道場の人が呼んでたのをたまたま聞いただけだったし、話したのも二言三言だったし、アンタ、ずっと丸太振ってたし……」
……ん、道場?それって確か、久しぶりに人里に下りて、老師が路銀を稼ぐために雇われた所じゃ……。それに丸太っていうと、あの訓練をしてたのは四月ごろだったから―――
「……ああ、あの時の。飼い主とはぐれた子犬みたいな子か」
「な……なんですってえぇぇぇ!!」
「いや、覚えてるよ。日本語で話しかけられたから、印象的だった。でも、俺はアンタの名前を聞いてなかったな。へへっ、道理で覚えがなかったはずだぜ」
「こ……子犬って、アンタねぇ……」
おおう、怒らせちゃったか?ツインテールが逆立ってる。サイヤ人みたいだ。
「……そこまで。八つ当たりは駄目」
そんな少女を宥めたのは、今まで黙っていた葵だった。意外だ。苦手って言ってた相手に話しかけるなんて。
「べ、別にそんなんじゃ……。と、いうか、アナタは何者なのよ。まだ、名前聞いてなかったわよね?」
「……葵。山代 葵。妹」
「言葉足らずで悪いな。ちなみに、双子だ」
「ふーん、へーえ……」
そう言いながら、俺と葵を交互に眺める凰。そしてひとり、納得したかのようにうなずく。
「なるほどね。髪の色以外はそっくりじゃない」
「まあな。入学したときは髪も同じだったから、見分けがつかないくらいだったぜ。
現に、一夏とセシリアなんか……」
「ちょっと、紅也さん!?」
「……失礼。でも傑作」
「山代さんまで!?うう……」
涙目になるセシリア。……ああ、ちなみに、葵とセシリアは、別に仲が悪いわけじゃない。ただ、葵が少し毒舌なだけだ。
念のため言っておくけど、決闘騒ぎも無かったよ?
「……そういえば、アンタは誰なの?」
凰は、思い出したかのようにセシリアに問う。
「まあ、ご存じない?わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!よろしくお願いしますわ、中国代表候補生の
「へえ、そうなの。ま、興味ないけど」
「な、な、なっ……!?い、言っておきますけど、わたくしあなたのような方には負けませんわ!」
プライドを折られた揚句、投げ捨ててそこらの狗にでも食わせたかのような凰の態度に、セシリアが怒る。
「そ。でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」
凰も大した自信だ。……やばい、こう言う奴、大好物だ。すごく戦いたい。
全力出したら怪我するのは分かってるけど、やっぱり戦いたい。
「紅也。自重」
分かってるよ。余計な戦いは避けろ、って言いたいんだろ。
「一夏」
もはやセシリアに興味を無くした凰は、ラーメンをすする合間に一夏に話しかける。
「アンタ、クラス代表なんだって?」
「お、おう。成り行きでな」
「ふーん……」
どんぶりを持ち、男らしくごくごくとスープを飲む凰。なかなか見ごたえはあるが、ちょっと汚いぞ。
「あたしも、クラス代表なのよ。……あ、あのさぁ。ISの操縦、見てあげてもいいけど?」
「そりゃ助か―――」
ダンッ!という音と共に、トレーの上の食器が揺れる。
箒とセシリアがシンクロ率100%で机を叩き、勢いそのまま立ち上がったのだ。
「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは、私だ」
「あなたは二組でしょう!?敵の施しは受けませんわ」
そこで二人は、首だけをクルリと回転させ、俺の方を向く。
その様子は、まるでホラー映画のワンシーン。背中を嫌な汗が伝う。
「「紅也(さん)も何か言ったらどうだ(ですか)!」」
巻き込まれた。女子怖い。
「あー、別に教えてもらってもいいんじゃないか?こっちも、相手の情報が得られるんだし。……そしたら、ウチの葵の一人勝ちだしな(ボソッ)」
「スパイを発見。捕えろ」
「「「「イエッサー!!」」」」
「ちょ、やめ、お前ら、一度ならず二度までも裏切るか!?」
「先に裏切ったのはー、やまぴーの方でしょ?」
「裏切ってなどいない!俺は、最初から葵の味方だぁぁぁ!!」
「みなさん、やっておしまいなさい!!」
「……恥ずかしい」
俺はなすすべもなく、女子の群れに捕まる。くそっ、俺は間違ったことは言ってない!恐怖のあまり、本音が出ただけだ。そしたら布仏が出てきたけどな。
「そういえば、紅の妹の……葵っていったっけ?ひょっとして、アンタもクラス代表?」
「………(コクリ)」
「専用機持ちなのよね?ドコの所属?」
「……オーストラリア」
「ふーん、クラス対抗戦、ちょっとは面白くなりそうね」
「……そうでもない。多分、私が勝つ」
「なっ、大した自信ね!いいわ、吠え面かかせてあげるから、覚悟してなさい!!」
「必要ない。負ける要素がないから」
「―――――!!」
ちらっと見ただけだが、あっちもあっちで修羅場だ。まあ、人と関わろうとしてるだけマシかな。
「あら、山代さんもクラス代表でしたの?さすがはわたくしのライバルですわ」
「……同格扱いしないで」
「きいいいぃぃ!!なんでこんなのが紅也さんの妹なんですの!?」
「こら、葵。いちいち相手にケンカを売るな」
「そのつもりはない。全部本当」
「「なんですって!?」」
……誰か、こいつらを止めてくれ。