IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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今日は間に合いましたよ!


第155話 乱入者

 シャルロット・デュノアは、この戦闘に関与していなかった。

 空からサイレント・ゼフィルスが現れたとき、彼女はすぐさま紅也と共に上空へと駆けだした。しかし地上に新たな敵性反応が現れたことを知った彼女は、しばしの硬直に襲われる。

 

 自分を撃破した強敵との戦いに加勢し、箒、セシリア、紅也と共に闘うか?

 数の上で勝る敵との戦力差を埋めるために、一夏たちの援護に回るのか?

 あるいは、そのどちらもこなしてみせるか。幸いにも彼女には、そのための力があった。

 

 なまじ使いなれない選択肢が多いがために、このときばかりは特技の“ラピッド・スイッチ”も仕事をしてくれない。結果、上空ではエムと三人の決戦の火蓋が切って落とされ、地上では葵が敵陣に特攻するのを黙って見守る形となった。

 

(「パワードレッド」の一撃を当てた……あれ、痛いんだよね。スラスターも潰したし、戦況は紅也優位で進んでる。下は……みんな、攻撃を始めてる。「ソード」機を撃破して、これで5VS6。僕の出番はなさそうだね)

 

 そう結論づけた彼女は、万が一どちらかの戦況が変化したときに介入できるように、それぞれの戦場から適度な距離を取って全体を俯瞰することにした。いわば臨時の司令塔である。

 

 

 

 

 

 

 AICにより一切の行動を封じられた「ソードストライカー」を装備した機体の胴を、横薙ぎに振り抜かれた〈タクティカルアームズ〉が両断する。両断された機体はスパークを上げると同時に無機質なバイザーから光を失い、物言わぬ骸と成り果てた。

 機体から漏れ出たオイルがブルーフレームの肌を打つ様子は、返り血を浴びたかのようだ。だというのに、機体が両断されているというのに、本物の血液が飛び散る様子などは無い。

 

 たった今、山代葵が作り出したこの光景こそが、「敵は無人機である」という事実を雄弁に語っていた。

 

「人が乗って無いなら、遠慮はいらないか!」

 

 まずは一夏が参戦する。左腕の大型クローアーム〈鬼の手〉を敵に向け、放つのは極大の荷電粒子砲。狙われた「二つの砲」を持つストライクもどきは慌てたように砲撃体勢を解除するが、やはりその動きは鈍い。とっさに構えた〈アンチビームシールド〉はあっという間に融解し、盾を持つ左腕は光の中に消えた。

 

 高火力による攻撃を感知した「ライトニング」、「大筒」、「ランチャー」が、一斉に一夏に狙いを定め、光の柱の根元へと砲撃する。残りの「エール」と「水色」は、機動力を生かして葵を抑え込もうとしているようだ。機械ならではの完全な連携に加え、他の機体と比べれば動きがいい二機による波状攻撃に、葵は思わぬ苦戦を強いられていた。

 

 さて、砲撃中の無防備な時間を狙われた一夏はというと、荷電粒子砲以上の出力を持つ〈アグニ〉に狙われ、冷や汗をかいていた。なまじ普段の立ち回りが“一撃離脱”に特化していたため、攻撃の後のことまでは考えが足りていなかったのだろう。

 だが、本人が無自覚であっても、仲間なら?

 

 真っ先に動いたのは、意外にも簪であった。ここ数日間、「白式弐式」の完熟訓練に付き合っていた彼女は、機体の武装や特性、そして弱点も全て把握しているのである。

 キャノピー状のスラスターとウイングスラスターを機体の上下を挟みこむような形で展開し、飛翔形態を応急処置で再現した簪は、光を放つ一夏の元へ。すれ違いざまに右腕を伸ばし、一夏を掴むとそのまま空中を引き回した。

 

「簪、助かった!……おお、このまま攻撃すれば……」

「馬鹿言わないで!エネルギー消費を考えて!」

「は、はい、すみません!」

 

 数日のレッスンのうち、なにやら奇妙な上下関係が出来上がっているようだが……それはさておき。一夏が砲撃を止めるよりも早く、敵の砲撃が止んでいた。

 

 一夏が狙われた瞬間、鈴が取ったのは簪とは真逆の行動であった。

 「回避」ではなく「先制攻撃」により攻撃を物理的に潰す――カウンターストライク。三機の砲が上を向いた瞬間、鈴は追加パッケージ〈風〉の出力を存分に発揮して敵機の懐に飛び込み、衝撃砲と双天牙月を思うがままに振り回す。第一射こそ許したものの、それ以上の追撃を行う余力は与えない。気合と一夏を守るという思いを込めた嵐のような攻撃は、既に損傷していた「ライトニング」の両腕を完全に破壊した。

 さらに、「大筒」が背面の砲を鈴に向けたとき、彼女はその発射に合わせるようにして衝撃砲の引き金を引く。大気中で衝突した亜光速の弾丸と不可視の弾丸は雷撃を発生させると同時に爆散。「大筒」の砲が暴発し、至近で衝撃を受けた機体は爆発四散する。

 

「やった!」

 

 数の上で生まれた拮抗状態に、思わず歓声を上げる鈴。しかし喜んだのも束の間、彼女の体になにかが巻き付いたかと思うと、重機で振り回されたかのような衝撃を受け、そのまま彼女は空中へと放り出された。

 それに僅かに遅れる形で、先程まで甲龍が暴れていた場所にビームの雨降りそそぐ。攻撃から立ち直った「二つの砲」の機体が彼女を狙っていたのだ。

 

 もし、少しでも退避が遅れていたら?

 

 たった今、膝下だけを残して蒸発した「ライトニング」機と同じようなオブジェが、もう一体出来上がっていたに違いない。

 

 「熱くならないで、負けるわ」状態を地で行っていた鈴を救ったのは、言うまでもなくラウラである。実はガンランチャーで暴れる「ランチャー」機を牽制したり、ちょくちょく葵への支援攻撃を行うなど仲間のサポートに徹するその姿は、かつて一組の教室を震え上がらせた氷の女王だとは到底思えない。

 

「こいつら、味方も平気で……!」

「油断するな!敵はまだ4機も残っているぞ!」

「いいや、5機なんだよな、これが」

 

 

 

 

 

 

 避難が進む観客席。しかしシャルは、徐々に流れが生まれつつあるその場所に、いくつか違和感を覚えていた。

 

(あそことあそことあそこ……誰かが避難せずにこっちを見てる?拡大……って、嘘!?)

 

 人の流れがおかしな場所に焦点を合わせたシャルが見つけた、複数の人影。そこにはなんと、彼女も知っている顔ぶれが並んでいたのだ。

 

(確か……一夏の友達で、学園祭にも来てた五反田くんに、葵たちの友達のローウェルさんにマジェスティアさん?それに、この間一夏とデートしたときに会った、蘭ちゃん。何で逃げてないの!)

 

 しかも、弾のそばには見知らぬ金髪の女性が、三人の女の子のそばには白髪のおじいさんと、その孫娘の様な緑色の髪の女の子まで一緒にいる。あんなにバリアーの側にいたら、万が一何かがあったときに、巻き込まれてしまう!

 

 迷った挙句、彼女はまず蘭たち5人に注意を呼び掛けることにした。弾は男の子だし、一緒にいる人も大人だ。本当に危険な局面になったら、自力で逃げられると思う。でも、か弱い女の子4人に加え、老人までいる彼女たちは?そう考えた上での結論だった。

 

 上空の「サイレント・ゼフィルス」を刺激しないように移動。ちょうど箒が〈絢爛舞踏〉を起動させ、セシリアがビットを破壊しており、そちらに気を取られるエムは彼女に気付くことは無かったし、気付いたところで戦力を差し向ける余力は残っていない。

 

「だから、一夏さんと私は――って、あれ、何か来る!?」

 

 シャルの接近に最初に気付いたのは、緑の髪の少女にいじられて顔を真っ赤にした蘭だった。その声に反応し、電光掲示板を見ていた三人の目が、接近する橙のISに釘づけになる。

 

「あれ、オレンジフレームだよね?」

「ええ。じゃあ、あれはデュノアさんでしょうか?」

「デュノアって……シャルロットさん!?どうしてここに……」

「どうして、じゃないでしょ!」

 

 呆けたように呟く蘭の声を拾ったシャルは、少し怒りをにじませた声色で呼びかけた。

 

「こんなところにいたら危ないから、早く避難して!もうすぐ鎮圧できるけど、危険が無いとは限らないんだから!」

「でも、この混雑に割って入るのも危険よ?」

 

 ソフィアの言葉をなぞるかのように、緑の少女が口を開く。

 

「それは……でも、ここの方がもっと危ないよ!アリーナのシールドだって、万能じゃないんだ。戦闘に巻き込まれたら、怪我じゃ済まないかもよ!」

「そうだな、ただのエネルギーシールドなんだから、壊れちまうこともある」

 

 老人はそう言うと、客席とアリーナとを隔てるシールドをぺたぺたと触る。

 

「そうです。だから、早く避難を……」

 

 シャルが再び呼びかけたのと、老人の目の前にあったシールドが割れたのは、ほぼ同時だった。

 突然の出来事に、言葉を失うシャル。まずは突然危険に晒されることになったこの人を守らなくては!反射的に彼に近づいたときに、ふと疑問が脳裏をよぎる。

 

 ――なんで、外側から……観客席側から、シールドが破れてるんだろう?

 

 彼女がそれに気付いたときにはもう、老人はシャルめがけて飛びかかっていた。

 真紅の手袋に握られているのは、ハンドボール大の二つの白い球体。左手から投げられたそれをとっさに弾くシャルであったが、それは見た目に反して硬く、鈍い金属音を立てて地面に落ちていった。

 同時に、彼女は老人の姿を見失う。そしてボールによってシャルの意識を逸らした老人は、残された右手の球体を「オレンジフレーム」の胴体に突き立てた。

 

「あああっ!」

 

 シャルからすれば、わけがわからない。球体を弾いたと思ったら、腹部に衝撃を感じてエネルギーが大幅に減っているのだ。

 ついでに言うならば、いつの間にか老人の姿が消えて、代わりに黒いISが姿を現していたことも、理解の範疇を越えていた。

 構造はおそらく、下で暴れている無人機と同じ。違うのは、まるで闇を身に纏ったかのような漆黒(ノワール)の機体色だけだ。

 

(あ……手だけは真っ赤なんだ。まるで、あのお爺さんみたい……)

 

 モニターに大写しになった拳を認識した彼女は、現実逃避ぎみにそんなことを考えるのだった。




シャルは優しすぎたんだ。
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