IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第161話 ハッピー・バースデー

「せーのっ」

『一夏、お誕生日おめでとう!』

 

 シャルロットの声を合図に鳴り響くクラッカーと、微妙にずれた「お誕生日おめでとう」の合唱。時刻は夕方5時。ここ織斑家では、家主の一人である織斑一夏の16歳の誕生日を祝う、いわゆるバースデーパーティが開かれていた。

 

「さんきゅ。……にしても、ずいぶん大所帯になったな」

 

 テープを吐きだし終えたクラッカーを投げたり、拍手したり、早速料理に手をつけたりと思い思いの行動を取る面々を見て、一夏はしみじみと呟いた。

 なにせ、ここには学園の専用機持ちたち――葵、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、簪に加え楯無。

 さらに高校以前から一夏と繋がりがある五反田兄妹と、御手洗数馬。

 そして生徒会繋がりということで、布仏姉妹。

 ついでにどこからか情報を聞きつけた新聞部のエース、黛薫子。

 これに千冬と麻耶、そして二年生の専用機持ちたちまで加わればオールスター大集合とでも言うべき参加率であったが、あいにく学園関係者は後始末でそれどころではないほど慌ただしく働いていたので、それも叶わない。関係の薄い二年生に至っては言わずもがなだ。

 

「ほら、一夏。あんたの分のケーキ、切り分けたから」

「おお、鈴。さんきゅ」

「ちゃんと『お誕生日おめでとう!』のプレートも乗せておいたわよ!」

 

 中華料理が得意、ということで包丁さばきが達者な鈴音はケーキカットの役割を担っていた。彼女は小皿に移したケーキを片手に自然な動作で一夏の隣に割り込むと、まるでそこから動く気など無いかのようにどかっと座り込んだ。

 

「ねえ鈴、僕のは?」

「一夏とあたしの分だけで手一杯よ。悪いんだけど、自分で取って?」

「……そう言うと思って」

 

 一夏の左隣に座ったシャルロットにおかまいなしで雑談を始める鈴音は、彼女の言葉にもどこ吹く風。暗に席を立つように促して二人きりの空間を作ろうと画策するものの、それを止めたのは追加のケーキを運んできた葵だった。

 

「ありがとう、葵。それにしても、薄いね」

「16等分だから。これで形を崩さないのは、もはや職人芸」

「ええ、わかってるじゃない、葵!結構苦労したのよ」

 

 手を伸ばし、シャルロットの正面に紙皿を置いた葵もまた、鈴の隣に腰を下ろす。そしておもむろに卓上のマヨネーズに手を伸ばしたところで、周囲からのいぶかしげな視線に気付き、恥ずかしそうに手を引っこめた。

 

「……葵、あんた今」

「あ、あ、あのっ、一夏さん!おめでとうございますっ!」

 

 ジト目を向ける鈴音から目を逸らす葵。そんな彼女を苦笑しつつ眺める一夏に声をかけたのは、密かに接近のチャンスを伺っていた五反田蘭だ。

 

「おお、蘭。今日は大変だったな」

「あ、はい……。……で、でも、試合はすごく、その、格好よかったです!あ、け、ケーキ焼いて来たので、どうぞ!」

「おっ、チョコケーキか?ありがとな」

 

 ケーキの行方を固唾を呑んで見守る蘭は、一夏以外の存在は眼中に無いかのようだった。だからこそシャルロットに声をかけられたときに妙な悲鳴を上げてしまい、周囲の視線に晒されて赤面することとなる。

 

「蘭ちゃん、怪我は無かった?」

「ぴゃいっ!?……あ、し、シャルロットさん、はい。あ、あの、ごめんなさい、私のせいで」

「ううん、油断してた僕が悪かった……いや、普通は予想なんてできないよね、あれ」

 

 まさか老人……しかも男が突如としてISを展開し、破壊困難なアリーナのバリアを一撃で破壊し、さらに襲いかかってくるなどと思いつく人間はいない。いたとすればそれはよほど被害妄想が強いか、あるいは狂っているか。どちらでもないシャルロットでは対応できなかったのは必然と言えるだろう。

 

「でも、無事でよかった。一緒にいたローウェルさんとマジェスティアさんも?」

「えっと、セリア……マジェスティアさんは携帯を壊されましたけど、それ以外は何も。むしろ私たちも、ついでにお兄も、皆さんの足を引っ張ってしまって」

「こーら、蘭。そう言うのは言いっこなしよ」

「そうだ、呼んだ俺も責任を感じるっつーか……」

「ゴメンね、巻き込んじゃって」

 

 話題が話題なのか、ケーキを愉快な創作料理に変えようとしていた葵も、それを止めていた鈴音も、手作りケーキを味わっていた一夏も話に加わる。自分よりも大人びた二人とあこがれの人、ついでに不倶戴天の敵とも言える約一名にまで神妙な態度を取られたとなっては、中学生の蘭ではキャパオーバー。ただパタパタと手を振って違うんですっ!と言うしかなかったのは御愛嬌だ。

 

「それで、ソフィアとセリアは?」

「助けられたときは一緒だったんですけど……」

 

 つい数時間前のことを、蘭は思い出す。

 『ブルーフレームセカンドK』が『紅椿』からエネルギーを受け取り、回復する少し前。『サイレント・ゼフィルス』がアリーナのシールドを斬り裂いた直後のことだ。

 彼女達を監視していたエルザの元に現れたのは、ジャーナリストを名乗る男性と、銃を携えた白いスーツの男。ジャーナリストがフラッシュを焚き、エルザの注意が逸れた隙に白スーツが割って入り、膠着状態となったかと思いきや彼女は半壊状態のISを具現化し、どこかへ飛び去った。緊張の糸が切れた蘭はそのまま気を失い、気がついたときには保健室で、同じく気絶したセリアーナの隣に寝かされていた。

 彼女たちを見ていたソフィアは、何と言っていたか?

 

「確か、山代さん……紅也さんを待つ、って言ってました」

「あっ、そうか(ホン)のやつ」

「ISで市街地戦闘をしたから、取り調べを受けてるんだよね」

「でも、箒はここにいるよな。何でだ?」

「…………」

 

 紅也と同じように市街地での戦闘を行った箒がこの場にいて、紅也だけが拘束されている理由を葵は知っていた。おそらくセシリアや箒もまた、なんとなく気付いてはいるだろう。

 今回の亡国機業(ファントム・タスク)の襲撃理由は、紅也がIS学園にいたからだ。仲間の復讐を誓うエムと、自分達に因縁のあるYY(ワイズ)にダンテ。そしてなぜか現れた幹部、スコール。

 今回は周辺の街にも、そこに住む住人にも少なくない被害が出ている。その原因が紅也……そして葵にあると知った学園の理事たちは、追及を緩めはしないだろう。

 

 かつて紅也は、千冬に問いかけた。

 『貴女は……俺達の味方ですか?』と。

 答えは保留。だけど、もし彼らの存在が一夏の害になりうるのであれば、千冬は彼ら兄妹を切り捨てるだろう。葵は一人、ここにはいない兄のことに思いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

 ここにはいない者に想いを馳せる存在は、葵だけではなかった。

 

「紅也はまだ来ないのか」

「取り調べが長引いているのでしょうね……。わたくしも『サイレント・ゼフィルス』のことで、しつこく話を聞かれましたわ」

「私もだ。少し市街戦をしただけでこれなのだから、あいつの苦労は推して知るべし、だな」

 

 紅也と共にサイレント・ゼフィルスと対峙した箒とセシリアは、つい先程まで受けていた取り調べのことを思い出し、辟易とした表情を見せる。

 

「だいたい「第二形態移行」の様子の説明だとか、敵の特徴など、わかるわけがないだろう!」

「あら?直接交戦した箒さんならば、わたくしよりは詳しいと思ったのですが」

「なんというか、機体が導くままに攻撃したら、一方的に終わったのでな」

「それは……ええ……?」

 

 まさかのフルボッコ宣言に、頬を引きつらせるセシリアであった。

 

「……ごほん!ええとだな……葵のエネルギーを回復させたとき、どうもあの“単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)”の力がこちらに移ったようなのだ」

「葵さんの……というと、“オーバーリミット”ですか?にわかには信じられませんわね」

「……紅椿の、“絢爛舞踏”は……エネルギーの生成と譲渡、ができる。なら……相手から、力を吸収する、ことも……できるかも」

「あら、簪さん。具合は大丈夫でしたか?」

「まだ、少し……ふらふらする。……あ、ち、違うの!気絶……した、せいじゃなくて、その、姉さんが」

「ああ……そういえば、あれはすごかったな」

 

 箒の言う“あれ”というのは、襲撃者たちの撤退後に起こった一幕のことだ。

 打鉄弐式はバスターストライカー装備のスローターダガーに撃墜され、限界を越えたダメージを受けた簪は操縦者保護機能により気絶していた。そして戦闘終了後、スコールを追い払って人質となっていた弾を救出した楯無は、倒れている簪の姿を見て大パニック。《ミストルテインの槍》とかなんとか叫んでシールドを粉砕すると同時にアリーナに突入し、まるで猛禽がネズミを攫うような見事な手つきで簪を捕まえ、そのまま医療室へと運び去ったのである。

 その後容態が安定していたためすぐに保健室に移された簪は、目を覚ますと同時に楯無に抱擁されたり揺すられたりとにかくもみくちゃにされたのだ。

 

「キャノンボール・ファストより、疲れた……」

「保健室の方でそんなことが……。……それはそれとして、能力を吸収した、となると違和感がありますわね。だって葵さん、あの後すぐに能力を使っていましたわ」

「それに私の方も、敵機撃墜後は紋章が消えてしまった。吸収、というよりは譲渡されたのだろうか?」

「“オーバーリミット”を紅椿、に渡した後……ブルーフレームは能力を、再発動……できたんだ。なら……あれは、譲渡が前提の……単一仕様能力、なのかな?」

「チーム戦に向いた力だと言うのか」

「葵さんは一人で戦うことが多いので、気付きませんでしたわね」

 

 面子が面子なので、戦闘中に起こった不可解な現象について一通り結論が出たら、話題は自然と紅也のことになっていく。

 

「普段はこうした分析は、紅也が行うところなのだがな」

「紅也、くんは……怪我、してない?」

「左腕が……あー、違う、左手首をくじいた、とか言っていたぞ。むしろ単純な怪我の量なら、セシリアの方が多いくらいだ」

「そういえば、セシリアさん……も、医療室送りだった、よね?」

「ええ……。前回といい今回といい、怪我癖でも付きそうですわ。……そうですわ、紅也さんがいらしたら、腕が痛いと言ってケーキを食べさせていただいたりとか……」

「聞こえているぞ、セシリア」

 

 乙女の話は堂々巡りだが、彼女たちは彼女たちで騒ぎ、楽しむことで、あの事件を消化しようとしている。

 しかし、それすら許されない不運な少女が、この場には一人いた。

 

 

 

 

 

 

「はあ……」

「らうらう、お疲れだね~」

「……布仏か。お前も見ていただろう、あの苛烈な尋問を」

「かおるんはやり過ぎるから大変だね~」

 

 リビングを離れ、廊下の壁に背中を預けてため息をついているのは、そんな弱った姿が信じられないほど似合わない少女――ラウラであった。

 彼女は手持無沙汰にしていたところを新聞部部長・黛薫子に捕まり、キャノンボールファスト本戦やその後の襲撃、さらにプライベートや乙女心的なあれやこれやまで根掘り葉掘り聞かれ、今に至るまで拘束されていたのだ。

 

「始めは「黙秘する!」としか言わなかったらうらうも、執拗な責めに耐えかねて~、やがて「げへへ~、身体は正直だな~」って……あいた~!」

「事実を捏造するな。機密情報は守り抜いたぞ」

 

 黄昏る彼女に話しかけたのは、ちょっとお花を摘んできた本音だ。

 珍しい組み合わせ、と言いたいところだがそうでもない。物怖じせず、誰にでも積極的に話しかけていくタイプの本音は、当然ラウラにも絡んでいたし、ラウラもラウラで敵意の無い相手にまでつっけんどんな訳ではない。――少なくとも、今は。

 ともかくあだ名で呼んだり、軽いツッコミを入れることができる程度の仲であるのは間違いない。

 

「でも、やまぴーとの仲のことで色々聞かれてたよね~。ああなったかおるんはしつこいぞ~」

「心配無用だ。一夏に押しつけておいた」

「うわ~、修羅場だ~」

 

 ふふん、とドヤ顔を見せるラウラだが、質問を受けてから逃げ出す方法を思いつくまでのラウラの百面相は、あのクールな生徒会会計・布仏虚が今でも思い出し笑いで苦しむほどであったことを付け加えておく。

 さて、そんなコントじみたやりとりを中断させたのは、玄関から聞こえたチャイムの音だった。

 

「あっ、やまぴー来たね。わたしが開けてくる~」

「ま、待て!相手を確認せずに鍵を開けるな!」

 

 ダボついた袖をなびかせ、パタパタと走る本音を、ラウラは追いかける。

 が、時すでに遅く、彼女は手早くドアロックを解除して外にいた人物を招き入れるところだった。

 

「いらっしゃ~……あれ?」

「ありがと」

 

 ラウラが耳にしたのは、明らかに紅也のものではない――それどころか、男のものですらない声。

 開かれた扉の、その先に立っていたのは――

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