IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第163話 怒れる瞳

「くらえ、粒子発勁!」

「戦国とか言っておきながら、中国武術とは!でも、甘いわよ」

「これをかわすとは!先輩、きさまこのゲームやり込んでいるなッ!」

「ふふん、IS学園の生徒会長は、ゲームでも最強なのよ」

強キャラ(母さん)使っておいてよく言うぜ……」

 

 IS/VSトーナメント、準決勝第二戦。MBF(楯無)VS戦国アストレイ頑駄無(紅也)の戦闘は、楯無優位で推移していた。既に決勝に駒を進めた簪とのガチバトルがかかった楯無のモチベーションは、通常の三倍といっても過言ではない。

 現に紅也の持つ二刀のうち、左で握った〈虎徹〉は半ばから折れており、防御力の低下から更なる被弾を招いていた。さらに、ここまで秘匿していた奥の手である格闘術まで破られたとあっては、敗北へのカウントダウンが始まっているようなものだ。

 

 数分後、戦国アストレイの右手首がくるくると宙を舞うと同時、至近距離からの〈ビームマグナム〉を命中させた楯無の勝利が決定した。

 

「いやー、負けた負けた。簪もそうだけど、更識先輩もゲーム得意なんすね」

「生徒会長のルールがあるじゃない?あれ、ゲームでも有効だから、特訓したのよ」

「へえ。あれ?じゃ、簪は……」

「あの子の場合、長いこと専用機が無かったから、コレをシミュレーター代わりにしてたのよ。相当やりこんでるはずよ」

「……一人で?」

「……たまに、本音が一緒だった……はず」

 

 お互いの健闘をたたえ合っていたはずが、何やら雲行きが怪しくなってきたため沈黙する二人。リビングを満たす静寂がひたすらに痛かった。

 

「……って、あら?静かすぎると思ったら」

「誰もいないっすね。……フルダイブしてたから気付かなかったぜ」

 

 モニターに映し出された二人の戦いを見ていたはずの観客達は、なぜだか一人もいなかった。予想外の事態に混乱し、紅也と楯無は顔を見合わせる。

 

 彼らがゲームに興じているわずかな時間の中で、世界を揺るがすほどの大事件の、最初の引き金が引かれていたことなど、神ならぬ彼らには知る余地も無かった。

 

 

 

 

 

 

「一夏さん、ご無事でしたか!?」

「さっき、この近くでISコアの反応があったんだ」

「……って一夏、その女誰よ!」

「おい一夏!その人物は!」

「……姉、さん?」

 

 3発目のビームマグナムの光条を斬り裂くと同時、まるで役目を終えたかのように二つに折れた虎徹の刀身。まさか暴力的なビームの柱から逃げるのではなく、逆に思い切り突っ込むという奇策により楯無の懐に飛び込んだ紅也の姿に、準決勝会場は大いに沸いたのだが……専用機持ち達が未登録ISコアの反応を捕えたことで、状況が一変する。

 思わず走り出したセシリアを筆頭に、ある者は街が戦場になることを危惧し、ある者は組織の襲撃かと思い怒りを燃やし、またある者は一夏の身を案じ、さらにある者は状況に流され……と次から次へと外に飛び出していった。

 

 そうして一夏の元に辿り着いた頃にはISコアの反応は消失し、残されたのは一夏と、彼が腕に抱く女性のみ。日ごろの訓練の賜物からか、真っ先に現場に辿り着いたのは専用機持ち達であった。

 一夏の身を案じる彼女達であったが、話題は次第に意識を失った女性へと移る。ラウラがその正体に気付き、箒が肯定したことで、後から追い付いて来た面々にも状況が伝わり、夜の街に一時の喧騒が広がっていく。

 

「篠ノ之、博士が……なんで、ここに?」

「しかも、見たところ、満身創痍」

「そうなんだ!見たことの無い機体で現れて、かといえば意識を失って」

「おりむー、とりあえず騒ぎになる前に~、お家に運ぼうよ~」

「本音の言うとおりね。織斑さん、失礼します」

 

 虚は一夏から束を受け取ると、肩を貸す。一人では大変そうだと思わず弾も彼女に歩み寄ったが、虚はそれを視線で制すと箒に手伝いを頼んだ。

 

「これが、シノノノ博士……?なんて言うか」

「変わっ……いえ、個性的な格好の方ですね」

「ソフィアさん、セリアさん、そんなことをおっしゃっている場合では」

「……まあ、まあ。見たところ、操縦者保護で気絶してるだけ」

 

 とりあえず命の危険はないようで、一同の間に弛緩した空気が漂う。

 

「だけど、まわりの家が騒がしいわよ。急がないと、誰かに見られるわ」

「ISの使用も視野に入れるか?緊急事態だ、教官もお許しくださるだろう」

「それなら……織斑、くんに運ばせる……べきだった?」

「い、一夏にいつまでも預ける訳にはいかないよ!」

「何で……?」

「なんで、って……」

 

 まさか、一夏にいつまでも女の身体を抱かせておくわけにはいかない、などという乙女な理由だとは言いだせないシャルロットはそのまま言いよどむ。その動作に疑問符を浮かべる簪だったが、深く追求する理由もないため大人しく引っ込んだ。

 

「シノノノさんのお姉さんなんでしょ?なら、シノノノさんに運ばせるのがニンジョー、っていうものじゃない?」

「人情、ですよソフィアさん。私もおに……兄が倒れてたりしてたら、流石に心配します」

「ら、蘭!俺は……俺は嬉しいぞ!」

「ちょっと弾、近所迷惑!」

「くすくす……そういうお二人も結構賑やかですよ」

「「……………」」

 

 セリアーナの無自覚毒舌で黙りこんだ一行は、そのまま平穏無事に織斑家へと辿りついた。

 

「よ、お前ら。一体どこ行って……って篠ノ之博士!?」

「ちょっと虚、説明なさい」

「お嬢様、今は……」

「ああわかった。箒、手伝うぜ。布仏先輩は後で説明お願いします」

「それもそうね。それから薫子、分かってると思うけど」

「さすがにこの状況で騒ぎ立てるつもりはないですよ。とりあえず情報操作は任せてください」

「お願い」

 

 織斑家のリビングには対戦が終わり暇を持て余していた紅也と楯無がいたが、事態の深刻さを見るや二人ともてきぱきと動き出した。紅也はソファに束を寝かせ、楯無は上級生組で情報のすり合わせ。残りのメンバーはリビングを片付けたり救急箱を運んできたり各々ができることを積極的にやっていく。

 

「ISコアの反応、ねぇ。VRの悪い所ね、全然気付かなかったわ」

「この耳、ISの待機形態だったんだな。前会ったときはわからなかったぜ」

「姉さんの専用機か。まあ、持っていても当然だな」

「未登録のコア、ということは……『紅椿(あかつばき)』と同じ、で新造したISコア?」

「そんなものがあるなんて、危ういね~。ちゃんとステルス効いてる~?」

《意識を失いながらも、それらの操作は終えたようだ。だが、この街に未登録コアが入り込んだことは感知されているはずだ》

「じゃあ、それと同時に起動した『白式弐式』との関連も、当然疑われるわよね。そのあたりの話も上手く合わせないと」

 

 紅也、簪、本音、薫子といった技術職と、彼女の身内である箒、そして楯無が束を囲んで話し合っていた。紅也はウサ耳に8を接続してステータスチェックを行っていたが、時折意識を失ったかのようにこくり、と首を動かすことがあった。

 

「山代さん、お疲れでしたら……」

「! ああ、いえ、大丈夫っす。ちょっと、集中しすぎてて」

「そ、それより、8には驚いたぞ。まさか姉さんのプロテクトを破るなんて」

《前にハッキングされたとき、少しな。私は学習型コンピュータだ、同じミスは繰り返さんし、転んでもただでは起きん》

「箒ちゃん、なーんか誤魔化そうとしてない?」

「何だ?心配してくれるのは嬉しいけどよ、俺はまだ大丈……ぐぅ」

「本当、に……?」

 

 どこか態度が不自然な箒を見て、何かを隠していると勘づく楯無だったが、再び紅也が船をこぎ出したことで有耶無耶になる。

 ちなみにこのとき、俯いた紅也が箒にプライベートチャネルで通信を送っていたことに気付く者はいなかった。

 

《助け舟を出してくれて感謝するが、あの人異常に鋭いからな……。このまま、疲れてるってことにしてくれ、頼む》

《了解した。……それより、腕のコントロールが甘い瞬間があるぞ。何か無理をしているのではないか?》

《あ……余裕そうに見えて8も結構無理してるからな。俺の意識も途切れたときは、どうしてもリソースが減っちまうんだよ》

 

 雑談をしながら、紅也は何度目かになる意識の集中を行う。

 義手に通された疑似神経のファイバー、そして小指の裏から伸びたケーブルを通して8の中へ。さらに意識を送り込み、8に接続された束の専用機の領域へ。

 紅也が俯いている瞬間、彼は疑似的に相互意識干渉のような現象を起こして束のISコアへ語りかけ、情報の閲覧を行っていたのだ。夏休みにプレアの領域――『ドレッドノート』と呼ばれるコアへのアクセスを実行したときの手順を簡略化したものだ。これにより短時間で膨大な情報が得られたり、コアとの結びつきを強めて機体を強化することができるが、彼自身はよほどの緊急事態で無い限りこの力を使う気は無かった。

 なぜならこれを利用しすぎると取り返しのつかないことになる、という漠然とした予感があるのだ。使う度、自分の意識の覚醒が徐々に遅れているという実験データもある。機械化の果てに自分を失ってしまうなど、悪い冗談だ。

 

「……ふぅ。やっぱりコレも第四世代機だな。戦闘力なら紅椿以上で、さらに複数の形態を使い分けることで様々な状況に対応できるみてえだ」

「第四世代か……。ますます、表沙汰にできないね」

「幸い、周辺住民に直接顔を見られた訳ではありません。ここは織斑先生に連絡し、学園で保護することも検討すべきでは?」

「更識本家、という手もある、けど……お姉ちゃん、どうする?」

「……正直、匿うだけのメリットがないわ。かといって、個人では手に余るわね」

「いや、姉さんなら自分の身柄は自分で守れるはずだ。まずは起こして、話を聞くまで待ってはくれまいか?」

「でも~、“自衛”できない何かがあった、ってことだよね~」

《亡国機業か?ならば戦闘ログを確認する》

 

 世界各国が第三世代機の開発に躍起になっている中、開発者自らが生み出した第四世代機。現時点では箒しか持っていないその機体の希少性は語るまでもない。

 問題はその第四世代機、世界最強であるはずのそれをここまで追い込んだ存在がいるということ。未知の次元の強さを持った敵の存在は、一同の間に緊張をもたらすには十分であった。

 

《映像解析、完了。……これは!》

「おい、嘘だろ!?」

「これって、おりむーの……」

 

 やがて解析が終わり、束の最後の瞬間――攻撃を受けたときの映像がサルページされた。

 画面に映されていたのは、迫りくる白いエネルギー刃。それを握る機体の色は、鮮血がこびりついて固まったかのような暗い赤。しかし特筆すべきことは、この場にいる誰もがその機体に見覚えがあったことだ。

 

 色こそ違うものの、それは間違いなく、奪われたはずの『白式』。握っている刀は、必殺の対IS兵器である〈雪片弐型〉。

 

「そうだよ……」

「! 姉さん、気が付いたか」

 

 愕然とする一同の前で、渦中の人物――篠ノ之束が目を覚ます。

 

「私を襲ってきたのは、見たことの無い戦闘機と白式……いや、第二形態移行して『白式type-F』とか言ってたっけ、あいつは」

 

 痛みが残るのか、どこかぼんやりと焦点の合わない瞳を彷徨わせながら、束は語り始める。

 

「知りたいんでしょ?なんでこんなことになったのか、これから何が起こるのか。

 束さんからの特別サービスだ。いっくんにも箒ちゃんにも、たまたま居合わせたモブたちにも、全部話してあげよう」

 

 普段の彼女らしくもない、静かな怒りを瞳に宿しながら。




8(ハチ)
 紅也が師匠から譲り受けた人工知能搭載コンピュータ。かつては『レッドフレーム』を量子化し収納、展開する能力を持っていたが、『デルタアストレイ』に乗り換えた現在、容量は空となっている。しかし、ISの展開を応用した紅也との接続により、彼をサポートすることができる。普段はもっぱら義手のコントロールを担当。
 元ネタは「機動戦士ガンダムSEED ASTRAY」シリーズに登場する同名・同型のメカ。同作では外宇宙から流れてきた”とある戦闘機”に搭載されていたもので、型番と思われるかすれた文字の末尾を取って”8”と呼ばれた。
 今回、8本人(?)が自身を学習機能を持つコンピュータだと言っていたが、果たして……?
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