実に150話以上越しの伏線(笑)回収です。
取材という小休止を挟んだ、次の月曜日。楯無と一年生の専用機持ちたちは第一アリーナに集合し、日課になりつつあるタッグでのIS戦闘練習を行っていた。
ちなみに、最初の週は二年生のフォルテと三年のダリルにも声をかけていたのだが、彼女たち二人には裏の事情を話していないためか、わざわざ参加する必要はない、むしろなれ合う気もないと袖にされてしまった。そこまで含めて楯無の作戦だったのか、それを知るものは本人のみだ。
「先週の時点で、お互いパートナーの戦い方については理解を深められたと思うわ。今日からは、実戦形式でやってみましょうか」
「……シミュレーションは、十分こなした。あとは、実戦……あるのみ」
楯無と、やる気十分の簪が取り出したのは、籤だ。これを各チームの代表者が引き、同じ数字のもの同士が対戦。余った一組は、より余裕をもって勝ち抜いたチームと戦うことになる。
せーの、の掛け声で引いた籤の結果、最初に楯無・簪コンビVSセシリア・鈴コンビ、次に箒・葵コンビVS紅也・ラウラコンビ、最後に余力がある方と一夏・シャルのコンビが戦うことになった。
「あら、一番手。頑張りましょうね、簪ちゃん」
「……うん、大丈夫……。相性は、いい……はず」
「いきなり会長相手とは、ついてないですわね」
「なに弱気になってるのよ、セシリア。せっかくだから、昨日届いた新装備の力、見せてあげるわ!」
試合を行わないメンバーがピットに退避し、準備が整ったところで号令がかかる。試合開始を告げるブザーと同時、静止していた4機は一陣の風となり、アリーナを飛び回り始めた。
「先手はもらった!」
開戦直後、いきなり敵陣に切り込んだのは鈴の甲龍。いつもの青龍刀ではなく、刀身が長く鋭くなった“刀刃”仕様の〈双天牙月〉を、これまた普段よりも肥大化した両腕で構え、いつかの一夏を思わせる動きで瞬時加速し、後方でいきなりマルチロックミサイル〈山嵐〉を撃ち出した簪を狙う。
「簪ちゃんはやらせないわよ~」
そうはさせじと大型の槍を構えて立ちふさがるのは、前衛を担当している楯無だ。どうやら鈴の突撃を読んでおり、逆に動きを止めたうえで〈山嵐〉を直撃させる作戦らしい。発射後も自在に誘導できる〈山嵐〉ならば、動きが鈍ったISはいい的だ。
「あら、オールレンジ攻撃はこちらが元祖でしてよ」
一方、訓練を積んでいるとはいえ未だに格闘戦に難ありのセシリアは、鈴を援護すべく後方から4基の〈ブルー・ティアーズ〉を飛ばし、ミサイルを迎撃する。訓練の結果安定して発動できるようになったBT兵器の真骨頂、
「……でも、速さが足りない!」
〈山嵐〉を撃ち終えた簪は、すでに機体を飛翔形態に変形させ、銀の軌跡を残してその場から離脱していた。彼女が移動した先は、今まさに激突しようとしている楯無と鈴の背後。
「迎撃っ!」
激突の数秒前、甲龍の右肩がうなりを上げ、ショットガンのように周囲に弾丸をばらまく拡散衝撃砲が放たれる。これらは鈴に迫っていたミサイルの大半を撃墜し、空中に爆炎の花が咲く。
爆炎に照らされる『甲龍』と『ミステリアス・レイディ』。その輪郭がわずかに揺らいだのを見て、鈴は迷わず機体を急旋回させた。
「罠っ!」
「正解」
楯無の声は、鈴の足元から。それと同じタイミングで、ミステリアス・レイディを、正確には水によって作られたそのハリボテを貫いて、最大出力の荷電粒子砲が鈴がいた空間を薙ぎ払った。
「ですがこれも、想定のうちですわ!」
鈴の旋回と同時に、セシリアも最大までチャージにした〈スターライトmkⅢ〉からBTレーザーを放っていた。さながら東洋の龍のように身をくねらせた高エネルギー体は、セシリアのイメージ通りに動き、残像を切り裂いて離脱中の『打鉄弐式』に食いついた。
「ロックオンされた……!」
「見違えたわね、二人とも。おねーさん嬉しいわ」
「余裕かましちゃって!助けなくていいの?」
水を纏った大型のランス〈蒼流旋〉による一撃で脚部装甲とシールドエネルギーを大きく削がれた鈴に追い打ちをかけようとする楯無は、簪のピンチにも動揺をみせず、ランスの基部に装着されたガトリングを連射する。たまらず衝撃砲を準備する鈴であったが、普段よりもチャージに時間のかかる拡散衝撃砲は、至近距離ではむしろ悪手であった。
そこでさらに力を籠め、〈蒼流旋〉の穂先をずらしていくことで、弾丸の雨から逃れようとする。が、鈴の狙いはそうではない。一瞬、力が拮抗した瞬間、左腕部からワイヤーが飛び出し、至近距離の楯無に襲い掛かった!
不意を撃たれ、驚愕の表情を浮かべる楯無。新たに装備された〈
「……へっ?」
そのまま輪郭を崩した楯無の姿は、着弾と同時に通電した高圧電流により蒸発し、水蒸気に変わった。
その瞬間、蒸気は意思を持ったかのように鈴に襲い掛かり、瞬く間に昇華して甲龍を凍り付かせた。これぞミステリアス・レイディの三大必殺技の一つ、
「頭を冷やして、ってね」
「はっ、いつの間に……」
空中変形による急制動や、目くらましの弾幕を張ることでちょこちょこと、かつ派手に動いていた簪を仕留めるのに夢中になっていたセシリアは、突然出現した楯無に反応できず、水を失ったランスにごちん、と頭を叩かれた。
あと少しで落とせそうな簪に専念しすぎ、視野が狭くなっていた彼女が懐に入られてはどうしようもなく。
「まだ続ける?」
「いえ、この状況になった時点で形勢不利。わたくしたちの負けですわ」
囮役の後衛という、変則的な戦法を使った楯無・簪ペアが初戦の勝利を飾った。
◆
「あと少し、あと少しってときこそ、一度立ち止まって考えるべきだよな。ガチャと同じだ」
「ガチャとやらは知らんが、後方にいる指揮官だからこそ、広い視野を持つべきだな」
「まあこの組み合わせ、指揮官不在だけどね」
「集中力を切らさんように……いざ!」
第2戦で早くも激突するのは紅也、ラウラ、葵、箒の4人。〈カレトヴルッフ〉2本を両肩に接続したレッドワイバーン形態の『ターンデルタ』は見るからに接近戦メインで、残りの3機は万能機。誰もかれもが格闘戦を得意とする組み合わせだけあって、激しい機動戦闘が予想される。
予想を裏切らず、ブー、と無機質なブザーが鳴るのと同時に4機が同時に動いた。
開幕早々、両肩の〈カレトヴルッフ〉からビームを撃ち、〈ヴォワチュール・リュミエール〉を全開にして箒に突っ込む紅也。
右手を箒に向け、AICで動きを止めるラウラ。
二人が自分を無視したと判断した瞬間、〈サーペントテール〉のアビリティNo.2〈英雄殺し〉を発動した葵。
とっさに二刀を眼前で交差させ、防御の構えをとる箒。
「そらっ!」
「くっ……!」
エネルギーを一切出し惜しみせず、初手からビームサーベルを解禁した紅也が、動きの止まった箒の背後に回り、装甲を避けて斬りつける。いきなり絶対防御が発動し、箒の顔が苦痛にゆがんだ。
「もう一丁!」
「迂闊!」
紅也らしからぬ強引な追撃を行おうとしたところで、フリーになっていた葵が紅也を蹴り飛ばし、攻撃は不発に終わる。
ラウラの方はドラグーンとして独立飛行する〈タクティカルアームズ〉を避けながらもAICを維持していたが、紅也が引き剥がされた直後に解除。援護射撃を行いつつ紅也と合流した。
「決めきれなかったか」
「ああ、すまねえ。これで——振り出しだ」
二人の視線の先には、〈絢爛舞踏〉によって先ほどのダメージを完全回復した上、胸に〈英雄殺し〉の紋章を宿らせた箒と、再び単一使用能力を発動し、〈オーバーリミット〉の力を漲らせた葵の姿。消費したエネルギーとダメージを無制限に完全回復させる箒は、たとえ刺し違えてでも倒さねばならない回復役だったのだ。
「さて、どうするの紅也?ラウラ?」
「悪いがこうなった私たちは、かなり強いぞ」
「そうだな……エネルギーも消費しちまったし、プランCで行くぜ!」
「了解だ!」
形勢は明らかに葵と箒が優勢。しかし紅也とラウラにはまだ策があるようで、今度は二人そろって前に出てきた。
「こうして戦うのは久しぶりね!」
「前回はボロ負けしたが、今度は負けねえぞ!」
双子ゆえのシンクロか、同タイミングで超高速の世界に突入した紅也と葵。オーバーリミットにより引き延ばされた知覚の中でもなお高速で動く紅也の相手をするのは、葵にとっても少々面倒だった。
しかし彼らはお互いに、相手を足止めできるのは互いだけだと確信していた。なぜなら彼らがいる領域は、従来のISでは入り込めない超高速の世界。ハイパーセンサーをもってしても光の軌跡にしか見えない世界なのだから。
「せいっ!」
「ふっ!」
蹴りやナイフを駆使してターンデルタのエネルギーを削ろうとする葵に対し、紅也は死角に回り込みつつ果敢に攻めかかり、反撃をさせないように起点を潰していく。
葵は普段のように、意識の外側から攻撃するため〈タクティカルアームズ〉を呼ぼうとするが……確かに存在を認識できているそれは、どんなに操作しようともびくともしなかった。
(……そうか、AIC!)
「ようやく気付いたか!」
想定外の事態で一瞬思考が停止した葵。この世界の中で、その一瞬は致命の隙だった。
両腕をパワーエクステンダー搭載の巨腕に換装した紅也は、ブルーフレームの高機動力を支える両肩のスラスターを殴りつけ、破壊する。葵はとっさに反撃の蹴りをお見舞いし、つま先から飛び出した〈アーマーシュナイダー〉により、ターンデルタの胸部装甲を大きく切り裂いたが、エネルギーへのダメージはゼロであった。
「ラウラ、そっちは?」
「やはり〈タクティカルアームズ〉を常に意識したまま戦うのは、難しいな。箒も強くなっている。すでにワイヤーブレードを1本喪失した」
常速の世界に取り残されたまま戦いを続けていたラウラと箒であったが、戦況は意外にも箒有利で進んでいた。彼女は格闘機の間合いで切り結ぶことをよしとせず、豊富なエネルギーを生かして〈空裂〉と〈雨月〉のレーザーによる飽和攻撃を行い、ラウラをくぎ付けにしていたのだ。オーバーヒートやエネルギー切れと無縁の紅椿だからこそできる、単純だがそれゆえに対策不可能な物量作戦。軍人として数の力を重々承知しているラウラだからこそ安全に立ち回り、この程度の損傷で済んでいるわけだ。
「戦いは自分の得意を押し付けること、だったな、紅也」
「その通り!だからこそ、俺も自分の得意を押し付けてやるぜ!」
バックパックとしても機能する〈タクティカルアームズ〉を封じられ、それと同等の出力を誇る両肩のフィンスラスターをも破壊されたブルーフレームの推力は、フライトユニットを外した状態のレッドフレームと同等しかない。つまり紅也どころかラウラと箒の速度にすらついていけないのだ。
二手に分かれ、攻撃目標を分散させる紅也とラウラ。しかし対集団を目的として作られた〈空裂〉のレーザーは誘導性能が高いため、2対1でも油断はできない。
しかも葵にはまだ、この戦闘に介入する手段が残されていた。
突如飛来する、〈空裂〉、〈雨月〉以外のレーザー。由来は言うまでもなく、戦線を離脱していたはずの葵である。
キャノンボール・ファストの際に使用した大型ブースターを展開し、エネルギー消費にかまわず流星になって戦場に乱入した葵は、速度と質量の暴力により気圧された紅也とラウラの間をすり抜け、箒の手をつかんだ。その瞬間、黄金の輝きが二人を包み込み、消耗していたブルーフレームのエネルギーが全快する。しかし、エネルギーではどうにもならない場所、装甲の一部であるスラスターが修復されることはなかった。
「やはり対〈絢爛舞踏〉には、装甲破壊が有効だな」
「じゃあ、今からプランBに切り替えるか?」
ブルーフレームが紅椿を抱きかかえ、ドッキングする。すると灰色だったブースターが水色をベースとした迷彩色に染まり、フェイズシフト化して本来の姿、フルアーマーフェイズシフトとなった。
「これが私と葵のコンビネーションだ!」
エネルギー供給と攻撃を箒が担当し、推力は葵が担当。こうすることで葵の両腕は使えなくなるものの、ブースター本体にレーザー砲台が内蔵されているブルーフレームには関係ない。さらに本来であればドラグーンとして〈タクティカルアームズ〉も使えるのだから、相当な脅威となる。
四方八方から降り注ぐ高エネルギーの嵐に、手も足も出ない紅也とラウラ。しかし二人の目は、まだ勝負を諦めてはいなかった。
「プランC、継続だ!」
「オッケー、頼むぜ、ラウラ!」
合体には合体だ、とでもいわんばかりに紅也がラウラを抱き上げ、なけなしのエネルギーを注ぎ込んだ〈ヴォワチュール・リュミエール〉で二人に追いすがる。直線での加速ならブルーフレームのほうが速いだろうが、機動力ならばターンデルタのほうが上だ。2機を引き剥がそうとでもいうのか、紅也たちは被弾しながらも強引にブルーフレームに接近し——
「「今だっ!」」
「何!?」
箒を抱える葵の両腕が、突如として固定され、ブルーフレーム本体もまたそれ以上先に進めなくなる。ここにきてラウラが切り札、AICを再び使用し、二人をその場に縫い付けたのだ。
「箒、逃げて」
「無理だ、上も下もつっかえて……」
がっちりとホールドしていたのがあだとなり、箒までも行動不能になる。幸い両手は動くので、ラウラと紅也に向けて攻撃を放つことはできるのだが、そこで気づく。紅也がいない。
「耐えられるものなら——」
紅也を探すと不意に、辺りが暗くなった。とはいえISのハイパーセンサーは、宇宙空間に適応するため多少の明暗の変化ではビクともしない。だからこそ箒と葵は、影を生み出すほどの巨大な物体が何なのか、捕捉することができた。
それは、はるか頭上から降り注ぐ、巨大な鉄塊。
「――耐えてみせろっ!」
『パワードレッド』形態のターンデルタが振り下ろしたのは、柄の長さだけでISの全長をはるかに超えるメガサイズの日本刀、通称〈150ガーベラ〉だった。レッドフレーム時代から拡張領域を圧迫し続けていた、紅也が所持する最大最強の武装が、今初めて日の目を見た。
◆
「無限のエネルギーを持とうとも、一撃で倒されては意味がない、か」
「そのためのプランA~Cだからな」
「……何の略だったの?」
「プランAはアサルト。開始早々奇襲して、最大火力を叩きこみ一撃で倒す。プランBはブレイク。絢爛舞踏でも回復できない装甲を破壊して、敵を無力化する長期戦用の作戦。そしてプランCはクラッシュ。エネルギー受け渡しの隙に2機をまとめて拘束し、一撃で削りきる。どれも夫婦の共同作業だ」
「嫁、というのはお前の自称だろう……」
「でもラウラ、最後は私の〈タクティカルアームズ〉がフリーになってたの、気づいてた?」
「……しまった、気を抜いたか」
「まあ、視界に収めてなくてもAICをキープできるようになったのは、特訓の成果だな」
試合を終えた紅也たち4人はピットに戻り、先程までの試合の反省点を話し合っていた。
「思い出したわよ、
「お、バレたか。そうだぜ、とどめの一撃はアレだ。とっておきの隠し武器だぜ」
「む、あの腕がなければまともに振れないというのは嘘だったのか?」
「ラウラさんは素直ですわね。紅也さん、恰好つけるのは結構ですが、嘘はいけませんわよ」
「……そのときは、レッドフレームの腕が壊れた」
「そういや、それがきっかけで簪と会ったんだっけな」
これも、不自然な出会いってやつだったのか、などと紅也は考えた。
「その偶然がなければ、今の『打鉄弐式』は生まれなかったのかもしれないな。そろそろ最終試合が始まるぞ」
箒の言葉を合図に、6人は一斉にモニターを見上げた。
◆
「あの子たちの戦い、思ったより早く決着がついたわね」
「両方、とも……ユニーク、だった。あの勇者剣も、すごい……」
「楯無さん、簪、休憩は十分か?疲れを言い訳にするのはやめてくれよ」
「一夏、自信満々だね。まあ、僕も負ける気はしないけど」
初戦も二戦目も、手に汗握る戦いだった。特に二戦目は、2機の単一使用能力持ちIS相手の絶望的な戦いで勝ちを拾って見せた紅也とラウラの姿に、胸が躍った。
俺も二人に続けるだろうか、いや続くんだ!と一夏は高揚し、落ち着きなく左手を閉じたり握ったりしていた。
「熱くならないで、一夏。二人の手の内は見せてもらったし、普段通りにやれば勝てるよ」
「ずいぶんな自信ね。まあ、これは力を見せるのが目的だし、先手は譲ってあげるわ。簪ちゃんもそれでいい?」
「……大丈夫。さっきの、戦いで……思いついたことも、あるし」
「あれ、本当にやるつもりなのね……」
珍しく目を輝かせる簪の様子を見て、ため息をつく楯無。実は簪は無類のヒーロー、ロボット好きであり、先程箒と葵が見せた合体技に、いたく感銘を受けたようだった。
「なら、遠慮なく……織斑一夏、『白式弐式』!」
「シャルロット・デュノア、『アストレイ・オレンジフレーム』!」
「「行きます!」」
「いい口上……」
「来なさい!」
ブザーと同時に、一夏とシャルの二人はツーマンセルを崩さず、楯無らに迫っていく。パートナーとの距離を開けすぎたがために各個撃破されたセシリアと鈴の反省点を生かし、分断されないように戦うつもりのようだ。
〈雪片弐型〉と〈零落白夜〉を失った白式弐式だが、代わりにコアの癖がなくなり、以前は登録不可能だった射撃武器が使用できるようになっていた。ペアを組んで以降、お互いの武装を共有できるように登録していた二人はバツグンのコンビネーションをみせ、隙間のない弾幕を張り続ける。
「シャルロットちゃんらしく、手堅いわね」
「第二世代機の、戦い方……」
重機関銃〈デザート・フォックス〉を連射し、楯無と簪の進路を妨害する一夏。シャルは右手に小型ビームライフル〈
「さて、そろそろ反撃していいかしら?」
「なお、返事は……聞いてない」
見るものは見た、といわんばかりに楯無は水の楯を操作し、アクア・ナノマシンの温度を急速に上げることで水蒸気爆発を起こす。あたりには霧が立ち込め、瞬間的に生じた高熱により熱源センサーも潰された一夏とシャルは、一瞬で二人の姿を見失った。
「一夏!」
「おう!」
敵の姿を見失ったとみるや、二人はすぐに密集陣形をとり、背中合わせになって蒸気の霧から抜け出した。
「ちょっと機体の動きが鈍いね……」
「前に楯無さんが言ってた技だ。たしか、
シャルは左手の武装を楯に変更。制圧よりも防御を重視した武装で相手の出方を伺う。すると霧を切り裂いて二条の荷電粒子砲が放たれ、少し遅れて逃げ道に先回りするかのようにガトリング弾が降り注いだ。
密集陣形をとっていれば、高火力が出せる荷電粒子砲〈春雷〉を撃ってくることは読めていた。しかしその後の実弾攻撃。これは葵が好んで使う戦い方の一つであったため、二人はすぐに気を引き締めた。
「ビーム、実弾、その後は……」
「本体が来る!」
回避先を読まれた一夏が数発被弾し、自身が狙われていることを悟った。
その予測は正しく、飛翔形態と瞬時加速を組み合わせて、殺人的な速度で迫ってきた簪が、楯無から借りた〈蒼流旋〉を握りしめ、一夏目掛けて身体ごと突っ込んできた。
予想外だったのはその速度。〈蒼流旋〉を覆うアクア・ナノマシンが円錐状に展開することにより、空気抵抗を極限まで減らした打鉄弐式は、瞬間的に〈ヴォワチュール・リュミエール〉に匹敵するスピードを獲得していた。
わかっていても体が追い付かない、という現象を体験することになった一夏は、なすすべもなく腹部に衝撃を受けてエネルギーを大きく減らすと同時に、シャルからも引き離されてアリーナのシールドに叩きつけられた。
「今よ、簪ちゃん。槍を離して!」
「あ、あれ?……激突の衝撃で、引っかかって……」
本来はその後、楯無がナノマシンを遠隔操作して
しかも密着状態という間合いは、一夏にとっても必殺の間合いであった。悪魔のような巨大な左腕がうなり、ビームクローが簪の身体をつかむ。至近距離でビームにさらされ、急激にシールドエネルギーを減らす打鉄弐式。だが一夏も〈蒼流旋〉に装甲をガリガリ削られ、エネルギーは風前の灯火であった。
「こんなところで、負けるかよ!」
「……こうなったら……」
白式弐式の左腕に内蔵された、〈春雷〉と同型の荷電粒子砲が臨界に達したと思えば、覚悟を決めた簪は至近距離で〈山嵐〉をスタンバイ。両者同時に放った相打ち覚悟の一撃は、アリーナのシールドを大きく揺るがせる大爆発を引き起こし、望み通りの結果をもたらした。
「一夏は落ちちゃったけど、これで〈蒼流旋〉は封じたよ」
「武器を一つ失ったところで!私の武器は、形無き水そのものよ」
ビームサーベルによる攻撃を、水を纏わせた〈ラスティー・ネイル〉で受け止める楯無。しかしシャルが持つ左腕の楯〈シールドソード〉に内蔵されたガトリング砲により妨害されてまともに打ち合えず、守勢に回っていた。
かといって距離をとれば、中距離でも使える〈蒼流旋〉を欠いたミステリアス・レイディでは分が悪い。なので不利な消耗戦だとわかっていても、それを続けることを強いられていた。しかも——
「隙ありよ」
「どうかなっ!」
蛇腹剣である〈ラスティー・ネイル〉をムチのようにしならせ、背後からの奇襲を狙っても、オレンジフレームのバックパックから延びるサブアームが即座に〈シールドソード〉や〈ブレッドスライサー〉を展開して防ぐ。本来、ただでさえ強力なシャルの
しかし、楯無も伊達や酔狂で学園最強を名乗っているわけではない。こうして至近距離で打ち合うたびに〈アクア・クリスタル〉からナノマシンを散布してオレンジフレームにまとわりつかせ、少しずつその動きを侵食していた。
「だんだん動きが鈍ってきたわね」
「うーん、毒が回ってきたみたいです」
楯無の三大必殺技の一つ、
「じゃあ、そろそろ……」
「終わりにしましょう」
ミステリアス・レイディの速度が急に上がり、シャルの反応速度を超え始めた。どうやら楯無は、先日のダンテがそうしたように意図的に速度を落とすことで、シャルに自分の速度やペースを誤認させていたらしい。
高速切替により、右手に『グリーンフレーム』と同型の〈ツインソード・ビームライフル〉を呼び出した一瞬の隙をつき、最も反応速度が鈍かった頭上へと移動した楯無。シャルはとっさにバックパックを切り離し、その勢いで高圧水流を纏った斬撃から逃れた。
「起きて、“シャルル”!」
「これは……!」
そしてシャルは、オレンジフレームに隠された、真の切り札を開帳する。
楯無の予想すら上回った“切り札”は、止めの一撃を準備していた楯無に痛打を与え——
◆
「いやー、危なかったわ。ただの第二世代機だとは思ってなかったけど、あれがあなたの切り札だったのね」
「結局負けちゃいましたけどね。あのまま押し切れる、と思って温存しすぎた僕のミスでした」
「……シャルロット、は……慎重すぎる、かも……」
「そういう簪は、ずいぶん大胆な手を使ってきたな」
結局最後は〈清き熱情〉のスイッチを押した楯無が僅差で勝利したものの、彼女を追い詰めたシャルは高い評価を受けていた。
簪が使った、どこかの主人公じみた特攻技も、思いつきゆえに不完全ではあったが、紅也の〈150ガーベラ〉と同じく、当たれば一撃で相手を倒せるポテンシャルを秘めている。一夏のビームクローも、エネルギー消費こそ激しいものの、威力は零落白夜に負けていない。成長の余地を存分に残した3人を見て、楯無は笑みを深めた。
「じゃあ、初日はこんなものかしら。明日は今日やらなかった組み合わせでやって、反省会をしましょう。大丈夫、みんなまだまだ強くなるわよ!」
楯無の号令で、各々帰路に就く専用機持ちたち。今までもいろいろな困難があったけど、今度もきっと乗り越えられる。戦いを通じて確信を得た彼らは、まずは消費したエネルギーを回復するため、にぎやかに食堂へ向かうのだった。
力尽きました……。
次回は6/30に更新予定です。