IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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結局、書き溜めは足りてません。
ですが、30日になったということで、投稿させていただきます。


第172話 速過ぎる時の瞬きに晒されて

 特訓を続ける傍ら、機体の微調整や束からの情報提供を受けた紅也たちは、いよいよ専用機持ちタッグマッチトーナメントの当日を迎えていた。

 

「とうとうこの日が来たわね。みんな、準備はいいかしら?」

 

 「決戦」と書かれた扇を広げて口元を隠した楯無が、居並ぶ一年生専用機持ちたちに告げる。開会式の前のわずかな時間を利用して、皆の士気を高めるために会いに来たのだ。

 

「実は俺、ちょっと寝不足で……」

「もう、大丈夫なの一夏?」

「緊張する気持ちはわかりますが、休める時に休むべきですわ」

「むしろ今までの襲撃のほうが急だったんだから、かえって安心したわよ、あたし」

「まったく、お前は昔からそういうところがあるな」

「……ところで、この流れで聞くのも酷なのだがな」

 

 一夏の緊張がほぐれたのを見て取ったラウラが、隣に立つ男を見る。

 つられて他の専用機持ちたちもまた、こういうときに一番騒ぎそうな皆のムードメーカー、山代紅也の顔を見る。彼の表情は珍しく——この場にいる誰もが知らないことだが、それこそ左腕を失って入院していた直後のように沈んでいた。

 

「嫁よ、モルゲンレーテに注文していた新装備というのは、どうなった?」

「今朝には届くって言ってたんだけどな。遅れてるみてぇだ……」

 

 俺、狙われてるんだけどな……と、ボソリと呟く紅也だが、ないものねだりをしてもしょうがないのは、彼自身が一番よくわかっていた。

 

「……モルゲンレーテと、連絡……は?」

「何度問い合わせても、同じ……。モノは完成して、早朝に送ったって」

《事実、〈タクティカルアームズⅡ〉は現在、モルゲンレーテを離れているようだ》

「まるでいつかの一夏くんのようね」

 

 クラス対抗戦よりもさらに前、クラス代表を決めるための決闘騒ぎのときに白式が届かなかったことを思い出し、楯無がつぶやく。ほんの半年前の出来事だというのに、遠い昔にあったように感じるのは、それだけ密度の濃い日常を過ごしてきた故だろうか。

 

「とはいえ、今のレッドフレーム——『レッドドラゴン』も、十分強力な機体だと思うぞ。連携に支障はない」

「まあ、それはそうなんだが」

 

 〈ヴォワチュール・リュミエール〉による超高速機動こそ失われたものの、〈カレトヴルッフ〉を3基に増設した『レッドドラゴン』は、『レッドワイバーン』以上に微細な機体コントロールを実現している。フルブースト中に〈ガーベラストレート〉を振るい、誤差1センチ以内の正確な斬撃を叩きこめるといえば、そのスペックが伝わるだろう。

 カレトヴルッフとの連携を前提にした新しい頭部パーツ〈ドライグヘッド〉の効果により索敵範囲やFCSの性能も上がっており、今のレッドフレームは本来開発者が意図していたコンセプト、遠近両用の万能機として仕上がっていた。もっとも、それを紅也が生かしきれるか否かは、また別の問題であるのだが……。

 

「大丈夫よ。みんな、よく頑張ってる。強くなっているのは、この私が保証するわ」

《データ上でも、能力値は平均150%の向上がみられる。安心して行ってこい!》

 

 楯無と8のエールを受け、この場はひとまず解散となる。次に彼らが相まみえるのは、アリーナの会場内だ。

 

 

 

 

 

 

 楯無が急に生徒会公認のトトカルチョを実施するなど、予想外のハプニングはあったものの、開会式は無事に終了し組み合わせが発表された。

 

 第一試合は紅也&ラウラVS一夏&シャルロットというカード。敵の獲物として大本命である紅也を最初に配置し、さらに表向きの標的の一夏も矢面に立たせる。さらにこの組み合わせでは4人が4人ともペアを組んで戦った経験があり、仮に分断されても即席の連携が組みやすいという利点があった。

 

「とはいえ、表向きにはこれは学内イベントだ。それらしく見せるとしようぜ」

「加減は苦手なのだがな……。エネルギー系武装を封印しておけばいいのだな?」

「まあ、いざとなったら箒に補充してもらおうぜ」

「それはそうだけど、ことが始まったら合流できるかもわからないし、慎重にね」

 

 プライベート・チャネルでそのようなやり取りを交わしながら、4機は配置につく。司会を務める黛薫子の声も、どこか緊張がにじんでいるようだ。

 

「――では、第一試合開始まで、3、2、1――」

「――ゼロ。あげゃげゃげゃ!」

 

 カウントダウンボイスに割り込む、不吉で耳障りな笑い声。直後、アリーナのシールドが超新星爆発でも起こしたかのように激しく明滅し、ガラスが割れるような音と同時に光の柱が天空から降り注いだ。

 

《MS級超高インパルス砲〈アグニ〉、掃射完了。再チャージまで、あと——》

「あげゃ、必要ねえ。こっから先はオレ様と、こいつらの出番だ。そら、行け!『ゴーレム』ども!」

 

 光の柱の発生源、IS学園のはるか上空にいたのは、かつて束を襲撃した戦闘機『スカイグラスパー』に装備されていた巨大なインパルス砲〈アグニ〉を抱えた血のような色のIS、フォン・スパークの『白式type-F』だ。力任せにアリーナのシールドを破壊してみせたその機体が何事か号令を出すと、虚空から6機のISが新たに出現し、フォンと共に地上へと降ってきた。

 

「来たか、フォン・スパーク!」

「見つけたぜ、織斑一夏!」

「あれが博士の言ってた『ゴーレムⅢ』か。面倒なものを」

「来るよ!各機、密集陣形!」

 

 初めにフォン・スパークに突っ込んでいったのは、かつての白式の主人である一夏だ。鮮血色に染まった禍々しい装甲や、各所に増設されたスラスターなど、在りし日の白式の面影が消えつつある『白式type-F』の姿に心を痛めながらも、一瞬で迷いを振り切り、左腕の大型ビームクロー〈白鵠〉を構えた。

 一方のフォンはというと、一夏との対決を受ける気になったようで、6機の『ゴーレムⅢ』は一夏を無視し、地上にいる3人に狙いを定めた。

 

「まずはテメェだ!」

 

 右手に〈雪片二型〉を、左手にビームライフルを展開した白式type-Fは、手足のスラスターを不規則に吹かして踊るような動きで白式弐式に襲い掛かる。

 大型クローの間合いの内側に入り込まれた一夏はというと、脇差サイズのブレード〈細雪片〉にビームを纏わせ、敵の零落白夜に対抗してみせた。

 

「へん、自分の弱点くらい承知してんだよ!」

「あげゃ、じゃあコイツはどうだ?」

 

 そんなセリフと共に、脚部にミサイルランチャーを展開するフォン。ノータイムで放たれた三連装ミサイルは、まるでいつかの決闘の再現のように一夏へと迫る。

 しかし一夏も負けてはいない。雪片二型を受け流しながらも既に射線をずらしており、そのまま左腕を引き戻し、大きな手を開いてフォンに掴みかかっていた。その手のひらには、すでに圧縮された荷電粒子の光が宿っている。

 

「これで——」

「甘ぇぜ!」

 

 目の前の機体を飲み込むべく、荷電粒子砲が放たれるまさにそのとき、白式弐式の背後で爆発が起こり、機体を大きく揺らした。

 

「この距離でミサイルを爆破した!?正気かよ」

「オイオイ、オレ様が正気(マトモ)に見えんのか!えぇ?」

 

 近接信管で放たれていたミサイルが、発射後すぐに爆発し、無防備な一夏の背後をついたのだ。ともすれば自分自身を巻き込みかねない、自爆まがいの攻撃に、一夏は冷や汗を流す。

 その隙を突きクローによる拘束から逃げおおせたフォンは、見当はずれな方向に飛んで行った荷電粒子の光を横目に、狂ったような叫びを上げるのだった。

 

「じゃ、次、行くぜ。せいぜい抗ってみせな!あげゃげゃげゃ!」

 

 

 

 

 

 

 ――私のラボにはねー、開発途中だった無人機が置いてあるんだ。

 

 一夏を無視して飛来してくる6機の見慣れないISを視界に収めた紅也、ラウラ、シャルは、束から提供された情報を思い出していた。

 

 ――『ゴーレムⅢ』って呼んでたんだけどね。それ、展開装甲の実験にも使ってた無人機なんだ。つまり、第四世代ちょっと手前の機体ってことさ!

 

 未だ第三世代機すら実験段階だというのに、第四世代の、それも無人機を作り上げたなど、束の言葉でなければ戯言だと聞き流していただろう。

 

 ――アイツがどこまで起動できたかは『グランクチュリエ』でもわからなかったけど、まー、最悪の想定をすると、7機の第四世代機に襲われることになるってことだね!

 

「『ゴーレムⅢ』は6機。武装はバラバラだ」

「あれじゃ、第二世代か第三世代だね」

「ひとまず、最悪の予想は外れたわけだ」

 

 大型の両手剣、巨大な穂先を持つ槍、ISの全長と同等の長さのメイスを装備した3機を先頭に、両腕を四連装砲に換装した流線形の機体、巨大なクロスボウのような武装を装備した機体、エネルギーシールドを形成する球体を複数浮かべた機体の3機が後ろを固めている。

 

「じゃあ打ち合わせ通り、指揮はラウラに任せるぜ。俺はひとまず前に出る!」

「うむ、任された!――敵ターゲットのコードネームを、暫定的に『セイバー』、『ランサー』、『バーサーカー』、『ライダー』、『アーチャー』、『キャスター』と設定。紅也は前衛と後衛を分断し、シャルロットはその支援だ!すぐに増援が来る。無理はするなよ!」

 

 ラウラの指示に合わせて、赤と橙を纏った2機のASTRAYが宙を舞う。

 〈ヴォワチュール・リュミエール〉をオミットしたレッドフレーム――いや、『レッドドラゴン』は、確かに瞬間的な加減速においては性能低下している。だが、バックパックに接続された3本の〈カレトヴルッフ〉は、その身に秘めた粒子制御能力をいかんなく発揮し、光の翼に勝るとも劣らない運動能力を与えていた。

 その背にぴったりとついていくのは、レッドフレーム達初期ロットのデータを元に改良された次世代機、『アストレイ・オレンジフレーム』。ベースは突出した性能がない汎用機とでもいうべき機体だが、ラピッド・スイッチの天才、シャルロットが乗りこなすことで、この機体は真に万能機と呼べる専用機に進化する。

 新たに開発された追加ユニット〈マルチパック〉により、既存のバックパックのほぼ全てを使用可能になったオレンジフレームの背には、かつてワイズが用いていたのと同型のストライカーパック〈マルチプルアサルトストライカー〉が装備されていた。

 

「まずはシールド持ち――『キャスター』を潰すぞ!シャル子、景気よくぶっ放せ!」

「了解っ」

 

 背中から左脇を通すように現れたのは、フォン・スパークが登場と同時に発射した巨大砲塔を縮小したような緑色のインパルス砲。本来の——ISサイズの——〈アグニ〉。

 さらに、両肩に浮遊する〈シールドソード〉、右手の〈ガルム〉も同時に起動し、前衛の3機に狙いを定める。

 

「オレンジフレーム、フルバースト!」

 

 高圧縮状態の臨界プラズマエネルギーと、亜音速の実弾、そしてそれらの隙間を埋めるように放たれた無数のガトリング弾が、『セイバー』、『ランサー』、『バーサーカー』を襲う。

 ほとんど予兆なく放たれた一斉射撃は、しかし無人機として人間の限界を超えた機動力を発揮する3機にとっては、あまりに遅い。ハイパーセンサーが射撃を感知した瞬間、それらは一糸乱れぬ動きで散開し、攻撃を避けてみせた。

 

 だが、それこそが紅也とシャルの狙いであった。

 

「今だ、瞬時加速!」

 

 アグニによってこじ開けられた前衛の間を抜けて、2機のアストレイが加速する。狙うはもちろん、いるだけで厄介な防御役、『キャスター』。

 だが、篠ノ之束の生み出した無人機が、その程度を予測できないはずがない。前衛が突破される瞬間に、あるいはそれよりも早く射撃体勢を整えた後衛の3機は、お返しとばかりにすべての武装を二人に放つ。

 『ライダー』の両手の四連装砲が。

 『アーチャー』の持つ巨大なクロスボウ〈穿千〉が。

 『キャスター』の周囲に浮かぶ6つの球体が。

 無慈悲に放たれた、まさにその瞬間。

 

「更識簪、吶喊します!」

 

 地上から放たれた必中の槍と化した『打鉄弐式』が、攻撃中に無防備になった『キャスター』の腹部を貫いた。

 

 

 

 

 

 

「へえ……」

 

 一夏と交戦中のフォンは、視界の片隅でとらえた一瞬の攻防を目の当たりにし、歪んだ笑みを浮かべた。

 自身の手駒が二人に傷一つ負わせられず、どころか1機は致命的なダメージを受けたにもかかわらず、だ。

 

「残念だったな。俺の仲間たちは、強えんだよ!」

 

 フォンの気がそれたことを直感的に感じ取った一夏は、間合いを縮めつつ、再び荷電粒子砲のチャージを始める。こうした大火力の武器は、使用をちらつかせるだけでも相手にかかるプレッシャーが半端ではないことを、彼は経験的に学んでいた。

 

「あげゃ、確かに。あんなベストタイミングで助けが入るなんて、運のいい奴だぜ」

「運? 違うな、作戦だよ!」

 

 光を纏う〈白鵠〉を前に、なおも余裕を崩さないフォン。しかしその実、彼は追い詰められている。

 簪が到着したということは、他の5人も既にアリーナでISを展開しているということ。特に、本体に先行してこの場に接近する4基の〈ブルー・ティアーズ〉は、一夏とタイミングを合わせて放たれることになっている。

 葵と箒の準備も完了したようで、二人とも単一使用能力の輝きを宿している。

 彼女たちが失敗しても、続くセシリアと鈴が攻撃に加われば、5対1だ。この包囲網なら、たとえ〈ヴォワチュール・リュミエール〉を使う紅也でも抜け出せない。

 これでフォンは終わりだ。

 

 この場にいるのが、彼一人であるならば。

 

「じゃ、次はテメェのテストだ織斑一夏」

「! 何――」

 

 一夏の耳が不敵な一言を拾うと同時に、背後から気配を感じた。

 『白式弐式』のハイパーセンサーが、煙のように虚空から出現した敵性反応を感知して警報を鳴らす。網膜に投影されたその影は、漆黒を身にまとった、7機目の『ゴーレムⅢ』。

 

「テメェが“鍵”なら、なんとかなるさ。だが、もしハズレなら――」

 

 回避も、防御も、間に合わない。懐に触れた感触は、ビームサーベルの発振基部。

 

 

 

 

 

 

 ――もしも、の話をしよう。

 

 織斑一夏が、ただ一人の男性操縦者としてIS学園に入学していたら。

 彼を中心として、彼と仲間たちが、迫る困難を次々に乗り越える、そんな世界だったら。

 篠ノ之束の言う“シナリオ”の通りに、今日この日を迎えていたら。

 

 閃光が迫る、追い詰められた次の瞬間に、突如反撃のアイデアがひらめく。もしくは、仲間が来て助けてくれる。

 そんな、都合のいい運命を持つものこそが、フォン・スパークの求める“鍵”。

 世界の流れを作る者へと通じる、閉ざされた扉を開く鍵なのだ。

 

 

 

 

 

 

 黒いゴーレムが持つビームダガーから、高出力の刃が形成される。

 

 

 

 一夏はそれを、己の身で受けた。

 

 

 

「イレギュラーJ、織斑一夏」

 

 絶対防御の発動により、展開状態を維持できなくなった『白式弐式』が粒子の粒となって消え去る。力を失い落ちていく一夏のもとに、状況を俯瞰していたラウラがいち早く駆け付けるのを、フォンはつまらなそうに見ていた。

 

「テメェはもう、(主人公)じゃねぇ」

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