IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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長くなったので分割します。次話は明日の12時に予約済みです。


第176話 トランザム

 ――埒が明かねぇな。まさか、テメェにこの姿を見せることになるとは。

 

 ――〈トランザム〉

 

 

 

 

 

 

 ラウラの犠牲の果てに『ゴーレムⅢ』を撃破した葵。しかしそのとき彼女の視界に飛び込んできたのは、粒子となって消える『紅椿』と、禍々しい“紅”を纏った『白式type-F』の姿であった。

 

(あの光……まさか!?)

 

 自身が纏う“蛇の紋章”や、箒の“黄金の光”と似た力を感じ取った葵は、反射的に身をひねり、背後に蹴りを繰り出した。

 生まれ持った超感覚が〈オーバーリミット〉により強化された結果、未来予知じみた勘に基づいて動いた彼女だったが、その予測は半分当たり、半分外れだった。

 

「あげゃ、惜しかったな」

「嘘……!」

 

 フォンは確かに葵の背後に動いていた。だが、彼女が蹴り抜いたのは、紅い光の残像のみ。彼の姿はそこにはなく、直後、脇に感じた衝撃を受けて初めて、葵はフォンから攻撃を受けたことに気づいた。

 

「〈オーバーリミット〉についてくる。ということは、やっぱり――単一使用能力!この短期間で、第二形態まで進化したっていうの!?」

「ようやく気付いたか。コイツは『白式type-F』第二形態『ブラドアヴァランチ』。百戦錬磨のテメェでも、ナメてかかれない相手だぜ」

 

 ――かつて、『type-00』と呼ばれた第一世代機があった。

 IS本来の目的、宇宙開発のために作られたその機体は何よりも運動性、機動性を重視していたため、国家の枠を超えたプロジェクトチームが当時の最先端技術を惜しみなく注いでいた。あくまでもシミュレーター上のデータでの話だが、その速さと機動力はあの『白騎士』を凌いでいたというのだから、驚きだ。

 『type-00』自体は10年前のテロにより失われ、コアだけは回収されたものの、機体の一部はデブリとして地球軌道上を漂い続けていた。フォン・スパークは宇宙に上がり、それらをかき集め、亡国機業の基地を襲って奪った物資と合わせて、束の研究所で自身の機体を強化したのだ。

全身に『type-00』から移植したスラスターを増設し、ただでさえ運動性を増していた『白式type-F』は、第二形態移行を果たして単一使用能力(トランザム)を得たことで既存のISをはるかに超えた機動力を身に着けた。それは〈オーバーリミット〉を発動した『ブルーフレームセカンドK』すら超えていた。

 

 だが、葵もまた、自分より速い相手を知っていた。目の前の相手とどこか似通った“紅”が、自身の兄の背中が、彼女に勇気を与えてくれる。

 そして、その兄は今――

 

 

 

 

 

 

「何だ?こいつら、急に動きが――」

 

 一夏が砲撃を相殺した直後、『白式弐式』の影から飛び出した紅也だったが、反撃の一撃を見舞う刹那、『ゴーレムⅢ』から異常なエネルギーの高まりを感じた。

 気づいた時にはもう遅い。〈トランザム〉発動と同時にリミッターを解除された『ゴーレムⅢ』は、彼の想像を上回る速度で剣を実体化し、そのまま振り抜いた。

 

「うおぉぉぉっ!?」

「紅!」

「鈴音、そっちも!」

 

 とっさにシールドを具現化したものの、力任せの一撃は楯を砕き、『レッドドラゴン』を吹き飛ばす。だが、異変が起きたのは紅也が狙っていた1機だけではなかった。鈴を蹴り飛ばした腹に穴の空いた機体や簪と戦っていた機体、そして楯無と交戦していた機体。すべての『ゴーレムⅢ』が限界を超えた力を発揮し始めたのだ。

 それらが初めに狙いを定めたのは、すでに弱っている簪――ではない。

 フォンにより外されたリミッターと共に解禁されたのは、最終目標。“鍵”の可能性を持つ紅也を追い詰めること。4機の無機質な視線が、すでに戦いについていけなくなりつつある紅也を狙っていた。

 

 

 

 

 

 

「――意識を逸らしたわね?」

 

 

 

 

 

 

 一人で『ゴーレムⅢ』1機を完全に足止めしていた楯無は、この瞬間を見逃さなかった。

 武器や身を包むアクア・ナノマシンのすべてを、アクア・クリスタルを中心に一点に集中。それらを収束させ、圧縮し、超高密度の水の弾頭を作り出す。

 攻防一体の水を攻撃に集中させ、守りを捨てた乾坤一擲の一撃。それが『ミステリアス・レイディ』の必殺技、〈ミストルテインの槍〉であった。

 

「何をしたかは知らないけど、その性能を生かせないまま――沈みなさい!」

 

 楯無のすべてを乗せた、戦略兵器に匹敵するほどの一撃は、『ゴーレムⅢ』をシールドビットもろとも貫き、アリーナ全域に轟くほどの大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 遠くから響く爆発は、敵のものか、味方のものか。そんなことも分からなくなるほど、紅也の状況は悪くなっていた。

 シールドを砕くほどのパワーは、『ゴーレムⅢ』に備わっていなかったはず。機動性もそうだ。全ての能力が一瞬で、数段階引き上げられた。これではまるで、単一使用能力ではないか。

 

《……違うな。彼女たちは今、リミッターが外れている》

《まるで、軍事用の機体だな。暴走した時の『銀の福音』と同じか》

「なるほ……どっ!?」

 

 先ほどの一撃で皆から引き剥がされた紅也は、突如自分を集中狙いし始めたゴーレムに対応するので手一杯だった。合流など望むべくもない。

 今もこうして、簪が引き付けてくれていた『ゴーレムⅢ』に襲われながら、縦横無尽に飛び回る攻防一体のビット――おそらくは、最初に落としたと思い込んでいた1機が、姿を隠してコントロールしているはず――を回避しているものの、行動パターンを読まれ始めたせいか、はたまた性能差の問題か、徐々に攻撃が装甲をかすめ始めていた。

 加えて、さっきの一撃で、義手のどこかがイカれた。左腕の神経伝達速度が普段の70%ほどにまで下がっている。日常生活ならともかく、音速越えの戦闘下でこの遅れは致命的だ!

 

《! 接近警報!剣の奴が来るぞ》

「パワードレッドに換装!間に合うか……?」

 

 一夏たちはよくやってくれていたが、とうとう1機逃がしたらしい。1対2でもこの苦戦。そこに、もう1機加わったら――。

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん……」

 

 コンビを組んでいた以上、簪は知っていた。

 あの技はいわば捨て身の一撃であり、使うと『ミステリアス・レイディ』はしばらく戦闘不能になることを。そうまでして決着を急いだのは、自分たちが危機に陥っているからだと。

 

「私、は……」

 

 『打鉄弐式』は損傷が激しく、本来の機動力は出せない。戦闘に加わることはできるが、今できるのは他の人の援護が関の山。

 

 ――私が、お姉ちゃんみたいに『ゴーレムⅢ』を倒せなかったから?

 

「簪さん?あまり前に出られては……」

「紅が心配なのはわかるけど、落ち着きなさい!まずはコイツを……」

「私、だって……!」

 

 半壊状態の機体を無理やり変形させる。荷電粒子砲〈春雷〉のバレルの片方を翼に見立てて固定、すべてのスラスターを機体後方に配置。バランスはガタガタだけど、一瞬なら――翔べる!

 

「二人とも、手伝って。私だって、1機ぐらい、墜として見せる!」

 

 瞬時加速、多重起動――!

 

 返事も聞かず、後のことも考えず、やみくもに飛び出した。狙いは紅也くんを吹き飛ばして、またしても彼を傷つけようとしてる、大剣を持ったあの機体!

 相手もすぐにこっちに気づいて、片腕だけを動かして砲口を向けてきた。防御?回避?今の打鉄弐式(この子)にそんな器用な真似はできないし、やったら追いつけなくなる。照準警報、エネルギー臨界、そんな注意事項が網膜投影されるけど、それらは全部無視した。

 

 だって、私は信じてる。ヒーローみたいに一人で戦ってるんじゃない、後ろに仲間がいるんだから!

 

 私を追い越すように放たれたレーザーが、軌道を変えて『ゴーレムⅢ』を襲った。もう曲がるレーザーに慣れ始めたのか、敵もシールドビットを展開して直撃は防いだけど、防御に意識を向け過ぎ。私への狙いが逸れた!

 お姉ちゃんが言ってたように、一度に複数の動作を強いることができれば、どうしても一つ一つの制度は荒くなる!さらに敵のリソースを削るため、クリムゾンに制御を任せたミサイルを全弾一斉に撃ってやった。そのどれもが敵本体に届くまでに落とされ、あるいは防がれたけど、やっぱり攻撃の対処にムラがある!

 

「そこ……!」

 

 攻撃への反応が鈍かった場所に、機体を滑り込ませる。敵の反撃でエネルギーは削れたし、翼もダメになったけど、一番大事なものは残ってる。

 エネルギーを限界以上に充填した、この最後の荷電粒子砲だけは!

 

「沈……めぇぇぇ!!」

 

 砲塔を敵機の腹部に突き刺した私は、きりもみ回転しながら引き金を引いた。瞬間、方向性を与えられた高熱量のエネルギーが一息に放たれ、進路上にあるものすべてを焼き尽くしていく。PS装甲すら貫通するビームを、さらに強化した一撃。たとえ篠ノ之束謹製のISだって、耐えられるはずがない。

 

 至近距離から、自らもその光の奔流に巻き込んだ簪は、それでも笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

《後ろから来てたやつが落ちた!簪がやったぞ!》

「あの損傷でか?なんて無茶を……!」

 

 これで『ゴーレムⅢ』はあと3機。紅也に狙いを定め、執拗に狙ってくる1機と、一夏たちが交戦中の1機、そしてビットをコントロールしている所在不明の1機。

 

「あの簪が根性見せたんだ。俺も、頑張らないとな!」

《気合は結構だが、性能差は埋まらないぞ!》

 

 迫るメイスを『パワードレッド』の右腕で迎え撃つも、力負けして弾かれる。その先に待ち構える殺意にあふれたビームの網に飛び込まないよう軌道変更したが、またしてもスラスターの推進剤を使い過ぎた。これが切れたら、『レッドドラゴン』本体のエネルギーまでスラスターに回さなければならない。すでにエネルギーは目減りする一方で、ジリー・プアー。ビームに回す分はとうに尽きている。

 早く、誰かと合流しなければ。その思いとは裏腹に、紅也への攻撃は激しさを増していく。

 

「くそっ、ラウラもやられた。簪も……箒まで!葵だって、あんな滅茶苦茶な奴とタイマン張ってるのに、俺は……!」

《! やめろ、紅也。焦るな!》

「無人機なんかに、やられるかっ!」

 

 怒りのままに拡張領域から具現化したのは、『レッドドラゴン』の中でも最大にして最強の武装。MS級の大型日本刀〈150ガーベラ〉。確かにこれを適切に使えば、たとえ『ゴーレムⅢ』とて一撃で機能停止させることができるはずだ。

 だがこの武器を振るうには、紅也にはあらゆるものが足りていなかった。

 〈150ガーベラ〉を構えた瞬間、機体が勝手にスライドしたのを感じた。どうやら回避を担当していたコアが、自発的に機体を動かしたらしい。一体何を、と紅也が問いかけるよりも早く、背後から聞こえた爆発音が、彼に現実を突きつけた。

 

「……オイオイ」

 

 その姿が消える直前にセンサーに移ったのは、見慣れたビームサーベルの刀身。それが『レッドドラゴン』のバックパックに接続されていた〈カレトヴルッフ〉を貫き、一瞬でスクラップに変えてしまった。

 

《まずい。『レッドワイバーン』では……!》

 

 弱った獲物を見逃すほど、狩人たちは甘くはない。

 

 

 

 

 

 

 〈カレトヴルッフ〉の破壊。

 それが『レッドドラゴン』の能力を著しく下げることを、この場にいる誰もが知っていた。

 だからこそ、彼女たちは覚悟を決めた。自分が傷つく覚悟を。

 

「行って、みんな!」

「鈴音さん!」

 

 今まで4機がかりで抑えていた『ゴーレムⅢ』に対して距離を詰めながら、鈴が叫ぶ。

 

「あんたたちも気づいてるでしょ?敵は、どう見ても紅を狙ってんのよ!」

「それは……」

 

 不用意に近づいてきた『甲龍』を認めた『ゴーレムⅢ』は、衝撃砲の嵐に翻弄されながらも、展開装甲を大剣として装備し、迎撃態勢に入る。一夏たちも援護をするものの、リミッターの外れたビットを貫ききれず、有効打は入らない。

 

「だから、こいつはあたしが抑える!至近距離での衝撃砲なら、いくらこいつだって!」

 

 しかし、支援という目で見るのなら、彼らは完璧に役割をこなして見せていた。威力の低い衝撃砲よりも、ビームや実弾の嵐によるダメージを嫌った『ゴーレムⅢ』はそちらの防御を優先し、結果的に鈴への対処は手薄になったのだから。

 

「無茶だ鈴!せめて俺も……」

「あんたももう限界でしょ?あたしの『甲龍』は、継戦能力が売りの第三世代機。まだまだいけるのよ!」

 

 鈴はさらに、拡散衝撃砲の間合いにまで距離を詰めた。この距離なら、相手の後ろに砲塔を形成することだってできる。不慣れな操作を行ったことで生じた頭痛に一瞬顔をしかめる彼女だったが、意地と気合でそれを押し殺した。

 

「みんな、あんなに頑張ってんのよ。葵だって……なら、あたしだってっ!」

 

 敵の右手が動けば右手を、左足が動けば左足を。そうして敵の動きに先手を取り続け、鈴は衝撃砲の複数同時発射を続けていく。それはさながら、一部の突出した空間把握能力者が行うオールレンジ攻撃のよう。なんだかんだでセシリアと共闘する機会の多かった彼女は、その最中、新たな扉に手をかけていたのだ。それが今、仲間の奮起や紅也のピンチを機に、一気に開いただけのこと。

 フォンに言わせるならば、それこそが“鍵”による変化なのかもしれない。だが、それを聞かされたところで、彼女は鼻で笑うに違いない。

 

 一方、『ゴーレムⅢ』もただやられているわけではない。あまりにもしつこい『甲龍』相手に逃げ切ることを諦めたらしく、脚部の展開装甲までも武器として使用し、鈴を先に倒しきることにしたようだ。死地に踏み込んだのは、鈴もまた同じ。考えるより先に反射で体を動かし、自身の動きすら俯瞰して逃げつつ戦う。そうしなければ負ける。

 〈高電圧縛鎖〉こそ使っていないものの、それはさながら、ISによるチェーンデスマッチだった。

 

「…………」

 

 セシリアは無言で〈ブルー・ティアーズ〉を引き上げ、今度はスラスターに攻撃を受けた紅也の元に向かう。鈴が見せた戦い方は、彼女が前言を翻しはしないことをなにより雄弁に語っていた。

 

「……すぐ戻るから!」

 

 シャルはバックパックを〈マルチプルアサルトストライカー〉に戻すと、鈴に背を向けた。防御に回っていたビットが解放され、『ゴーレムⅢ』の攻撃は激しさを増していく。

 

「くっ……」

 

 普段はあんなにちっこいのに、やけに大きく見えた赤い背中が、ただ「行け」と語っていた。彼女の葵以上に負けず嫌いな性格を考えても、きっと何を言っても聞きやしないだろう。

 だからこそ一夏は全力で、倒すべき敵の元へと機体を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 紅也が押されている。

 そして、私も。

 

 〈カレトヴルッフ〉の破損に気を取られた一瞬で、またしても攻守が入れ替わった。彗星のように赤い尾を引き、通常の3倍にも迫る速度で移動する『ヴラドアヴァランチ』。その名が示す通り雪崩のような勢いと破壊力を持った機体は、純粋な機体瀬能だけで見るならば、今まで戦った相手の中で最強の相手だ。そして操縦者もまた、殺人的な加速をものともしない強靭さを備えており、戦いの心得もある。第一、一度は首を爆破されたはずなのに生きていたのを、東南アジアの戦いの際に目撃している。自分も“化物”と呼ばれることがあるが、とんでもない。ただの人間(ナチュラル)のはずなのにコイツのほうがよほど化物だ。

 非常に腹立たしいが、能力を〈英雄殺し〉に切り替えることも選択肢に入れたけど、何らかの制限にかかったのか、それは不可能だった。いや、そもそも変えたところで戦力差が開くだけかもしれないし、あの力にはまだ未知な部分がある。博打は避けて、堅実に行くべきだ。私は、いつもそうやって勝ってきた。

 

「……そこよ!」

「おっと、外れだぜ」

 

 無茶な使い方をしたせいで歪みが出た〈タクティカルアームズ〉は、すでに大剣として使うには心もとない。全てのリソースは機動力に回して、少しでもこいつについていく。武器は、軽いけれど極大の破壊力を持つ〈ビームサーベル〉を使う。エネルギーを消費するから多用はしたくない武器だけど、〈零落白夜〉を持つフォン相手に長期戦は避けたい。こいつも、エネルギーはだいぶ消耗しているはずだけど、『バスター』のように、何かエネルギーを補給する手段を持っているかもしれないから、油断できない。

 それに、ここでこいつを倒せなければ、次は紅也に矛先が向く。それだけは絶対に避けないと。今の紅也なら、2秒で負ける。だからせめて、アレが届くまでは。

 

「あげゃげゃ!」

「甘い!」

 

 一瞬だけ発動した〈零落白夜〉を躱して反撃を狙うも、相手はすでに射程外。こんなとき、『サード』形態の双剣があれば、エネルギー残量なんか気にせず戦えるのに。あいにく、あのミッションで使った装備は全て『秘匿』扱いとなり封印されたため、今の拡張領域には入っていないのだ。

 あとは、思い切って〈雪片弐型〉を白羽取りして奪い取り、権限を書き換えるという手もある。……なんてね、この速さで動き回る機体から白羽取りだなんて、それこそ人類最高峰(スーパーコーディネーター)クラスでもないと無理じゃないの?堅実に、よ。

 

「お返しよ」

「あげゃ、惜しい惜しい」

 

 だんだん、こいつの動きにも慣れてきた。もうしばらくエネルギーが持つのなら、独力での逆転も可能。そんなことは、この男も分かっているはず。積極的な攻めをしてこないのは何故?消耗のせいかもしれない。でも、ブルーも私も、こいつにはまだ何かがあると感じている。だからこそ、うかつに攻められない。時間を稼ぐしかない。

 きっとそれでいい。今や時間は、私たちの味方だ。

 

 

 

 

 

 

「くうぅぅぅ!」

 

 エネルギーを、そして装甲を削られつつも、鈴は『ゴーレムⅢ』をただ一人で押しとどめることに成功していた。度重なる被弾で『甲龍』は限界。彼女自身もふらつく意識を必死に留めながら、ただ目の前の敵の姿を見失わないように睨みつけていた。

 衝撃砲の砲身を形作る力場を、敵機を中心に展開。空気で鋳型を作るように相手を固め、身動きを取れなくする。しかし、そこは『パワードレッド』すら上回る力を持つ『ゴーレムⅢ』。鈴の健闘も虚しく、力任せに拘束を引きちぎりながら大型ビームの砲身を動かし、徐々に彼女へと狙いを定めていく。どうやら自分の役割はここまでだ、と鈴は悟った。

 

「なら……あたしの全力を、喰らいなさい!」

 

 持てるエネルギーのすべてを注ぎ込み、鈴は拘束を強化した。『ゴーレムⅢ』の動きが再び鈍り始める。それでも、完全に止めることは不可能だった。死神の銃口が、秒針の動きのようにじわじわと鈴に迫り、撃墜までのカウントダウンを刻んでいる。

 

 ――彼女にとってのヒーローは、そんなときに現れた。

 

「うおぉぉぉぉっ!」

「一夏!?なんで……」

「俺は、俺はもう絶対に……」

 

 かつての臨海学校で誓った言葉。強くなりたい。

 葵のように強く、紅也のように誰かを守れるように。

 その誓いを嘘にしないために。二度とあんな惨めな思いをしないために。一夏は戻ってきた。誰かを見捨ててつかんだ勝利は、彼にとっては敗北と同じなのだ。

 

「大切なものすべてを、守ってみせる!」

 

 この一撃にすべてを賭ける。箒から与えられたエネルギーのすべてを、彼は〈白鵠〉に注ぎ込んだ。想定を大きく超えるエネルギーが注がれたビームクローは、爪の形を超え巨大化し、混ざり合い、一本の光の剣となる。

 〈零落白夜〉を失った一夏が、再びその力を求め、復活させた奇跡の一太刀。千冬から一夏に受け継がれた必殺剣の魂が、『白式弐式』に宿った。

 

「これが、俺の魂の一撃――〈スピリット・オブ・ソード〉!」

 

 あの『150ガーベラ』に匹敵する巨大な光の剣が、『ゴーレムⅢ』の全てを白く染めていく。

 光が収まったとき、そこには何も残っていなかった。

 

「へへっ……やってやったぜ」

「無茶し過ぎなのよ。……ありがと」

 

 そして二人の機体もまた役割を終え、粒子となって消え去るのだった。

 




・フォン勢力
 フォン・スパーク『白式type-F』第二形態『ブラドアヴァランチ』:不明
 第四世代無人機『ゴーレムⅢ』×2

・学園勢力
 織斑一夏『白式弐式』:機能停止
 篠ノ之箒『紅椿』:機能停止
 セシリア・オルコット『ブルー・ティアーズ』:弾頭型〈ブルー・ティアーズ〉1基ロスト、損傷軽微
 凰鈴音『甲龍』:機能停止
 ラウラ・ボーデヴィッヒ『シュヴァルツェア・レーゲン』:エネルギー残量1%未満、機能限界
 山代葵『ブルーフレームセカンドK』:本体損傷なし、エネルギー残量低下

 山代紅也『パワードレッドワイバーン』:左腕機能低下、〈カレトヴルッフ〉1本ロスト、バックパック損傷
 シャルロット・デュノア『オレンジフレーム』:損傷軽微、エネルギー残量低下
 更識簪『打鉄弐式』:機能停止
 更識楯無『ミステリアス・レイディ』:装甲小破、防御力低下

 ????『??』:出撃準備完了
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