IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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お久しぶりです。
今回は新章のプロローグとなります。


最終章 VS ASTRAYS
第179話 SEED of DESTINY


 ——この地球上に存在しながらも、誰からも観測できない、とある場所。

 

 その存在を知る僅かな者からは『ラガシュ』と呼ばれる秘密基地において、無数のモニターに囲まれた一人の女が満足げに口角を釣り上げていた。

 

「人類の歴史を歪めるモルゲンレーテと、イレギュラー2の抹消。そして……」

 

 彼女の視線がモニターの1つに映っているのは、消滅したモルゲンレーテを背に飛び去る赤い機体『アストレイ・レッドフレーム』。その周辺の画面では、今回の事件に対する世界各国の反応、メディアの放送、情報の嵐に呑まれて右往左往する人々の姿が次々に映っては、消えていく。

 

 

「イレギュラー6、コウヤ・ヤマシロも抹消完了。彼らが巻き起こした混乱も終息に向かい、新たな混乱が始まる」

 

 

 彼女が期待した――否、誘導した通り、世界は襲撃を引き起こした正体不明のテロ組織と、それを手引きしたと思われる紅也への憎しみでまとまりつつある。多少力を貸したとはいえ、亡国機業はよく踊ってくれたものだ。彼女は再び笑みを浮かべた。

 

 

「とはいえ、モルゲンレーテを失ったことで、オーストラリアの国際競争力が低下するのはよろしくないわね。……何社か使って“W・W・K”に支援を。生き残った元モルゲンレーテ職員の引き抜き工作も並行して進めなさい」

 

 

 世界の影に潜みながら、世界の全てを把握するこの女性の名は、マティス。古来より人類の管理者を自称する、“一族”の党首。

 彼女もまた、世界の流れを作る者の一人。だが、彼女が知らぬこともこの世界には存在する。

 

 

 

 

 

 

「やってくれたわね、マティス……」

 

 

 マティスと時を同じくして、彼女とうり二つの容姿を持つ男性が、モルゲンレーテ壊滅の報を部下から受け取っていた。IS学園で起こったフォン・スパークによる襲撃事件とタイミングを合わせたように起こったモルゲンレーテの崩壊に、彼は裏で手を引く何者かの意図を感じ取っていた。

 

 

「“一族”の介入がなくても、人の営みは変わらない。そもそも“彼ら”は、既に役割を果たした後だというのに」

 

 

 モルゲンレーテ消失の原因は、その兵器(・・・・)の発案者である紅也本人にとっては一目瞭然。そして現場から飛び去るレッドフレームを見た世界(・・)の反応は、内外から彼を苛む刃となって……彼は壊れる。それは同時に、鍵の写身である少女の抹消をも意味するだろう。なるほど、“一族”の最高傑作たる彼女らしい、効率的な手段だ。

 

 しかし……と、マティアスは思考を続ける。

 

 誰よりも古くから存在し、人類の幸福を追求するために全ての情報を獲得し続けている“一族”だからこそ、知りえないことがある。

 世界の流れを作っているのは、“一族”でも、彼らが“イレギュラー”と呼ぶ人類の特異点でもない、という当たり前(・・・・)のことを。世界の情報を見ることと、世界を見ることは、別のことだということを。

 それを教えてくれた一人の男の存在を思い出したとき、彼の口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。

 

 

「さて、貴方は今どこで、何をしているんでしょうね――ジェス」

 

 

 

 

 

 

「こっちだ!手を貸してくれ、カイト」

「落ち着け、ジェス。無暗にどかせば崩落するぞ」

 

 

 第一開発局を中心に、半径500mほどの空間が、文字通り消滅(・・)したモルゲンレーテの、外周部。ヒメとワイズの戦闘の余波で崩壊した倉庫の一角に、ジャーナリストのジェス・リブルと彼の護衛であるカイト・マディガンの姿があった。

 年に数度ある公開日の折に取材に訪れていた彼らは、そのまま偶発的に戦闘に巻き込まれたものの、ユンとエリカの誘導により他の見学者と共に離脱。その後、第一開発局から飛び出した『レッドフレーム』を目撃したジェスは、カイトを伴ってその軌跡を追ったものの……途中で、避難が遅れて負傷していた数名を救助している間に、その機体は空の彼方へと消え去っていた。

 “真実”が指の間をすり抜けていく気配を感じたジェスであったが、彼は優先順位を間違える男ではない。今は助けられる人を助けていくことを最優先事項として、こうして救助活動に精を出していた。

 

 それから数時間後、生き残ったモルゲンレーテの職員たちと共に全ての職員や見学者たちの無事を確認した彼らだったが、話を聞いているうちに、ジェスはそこにいない“もう一人”の存在に気付き――今、とうとう、崩れた鉄骨の隙間から伸びる手を発見したのだ。

 およそ少年には似つかわしくない、可愛らしいピンク色の携帯端末を握りしめた手は薄く色付いており、ジェスは安堵した。

 

 

「ここなら人目も届かない。『レイスタ』を使う!」

「やれやれ……ジェスのせいで余計な仕事ばかりさせられる」

 

 

 ジェスの言葉を合図に、二人は自身が持つISを模したパワードスーツ――原理としては、現場から飛び去った初代レッドフレームと同じもの――を展開し、フレームを支えにしながら鉄骨をどけていき、少年の安全を確保した。これほどの崩落に巻き込まれながらも、少年の身体に目立った傷はない。不幸な事件に巻き込まれながらも、彼はよほど運命(DESTINY)に愛されているようだ。

 機体を収納した2人は、少年の身元を確認しようと周囲を確認したが、あいにく荷物らしきものは見当たらない。とりあえず、唯一の手掛かりである携帯端末に手を伸ばしたとき――固く閉じられていた瞼が開き、赤い瞳が彼らの姿を捉えた。

 

 

「父さん、母さん……マユは!?」

「おいおいボウズ、急に動くな。あんな崩落に巻き込まれたんだからよ」

「崩落……?」

 

 

 なかなか働かない頭をぼやけさせていた霧が、その一言で急に取り払われた気がした。遠くで起こった音の無い爆発と、上空から聞こえるIS同士の戦闘音。今しがた消滅した施設にいたはずの両親と妹。思わず飛び出した瞬間、近くで聞こえた金属音。そして、無数の鉄骨によって切り取られた空のカケラに映りこんだ、裏切りのASTRAY。

 

 

「『レッドフレーム』……!」

 

 

 怒りに燃えた赤い瞳が、家族を奪った仇敵の姿を探すかのように、暁の空を睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさい。よく戻ったわね」

「スコール!わざわざ出迎えてくれるのか」

「ふん、珍しいこともあるものだな」

「実はツンデレさんだったのかしら?なんてね」

「おいおい、ブリっ子はいいが年を考えろよ、ワイズ。なあ、あんたもそう思わんか?」

「儂を巻き込むな。そもそも年齢でくくるなら、儂が一番若いじゃろうが」

 

 

 このように気の抜けるような会話をしている集団が、つい先ほど、歴史に爪痕を残すような大事件を引き起こした者たちだと、誰が考えるだろうか。ここは亡国機業の息のかかった民間のファクトリーのひとつ。オーストラリアで一仕事終えた彼らは、追跡を撒いた上で再び合流し、作戦後のデブリーフィングを行おうとしていた。

 

 

「本命の確保は?」

「失敗だよ。まさか、開発施設ごと自爆するとはな~」

「じゃが、儂の弟子も含めて、アレのデータを持った技術者は全員消えたはずじゃ。まさに死守じゃな」

「ならば、最低限の義理は果たしたと言えるでしょう」

 

 

 彼らの第一目標であった、完成すれば〈蒼衣〉と呼ばれるはずだった専用装備(オートクチュール)は、技術者たちの決死の抵抗により消失した。確保こそできなかったが、“一族”がつけた条件である「〈蒼衣〉の抹消」は果たされた。奴らに下部組織であるかのように扱われるのは我慢ならないが、それも一時の辛抱だ。このまま計画を進めていけば、間もなく最後の扉が開く。

 

 

「じゃあ次。モルゲンレーテの機体の奪取は?」

「見ればわかるでしょう?“コア無し”が3機よ」

「肝心のコアは奪えず、『テスタメント』も破壊されて……無様だなぁ?」

「……ふん、たかが量産機相手に後れを取っていた奴がよく吠える」

「エム、テメェ!」

 

 

 ワイズを馬鹿にされたことに腹を立てたのか、今まで静かだったエムがオータムに噛みついた。隠していた自身の失態を暴露されたオータムは怒りをぶつけるが、今の彼女は機嫌がいい。目の前の小物の怒声など、気に留める必要もなかった。

 なにせ、この作戦により、あの山代紅也が――何人もの仲間を葬り、ずかずかと無遠慮に自身の心に入り込んだ挙句、生身でありながら機体を傷つけられるという屈辱を味わされたあの不愉快な男が――これまで積み上げてきた全てを失い、世界に裏切られ、絶望する。これほどまでに心躍る出来事が他にあるだろうか!

 

 

「まあ2人とも落ち着け。補足させてもらうと、オータムは慣れない機体で、しかも3対1だ。落ち度は無かった。むしろ、よく持ちこたえたもんだ」

「アンタにフォローされんのが一番腹立つんだよ!」

 

 

 空回りするオータムと、言うだけ言って話を聞いていないエムを見かねたダンテが仲裁に入るが、逆にオータムの怒りの炎に油を注いでしまう。

 なにせこの男、戦場に乱入したかと思いきや、3機の『M1アストレイ』を相手に圧倒。機体の奪取こそできなかったものの、追撃を防ぐ上で果たした役割は大きく、ついでに言うなら実力もオータムを上回っていることを証明してしまったからだ。

 そんな相手のフォローを素直に受け止められるほど、オータムの器は大きくなかった。

 

 

「まあ、彼女たちは放っておきましょう。……最後に確認よ。モルゲンレーテの操縦者は?」

「ふふっ、私がここにいるのが証拠にならないかしら。……ヒメには勝って、機体を破壊した。私と違って、怪我を治すにも時間がかかるでしょう。エイミーちゃんは……」

「“一族”は優秀ね。あの『テスタメント』のコピーを使っていたことが、すでに国際IS委員会で問題視されているわ。『ストライク』の技術を漏洩したように見えるこの状況……彼女、もう終わりね」

 

 

 彼らが立てた作戦は、完璧とはいかないまでも、十分な成果をもたらした。

 モルゲンレーテの最新兵器を抹消し、技術の結晶たる機体を奪い取り、戦力足り得る操縦者も奪った。

 だが――果たして、それだけだろうか?

 

 

「これで、貴女の目的にも近づいたのかしら。ねぇ、ワイズ?」

「さぁ?私はただ、組織の命令に従うだけよ」

 

 

 彼らが行った全ては、こう言いかえることもできる。

 紅也の発案した兵器により紅也の拠り所を消滅させ、紅也の機体により世界の悪意を彼に集め、紅也にとって大事な2人を表舞台から追い出した。

 故郷も、名誉も、家族も一瞬で失った彼は、“かつての紅也”のままでいられるのだろうか?

 

 

(前は駄目だった。葵を亡くしたことで強くなったけど、それだけだった。私たち(・・・)の望む成長は望めなかった。それはきっと、あの子が一人だったから)

 

 

 故郷と、名誉と、家族を失った。それは、全てを失うことと同じだろうか?

 

 周りを見渡し、目を向けなければ、何も始まらない。拒絶からは何も生まれない。

 かつて彼自身が語った言葉を、紅也は思い出すことができるだろうか。

 

 彼は一人ではない。ここまで紡いだ縁が、きっと彼に救いの手を差し伸べるだろう。

 それが、良きにせよ――

 

 

「ならば儂は、スカウトに向かうとしよう。新たなエージェント……『K』となる者を、な」

 

 

 ——悪しきにせよ。

 




次話以降はストックが増えてから更新予定です。年内完結を目指します。

クロスレイズの戦闘モーションを見てから、インスピレーションが止まらないですね!
レッドフレーム、ブルーフレームのほぼ全形態を収録してくれたことに感謝。でも天ラスやロードアストレイより先に、アストレイノワールやミラージュフレームセカンド/サードイシュー、それにライブラリアンのGを収録して欲しかった……。
W系も扱い悪いなぁ。EXクリアで解禁される要素がないのはちょっと。個人的には『白雪姫』とか使いたかったんですけど、残念でした。
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