「——こちら、現場です。専属操縦者の暴走により崩壊したモルゲンレーテ中心部は、塵一つ残さず完全に消失しており――」
目の前に置かれた
「——世界で2人目の男性IS操縦者と言われていた山代紅也ですが、現在は日本のIS学園に在籍しており当日もそこでタッグマッチトーナメントに出場したと言われておりますが、映像は非公開となっており――」
「——我々国際IS機構は全てのISの起動・稼働ログを保有しております。しかし当日はIS学園にてISが稼働した痕跡は確認できず――」
モルゲンレーテ壊滅から数時間と経たないうちに、現場の混乱や情報封鎖の失敗からこうして民間にも情報が流出し始めている。
「——モルゲンレーテで確認された『アストレイレッドフレーム』からは検出されたコア反応は、当機関に登録されたものと一致しており――」
「——IS学園からの公式発表は未だに無く、山代紅也の所在についても不明のまま――」
「——俺の家族は、アイツに殺されたんだ!自分の親と戦ってまで、一体何がしたいんだ、アンタは!」
憶測、推論、恐怖、混乱——それら全てが一つの方向性にまとめられ、いびつに束ねられていくような不快感を感じる。
「——この映像は、7月にとある地域で撮影された『レッドフレーム』の映像です。同時に確認できる他の機体とは異なり、PIC使用機体特有の噴射スペクトルではなく――」
「——つまり、彼は世界2人目の男性IS操縦者ではなく、ただのペテン師であった可能性が――」
「——モルゲンレーテには他にも疑惑があり、N.G.Iと共同開発を行ったビームライフルについて、同社からは無許可の技術盗用と——」
「——IS起動信号の偽装は、当委員会としては極めて悪質な特級違反行為と定めており、操縦者および関与した機関に厳重な抗議を――」
それだけではない。ビームライフル強奪事件、IS
悪意によって歪められた情報が、真実を覆い隠していく。
お前の“真実”は伝わらない。画面に映る全てがそう語りかけてくるようだった。
「——やはりな。奴は初めから怪しいと――」
「いつまでくだらん報道を眺めているつもりだ、馬鹿者」
大衆にとっての“真実”から俺を引き戻したのは、画面の外から響く声。
いつもと変わらぬ厳しい台詞だが、それ故に反射的に身が引き締まり、意に反して声の主を見る。半年以上続いた毎朝の習慣が、俺の意識を現実に呼び戻す。
「織斑先生、どうも。葵は大丈夫ですか?」
「妹よりも自分の心配をしろ、まったく……。“敵”は、お前ひとりに狙いを絞っているようだ。葵は自室待機を続けさせているが、一夏たちがうまくやっている」
「それはそれでお兄ちゃん心配なんですが……。学内の空気は?」
「事前に行ったトレーニングの再編映像を“タッグマッチトーナメント”の映像として流し、生徒会も情報操作を行っている。お前が学内にいたことは誰一人疑っていないさ。しかし、タイミングが悪かったな」
「『ターンデルタ』から『レッドドラゴン』に再換装した時期を狙われましたからね。元々俺の機体は仕様変更が多いから、初期の『レッドフレーム』に戻していても違和感ないというか。……学外の方は?」
「……見ての通りだ」
織斑先生と2人、8の画面に映る各国のニュース映像を眺める。いずれの報道でも山代紅也によるモルゲンレーテ襲撃とモルゲンレーテの失態・悪行を大々的に報じており、複数の報道を見ることで『山代紅也がISコア反応を偽装しモルゲンレーテを攻撃した』という情報が自然と浮かび上がってくるようになっている。
「それが“奴ら”のやり方だよ。情報を制する者が世界を制すると信じて、フィクサー気取りで世界の流れを捻じ曲げてる連中さ」
「『一族』ですか。篠ノ之……束博士の話を聞いても半信半疑でしたが、こうして実例を見せられると、なかなか堪えます」
「ちなみに私はその他大勢の評価なんか気にしないから、力でねじ伏せたけどね」
「そりゃ既存兵器すべてを上回る超兵器を482機と、最強の操縦者までセットにされたらそうでしょうね。正しく“イレギュラー”ですよ」
最後の鴉や人類種の天敵やルビコンの猟犬が群れで襲ってきたら、人類滅亡待ったなしだ。
「そう、『イレギュラー』。奴らは私とちーちゃんのことをそう呼んでたよ」
「私は『イレギュラーA(エース)』、お前は『イレギュラー4』だったか?」
「ナイショ話を聞いた感じだと、あの支配者オバサン『イレギュラーAは抹消した』とかキメ顔で言ってたよ~。『暮桜』を封印して、ちーちゃんを学園に縛り付けただけで安心しちゃったのかな?」
「社会への影響力を失わせること、失墜させることが一族の目的ですか。『亡国機業』と違って、目の前に出てきたところをぶち転がすだけでは倒せないのが厄介ですね」
学園の外での俺の評判は、国営企業であるモルゲンレーテに反乱を起こしたテロリスト。織斑先生や更識先輩が頑張ってくれるのはわかるが、国際IS委員会からの査問状が届くのも時間の問題だ。そうなれば俺は終わる。そして、俺と共にレッドフレームが生み出した可能性——男性でも使用できる宇宙開発用パワードスーツの開発という未来も葬られる。トロヤの『グリーンフレーム』や、ジェスさんの『レイスタ』といった、レッドフレームから生まれた可能性が消える。
モルゲンレーテと共に消えた皆が、生きてきた証が消えてしまう。
「……こーやん、泣いてるの?」
「子供が無理に理性的に振舞おうとするな、馬鹿者が……」
そう、消えた。
モルゲンレーテが、俺達の家が消えた。
爆心地は開発部の地下だった。あそこには、俺が開発中の新武装があった。
もしもアレを――<蒼衣>の間違った使い方をしていたら、巻き込まれたものは塵一つ残さず量子分解される。
あそこには父がいた。母がいた。エリカさんやユンさんがいた。多分エイミーさんもいた。ジェスさんやカイトさん、M1隊の皆もいたかもしれない。開発部の皆もいつもあそこに集まっていた。
調整を行っていたラヴ師匠は、間違いなくそこにいた。
そして、全ては消えた。
「——もう、誰もいない。誰も……。なら、俺は何のために……」
俺に残ったのは、葵だけ。その葵はもう、一人で歩いていける。
ならば俺は――皆を消してしまった俺も、消えるべきなのかもしれない。いや、消えなければならない。
「~~!紅也!」
意識が闇に堕ちていく刹那、突然肩に力がかかり自然と顔が上を向く。友人によく似た栗色の瞳が俺の視界に大写しになった意味を理解するよりも早く、背中に回されていた手が俺と織斑先生の距離をゼロにした。
「お前はここの生徒でいたいと、そう言ったのを忘れたか。お前がそう望む限り、私たちがお前を守ってやる。だから……そんな顔をするな。お前がいなくなって、悲しむ人がいるのを忘れるな」
何が起こっているのか理解が追い付かない。ただ、与えられた暖かさ、柔らかさに身を委ねると不思議と心が落ち着いた。
「まだ時間はある。何も考えず、今は休め。あれからロクに眠れていないだろう?」
「わぁーお、ちーちゃんってばダ・イ・タ・ン♡」
「……はっ、これはだな、一夏のやつも昔はこうして……」
熱に溶かされるように、俺の意識は再び闇に堕ちていく。
◆
目を覚ますと、背中に感じる砂の感触と磯の香り。視界に映るのは、おそらく誰も見たことがないであろう束博士の間抜け面——ではなく、満天の星空。夏休み中に何度も訪れたどこかの孤島——ISコアと同化した少年、プレア・レヴェリーの精神世界の中に俺はいた。
「——すべて、思い出しました」
隣に立つプレアは、いつも見ていた幼い少年の姿ではなく、彼が真っ当な人生を送っていれば至っていたはずの姿、20代前半の青年となって俺を見下ろしていた。砂浜と海は幻のように消え去り、翼をもがれ朽ちた天使像が俺たち二人を見守っていた。
「あの日——モルゲンレーテは『テスタメント』と『アストレイノワール』を含めたIS複数機の襲撃を受けました。エリカさん達は僕にアストレイシリーズの予備パーツや追加兵装をありったけ収納して、その記憶を封じてから送り出した」
夕日に照らされた天使の影になり、プレアの表情はわからない。冷たい石レンガから体を起こすと、悲しみをたたえた翠の瞳がまっすぐに俺を見つめていた。
「皆さんが何を考えてそんなことをしたのか、僕にはわからない。でも紅也さん、皆さんが貴方たちを大切に思っていることは、何があっても変わらない真実です。どうか、それを忘れないで」
成長したプレアは廃教会という風景と合わさって、さながら導師のように見える。彼は迷える幼子に手を差し伸べるようにそっと右手を差し出した。
「偽りの“真実”に負けないで。この世界にはまだ、貴方の味方がたくさんいるのだから」
いつかの出会いの焼き直しのようにプレアの手を握り返す。その瞬間、8の不調により失われていたASTRAYネットワークとの接続が回復し、閉じていた視界が一気に開けたような気がした。
「……ワイズ……今の紅也と葵では……」
ハイペリオン、ヒメ・ヤマシロ――搭乗者保護機能起動中。IS展開不能。
「コウヤ、ごめんね。私はもう、ここまでみたい……」
アウトフレーム、エイミー・バートレット――IS機能制限により展開不能。
「…………」
レッドフレーム、ゴールドフレーム、グリーンフレーム、パープルフレーム――ネットワーク上で探知できず。
「母さん……みんな……。紅也……」
ブルーフレーム、山代葵——IS機能良好。展開可能。
「今、ボクたちが2人にできることはなんだろう」
オレンジフレーム、シャルロット・デュノア――IS機能良好。展開可能。
——そして。
「コウヤ、アオイ、聞いてくれ!真実が歪められている。モルゲンレーテは消滅したが、絶望するにはまだ早い!手遅れになる前に――届いてくれ!」
レイスタ、“真実を求める者”ジェス・リブル――起動中。座標探知不能。
機動戦士ガンダムSEED FREEDOM、素晴らしい映画でした。
ネタバレにならない範囲で語るなら……。
DPによる支配者として選ばれたフェアネスと、優れた調整を施されただけのアコード達の差が両者の命運を分けたと思います。
当然FREEDOM ASTRAYも出るよなあ!?